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Chapter63. Above the sanctitude sky

タイトル【清浄なる空の上で】


——北極海上空

エメラルドポリス400km付近



レーダーによって探知されるよりも前に時間を撒き戻そう。


付近まで400キロを切り、最初にミサイルを放ったのはH-6N。

楊中尉の機体である。


スイッチ一つで高高度から放たれた鷹は、落下直後に固体燃料ロケットに点火。

火の帯をたなびかせながら速度を爆発的に上げていく。


VLASHHHHH!!!!!!!!!!!!!


カメラのない、爆薬だけがみっちり詰まった顔は何も語ろうとしない。

ただ己にプリセットされたデータだけを信じて、恐れることなく突き進むのだ。


時速300、400、500……物言わぬモノだからできる殺人的な加速。



SHooooooSHHH!!!!!!!!!!!!!!



数百キロ、東京から大阪に至る距離をあっという間に駆け抜けたミサイルは、澄み切った高高度から一気に下り始めた。


最終誘導段階。

エメラルドポリスの放つレーダー波を探知しながら微調整を行い、目標を確実に殺すのだ。


北極の氷と同調する真っ白な雲海を翼で切り、猛烈な空気抵抗を凌ぎながら弾体に仕込まれた計器の数字を削る。


9000、7500、5800……


まるでスロットリールが回るように。


堕落していくと純白の雲海は次第にくすみだし、光を拒むような灰色から黒へと空色が変わっていく。


そうして天国の白い雲を振り切ると、広がっているのは鉛色の暴風雪をもたらす荒れ雲。

暗黒の中に稲光が走る様は乱世の如し。


透き通るような蒼い空は、此処では真っ暗なとばりで満ちている。


さらにミサイルは高度を下げていくと、ついに雲の底を突き抜けたではないか。

まるで絶望的に助からない飛行機が墜落するような急機動だが、飛翔体にはこれが常識。



しかし忘れてはいないだろうか。

誘導弾の頭脳にはアテにならない地図がインプットされたままだということを。


強風の影響を受けて、相手のレーダー波を探知しておきたいところだが、嵐は見える所だけでは起きていない。


頼みの綱の電波ですらジャミングでぐちゃぐちゃになっているのだ。



そうとは知らぬ、ましてや考えられない鷹は海面数メートルまで降下。

ひたすら無心で走り続け、今に至る。




———Ka-BooooM…………




かくして囮のミサイル(YJ-83)は北極の海で散った。

エメラルドポリスにたどり着くことなく、あらぬ方向に逸れて。


だが。



その墓標をあざ笑うかのように、黒い何かがフライ・パス。

あろうことか音が遅れてやってきた。



————ZoooooooSHHHHHHHHH!!!!!!!!!!!!!!!!!!



なんだ。

これは飛行機でもなんでもない、精密誘導兵器。


飛翔速度マッハ 3。時速にして3500km/h

音速をはるか彼方に置いてきた。


()()()()()()()()()()()()


空気が波打つよりも速く、更には欺瞞を踏み台にした存在を、Soyuzは立ち向かえるのか。





——————






超音速で飛行する物体の存在は当然エメラルドポリスのレーダーにも、ジャミングを受けた最前線にいる戦闘機にすら映りこんでいた。

レーダーに映ったら、時すでに遅しを地で行くのだから。


故に、迎撃が難しい。


衛星情報に干渉して滅茶苦茶にしているため、これを参照する誘導弾の精度はガクッと落ちるか、得体のしれない方向に飛んでいく()()()


だろう。

あくまでも高い確率とあるだけで確実ではない。当たらないという確証はどこにもないのである。



——エメラルドポリス

司令部



「不明瞭 飛翔体を多数確認。数4。距離240000。速力M2.3。」


「すべて撃墜せよ」



エチルは言うまでもない、そう切り捨てるように命じた。

大方あの息切れした速力しかないドットなど、囮に過ぎないことは分かり切っていたこと。


一方で、対空レーダーにはジャミングの影響を受けてか、浮いたり沈んだりを繰り返しているらしい。



「新たな飛翔体確認!数1、距離380000。速力M0.28」



それすらも囮である可能性が浮上した。

しかし、とにかくスピードが遅い。


先ほど撃たれた誘導弾はあっという間に音速の壁を超えたというのに、まるで鈍行ではないか。

普通はそう思うかもしれないが、エチルは既に答えを出している。


破壊力抜群、一撃必殺の巡航ミサイルだ。


いずれにせよミサイルの一種に違いないが、陸上選手の長距離と短距離で走り方が違うように用途別によって加速力が違ってくる。


恐ろしい勢いで迫る超音速ものは、固体燃料とエンジンで短距離を猛スピードで駆け抜けるスプリンター。


ではコイツは何かというと、じわじわと加速しながら走るマラソンランナー。

長距離を一定の高速で飛ぶため初動がどうしても遅い。


本来は十分に加速後、目標に対して猛スピードで迫って来るが、いかんせんスロースターターなのは否めないのである。

それでも撃つ理由、それは威力が桁違いだから。



「これが敵の本命だ。常にレーダーで捕捉、出ている機体に撃墜させろ。付近の機体は」



現状は旅客機並みのスピードなので、戦闘機で叩き落すことが可能。

しかし捕捉を続けている辺り、撃ち逃したら基地側が撃墜できるよう体制を整えている。



「付近にいる機体は……SALAMANDER 08です」


「了解」


【こちらエメラルドポリスHQからSALAMANDER 08。撃墜せよ】



【………こちらSALAMANDER 08、了解】



ここから反転攻勢だ。






—————





DAM!!!


