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Chapter60. The Eve of Decisive Battle

タイトル【決戦前夜】


場所は変わって中国。

一口で言っても多種多様、地球の箱庭とも言えるだろう。


三国志の古戦場にすばらしき漢詩が花開いた成都。

サイバーパンクを現実のものにした深センや上海。そして忘れてはならない首都 北京。



自然に目を向ければ、砂漠に海や森になんでもござれ。

遙か北、黒竜江省にある最北端 北極村までいけばオーロラだって手に入る。



向こう側にはアムール川。

更に先には極北がそびえる地で共産党の策動が着々と動き始めていた。



オーロラでもまだ足りぬ、異世界を手に入れてようやく満たされると言わんばかりに。


大河を隔てた先はロシアということもあって、ここ北極村には軍事基地がそれなりの数が置かれている。

多くはレーダー基地といった細々としたものだが、それは表の情報に過ぎない。



人呼んで、第 0007 区基地。



転ばぬ先の杖、と言わんばかりにあまり表沙汰にはできない空軍基地が設けられていた。

いつ建てられたのか、どうして建てられたのか、何に使うのか一切不明。



そもそも呼ばれているこの名前も、本当のものか怪しい。



ロシアひいては極北への玄関口になるということで、この0007区基地には多くの航空機が燃料補給を受けていた。



名目では演習に参加するため、となっているがこれも虚偽。

秘宝のような真実に対し、虚構はドブに手を突っ込めば手に入る。



この国では真実を探すよりも嘘の方がずっと見つかりやすいのだ。


質を問わなきゃなんでもある。

その文言がこれほど当てはまる場所はあるまい。




—————



——格納庫



別方面軍から飛来した軍用機は着陸後、格納庫にて整備・補給を受ける。

しかしそこにはトップ・ガンに出てくるスタイリッシュな戦闘機は1機として見当たらないではないか。



水溜りに映る、レトロフューチャーじみた顔をした渓流魚ようなシルエット。


番号型式H-6K。

巨体に大量の燃料を抱え込んで、ジェットで飛ぶ超音速爆撃機がずらりと並んでいた。


しかし今は爆弾というよりも空飛ぶ巨大ミサイル発射器という性質が強い。



そんな期待群だが給油を終えた後ということもあって、入念なメンテナンスが行われていた。

丁寧に屋根付き、温度管理機能がついた屋内で検査を受けていたのにも訳がある。



国家の衰退か、更なる繁栄が掛かっている。



成功すれば利益は2倍、いや4、8、10。はたまた100倍になって帰ってくるだろう。

だが失敗すれば、すべてを失う。



まさに2択に1つが駆けられたダブルアップ・チャンス。



今回の「訓練」において、失敗は決して許されないのだ。








—————








いくら機体や燃料、搭載する武器が山のようにあっても、人が居なければよく燃える鉄屑に過ぎない。



演習に参加するパイロットたちは軍務の合間を縫って、精力を養っている傍ら。

パイロットら6人だけがブリーフィングルームへと呼び出されていた。



今回参加するのは15機のH-6K大部隊。

二人で1機を操ることになって、30人が演習を行う計算になるか。



そこから6人。

つまり3機だけが唐突に呼び出されるとはまずもってあり得ない。



普通や今まで通りでは。



——ブリーフィングルーム




選ばれたことは果たして不運か、それとも運命か。

Soyuzへの直接攻撃に加担する6人のパイロットと副操縦士は、1度使われたか怪しい一室に呼び出された。



奥に鎮座するのは本作戦の司令官である白 中将。

名前の白っぽさとは違い、どうにも腹黒い内面を抱えたような面構えをした優秀な将官である。



与えられた6つの席に兵が揃いってから、演説じみた声色で説明をし始めた。



「最初に言っておくが、本作戦は奇襲だ。

いかに体制を取らせず破壊するか。すべてがそこに掛かっているといっても過言ではない」



白を名乗る「黒」が話す内容とは。







——————









「本基地から出発後、ロシアの北極海基地にて再度補給することは周知されているだろう」



「そこから演習に向かう際、諸君らのH-6K ・N各1機 とH-6J 1機は演習空域に達する700km地点から電子妨害を行いつつ空路から離脱。また、H-6Nは離脱前にWZ-8を射出。攻撃体勢に移行せよ」



