Chapter79. The Thing of ”U''
タイトル【異次元からの物体 U】
かくして、SOYUZが異世界からの来訪者を確保するように命令を出した唐津中佐だが、諜報に携わる人間として引っ掛かるトコロが1つあった。
観測班の提示した情報は確かに現実離れしているし、データベースとも一致しておりそこが問題ではない。
だからと言って組織が必死になるのも合点がいくのも自然で、全く持っておかしくない。
この事件をU案件とした根拠の弱さ、である。
確かに出されたものは揃っているが、この世界に訪れた人間は向こう側の人間に違いはないだろう。
しかし意図が見いだせない。
ファルケンシュタインの文明は魔導なる未知エネルギーを利用したテクノロジーがあっても全てが出来過ぎている。
疑うのは良いが、こちら側には異世界に関する情報は少ない。
しかし、知っている人間に心当たりがある。
最も異世界について知る者。
SOYUZの目と腕 専務ロッチナだった。
「ロッチナ専務と連絡は取れるか?あの方なら向こうの事情を知っていてもおかしくない」
「了解」
喉に支えた小骨を取るため、中佐はロッチナへとコンタクトを取ることに。
単に気持ちが晴れないだとか、そんなものとは違う。
「ここ最近忙しいと聞く、繋がるといいが……」
長年の経験があるからこそ言える事ではあるのだが彼が何かがおかしいと感じた時、大体何かが潜んでいる事が多い。
説明不足、あるいは。
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暫く待っていると、Sound Onlyの無機質なアイコンとともに通話がつながった。
【私だ。唐津中佐、何か用か】
「はい。本案件をU案件だと断定した理由などをお聞かせいただきたく」
唐津の階級は高い方だが将官からすれば大人と子供。
軍事機密だ、と突っぱねられてもおかしくはない。
【説明不足で済まない。———先日のU案件と関連が見られたからだ】
先立つU案件とは、戦中に3個小隊が突如として消えたというもの。
蒸発する一日前、補給に来た兵士の証言によれば通常通りだったという。
逃亡でも自決でもなく、文字通り消えた。そこで戦後、現地の諜報機関が追っていると聞いている。
しかし、何故上層部はUの関与を見出しているのか。
ロッチナは続ける。
【先日深淵の槍から情報が入った。——当該部隊の情報が全て抹消されていたものの、復元に成功した、と】
【当該部隊は、兵器の実戦テストを行っていた部隊だったとのことだ。小隊の駐留していた基地を天地ひっくり返して捜索した結果、何かの試験が行われていたらしい】
情報操作に長けたファルケンシュタイン帝国軍らしく、試験が行われていた事を握られたとしても、それが何かは分からないときた。
徹底的な隠ぺいをしてもなお、隠したい事案とは何なのか。
これだけでは中佐は納得しない。
どこにこの事件との接点があると断言できるのか。
【深淵の槍の見解によれば何らかの魔導的装置を使用した、とのことらしいが……ともかく、何も痕跡がこれしか残っていなかった】
「これは……!」
唐津に提示したのはIMI Sytemsとはっきり英語で刻印されたプレートだった。
無論、異次元世界にイスラエルと言う国家も名前も存在しないばかりか、アルファベットの概念すらない。
この忌まわしき3文字は、帝国軍の究極兵器オンヘトゥから頻出。
それら全てに
アリエル・ハイゼンベルグが関わっている。
次元超越を可能にした世界で初めての偉人にして、最大の脅威。
IMIの文字列はヤツの手がけた「署名」だ。
点と線が是が非でも相互リンクし始める。
次元跳躍を可能にした男・試験運用を担う部隊・次元を跨いでやって来た、向こう側の人間。
糸が交わり、ついには最悪の方程式が完成してしまった。
部隊が消失したのは戦中。
ハイゼンベルグがファゴットと名乗っていた頃、つまりSOYUZと戦争していた時期に合致する。
軍政の最高決定権を持つコンクールスにSOYUZのいる場所へ干渉せよ、と命令されたのだろうか。
謎を解き明かす「銀の鍵」となる男を欠いている以上、真相は分からない。
分かっている事と言えば次元跳躍が行われた時。
戦争後期、第一オンヘトゥが陥落した頃合と見て良いこと位か。
数々の兵器を開発してきた人間が、たかだか兵士一人を送り込んで満足するだろうか。
違う。
これはあくまでもデモンストレーションに過ぎないのだ。
白羽の矢が立ったのは兵器の試験運用を行う3個小隊。
恐らく陽動などを行うために送り込んできたのではないか。
U案件どころか、重大な脅威であると裏付けるには十分だった。
