Chapter84. Nazi's Consultation
タイトル【ナチスの問診】
帝国軍の現実世界侵攻作戦は阻止することができた。
送られてきた3個小隊は一旦隔離、検疫を受けて問題ないことが判明した兵は無事ファルケンシュタインへ送還されることに。
だが本番はココからだ。
敵側の考慮していなかった事の尻ぬぐいをしなければならない。
部隊長であるショールと、彼女と濃厚接触していた空の対処である。
小隊長の3人は尋問されるのは良いとして、彼らは下士官であり肝心な情報が伝えられていない可能性が高い。
そこで作戦の内容を知っているショール少尉から聞き出す必要がある。
しかしながら、どこにでもいる一般人である空が含まれているのか疑問に思うかもしれない。
情報漏洩したのは大罪だが、あくまでもそれは軍隊の話。
彼が尋問される理由はたった一つ、異世界人との濃厚接触者だから。
これに尽きる。
ただの風邪1つでも一般兵士が自殺するレベルで咳が止まらず、免疫力の怪物と医学的に証明された真木博士でさえ発病を押さえ込めなかった。
もう一度繰り返す。
異次元の「風邪」感覚でさえ、ご覧の有様なのだ。
軽く人類を7回滅ぼせるような疫病が見つかっても何らおかしくない。
新興感染症をイタズラに増やして何の得があるというのか。
そうして冴えない高校生はメンゲレの前に引き出された。
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——SOYUZ本部拠点
NBC隔離区画
博士がバイオテック所長、ひいてはSOYUZ関係者ということで、組織の施設で尋問が行われることに。
非凡な何かに憧れていた空は、まさか自分が「論理的に」バイ菌扱いを受けるとは思わなかっただろう。
NBC隔離室は恐ろしく殺風景だ。
プロジェクターやマイクやスピーカーといった機器、電源となるコンセントを除いて窓も家具もなく、ただ白い壁で覆われた空間。
情景というものがまるでない。
ガスマスクを着けた兵士が一人配置されて尋問が始められた。
勿論、邪悪なネオナチ所長はこの場には居ない。
するとプロジェクターから、さながら映画のように白い壁に映像が表示される。
「私だ。S.メンゲレ。ショーユ・バイオテックの所長をしている。そして検疫の最高責任者だ」
双子を無理やり手術で融合させておいてすっとぼけているような男。
彼が尋問官となると、あまりのおぞましさに大抵の人間は口を割るらしい。
例え相手が屈強な軍人であっても。
お出しされた物体があまりに強烈すぎるため、空は捕食者に睨まれたように固まってしまう。
相手が喋れないのをいいことに、メンゲレの罵倒ガトリングが火を噴いた。
「なんだその反応は。えぇ?
最初に言っておくが、黙ってやり過ごそうという手は私には通用しないからな。あらゆる手を使ってお前から情報を引き出さねばならんのだ」
「じゃないと世界が滅ぶ。本当に滅ぶ」
「お前如きが死んでも別に私の良心はこれっぽっちも動かないが、流石に今月発売される商型潜水艦のビッグスケールモデルを組めないまま世界が滅びるのはクソだ。だから聞く。わかったな、理解したな?」
空は黙り込んだまま、喋ろうとしない。
これで数々の場をしのぎ切っていたのである。
「はぁ。ラノベチックにいちゃついて、愛の1つでも語ったのに私の前では言葉一つも出ないとはな。ゴミめ。親の七光りか知らんがいいご身分だ」
とにかくメンゲレはこのタイプの人間が嫌いで仕方がない。
対面で尋問していたなら、既に懐からUSPを抜いている。例えそうでなくても変わらないらしく、既に懐に手が伸びているのだが。
だがそんなことをしても、嫌がらせの1つにもならない。
彼は邪悪な頭を回転させて、脅しを吹っ掛けてみることにした。
「———ちょっと真木君?バラしちゃっていいよ、彼女。そうそう、真木君っていう滅茶苦茶優秀な助手が居てね。頭のネジが吹っ飛んでるんだけど」
「彼、イグアナとかむしり取って喰ってるタイプだから。大事な彼女、たぶん喰われるんじゃないかな?知らんけど」
携帯を取り出して、わざとらしく真木博士を呼びつけたではないか。
大げさで現実味のないブラフだが、この男の邪悪さはそんな悪夢を現実にする。
あまりにも強い説得力があるのだ。
「やめろ!」
名前をちらつかせた瞬間一気に食いつく空を見て、メンゲレは見下したかのように目を細める。
「ならば、ここ最近あったことを洗いざらい吐くことだ。理解できたかね?」
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邪悪な実験を繰り広げられそうな外見と反して、拍子抜けするような内容だった。
「咳は?」
「ありません」
「喉が痛い、熱っぽいとかは」
「特に」
ここは内科か何かと思うかもしれない。
何せ病原、ウイルスや細菌などは移動能力を持たず、繁栄するためには宿主にアクションを起こさせる必要がある。
その反応が起きていないか確かめることは極めて重要なのだ。
「それで、二人でどこに出歩いた」
「……溝の口のサイゼに。電車で」
直後、メンゲレの口元はひん曲がり目を真開く。
感染疑惑の人間が寄りにも寄って公共交通機関を使っているとは。
