Chapter8. violent attack
タイトル【強襲】
住宅街の日常を切り裂く銃声と炸裂。
本部拠点は立派な軍事基地で、兵器も完全武装の兵士たちがうろついていても流石に戦場ではない。
何故こうなったのか。
中国国際航空の乗客として乗り込んでいた30人が一斉に武装蜂起したからである!
【緊急事態発生。基地内にて銃撃事件が発生。直ちに制圧せよ。繰り返す。銃撃戦が発生、直ちに制圧せよ!】
繰り返し鳴り響くサイレンと放送。
それらを子守歌にしながらSoyuzスタッフたちは銃撃戦を繰り広げていた。
——通路
BLATATATA!!!
なんとしても格納庫に到達されないよう、M4を撃ちまくる。
敵は外にある通路の曲がり角に陣取っており、スタッフはその反対側にて交戦中。
今や人が通るハズの道は死神のヴァージンロードと化している。
薬莢が地面にばら撒かれ、マガジンが空であることを告げた。
そっと身を隠して、マガジンリリース・ボタンにそっと触れて弾倉を落とす。ぽっかりと開いた銃の口にがっちりと飲み込ませる。
PAM!!!
直後。
遮蔽物にしていたコンクリ近くに銃弾がいくつも飛びついて、蜂の巣にしていった。
練度はそうでもないが、持っている武器はおそらく軍用品に違いないだろう。
向こうもこっちも、持っている武器の性質は変わらないようだ。
ならば拮抗し合って勝負がつかないだろう。万が一目の前の敵が陽動だったとしたら、時間を稼がれては一番まずい。
すると後ろに控えていた兵士が短く告げた。
「キリがない、もう吹き飛ばす」
「わかった」
言い出しっぺの彼が手にするのは同じくM4カービンに見える。
だが片手を沿える部分であるハンドガードには何か大きな筒のようなものが付いているではないか。
砲身を前に引き延ばすと、銃弾よりも大きな弾を装填し密閉。
転ばぬ先の打開策、グレネードランチャーだ。
今まで撃ち続けていたスタッフと入れ替わると、即座にトリガーを引く。
——PONG……BoooMM!!!
40mmグレネードが炸裂、壁もろとも後ろにいた人間を吹き飛ばす!
爆発が収まり、鉛の煙が風に乗って晴れた時には敵が事切れていた。
「野郎、どこにあんなモンを隠し持っていたんだ」
ピアノ線が一瞬ゆるみ、相棒に話しかけるスタッフ。
飛行機、つまり空からやって来た人間がここまで重武装できるものなのか。
「今から確かめに行くぞ」
「了解」
向こう側が無力化されたこともあって、二人が調べに行くと目新しいものはあまりない。
ここまではそうだった。
死体がふたつと、UZIか何か知らないがべっとりと血のりがついた使いかけの武器。
弾薬が足りている今は追剥する必要はないだろう。
しかし奥の方に視線を向けると、やはり怪しいものが転がっていた。
旅行客が手にしていそうなシールやタグのついたスーツケース。
加えて中にはSoyuzではなかなかお目にかかれない拳銃が1丁。
物珍しそうにスタッフが手に取ってみると、SIG226であることがわかる。
「SIGか?」
自衛隊やアメリカのような連中が持つ次世代拳銃で、東側系統や個人購入したものが散見されるSOYUZでは珍しい。
しかし相方があることに気が付く。
「違う、これは……純正品じゃない!」
スライドにはSIGにはない「NP56」の文字。こんなもの、本家のSIG226には決して存在しない!
それにNP56という文字を入れた銃を作っている国は勿論たった一つしかない。
二人の間である結論が導かれてしまう。
緊急着陸を装ってどこかの国の息がかかった工作員を送り込み、本部拠点にある「何か」を狙っているのだと。
その何かを二人は知らされていないが、敵を送り込んだ国は紛れもなくSoyuz本部拠点 格納庫にある異世界ポータルを奪おうとしているのだ!
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□
組織にとって異世界は守らなくてはならない存在だが、反対にそのほか列強にしてみれば低迷しつつある経済を一気にV字回復できるチャンスでもある。
国の意に従う工作員たちも武勲を上げるため、そして自分たちが豊かになるために戦っていた。
手荷物に収まる武器を使って異世界へ通じる穴を見つけ出せとは無理難題も良いところ。
だが、こうなった以上はやるしかない。
——Soyuz陸上兵器格納庫
——付近
———ZLADADADADA!!!!
ある男が握るのは隠し持っていたUZI。
遮蔽物の脇から古めかしい姿を出しつつ、ひたすらつるべ撃ちしていく。
弾を通さない遮蔽物にマシンガンが居座られると厄介だ。しかし敵を撃てる場所というのは
「また撃たれる」と言う事を忘れてはならない。
DAAAM!!!
上の方、ちょうど事務棟から銃声が響いた。
相棒の兵士が視線を向けると、硝煙を濛々と上げながらモシンナガンを構える狙撃兵がこちらを狙っているではないか!
