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Soyuz_Nocturne~ ’’全’’世界が敵~   作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅵ. もう一つの異世界「脅威」
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Chapter74. Evil Witch

タイトル【異界から来た『悪い』魔女】


——東京都世田谷区 リバーフェスタ106号室

——シングルベッド


結局ショール当人も爆睡してしまった。

眠くては思考が回らなくなる、一度目盛りを0に戻して世界だろう。

しかし、彼女の睡眠はご機嫌で寝入っている空とは決定的に違うところがある。


寝入ってから2時間、朝に再び覚醒した。



「……これはこれで都合がいいんだけれど……いい気分はしないね」



言わずもがな、ショールは長い睡眠を必要とせず休息が取ることが可能。

所謂ショートスリーパーなのだ。


そっとベッドから抜け出ると、マヌケな表情で寝に入っている空の顔色を伺う。

まるで赤子のように静かな寝息を立てており、起きようと言う気配は微塵もない。



「———誰かを守りたいとかなんとか言って志願する兵の気持ちがわかる気がするよ」



聖母のような微笑を浮かべながら、脇に置かれていたスマートフォンを手に取る。

しかしスリープ画面の黒鏡に映っていたのは目が据わり、無慈悲な諜報員と化したショールであった。


空は普段からロックを掛けていないようであり、機能を使うには不自由しない。


それにアイコンが分かりやすく図式、なおかつ直感的な操作が出来るため文字の問題はそこまででもなかった。


彼女が開いたのはGoogle chromeでもニコニコ動画でも何でもなく、同じGoogleのマップ。

彼女いや配下の部隊に与えられた任務はSoyuzの存在する世界に転移し、攪乱。



可能であれば制圧すること。


士官学校を出たてとはいえ、優秀な諜報員であるショールが先に潜入。

もっと言えば、得られた情報を基に「既定現実世界の人間を()()()に殺傷する」のが目的だ。



本作戦の性質上、工作員と本隊の到着には意図的なズレを生じさせている。

何も知らないまま本隊である二個小隊が来たところで、ただの的に過ぎず遂行できないからに他ならない。


なんにせよ絶対数で劣るのは確実で、地理を生かして戦わなくてはならないだろう。


だがショールと部隊が送り込まれるにあたってのズレは想定外だと言うことに気が付いていなかった。

転移する次元はあっていたものの、時間があっていなかったのである。


集団が送り込またのは「終戦後」なのだから。



そうとは知らず、彼女はマップデータを漁り続ける……








———————







二子玉川近辺は侵略者にとってある種、教本通りの素直な地形。

それなりに大きな川に、3本の橋。これらを寸断すると大部隊を込めなくなり、治安部隊との壁を作ることが可能。



排水の陣になってしまうが、防衛ラインを築きやすい。

異端軍の強みは広大なスペースを使い、大火力の投射をしてくること。



ひしめく周辺市街地が敵を阻むことから、司令部は「駅」と呼ばれる存在に構えれば良いだろう。



籠城して市街戦で粘り強く戦い続ければ、戦闘は長期化する。

制圧とはいかないものの、占領することは可能か。



なんにせよ前線基地や拠点が出来るのは大きい。

二子玉川を基軸にして、他の場所を侵攻することや体制を整えることもできるかもしれない。


ただ問題が1つ、それも真っ先に解決しなければならないものがある。

絶対的に人手が足りないのだ。


転移してきたのは3個小隊90人。

民間人ばかりの「街」ということもあって、一方的に虐殺することは容易い。



ただ暴れるための陽動と占領するのとでは大きく必要な人数のケタが異なって来る。


最低でも100人。