今すぐ東急田園都市線一帯を火の海に、と思ったが交通網が発達している日本では何処へ行くにも自由自在。
それだけ感染者を増やすことに繋がるのだ。
「よし、日本に核を落すか。なるたけ強いヤツ。それは置いておいて」
明らかに捨て置けない言葉が出てきたのは問うべきではないとして。
「初めに言っておくがこれは医学的に正しい、ハラスメントではない至って真面目な質問だ。搾りかす同然の貴様から戦略的情報を引き出そうとは考えてないが、これだけは答えてもらう」
珍しく前置きをするメンゲレ。
存在そのものがナチス・ハラスメントである彼が言ってもまるで説得力がない。
「……愛しの彼女とはどこまで行った。ヤったのか?」
トチ狂った質問が、ごく真面目なトーンで投げかけられた。
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「そんな訳ないだろ!!!!コイツ、なんてことを!!!」
珍しく空が真っ当なことを言っている。
後ろにいるガスマスクを着けた対NBC装備の警備も目を見張る程だ。
むしろ感情を度外視したメンゲレ側に非があるのは明白なのだが、この男は一切妥協をしない。
ショールの事を出した途端食いつく様は滑稽だ、と考える暇なく博士は質問を飛ばした。
「なら良い。だがどこまで行った」
邪悪な瞳が真実をあぶりだす。
「……手を、つなぐくらいなら」
真面目な視線が嘘八百を許さない。
「よろしい。もしも最後まで行った場合、第二のエイズが生まれていたかもしれんからな。君の童貞根性が世界を救った。誇っていいぞ。本気で」
「そもそも私はクソみたいに耳が遠い主人公じゃないからな、私だったら間違いなく手を出していた」
真実を聞くと、もう用はないと言わんばかりのリアクションを取る博士。
まるで求めていたやましい話が聞けなかったかのようで、空は露骨に悪態をつく。
「嫌味かよ」
「その認識は正しくない。8割嫌味で2割は本心だ」
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——SOYUZ本部拠点
NBC隔離区画 別室
続いての尋問相手は司令官様。
ヤツが何かしらの病原を持っていたとしいたら間違いなく世界が終わり。
「よう。あらかじめ言っとくが、諸君がやらかそうとした事に微塵も興味がないし、聞くつもりもない。だが質問には確実に答えてもらおう。じゃないと世界が滅びるからな」
そんな重責があるにも関わらず、ショールを相手取るメンゲレは意外にも普通だった。
「だけど、おしゃべりする空気でもないみたいだね」
邪悪な外見が尋問官だと思わせるのか、彼女は嫌味を吐く。
「よく言われる、恐らく外見のせいだ。このせいでドイツとイスラエルが出禁になってしまった。
あのレイシスト共め、ガス室にみんなぶち込んでやる」
そのような言動がナチスであるというエビデンスを補強するのではないか。
ドストレートな正論を博士に対して言ってはならない。
分かり切っていたことにせよ、毎度おなじみ内科じみた質問が飛ぶ。
幸いなことに症状がなかった。
で、普通は終わるがメンゲレは空とは違う処遇を下す。
「隔離状態はそのまんま、検体は調査させてもらう。それで問題なかったら好きに……私の権限じゃあ出来んな」
何故か。
博士は「スーパースプレッダーではないか」と疑念を掛けているからに他ならない。
チフスのメアリーと言えばその存在を知っている人間も多いだろう。
症状が出ず病原体を常人の何倍もばら撒くという存在で、とんでもない害悪である。
稀有な人間であるものの、可能性が0に出来ない以上は検証しなくてはならない。
メンゲレはやたら核で吹き飛ばそうと言い出すのも、きちんと訳がある。
潔癖症か強迫観念がなければバイオ分野の実験は出来ないのだ。
「念が入ってるね。ぼくは妥協なんて許さない、というのは嫌いじゃない」
「何故かを話してやろう。貴様らの思惑は武力で二子玉川の住民を皆殺しにするとかなんとかあるが、正直言って殺し回る必要はないし、大量破壊兵器なんて必要ない」
メンゲレは超が付くほどの理屈・実験主義であり、聞こうとしている人間に向けてはやたらおしゃべりになる。
「一人さえ風邪っぴきが居れば、世界は終わる。
終わらないにしてもだいぶスマートに大混乱を引き起こせる。———これは逆もしかりだ」
出てきたのは何時も彼が口にしている上等文句だが、真実でもある。
南アメリカの原住民やネイティブアメリカンが天然痘で大きく数を減らしたように。
スペイン風邪が大流行して人口が滅茶苦茶になったように。
実例をもとにして話すだけに、説得力が違うのだ。
この世の真理の1つでもあるのだから。
「そうさせないために私がいる」
こんな口調とナリをしていても、Sメンゲレと言う男は現実世界と異世界を守る番人。
ファルケンシュタインにインフルエンザなど持ち込めばどうなるか。
確実に滅亡させてやるならロシアやアメリカが持っている、天然痘のサンプルを核で吹き飛ばして強奪。
誰かに植え付けるか毛布にでも塗ってばら撒かれたら。
両者を滅亡させないために彼という存在が居る。
一切妥協せず、無慈悲な潔癖症が。
尋問は続く。
次回Chapter85は12月6日10時からの公開となります。




