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Chapter91. The Shore of the Electronic Port

タイトル【電子港の渚にて】

横浜と言えば港と船。

小腹を満たした二人は車を走らせ、横浜港の光景を一望することに。


ああ見えて気が短いガリーを渋滞で苛立たせないようラジオを着けたまま、車を転がす。

だが彼女は夜景に視線を向けたまま、口を開かない。


その理由は単純明快。

FM横浜から、よりにもよって時事問題を茶化したような番組がやっていたからである。



『えー?異世界なんていけないんでしょ~?それならあってもなくても同じじゃん』


『でも気になりますよね、どんな人が居るのか、とか。人間がいるってのもおかしな話だけど、期待しますよね』



所詮ラジオも「メディア」に過ぎない。


ワイドショーよりは比較的マシではあるものの、出演者の主観がどうしても入ってくる。


小市民の抱く身勝手なお気持ちが。

彼らは芸能人だのコメンテーターと肩書きを連ねようとも、政治家や司令官ではない。


それに加えて、SOYUZが異世界に対して厳しい情報統制や立ち入り制限をかけているのも大きいのだろう。


古来、未知の存在に対して人々は好き勝手な印象を押し付け始めるものだ。

電子媒体が普及してからというもの、それは悪化の一途をたどっている。


発見された当時からはだいぶ鳴りは収まってきたが、人々に残した「甘い希望」は潰えない。

この手の輩は、ファルケンシュタインの実情を知ったら掌を返すに決まっている。


世の中、素晴らしい人間もいるがそれ以上にどうしようもない人間も多い。

虫唾が走った海原はチャンネルを変えようと手を伸ばそうとした矢先。



「ウナビー。……ほかに変えて」


顔を向けないまま、短く告げた。



「……もう変えておいた。ここの局ならいい。」


「ありがと」



車は横浜駅そごう裏に回り、人気のない海へと向かっていく…





——————





——臨港パーク


駐車場に車を止め、前衛芸術の森を抜けた先には海が広がっていた。


背には都会を象徴する文明の光。

前には明かり無き闇に船の灯だけが煌めく。


先ほどの通り雨のお陰か、濡れた地面が夜景を鈍く反射していた。


21世紀と自然の中間となる、誰もいない臨港パークを見せたかったのである。

肝心のガリーはどうなのかと言うとハイオクガソリンのようなフラペチーノを片手にしているのだが。


緑色のストローから口を離すと、彼女はしんみりとした顔で一言。



「こういう所が好きだって、ほんとよくわかってんじゃん。———こういう、光があんまり所。私にとって、此処の光は……眩しすぎるから」



誰もが挙ってSOYUZや現実世界がもたらしたテクノロジーを欲しがっている訳ではない。

彼女もPCを使うようにはなって来たが、あくまで合わせてもらっているだけ。


ガリーにとって、海原のいる世界は異世界なのだ。


何も見知った存在がいない都会。

異次元の技術で作られたビルの木立にコンクリートジャングル。


そんな極限までに速く・便利になった世界。


まさに集大成であるニューヨークや東京といった場所に、彼女の性格的に適応できないのだろう。



「あと…この世界には……魔導がない。だから、遅かれ早かれソーサラーの私は見世物にされる。

———あの番組に出てた人間共に」


これが一番大きい。


真の姿を知ってもらいたいと思う反面、ガリーは奇異な目で見られるのを嫌う。

無論、誇りがあるからだ。


軍という帝国における絶対的な世界に所属し、軍曹という階級を与えられている。


そこらに居る野盗とは違い、血がにじむような努力の末に立派なソーサラーに昇格してみせた。

戦闘における魔導のプロフェッショナルだ。


そこで現実世界にやってきたらどうだろう。

ハリーポッター的な魔法しか知らない人間に、やってみせろと言われるだけでも屈辱と言わざるを得ない。


リスペクトする価値もない、虫けらのような連中に寄ってたかられることが確定している。

何せ現実世界には「魔法のようなもの」はあっても、魔法は存在しないのだから。


魔導の何も知らない人間にとやかく言われたくはない。


海原はその気持ちがどことなく、理解できた。

彼は口を挟むことなく、ひたすらに耳を傾けている。



「なんでこんな話してんだろ。なんだかんだで来てみて良かったのかもしれない。一回来てみて、どこの世界も同じで嫌な所ばかりなんかじゃない、ってことが分っただけでも良しかな」



