Chapter69. Ignorant people
タイトル【モノを知らない人間たち】
異世界であるファルケンシュタイン帝国には戦うための実働部隊のみではなく、文化などの側面を探求する学術旅団と、別口の提携組織である ショーユ・バイオテックの研究員たちも在籍している。
終戦を迎えても、彼らの仕事は終わらない。むしろここからがスタートと言うべきか。
——Soyuz U.U本部
——食堂
バイオテックの所長、誰がどう見てもナチスだという強い認識を抱かざるを得ない人間ミーム兵器 S・メンゲレが食事をとるべくこの場所を訪れていた。
ファミリーマート資本の基地売店や、軽食ならラボのリフレッシュルームでも取れるのだが兵士たちも利用する前者は売り切れが続出。
後者ではパンと菓子程度で、補填されてもすぐ無くなってしまう。
暖かい食事を楽しみたいなら必然と食堂に限られてくるのだ。
「博士、少し話したいことがあるんですが」
ドカ盛りのサンマーメンを前にして、より一層邪悪な笑みを浮かべているメンゲレの隣に、似つかわしくないある人物がやって来た。
「……海原先生か。解剖NGの生物科学者に用があるとは珍しい」
学術旅団の長、海原である。
文系と理系という垣根があり、調べる体型や何やら根底的に違う事もあって話すことがあまりない。
コメディ狂人であるメンゲレはいつになく真面目な声色で返した。
「先日、ドイツの経済省とフランス内務省の大臣と話す機会がありましてね。なんでもどのような人間がいて、文化も知りたいと……」
二か国の名前が出た瞬間、博士は肩をこわばらせる。
そんな話は一切聞いていない。
Soyuzが許可を出しているにせよ、学術旅団だけを狙い撃ちにしているではないか。
メンゲレはドイツ系日本人だが、この外見で出禁された挙句に欧州の汚いやり方を激しく嫌悪している。
そんな彼からしてみれば文化だけに興味がある、などきな臭くて仕方がない。
この際ラーメンが伸びようと関係ない、静かに怒りながら、海原に問う。
「……移民等に関しては私を通すようにと言ったはずだが?」
「それなんですよ。案の定、その話をされましてね。もちろんSoyuzは突っぱねていましたが、普通は博士の下に行くはず。これは……」
つまり、ドイツとフランスは学術旅団を懐柔しようとしてきたのである。
Soyuzが突っぱねているのと、あまりに国民社会主義的な外見と言動からメンゲレを説得するのは不可能。
ならば一番説得しやすく、いや騙しやすいのは民間人に過ぎない学術旅団になるだろう。
彼らからOKが出れば、あとはとんとん拍子に進む。
適当に人種差別だのと言って無理やり移民させてこようとするのだ。
「私の陰で好き放題しやがって。もう一回パリを燃やしてベルリンを火の海にしてやろうか。
———先生、次の会合は?あるなら無理やりにでも参戦してやる。私がヒールになろう。そうでもなければあの連中は引き下がらん。」
この男、姑息な手段を使うのは好きだが使われるのは物凄く癪に障るらしい。
ハブられたことに激怒しつつも、声を荒げることなく海原に接する。
「実はその次の会合、午後にあるんですよ。———博士はTeamsで招待します、隠し玉として」
移民に関しては彼も懐疑的らしい。
現にドイツとフランス両国はアラブ移民を受け入れた結果、移民排除政策が本気で支持を得ている世も末な国。
共生だのなんだの言っている癖に、である。
言葉が通じないアラブ人ではなく、白人に近い帝国の人々を使おうというのか。
こうなった経緯に関しては時を遡らねばなるまい……
——————
□
———数日前
——学術旅団ハリソン本部 会議室
Soyuz側から是非とも異世界で調査を行っている方々と話したい、という要望が来たのは海原にとっては予想外だった。
日本では文部科学省から「金にならない」という身勝手な理由でつまはじきものにされ、その研究が花開いたのである。
学者としてここまで誇らしいものはない。
メンゲレによって出入り禁止が通達されているため、U.Uの存在が公表されても出向くわけにいかず
Webでの会議となった。
一応、Soyuz専務であるロッチナも参加している。腹が何時もより膨れているのは気のせいではないだろう。
内容と言えば、どのような人種がいるのか。話される言語や文化など旅団の成果を問われるものばかり。
どちらかというと会合というよりも成果を発表しているような感覚で、学者としては本望だった。
そう、この時までは。
服飾モデルを務めていたチーフの参考写真をところで、一番先にドイツの大臣が喰いついてきたのである。
「モデルにはチーフにしていただきました。このファルケン・レッドという色は……」