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通話を切った中佐は考えに耽っていた。
一人が転移してきた事を、デモンストレーション内の更なるリハーサルと仮定する。
本隊、さらにその後は恐ろしいものが控えている可能性が高い。
だがそんなものとは比較できない脅威が迫っていることに彼は気が付いていなかった。
「中佐宛てに緊急連絡が来ています!名前は……」
S.メンゲレ。
現実世界と異世界の両方を感染症による滅亡から守る、絶対的な番人。
【Fuckが……ようやくつながった!すべては聞いているから説明は不要だ。だがお前たちは重要なことを失念しているようだから!こうして!私が言いに来た!】
何時も過激でナチス的な言動をしているヤツだが、この時ばかりは本気で焦っていた。
「ご用件はなんでしょうか」
【部隊を出したのは貴様か?貴様だな?あのバトルシップデブから聞き出したんだから間違いない!】
「如何にも」
滝のような汗を流しつつ、歯をむき出しにする博士をよそに中佐は氷の様に冷たい。
息を整えたメンゲレは、真剣なトーンでこんなことを言い出した。
【二子玉川一帯を核で焼け!今すぐに!】
どういうことだろうか。
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「……正当な理由はあるんでしょうな?」
狂気じみた命令に唐津も黙ってはいない。だが、これがメンゲレの狙いの1つでもある。
【何故、私が厳重な検疫を行っているか貴様には分かるだろう。配当点はないが答えよ!でないと呪殺する】
「向こうとこちら側、両方からパンデミックになりうる病原体を持ち込ませない、という認識でいますが」
【いかにも、その通り。私の目によって「健康」で「スプレッダーではない」とSOS(ショーユバイオテック・オーガニゼーション・for・スタンダライゼーション)に基づいた認定が下りない限り双方に出入りすることは出来ない】
【———だが、なんでもイスラエル的な紋章を通って来たヤツはどうだ?】
【少なくとも私の下には来なかったぞ】
検疫をすり抜けた、許されざる存在をメンゲレは許さない。
エビデンスがなければ、どんなラブコメディを繰り広げられようが、例えガキに泣きつかれようが突っぱねて射殺する。
だからこそ彼は絶対的なのだ。
【参考までに言っておこう。
ファルケンシュタインで発見された「風邪」を引き起こす病原体に、我々一般ピープルが感染した場合……拳銃で自殺したくなるほどの呼吸困難を伴って、死ぬ】
【これは脅しではない、実際起きた出来事だ】
何故、異世界に派遣されていた将官が来なくなったのか。
パンデミックが起きたからに他ならない。
【風邪ですらこの有様なのに、すり抜けたヤツが世界を滅亡させるような病原体を持っていたらどうする?誰も見つけていないような!ウイルス・細菌・マイコプラズマ・プリオン・ないかもしれんがウイロイド!・病気を媒介する昆虫!】
【分かりやすく言おう。
致死率100%の病気を媒介するトコジラミ的な何かが!絶対いないと!諸君は保証できるのか?】
世界の終わりは人間が核兵器を乱射することで起きると考えている者は実に多い。
しかしそんな面倒な事をしなくとも、世界は滅ぼせる。
悪意なき機内荷物 感染症によって。
異世界から来る脅威は何も敵対勢力だけではないのだ。
そのことを熟知した人間の言葉はとてつもなく重い。
【だが、核以外の方法を使うなと言っている訳ではない。ここ重要、メモなり取りたまえ。
諸君らにはNBC兵器に対抗するための部隊がいるだろう。そいつは出したんだろうな?】
NBC兵器。
核兵器を意味するNuclear 生物兵器のBiologicalさらに化学兵器のChemicalの頭文字を取った総称である。
博士は異世界から来た人間を兵士ではなく生物兵器と思っていた。
「機械化歩兵部隊なら少し前に出動命令を出したところです、では————」
唐津の言葉を遮って、メンゲレが激昂する。
【いいか!よく聞け!送り込んだヤツは親がいなさそうな都合の良いマンションへ絶対に立ち入らせるな!
そして陸路を全て遮断してロックダウンしろ!奴らに触れるのはNBC対策が出来ていなければならない!】
【いいか、もう一度言っておく。間に合わなくなったら何もかも終いだ!分かったな!理解シタナ!】
実験主義 理論研究者S.メンゲレ博士は妥協を一切許さない。
今すぐ、二子玉川を封じ込めろ。
次回Chapter80は11月1日10時からの公開となります




