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Chapter67. Silent Hunt

タイトル【沈黙の猟】


潜水艦はSoyuzから意地でも逃げなくてはならない。


なんせ彼らが乗っているのは軍事機密と国家の思惑を満載した黒色のクジラ。

良くて撃沈、捕まったら最悪だ。


本物のクジラよろしくバラバラにされ、世界中に秘密を切り売りされる。

何せ相手にしているのはアメリカよりも恐ろしいSoyuz。


フットワークはバレリーナよりも軽く、合算した軍事力は世界トップレベルの大国を束にして上回るという。

おまけに世界中の核兵器の1/3は全て彼らの手に握られているときた。


金庫を二重にしても足りないような機密が全世界の食卓にお届け。

そうすれば人民解放軍の太平洋進出も策動も何もかも終わりだ。


なんとしてでも伝えなければ。

作戦に参加した機体は発射したミサイル共々全て撃墜され、全滅。

さらに潜水艦の存在にも気が付いていることを。


郝大佐は考えた。

2つの地点にまで行けば、確実に追手を撒ける。


1つ目は簡単で、軍事演習を行っている海域。

完全に中露の傘に入れば連中もおいそれと手は出してこない。

何故そこに居たのかは共産党がうやむやにしてくれる。


そうなれば最良だ。


怒り狂ったSoyuzが戦艦大和10隻束にして、船という船を皆殺しにし始めたら別だが。


2つ目がノヴァヤゼムリャ基地。

事実、Soyuzとロシアの関係は冷え切っているからこそできる手だ。

解放軍機が補給を受けているのが何よりの証拠である。


流石に潜水艦が寄港すれば存在を確かにしてしまう反面、例の海域で何をしていたかまでは問えないだろう。


両者間が冷めきっていることもあり、連中の手で港が消滅するかロシアが寝返ったら終わりだが、この際どうでも良い。



「機関全速。進路、演習海域に取れ」



逃げ切れるかどうかは賭けだ。

どのみち帰還できても粛清される未来が待っているが、今は事態悪化を食い止めることしかできないことは理解している。


国家の命運を無理やり背負わされた大佐は、冷や汗を出しながら状況判断せざるをえないのだ。


ここで状況を整理しよう。


全てはエメラルドポリスを突いたことから始まった。

相手は積極的に対潜哨戒機を飛ばし、こちらの位置を割り出している。


海上にはサブマリン殺戮装置ことウダロイ級駆逐艦。

それに背後からは同じく原子力潜水艦が迫る。


まるで警察と殺し屋に追われているようだ。


だが活路は無い訳ではない。

気休め程度ではあるものの、海域をこのまま突っ切れると大佐は思っていた。


というのも、エメラルドポリス周辺海域には機雷の反応がなかったからである。

目的は分からないが、この人工島は軍事施設を兼ねた整備プラットフォーム。


原子力砕氷船といったあらゆる船が通る訳で、踏んだら即死のマキビシこと機雷を仕掛けると後々厄介なのかもしれない。


現に磁気反応がなかったこと、のうのうと海域をうろつけたことが実証している。


しかし郝は甘かった。


Soyuzはあえて「罠」を仕掛けていなかったことを。

彼らは抜け道を用意することで、獲物を針に掛けるつもりだということを。


エメラルドポリス、その実情は針虫の巣窟だ。







——————








——エメラルドポリス管制


敵が艦隊と合流しようとしていることは海面と海中、どちらの報告とも合致する。

相手は藁にもすがりたい気分でいるのは間違いない。何もかも予想通りだ。


だからこそエチル司令はある指示を出すことに。



「P-3Cは予想進路上40キロ先に機雷を敷設。Izhevskは敵潜水艦付近を陽動。Rhuteniは引き続き追跡せよ」



機雷を敷設していなかったのは理由がある。


あえて罠を仕掛けないことで敵をエメラルドポリスまで誘い出し、いざ逃げる時には空から投下し、行動を制限。



まるでハエトリグサのように敵を海域に閉じ込めるのだ。


いかに原子力潜水艦が高い静粛性と探知機器を装備していたとしても、指揮や操舵するのは人間である。


適切な情報や誤りがあれば失敗するのは言うまでもないし、政治的圧力が掛けられたがために本来成功する筈が下手を打つこともあるだろう。


故に99ではなく、完全な100を求められてくるのだ。


それらのイレギュラーを如何に減らしつつ、いかに正の方向に向けるか。

参謀の難しい所である。


もう一度繰り返すが、五感が優れている原子力潜水艦を動かすのは人間。

エチルはここにも目を付けていた。


今まで何もなかった所に、即死するかもしれない罠が無差別にばら撒かれたらどうなるか。


これから()()をご覧入れよう。




—————





——長征18号

ところ変わって、断続的に速度を上げながら逃げている潜水艦 長征18号。



「敵艦、速力低下。浮上を確認」



音響手の報告を小耳に挟みながら次、そのまた次の一手を考える 郝だが、敵との距離が離れたとしても手放しで喜べない。


何せ追ってきている速度が落ちているからだ。

あの怒りに燃えるSoyuzがこの程度で追跡をやめるとは逆に考え難い。


恐らく敵は意図的に速度を緩めている。

動きがあったのは確か。


深く潜っているため、対空レーダーもいまや重荷同然で役には立たない。

空がどうなっているかは浮上するかして直接探知しにいくしかないだろう。


みすみす的になりにいくようなものだ。


その嫌な予感は直後、的中することになる。


深海と艦内の静寂を破るのは鋭敏な音波。はるか彼方の海面に何かが落ちた時に生じる波を、潜水艦は逃さない。



正しい言い方をすると、是が非でも()()()()()()




