Chapter71. Across // Unknown Universe
タイトル【異世界を挟んで】
視点を異世界、それもガビジャバンに移そう。
政情が不安定極まりなく領地で内戦が起きている戦国状態。
そこで暗躍するのは勿論、ハイゼンベルグだった。
何せこの国は争いと殺しには事欠かない。兵器設計者である彼にとっては楽園のような場所である。
彼が小遣い稼ぎのつもりで作った命を奪うための道具。飛行無人機ダビデ型は飛ぶように売れた。
やろうと思えば完全自律飛行・攻撃できる。
あえて人間の操作が必要な不完全なエディションで売りさばき、運よく撃墜して鹵獲した勢力にアップグレード品を売りつけると言うあくどい商売を重ねた結果。
需要に対して供給が圧倒的に不足してしまった。
作れば必ず売れるのだが、ここは機械工学技術レベルが極めて低い異世界。
コンピュータや原始的なボール盤、旋盤など一切存在しないマニファクチャ上等の世の中である。
いくらなんでもハイゼンベルグが天才でも、マシンでもなんでもないため限界が来ることは予想済み。
生産をオートメーション化するのに何十年も待っていられない。
そこで彼はある禁術を試そうとしていた。
自分自身をコピーする秘術「オルドゲン」。
死体や魂を利用し、ゾンビなどを平気で作り出すガビジャバンにおいても人体錬成と並ぶ禁忌であるが、この際関係ない。
どのみちダビデシリーズも自分抜きにはまるで製造できず、生産ラインも整えられない以上、自分が増えた方が手っ取り早いのである。
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——ガビジャバン王国 ニーブ領
秘匿ラボ
実の所、禁術やら禁忌とは言われているものの実現することはハイゼンベルグの手によれば容易い。
おそらく封印されているのは別の理由があるのだろう。
核兵器自体、そのものを作るのには意外と苦労しないように。
どれだけの文言を並べても、この男にそんなつまらないものは通用しないことは分かり切っている。
彼が複製した魂が宿る媒体となる「器」を適当に用意し、具現化してやると自分がもう一人出来上がっていた。
鑑の世界でしかありえない光景ではあるものの、狂人はまるでパソコンを起動するかのように魔力を注いでやる。
「おはよう、二人目の私」
『ああ。……私じゃないか。すると天才が足りないとみた。いかにも私がやりそうな考えだ』
「流石は私、理解が早くて助かる。そもそも自分だからな」
あたかも日常。それも業務的なやり取りだが、普通はこのような割り切った会話すらできない。
いきなり自分をコピーして、その複製品は事実を受け入れられるだろうか。
記憶を共有する現身を作り出す禁術であろうとも、誰もが彼のような天才とは限らないのだから。
『それで、私は私によって作られた。理由はなんだ?すべきことがあるのだろう』
私はこんなことを言うような人間だったか。
確かに自分に違いないのだが、若干だが「ズレ」があるような気がする。
オリジナルはコピーの言動に一瞬だけ疑問を抱いたが、贅沢は言っていられない。
「……そうだな。もう一人の私は研究費を稼いでほしい。私は大容量の次元転送装置をブラッシュアップしていこうと思っているが。
前、コンクールスに言われて試験までこぎつけたが、いかんせん不安定過ぎる」
「それに送りたいものとあて先は分かっているだろう、もう一人の私よ」
しかし複製した自分自身と話すとは何とも奇妙な感覚を覚える。
思考が読まれているようだが、アウトプットが違う。つまり言葉でコミュニケーションを取ると全く異なるのだ。
『言わなくとも分かる。結局あれは二個小隊を送ったが追跡できず、Soyuz側も騒いでいなかった。……何故だろうか』
「空間だけを超えるつもりが、時間も超えてしまった可能性が高い。次元間のジャンプだけは上手く行かなかった。彼の期待に応えられなかったのが心残りだ」
ここまで来ると一人芝居だ。
だが一卵性双生児でもない完全なる同一人物が二人いるため、そう断言しにくい。
『過去の事を言っても仕方がないだろう、私よ。それにあの製品クラスのモノを作るなら人手がまだ足りないだろう。……私を増やすのか?』
また違和感を抱いた。
何をどう考えているかはもう一人の自分も分かっているハズ。なぜこのような策動的なことを問うのか。
人の手で魂を複製する以上、やはりオリジナルとコピーではブレが出てしまうのだろう。
秤の風袋引きをしないと、どんどん数値が傾いていくのと同じように。
「そのつもりだ。順次、ではあるが」
言ったはいいが、完全な分身を作らねばなるまい。
いつまでもこのような欠陥という足枷はつけたままでは進歩は出来ないのだ。