人生は嫌な事ばかりではない。

止まない雨など無い様に、どの世界も腐っているが滅ぼす程、見下げ果ててはいないのである。



「ガリーを連れてきて良かった」


——PhoooF………


離れた港にいる船から、出航を知らせる電子汽笛が響く。

二人を邪魔するものは誰もいない。




——————





——臨港パーク

駐車場


紆余曲折ありながら、車に戻った海原はキーを差して回すのはいつも通り。

デジタルなスピードメーターが起動するが、即座にエンジンを回すことはなかった。


懐から財布を取り出すと、何かのカードを引きずり出したのである。

しかも海原は、手慣れた様子で札を足元にあった装置に一気に挿入したではないか。


するとロボットが起動するかの如く、プリセット音声が再生された。



『ETCカードが挿入されました。有効期限は2028 年 7月までです』


「ETCってなんだよ」


高速道路という概念が全くないガリーは素っ頓狂な声を上げざるを得ない。



「ガリー。ちょっと遠くまで行くけど、良いね?」


それに運転席に座る先生は、妙に得意げである。



「いいけど」


横浜観光はこれだけにあらず。海原が目指すは京浜工業地帯。

横浜から川崎に伝って伸びる、いわば文明を支える心臓だ。


工業地帯自体は異世界にも存在する。


都市と一体型となったスチームパンクチックなもので、形態が大きく違う。


たまには違うものを見てもいいのではないか。海原はそう思い、プランに練り込んだのである。


「ここからがハマの本番だ」


キーを回して静かなるケダモノ、エンジンを始動。


Grooooo………


そして臨港パークから車を走らせた。





——————





——本牧ふ頭IC 道中


二人の車は横浜駅近辺から大きく南下。

根岸駅を大きく過ぎ、遂に海を横断する大橋に差し掛かる。


時間はいよいよ深夜の大台にさしかかってきたため、ラジオはシックな音楽だけを奏でるだけ。


入りたては橋と橋が交差する区画と、何も面白みもないこともあってか海原はガリーに何気なく話を振った。



「今から走るのは…大昔は海の上だった所で、そもそもこの道は巨大な橋のようなもの…といっても信じられないか」


東京都心、ひいて横浜や川崎もそれに該当するが、今まで歩いてきたのは「かつては海」だった場所があまりにも多い。


なにせあんな陸上にしか見えない品川駅から出ている線路も、百年前は海が傍に迫っていた。


しかしガリーの反応はどこか薄い。



「ウチにも拠点ビルよりも何倍も高く、長さは街一つじゃ収まらない怪物がいたんだから、もう何でもありだよね。信じられなくっても、人間って意外とすんなり腑に落ちる、そういうもんだから」



彼女の祖国には、高さ50m 全長 数キロの超巨大戦略歩行兵器が存在した。

時たま、理を捻じ曲げた産物があると分かっていたため、そのように解釈したのだろう。


技術の往く末はどこも似たり寄ったりなのだから。



「それは本当かもしれん。あと……10年もすれば。帝国とこっちの世界は混ざり合うのかもしれんな。常識も、人々も……」


ハンドルから一度手を離し、そして握りこんだ。


Windows95が爆発的に普及してから、世界はどう変わったのだろうか。

iPhoneができてから、世界はどうなったのか。


爆発的に進化した側面もあれば、悪用された歴史もある。

だがそう言った負の側面も含めて人類は適応していった。普及という文言と感覚は大変恐ろしい。


そんな当たり前になり過ぎて、ふと意識しなかったこと。

海原は覚えがあった。しかも助手席に座っているガリーについて。



「流石に糖分取り過ぎでは?チョコ飲むし、」



ストーンチョコを飲み干し、恐ろしいフラペチーノをドカ飲み。

甘いモノに目がないどころか常軌を逸脱しているような気がしてならなかったのだ。


聞くなら今。



「いいの。美味しいモンを身体に入れとかないと、魔力がどんどん漏れる関係で機嫌が滅茶苦茶悪くなるし。普通はそんなことならないんだけどね。私がそういう体質っぽい。だから回復させとかないと」



曰く、ストレスではないらしい。



「あぁ……糖分が魔力になるのね……」



「そゆこと。魔力駄々洩れだから、大技…ま、ゲグルネインとかぶっぱなすとかなりキツイ。制御は出来るんだけど」



「大変だなぁ……」


車は陸の天の川を目指す。

次回Chapter92は1月24日10時からの公開となります。

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