Chapter70. The threat of fools
タイトル【愚者という脅威】
会議に突如として舞い降りた邪神メンゲレ。
異世界のイキモノを最も知り、直接目の当たりにしたからこそドイツやフランスのような安易に生物や人を入れたがる姿勢に大激怒したのである。
案の定、両国大臣はナチスの亡霊である彼をキックやら、退出しようとしたがロッチナが手を打っていた。
制御権はSoyuz側が握っていることもあり、大人しく説法を受ける羽目に。
「まずはコレだ!」
「ドラゴンではないか」
「指輪物語にでも出てきそうな竜だな。これが?」
先に見せたのは竜騎士の下敷きにされるワイバーンと野生の大型竜ボワードドラゴニルだ。
虫唾が走るが、この手合いは本気で何も知らないらしい。如何にも強そうな外見を見ても尚、このような反応がなぜできるのか。
1時間程説教できる程の憤怒を抑えて説明を始める。
「これらの生物は容易く人間を襲い、喰らう。あと火を吐く」
「それだけではない!その辺の野山に当たり前のように生息している!動物園だの、そこらへんで展示するならまだしも、逃げ出したらどうやって駆除するというのか?」
竜という生き物はヒグマ等とはケタが違う。
飛行による高い移動能力、さらには人間の手を離れた際にははぐれ飛竜としてはびこることが「可能」。
無責任で繁殖した侵略的外来種がどれだけいる事だろう。そういうこともあって博士はそういった側面から人間を一切信用していない。
そのため増える前に入れさせない。これに限る。
「参考までに言っておくぞ、コイツはライフル弾を浴びせても意味ないからな。それにギルドというのは知っているだろう?奴らを討伐するため「だけに」専用の連中が集められている!その意味合いは分かるか?」
「猟友会とか、そのようなチンケな人間では勝てないような相手が野山あたりにはびこったら、無責任の極みである貴様らはどう処理するのか!?」
これこそドラゴンナイトの最も脅威な点だ。
銃弾でなんとか倒せる騎兵とは違い、機関銃や重機関銃を持ってこないと優位に立てない。
ファンタジー小説では単なるモンスターに過ぎないだろう。
だが現実世界では、民間人どころか警察や特殊部隊も持っていないような重装備がなければ太刀打ちできないケダモノである。
アライグマにキョン。それらと同等の増殖能力を持つ、怪物を入れようとしているのだ。
「しかしそれは軍や治安組織で……」
「じゃあ次はこれだダイスケ!!!!」
フランスの大臣はこれを目の当たりにしても尚喋るようで、博士は容赦なく次のページをめくる。
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無残に破壊されたショーユ・バイオテックの壁に、切り刻まれた鋼鉄製の閉鎖シャッター。
1億円もするDNAシーケンサは爆発四散。インキュベーターは見るも無残なテツクズと化しているではないか。
ベーナブオオゴキブリの項だった。
「これはたった30匹も行かない数の原生生物にやられたのだ!たった!学校のクラスの人数もないような陸上三葉虫にな!」
続いて流れるのは主観での映像。
制圧に掛かった兵のヘルメットに取り付けられたGoProで撮影されている。
『 イセエビを巨大化させたような長い触角。
2対あるナタのような爪は大剣の如く巨大化し、萌え芽のような細い首は全て硬い甲殻で覆われており……… 』
映像にぼやけながらもしっかりと捉えられた異界の生物。
現実世界の猛獣がぬいぐるみに思えてしまうほど、戦闘に特化するよう進化していた。
もはや節足動物型のキルマシンとしか形容のしようがない。
次から次へと、ガンカメラでとらえられた記録は恐るべき光景を再生し続ける。
『————口器には今まで1から3形態に至るまで全ての牙が揃い、尋常ではない禍々しさを纏う。怪物はあろうことか頭を180度反転させて背後に向けて熱線を吐いた。
その反動によって戦闘機のようにアフターバーナーを炊くと、元に戻して大きな爪を地面に這わせながら進む』
瞬間加速は虎やクマなどの突撃をはるかに凌駕する。
それもそのはず、進化の仕方が既定現実とはまるで違うのだから。
『GEEEEEEE!!!!!!!