「————本艦の進路方向に投下音を観測。……磁気反応多数探知!」



「対潜ミサイルか……!」




してやられた。


ウイニングランをさせるつもりで、進路上に何かを配置する。まるで追い込み漁のように網へと追いやられたのである。


だがSoyuzはその2手3手先を往く。



「しかし沈下率がミサイルとは異なります、爆雷とも合致しません。磁性反応、他深度でも確認」



その言葉に一番の疑念を抱いたのはほかでもない大佐。

ミサイルでも爆雷でもないなら答えはおのずと1つしかなくなってくる。



機雷だ。



この出現の速さ、航空機からデストラクター機雷を散布したのだろう。

航空爆弾にキットを取り付けた代物のため、通常とは違うと見抜けたのかもしれない。


しかも縄抜けできないよう、丁寧に他の深度に被るよう敷設されているときた。



後ろには敵の潜水艦、水上には爆雷を投下したくてうずうずしている駆逐艦。

前に進めば機雷に接触して撃沈する。


勿論空には対潜哨戒機が張り付いており、長征18号をあの手この手で殺せること請け合い。



そんな郝は結論を導き出してしまった。



逃げられない、と。


向こうからすれば、逃げようと思うなというメッセージに近いか。



「敵艦から電文です。現在受信中」



無線手が慈悲のかけらもない通告が届いたことを知らせてくれる。

水中用の長波無線であるため受け取るには時間がかかるが、今はそれどころではない。



この電文は死刑宣告同然なのだから。








——————





——潜水艦ルイシ


長征18号に送った電文を考案したのはボローニャ艦長だった。

一応水面に浮かぶ無線中継ブイとイジェフスクを経由しつつ、エメラルドポリスの人間にもざっくりと査読はしてもらったが。



「あのメカトロニクス泥棒猫め、みすみす逃がすと思ったのか」



確かな殺意をボローニャは吐き捨てる。

ハッキリ言って、今にも敵艦を沈めたくて堪らないがここは秩序ある軍事組織。

命令には逆らえない。


そこのところ艦長は分かっていたし、ある手を打つことに。

降伏勧告の原文を自ら考える事だ。


当たり前だが、敵もこちらも同じサブマリナー。階級や性格や作戦の方向性にばらつきはあるだろうが、根幹は変わらないだろう。


乗っている潜水艦がルイシではなく、商級だったら自分でも逃げ出したくなる。


だが、地上を生きる人間にとって海中の逃げ場は何処にも存在しない。


そうしたら自沈することで秘密を守ろうとする方面に向くだろうとボローニャは考え、ある文言を付け加えた。


沈もうが深度1400m()()ならば無駄である、と。

さらに死のうが生き延びようが、お前たちのした業は必ず中国に返ってくるというニュアンスも含んでいる。



世界を牛耳る軍事組織の資金力を一国程度と舐めてもらっては困るのだ。

しかし交渉というものは追い詰めてばかりでは成立しない。



だからこそ希望を付け加えた。



パンドラの箱から1つだけ出てきた光に縋らせるように。











———————





——駆逐艦 イジェフスク


なんやかんや言って影の薄い駆逐艦だが、ただ圧力をかけるためだけに居るだけが仕事ではない。


この艦には拿捕するために乗り込む士官が乗り込んでいるのだ。

何もしてないように思えて、どれもが欠けてはいけないピースなのである。


更に役割がもう1つ、このイジェフスクにしかできないものが割り振られていた。


応答がない場合の撃沈役。

最終手段。頭に突き付けられた拳銃のトリガーを引く重要なもの。



「ボローニャも良くあんなものをさらりと書くとは。ヒトは外見に寄らんな」



しかし最終的解決を使うことはないだろう、艦長クルスクはそう思っていた。

だからこそ口から軽い言葉が出てくるのだが。


原文を本部の中継と言う形で目を通したのだが、よくできている。


サブマリナーがどういう生き物なのか、属する国家がどういうものなのかを熟知しているからこそあんな文章が書けるのか。


影は薄い、不届き者に対して怒鳴り散らせもしないイジェフスクに対してルイシは直接文章を送れる。

正直な話、少し僻みを抱いた。


だが今は任務が最優先、艦長は砲術手に確認を取る。



「確認したい。誘導弾・爆雷で敵艦捕捉しているな?」



「もちろんです」



いつでも殺せる状態は継続中とのこと。

ホールドアップしている銃がバナナでは困る。何か不穏な行動をし始めたら沈めるのは自分なのだ。


果たして、水中にいる鋼鉄のクジラはいかなる答えを出すのか。


次回Chapter68は8月9日10時からの公開となります

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