「これからやることは分かっているだろう?」
次第に声が重なっていく。
『当然だ、もう一人の私よ』
≪さぁ、始めようか。私達よ≫
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——Soyuz U.U本部拠点
さらに所変わって、ここはSoyuzの異世界側本部。
戦いも終わり、欲深い現実世界連中とはまるで縁がなくとも内心穏やかとは言えなかった。
消えたアリエル・ハイゼンベルグの捜索、そして戦中に消失したファルケンシュタイン帝国軍の小隊たち。
転移できる前者は追跡方法すらわからないため全力で捜索を行っているから良いとして、問題は後者だ。
一応、当該する補給に来た部隊が3個小隊の消失を確認している。
さらに戦争中の出来事であったため、勘違いや記録違いということは一切ないらしい。
調査の結果、ハイゼンベルグ目撃例、と言っても怪しいようなものが点在し始めたのに対して消失部隊に関する続報は全くといって入ってこなかった。
数にして90人、テロリスト化するのにはあまりにも十分な数。
この危険因子は何としてでも排除せねばなるまい。
そんな折、最高司令である権能中将に帝国の諜報機関 深淵の槍から一報がようやく飛び込んできた。
【俺だ。———何?消失する直前に何か動きがあった?】
電話の相手はSoyuzと深淵の槍をつなぐメッセンジャーから。
【はい。先にファルケンシュタイン帝国陸軍第44・43 ・41小隊の素性に関してお話します。ご存じかも知れませんが、部隊の配属はナンノリオン。それに一番都市に近い隊になります】
帝都と肩を並べる大魔導都市 ナンノリオン県。あらゆる魔法を使った武器兵器の研究の最先端を往く。
【ああ】
【そこでこの3個小隊が担っていたのは「試作品の運用テスト」だったことをようやく掴めました。かなり隠匿されていましたが、最新兵器を運用するならば妥当かと】
皮が剥がれ、不可解な姿が浮かび上がって来た。
敵に対して最も漏れてはいけない内容なため、実態は秘匿されていたのだろう。
メッセンジャーは続ける。
【この小隊に関する最後の記録をつい先ほどサルベージできまして、それが……ナンノリオン将軍が立ち合いのもと行われた試験で。今の所何かしらの装置を用いたものとしか分かっていません】
ナンノリオン将軍これはあくまでも仮の姿であることは分かっていた。
正しくは国の裏について軍事政権を導いていた真の黒幕。
その名は最高指導者 コンクールス。
人間でありながら神の一族に最も神に近いと言わしめた怪物である。
本来であれば一切表に出て来なかった怪人物が、わざわざ顔を出して視察するだけの価値があるものとは一体何なのか。
【装置の残骸は】
最高機密であるだけに、捕獲されないよう細工がしてあると中将は踏んだ。
試しに聞いてみたが、情報統制がソ連かそれ以上に敷かれている帝国のことである。
恐らく残っているものは無いと考え、大して期待はしていない。
【何を行っていたかは掴めませんでした。それどころか装置が使われた事すら怪しいのです。彼らの隠ぺい工作は完璧としか言いようがありません。ただこうして報告したのには訳があります】
【……IMIという刻印がされたプレートが出てきたのです】
Israel_Military_Industries
日本語に訳すとイスラエル軍事工業。
異世界にイスラエルなんて国もないし、そもそも現実世界にある方は干渉すらできていない。
IMIというロゴが付いた物体が出てくること自体、極めて場違いだ
それなのになぜ、このような刻印のされた板が出てきたのか。
中将にはこのプレートの指し示す意味が分かってしまう。
【アリエル・ハイゼンベルグの関与だ。間違いない。だが、問題は何の試験をしていたか、だ。引き続き、調査を続行せよ】
ベストレオといい、ヤツの手がけたモノには必ずこの3文字が入った痕跡が残されている。自分が手掛けたと大々的に記さずとも、誰が作ったか一目瞭然な文字。
ヤツが憎きイスラエルに居たのは記録で判明している。
IMIを選んだのは、かつてハイゼンベルグ職場だったからなのだろうか。
【了解】
権能は調査を続けるよう命令を下し、通話を切った。
事の発端であるアリエル・ハイゼンベルグ。
異次元を観測した後に失踪し帝国で発見された。名前を偽り、現地の政権中枢に潜り込んで。
自分の存在と才能を誇示し続ける男が珍しく隠そうとしたもの、そこまでして知られたくないもの。
次元移動に生じる失踪現象。中将は嫌な予感がしてならなかった。
奴はこの異世界から現実世界に何かを送り込みたかったのではないか、と。
真実は全て闇へと消えた……
次回Chapter72は9月6日10時からの公開となります