「なるほど。確認ですが、現地から抜擢されたフィールドワークチーフですか?」
帝国には神の一族から与えられた聖なる特別な紅がある、そんな説明をしようとしたところで話を切られた。
確かにガリーシア軍曹は旅団における紅一点だが、偶像か何かのように見ているような物言いに海原は少し嫌悪する。
何が美麗か、何が求められるのかは国や時代によって異なるというのに。
その話をきっかけに、今まで黙っていた大臣たちが積極的に意見を上げてきた。
待っていたディナーが出されたかのように。
「写真だけではどういう方なのか分かりませんな。そのチーフは今いますか?」
フランスの大臣も便乗するが、ロッチナは相変わらずだんまりを決め込んでいる。
一体どういう意図があるのか。
どちらにせよ海原にとっては堪ったものではない。
「ちょ、ちょっと確認しますので……」
ここでチーフを呼んでしまったのが事態を悪化させることとなるとは知らずに……
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□
「私が学術旅団フィールドワーク長 ガリーシアであります。ぱそこんは不慣れであります」
腕を曲げ、握りこぶしを心臓に突き立てる帝国式の敬礼を画面の前にする彼女はどことなくシュールである。
肝心の海原はそんなことより、大臣たちの反応が気になって仕方がなかった。
質問を投げかける対象は大学教授からチーフにシフトしていく。
「魔導と言う概念が存在すると聞いているが、可能な範囲であれば見たい」
「はっ」
指を弾いて見せると、ちょうど指先にライターのように炎が出現した。
そして種も仕掛けもない魔術に虜になる大臣たち。
海原は虫の居所が悪くなっていた。
決してコアなサークルに俗に言う姫が現れたようなものではなく、何か政治的な卑しさで彼女を見ていたのが気に食わないのである。
大事な仲間を、まるで使える材料か何かのように見ていると言うべきか。
続いて投げかけられた質問が、これを裏付けてしまうことになる。
「これはこれは。チーフにお聞きしたいが、我々の国には興味があるだろうか?フランスとドイツは世界でもトップに立っている、先進国で———」
「ちょっとロッチナさん、いいんですか!?」
あまりに露骨すぎる質問に、ロッチナは一切止めようとしない。
ヨーロッパを嵌める何かしらの罠を仕掛けているのだろうが、何よりもチーフの事があたかもモノのように見られているのが我慢ならなかった。
「はっ。お言葉ですが、私はこの役職にやりがいを感じており、また成すべき事は帝国でしか不可能だと考えております」
プライベートで話した時も、現実世界に興味はないと断言していたこともあって力強く誘惑を跳ね除ける。
兎も角、そんなことがあったのだ。
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□
そして時は今に至る。
会議は以前同様にWebで行われ、話題は文化から現地の生物へと露骨にシフトしていた。
「人はなかなか難しいとして、異界の生物にも我々としても関心がある」
ジャガイモ野郎が口利きする。
「ですが……」
「危険性のないものを旅団でリストアップしているハズでは?」
そして嫌味なフランスが追撃を掛けてきた。確かにソレなりの生物禄は作っているものの、餅は餅屋。バイオテックの方が詳しい。
旅団らにコレについて問うと言うことは、「はいわかりました」か「YES」という2択しか答えられないようにしているためだろう。
すると、突如として日本語の名前が出現し始めた。
≪Soyuz_Managing Directorがメンゲレさんを招待しました≫
直後、ヨーロッパの人間なら震えが止まらなくなるような邪悪な顔と声が響く。
「国では出禁に出来ても、インターネット回線上でも出禁に出来ると思わないことだ。それに、この私から逃げられると思うな!!!!」
「退出しようとしたところ「お前たちは専門家が来た瞬間、逃げ出した情けないメルケルの犬とサレンダーモンキー」だとばらすぞ!」
専務に許可は取っていたが、まさか支配人自らがこの狂人を乱入させるとは毛頭思わなかった。
キックされるよりも前に、罵倒がガトリング砲で放たれたかのように飛び出す。
「話は全て聞いている。人間がダメなら動物から始めようと?人間より厄介なのがゴロゴロしているというのに?本当にそれが可能だと、本気で思っているのか?」
「ライオンなんかボリュームがある可愛いネコチャンにしか思えなくなるような生物が盛りだくさんだ!」
「ダイスケ!これを見ろ!」
そう言ってメンゲレはパワーポイントで作ったスライドを画面共有し始めた……
次回Chapter70は8月23日10時からの公開となります