このままでは狙撃される。サブマシンガンを抱え、工作員は走った。
DAAAM!!!——QRAM!!!
事務棟の雨どい下、ちょうど死角に逃げても間近に着弾する恐怖。
通常弾ではなく徹甲弾を使っているのは明白である。
今使っているUZIでは射程差もあって狙撃兵相手には分が悪い。
「この野郎!」
PLATATATA!!!
狙い撃ちにされないようフェイントを入れながら格納庫の方に走り、反撃を喰らわす。
次々と割れ行く窓ガラス、銃弾によって宙に舞う重要契約書類。
これにて狙い撃ちにされないかと思われたが……
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□
ここで少し時を遡る。
——事務棟
2F
訓練や次の派遣先について相談すべく来ていた、コードネーム:呼び込み君と呼ばれている男。
「この世にいないようなものが見えていなかったか、ですか?」
アジア周りの案件を終えた呼び込み君は精神状態がどうか確かめるべく来ていた。
東南アジアを中心に活動する傭兵で手練れなのだが、自分が知らない間にメンタルは削れていくもの。
「一回だけ。二足で歩くトコロテンの化け物なら見たことありますよ。寝たら消えてたんで疲れすぎなんだろうって」
「疲れすぎだ。しばらく休暇を与える。今日は休め」
担当者曰く、人間は48時間以上寝ていないとありもしないものを見たり聞いたりし始める。
【緊急事態発生。基地内にて銃撃事件が発生。直ちに制圧せよ。繰り返す。銃撃戦が発生、直ちに制圧せよ!】
言われるまでもなく銃声が木霊した。
即座に逃げる事務員、現場に出ていく戦闘スタッフたち。
戦場を探していたら、今まさにこのいる此処がそうなるとは誰が思っただろうか。
どうやら基地敷地内であって建物で事態が起きているわけではなさそうだ。
呼び込み君は背中のモシンナガンを構え直し、まずはざっと窓越しに敵を探す。
音の反響具合から鑑みるに距離は近い。
「あそこか……!」
銃座のように居座って、味方なら最適なポジション。敵なら打開不能な最悪な位置。
まさか今狙われているとは思うまい。
こちらに振り向かれないよう、慎重にスコープを覗き込んで狙いを定め……
——DAAAMM!!!!
銃口から発射された徹甲弾は窓ガラスを叩き割り、そのまま一直線。
ライフルを握る銃手の頭を貫いた。
この銃はボルトアクション式のスナイパーライフルである。
排莢・装填の作業を人力で行わなくてはならない。
狙いを着けたまま激しくぶれることなく、ハンドルを上に跳ね上げた後に思い切り引いて排莢。
次弾を込めて奥にいる敵に狙いを定めようとしたが、既に敵の姿が照準にないではないか!
近くに固まったような敵を連続狙撃できない。これがボルトアクションの弱点である。
もちろんこの銃との付き合いが長い呼び込み君も承知の上。
スコープから肉眼へと視野を広げてみると、機銃を持って走る敵の姿があるではないか。
可能な限り反撃できないよう、割れ窓から身を乗り出し当てずっぽうで撃つ!
これくらいで大丈夫だろう。
長居は無用だ、排莢しながら次の狙撃ポイントに呼び込み君が走る。
しかし次の瞬間。
GLRASHHH!!!
敵の反撃によって次々と割れるガラス。
防弾でもなんでもないため、障子紙のように次々と破壊されていく。
これ以外にも銃弾が飛び交っているのは言わずもがな、部屋にいるスナイパーが聞きたくない死神の迫る音だ。
反射的に床に飛び込む呼び込み君。
ガラスの破片が降りかかるが、この際あれこれと言っていられない。
「腕がいいな」
銃撃が収まると、次の狙撃ポイントに向かって駆け抜けていった。
戦火は着々と広がっていく……
次回Chapter9は8/12 10時からの公開となります。
・登場兵器
M4
どこでも見る事が出来るベーシックなアサルトライフル。
特に記さなくても、世界中で使われているということはそれだけ優秀だということ。
SOYUZでは西側系の兵は本銃を、東側系の兵ではAK102を携行している。
M203
M4に取りつけることができる単装式のグレネードランチャー。
撃ちだすのは40mmグレネードだが、たかがと侮るなかれ。
戦場で有利になる、ということは「死なない」ということなのだから。
UZI
サブマシンガン。特に言うことは無い。
小さく、弾をばら撒くことができる兵器が往々にして厄介なのは言うまでもないからだ。
81式自動歩槍
中国人民解放軍の持つAKらしき何か。
血統で言えばAKではなくSKSカービンの方に近いらしい。
一般兵にはAKだろうと56式だろうと、よくわからない密造品も区別がつかないと思っているのだろうか。
モシンナガン
とんでもない古式銃。呼び込み君の使うモデルは不明なものの、スコープがついていないらしい。
狙撃に転用するのは容易い。
銃は敵を狙って撃てれば良い。基本を極めた銃をアンティークと侮るなかれ。
NP56
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