現状、あと追加で40人程が増援に来てくれれば良いのだが、もう誰もファルケンシュタインから来ることもできないし、戻ることもできない。


ハッキリ言って占領は至難の業となるだろう。


しかし上層部、上官からの命令は絶対。



ファルケンシュタインから世界を超え、こうして既定現実世界に立っている以上

やらねばならないのだ。



ひたすらに、スマートフォンに冷たい視線が突き刺さる。





———————





時が過ぎ、もう一度ふて寝していると時刻は昼過ぎ、午後二時を回っていた。

完全なる昼夜逆転だが膨大な日数の休みが全てを帳消しにしてくれる。


けれども腹減りばかりは一筋縄ではいかない。

何もかも虚無な空は、この原始的な欲求で目を覚ます。



「毎日こうなのかい?」



眠気眼をこすりつつ、視界がくっきりと開けると夏ということもあって「本当に」Tシャツ一枚姿になっているショールがいた。


内心穏やかにないのだが、何よりも眠気が買ってしまいその光景を受け入れてしまう。



「……やることもないし。はぁ、腹減った……」



そう言えば彼女に出会った道中は小腹を満たすためにコンビニに行っていた。

はや半日が過ぎていれば、胃の中身が空になるのも当然だろう。


けれど一つ、疑問に思う事がある。



「何か食べたいものってある?」



「ソラ君に任せるよ」



考える限り最悪な回答が来てしまった。

起きてから早々、頭を抱えて考えることになるとは誰が思うだろうか。


そもそも自炊は買い物に行っていないため選択肢にない。

仮に、ファンタジー世界の人間が食べて最も口に合う外食は一体何なのだろうか。


だが思考力が鈍い時に限って、相反するように冴えた思い付きをするものだ。



「サイゼ行こう。こっち持ちでいいから」


「え?」



「昼。っていっても遅いかもだけど……」



眠い時に限って、この空という男は迷わない。





———————






流石にこのままではマズイので、文化祭Tシャツの上に羽織る形でパーカーを着せ、ありあわせのジャージで下半身をガード。


近場に行く用のクロックスに履き替えてもらった訳なのだが、どう見ても郊外にいる不良じみた格好になってしまった。


顔さえ見なければヤンチャでもしている年頃と思うかもしれないし、色付きのコンタクトが跋扈する現在では目の色はさほど問題にならないだろう。


これが魔導士やソーサラーの恐ろしい所で、幻想的な恰好をしなくなるだけで一般人か兵士か見分けがつかなくなるのだ。


それでもなお、フードの中で揺れる赤髪と蒼眼が空の心を揺さぶる。



「もしかして、ぼくがローブを着ていたから合わせてくれたのかい?」



「まぁ、ね。鎧の上から着てるってことはその、大切なものなのかなって」



ローブとパーカーはある種、似た衣服と言える。

いきなり見ず知らずの地にある服を着て慣れろ、と言うのは酷なモノだろう。

距離感の近い、同居人として。



「まさしくそう。矢避けとして命を守ってくれるし、ぼくの存在を知らしめてくれる。2重の意味で。……ソラ、君は察しがすごく良いね」


どこか妙なショールも、根幹はやっぱり女性なようでリスペクトのある服を用意してもらって少しばかり機嫌が良いらしい。


新しい装いで、街へと繰り出していった……





——————






二子玉川から最も近いサイゼリアは電車で下った先の溝の口にある。

猛暑カンカン照り、地面で根性焼きを可能にする狂気の夏と言う事もあって、電車で行くことに。


ファンタジー世界の住人である彼女には便利なモノだ、と言えば分かってくれた。


やはり昼間でも流石の田園都市線。

夏休みシーズンも相まって、がら空きではなくシートには人が押し込まれている。



「朝なんてもっとひどいんだ。押しつぶされるし……っていってもわかるかな」



「どことなく、ね。ぼくも似たようなことがあった」



電車内では心を開き始めた空に対し、ショールは辺りを警戒するような視線で様子を伺っていた。

それも発車してから数分も立てば、彼と取り留めのない話をしていたのだが。


そこから降りると、彼女は街並みにさほど興味を持っていなかった。