床を切り裂き、火花を散らしながら狙いを近くにいる隊員に定めた怪物が————』
「フェイクだ!」
「機器が壊された証拠のために………」
つまらない陰謀論を騙る大臣二人に、メンゲレは本気の怒りを込めて突っぱねた。
「———別におたくらが特殊部隊でも倒すのに苦労した怪物を輸入するのは勝手だ。だが言わせてもらおう。この生物は本来人畜無害だ」
「しかし餌が無くなり、人の制御から少しでも外れたら……一体いくらの死人が出るか」
「一応このイキモノはゴキブリのように雑食性が強い。適応力もだ。
仮に、繁華街にここまで進化したようなのが出現したら?どう止めるつもりでいる?」
「参考までに言っておくが、コイツが怪物になるのは簡単だ。
本当に簡単だ、おサルでも出来る……これでも生ぬるい生き物が跋扈しているというのに集めて動物園やペットショップでも作ろうとでもお思いか?処刑場の間違いではなく?」
今までの特定外来生物とは訳が違う、それどころか次元が全く持って異なる。
直接人間に危害を加えてくるような生物である。
異界の生物を集めた動物園や市場を作ろうものならば、即座に殺戮現場へ早変わりすることだろう。
芸術点の高い、ダーウィン賞が浴びる程受賞できる愚行だ。
それに、現実世界でコンテニューは許されない。
ひさびさに本気の指摘をし終えた博士は、馬鹿らしいWeb会議をさっさと抜けてしまった。
もちろん、中指を立てるスタンプを送信して。
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あれから数十分して、茶番じみた会合は幕を閉じた。
旅団長の海原が抱えていた鬱憤も少しはマシになるだろう。
だが、ロッチナは欧州に二大巨頭の態度に疑問を抱いていた。
異世界に繋がるポータルがあるのは日本と北極海、どのようなコネクションを使おうともアクセスするのは容易ではない筈。
それにもかかわらず、何故奴らは「さも異世界に行けること前提」でモノを話していた。
ロッチナはしばし情報を整理する。
使えて当然だろう、というドイツとフランスの認識。
EUの連中は門を通らずして、向こう側に行ける何かを持っていると見て良いだろう。
しかし、次元跳躍をするにはSoyuzのテクノロジーでも不可能である。
あるならあるで、早急に叩き潰さねばならない。
もう一度振り返ろう。
門を通らずして、向こう側に行ける手段。
浮かぶ結論は一つ。
アリエル・ハイゼンベルグのテクノロジーだ。
中東のイスラエルとヨーロッパのドイツに何のつながりがあるのか、と言うかもしれない。
無いように見えて、実はある。
ハイゼンベルグ博士は「ドイツ系のユダヤ人」だということ。それにイスラエルはユダヤの国だ。
両国にはコネクションが当然、ある。
事実、ドイツ生まれで大学卒業後にどういう訳かIMIに渡っていることからモサドのツテなのも合点がいく。
いずれにせよ、尻尾は現れた。
Soyuzは早急にイスラエルを叩き潰さなければならないだろう……
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———ヨルダン川西岸
ハイゼンベルグの旧ラボ
相変わらず、リチャード・ウォンと彼が招き入れた中華系IT企業のエンジニア、そしてモサドの三つ巴が占拠していた。
一度はHDDの自爆スイッチを押してしまい、エライ目に遭ったが今では完全復旧。
此処ではハイゼンベルグ博士が残したデータと装置を使い、異世界との交信だけが可能な状態になっている。
そこで、異世界に居る彼と接触することができてしまった。
今日も今日とて、奇天烈狂人との交渉が始まる。
怪しい黒服たちがスイッチを入れると、まるで幻想の雲よろしく靄が出現し、不釣り合いな程鮮明なハイゼンベルグの姿があった。
ファンタジー小説に出てきそうな一角でせわしなく作業を続けており、モサドらとは一切視線を合わそうとせず、心底辟易していそうな声で応答する。
「ああ、また君たちか。……見ない顔もいるが、いい加減私が忙しいのを分かってほしいものだ。事業達成が冗談抜きで波に乗り過ぎたこともあると言っただろう」
明らかにイスラエルの連中はのけ者にされていると悟ったのか、脇のウォンが彼に呼びかけた。
「これはこれは、アリエル・ハイゼンベルグ博士!SCIENCEで見たことがある!今はその、ちょっと悪魔崇拝っぽい恰好ですが…」
「君、中国人か。いや本当に忙しく……」
「お忙しそうなら、こちら側でもサポートできないか……と思いましてねぇ?コンピュータもなければ苦労するでしょう?僕だったら発狂しちゃいますよ」
催促するのかと思いきや、流石は道理が分っているようで支援を申し出たのである。
「計算機は別にいいんだ、私がいるからな。ただ私が要求したものを譲ってくれるのは助かる。
———そろそろ槍のコーティング処理が終わった頃合いか……」
どうやらハイゼンベルグ博士一人で何から何までワンマンでやっているらしい。
配慮は嬉しいのだが、やはり問題があった。
「そっちにあるラボでは私を観測することしかできない。より大質量の物体を次元間跳躍させるのは不可能だ。私がそうしたのだからな。
だが、安定した次元間転送装置の開発後にしてくれないだろうか」
いくら天才でもそこのところは難しいとの事。世の中、彼の思い描く様に行くとは限らない。
「わかりました、僕としてもいきなり用意しろと言われたらどうしようかと」
了承が得られればこちらのモノ。ウォンは白い歯を見せながら糸目を引いて笑う。
「……株主諸君、成果は必ずとも出る。配当を楽しみにしておくことだ……」
ハイゼンベルグ当人は支援を得たとはいえ、邪悪な笑みを浮かべていた……
一体何を考えているのか……
次回Chapter71は8月30日10時からの公開となります