天に向かって突き出た柱から、垂直に何かが射出される。

その瞬間、時間が止まった。


はじき出されたソレが自ら推進して目標を射抜く、鏑矢(かぶらや)だとわかるだろう。


時間が再び流れ出す。

針のように真っすぐな誘導弾は、ひとたびロケットエンジンに点火すると縦から横に向きを変えた。


……BLASHHH!!!!!!!!!!!


尻に炎の箒をぶら下げて、爆発的な加速でターゲットへと向かっていくのである。

かくして何本も何本も、神槍が飛び出していった。


電波で指示された目標へと一心不乱に向かうS-400。

ジャミングの大嵐が吹き荒れていようとも、電探網に引っ掛かれば電子妨害など無いも等しい。


そして超音速で迫る両者は、北極海上で砕けった。

1、2、3、4.白と青のキャンバスの下で鉛色の花が開く。



FLooooooWWWWWWW……BoooMMM………!



「飛翔体、撃墜しました」



S-400は妨害を物ともせず、敵のミサイル(YJ-12)を全弾叩き落すことに成功した。

しかしエチルの声色は北極のように冷たい。



「残りは後方の1つだけだな。他の機体は敵機を狙え」


「地の果てまで追い詰めても、撃墜せよ」



その命令は電波に代わり、衛星を経由して各機に届く。






——————





海の世界では音が全てなのに対して、空の世界では電波が全てだ。

いかに距離が離れていようとも面を合わせているかのように、会話することができる。


そんな魔法のような技術を手にしてまでも、異世界の魔導が欲しいのか。

空を飛ぶSu-33とそのパイロットに哲学的な問いかけをしても無駄だ。


最も巡航ミサイルに近い機体 コールサインSALAMANDER 08はエメラルドポリス司令に従い、狙いを着けようと調整を行っている。


パイロットは言葉を一切、口にしない。

その代わりに目や耳から入って来た情報を知識と経験、そして勇気という名の議員が討論し合っているのだ。


増設されたディスプレイ。


空対空レーダーに視線を向かわせるが、巡航ミサイルと思しき反応は拾っていない。

さも当たり前のように溶け込んだ、機体側の照準も同じで語る気配もなさそうだ。



【こちらSALAMANDER 08からエメラルドポリスHQ。現在の目標高度・速力・方位を】



彼はマシーンのようにエメラルドポリスと連絡を取る。



【…………こちらエメラルドポリスHQ。目標、距離1200000。方位+55。

高度27500フィート、現在降下中。速力M0.32……】



【了解】



すかさずHMDに表示される簡易高度計に目を通した。


降下と同時に脂の乗った加速をし始めているあたり、そろそろエメラルドポリスに向けて狙いを定めている頃合だろう。


逃がす訳にはいかない。


それに機体を飛ばしている自分と、飛翔体の方位が違う。

妨害も相まって、レーダーに映らない理由の1つと見て良いか。


いきなり世界が歪みだし、キャノピーに映る空と地面が刃のように傾きだした。


パイロットは操縦桿を傾けつつ左右の均衡を崩し、右へ横滑りするように機体を調整したからである。


目標は本格的に加速段階に入った。


とにかく時間がない。

エンジン出力を上げて、一気に迫る。ひたすら距離を詰めにかかる。


巡航ミサイルとの距離は120km。

翼にぶら下がったR-73の射程距離は40。たった東京-横浜間しか届かない。


当てるためにはどうすれば良いのだろう。その答えは至極簡単で、距離を詰めれば良いこと。


速度が上がっていき、しばらくすると無言を貫いてきた照準に反応が現れ始めた。


視界を自由自在に動き回る照準はついては消え。的を捉えたと思ったら亡霊のように消失する。

ステルス性皆無な誘導弾に煮え切らない挙動をするあたり、やはりジャミングの影響は否めない。



「距離は……60000」



アナウンスよりも速く、パイロットはターゲットとの距離を無意識に復唱する。

まだだ、ここで撃つべきではない。


しかし照準系統の不安定な挙動はなんだ。

怪しい動きではロックオンしきれないのは火を見るよりも明らか。


すると傾いていた機体を一気に反転、高度を下げ続けるターゲットよりも先に落ちはじめた。エンジン出力をやや高め、進みながら重力にしたがっている。


あたかも自らが銃弾のようになって。


自ら墜落していくような真似をしているように見えるが、何やら考えがあるらしい。



「距離30000………29000……まだだ」



—PEEEELLLL…………——PEEEEP!!!!!



固唾を飲んで機会を待っていた最中、突如照準が一点の狂いなく定まった。


搭載されているR-73が巡航ミサイルの推進時に出す熱、いや「赤外線」を間違いなく認識したからに他ならない。

空と地面を反転させ続けることをしたのも、可能な限り熱を探知させるため。


その有様、妨害電波という分厚い雲を抜け、澄み切った晴朗の空へと飛び出したかの如く。


迷いなくトリガーを引くと、翼から勢いよく飛翔体が射出された。



BLASHHH!!!!


これまでの電波を頼りにする蝙蝠ではなく、相手の確実に出す熱を頼りにして一点の狂いなく追い詰める毒蛇。


欺瞞などされない。


これ以上曲芸飛行する必要性は無くなった。


操縦桿を引いて、機首を上げて水平へと戻す。

戦闘機ということもあって、空で転覆していてもすぐにあるべき姿へと帰る。


レーダーへと目を向けると、あの時の様に反応は無い。

しばし、エメラルドポリス指令の応答を待つことに。今は機体よりも島側がよほど信用できる。



【……こちらエメラルドポリスHQから…各機。飛翔体、撃墜】



脅威は全て叩き落した。

だがSoyuzはこのままでは終わらない。



翠玉の都(エメラルドポリス)を襲った応報を受ける番だ。



次回Chapter64は7月12日10時からの公開となります

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