普通であればあれは何、これは何と質問攻めに合うのを期待していたので空回りしたような気がしてならない。



彼は気が付いていないが、ショールはこの街を楽しむためではなく「市街戦に利用できるか否か」見定めていた。



道路には車が行きかい、何気ない日常の一コマが流れていく。

そんな矢先の事である。



DRoooomm………


どこを切り取っても面白みのない毎日、警察官を載せた車両であるパトカーが通り過ぎていった。



「ソラ君。———あれは何。」



その様を一目でも見た瞬間、ショールは空へ手短に尋ねる。聞かれるまま視線を向けると

パトカーの後ろには同じく下を黒、上を白に塗られた装甲車(ダイムラー)がいるではないか。


さらには戦車じみたキャノンがついている。

黒帯には白い文字でご丁寧にSoyuz社会安全軍(S・S・R)と記されていた。



そして応えるべく彼女の方に振り向きなおすと、いつもの可愛げのある微笑を浮かべているものの


眼は決して笑っていなかった。



くわえて全身から今アレを確実に破壊しなければならない。そんな確固たる意思がにじみ出ている。


空は久々に思考が固まった。

身体の隅々から放つ殺気、そして質問と言うよりも尋問に近い声色のソレはとても覚えしかない。



親だ。

悪い点数、80点以下を取ってきた時は必ずこうやって問い詰められる。

いつも、いつも、いつも、いつも……。


最悪のトラウマが頭の中を縦横無尽に駆け巡り終わるころには、先ほどの装甲車はどこか別の場所に向かっており、考えられるようになっていた。



「……最近、不法移民とかごろつきとか。そういうのが増えてるから全部まとめてブッ飛ばすんだって。ニュースの動画でやってた」



「そっか。……ぼくにアレを今現在見せないでほしい。前にいやな事があったんだ」






———————






———サイゼリヤ

イトーヨーカドー溝ノ口店



夏休みシーズンも重なって、もはやおやつの時間であっても店内は衰えを知らない。


静寂と言うものを探すのが難しいが、ショールと空の席だけは空間が切り離されたかのようだった。


空は適当にスパゲッティやらを頼むのに対し、彼女はバケットだのスープだのといった単品料理を雪崩のように加えていく。



「ぼくの口に合いそうなものを選んでくれたのかい?」



それに反して、相変わらず眼が笑っていないのが本当に恐ろしいのだが。

気になったことはもう一つ、外は死ぬほど暑かったにも関わらず、お冷に一切口を付けようとしないところ。


この場面で聞いていいのかどうか迷っていたのだが、オーダーをしたあたりで踏ん切りがついた。



「ショール、さん。……ずっと気になってたんだけど、何のために…ここへ?」



レストランという場所は他人に対して偉く無関心になる。

それがいかに開放的で、絵画が置かれていたとしても狭い部屋のように思えてくるのだ。



「言えない」



思わず視線を下に向けて黙り込んでしまう空。

引き下がる様子はないと踏んだのか、ショールは少しだけ語気を強めて答える。



「聞いたら後戻りできなくなるぞ」


ナイフが目の前に突き立てられたようだった。

賑わいにかき消されるような声でこう続ける。


「———ぼくと君の間柄がむしろ切れなくなる。切りたくともね。それでもいいなら、ソラ君の家で」



酷暑の日本、サイゼリアは凍てついていた。


次回Chapter75は9月27日10時からの公開となります。


・登場地名

二子玉川

東京都世田谷区の1区域。実は二子玉川という明確な地名はなかったりする。

ちなみにワンルームマンションの家賃平均は10万円を超えている。


・登場兵器

ダイムラー装甲車

イギリス製装輪装甲車。40mm砲を備えている上に、非常に小回りが利くため社会安全軍では重宝されているようだ。パトカー色のダイムラーは警察と行動を共にする部隊に配備された車両。

ETCを搭載しているため、たまに高速道路に居る事がある。

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