「その際、必ず敵基地と交信することを怠るな。あくまで【故障】である旨を伝えるように」



なんということだろうか。

演習の途中で寄り道し、そのまま攻撃しろというのである。



管轄違いのJを持って来たことから、如何にこの作戦に気合を入れているのがわかるだろうか。



そこから電子妨害・重ミサイル攻撃という戦闘行動の数々。

明らかな領空侵犯どころか、中国とロシア・Soyuz間で戦争になってもおかしくない。



どれだけ言い分を重ねたとしても装置故障というのはあくまでも陳腐極まりないのは変わらないだろう。


中将は続ける。



「この海域はロシアのものだが、諸君らはロシアのスクランブルに怯えなくても良い。

———密約のお陰で、沈黙を続けてくれることは間違いない。安心して任務遂行すると良い」



ロシアと中国間の者でしか知らない、異世界に関する決め事があるというのか。

残念なことに存在してしまっている。



その名も()()()()()



中国が異世界を奪取した暁には、ロシアにも利権を与えるというもの。

Soyuzの提示した「契約」とは異なることはたった一つ。



彼らによる監査が一切入らないこと。



つまり異世界で奴隷貿易を行おうが、土地が枯れ果てるまで資源を吸い取って利益を独占しようが、Temuの違法工場を建設したとしても別に構わないのである。



秩序があるかないかの差だが、ロシアは後者を選んだ。


決められた領域でしか食えない食い物より、全て奪いつくしても構わない食い物の方が良いに決まっている。



経済発展と人権は相反する存在。さながら国家とSoyuzのように。









———————








「軌道に入ったら、射程距離になるまで接近。まず囮として対艦ミサイル(YJ-83K) を発射、発射後時間を置いて超音速対艦(YJ-12)巡航ミサイル(CJ-20) で たたみかけろ」




圧倒的な殺意の塊。


専門用語をかみ砕くと、最初はレーダーの囮としてミサイルを撃ってから本命を命中させるというもの。


これもそれも、Soyuzの持つ対空レーダーを恐れてのことであるのは言うまでもないだろう。


ステルス機でもなんでもない、なんならくっきり存在が映るような古い爆撃機を撃墜するのは赤子の手をひねる位に容易い。



だからこそ爆撃するのではなく空飛ぶミサイルランチャーとして使うことでそれを解決した。



また人工島エメラルドポリスには最低限の防御力はあるだろうが、発射された艦を沈める威力の飛翔体には耐えられない。



島そのものは戦艦のような硬さは()()()()()()()()()()()



中身の戦艦や巡洋艦などは耐えられたとしても、ポータルを守る皮は剥ぐことさえできれば良い。



「弾着は偵察を続けているWZ-8で確認。

確認され次第。万が一機体に不備が発生した際、誘導を行う潜水艦を使ってエメラルドポリスを制圧ないし」



「破壊する」






——————





かなり無茶な作戦のブリーフィングをしている節を気が付いているのか、白 中将はパイロットらにしばし自由時間を与えると言い残して去っていった。



「……それで俺たちは北極海に行くのか?」



作戦の要 H-6Kのパイロット 趙 大尉は深刻な顔をしながら呟く。

もちろん、本心ならばもっと喋りたいことはもっと多い。



なんなら語り尽くせないくらいに。


だがこの国は自由とは正反対にあることを忘れてはならない。

そのおかげもあって、各機体の副操縦士はお通夜があった後のように静間に帰っていた。



こんな作戦をすれば、Soyuzも躍起になってくるのは当たり前。

そうなった時にはH-6を迎撃するためにスクランブルが上がってきて、自分達が真っ先に殺られる。



H-6K・J・Nにはこれまでのように自衛火器が存在しない。

近寄られたら最後、申し訳程度のチャフをばら撒いて祈る以外できないのである。



軍用機ということもあって流石に射出座席はついているものの、残念ながらあってもなくても変わらない。



パラシュートで落下するのは誰いそうな陸地ではなく、極寒の海。

凍り付いて苦しんで死ぬか、それとも楽に死ぬかの2択が待っていることだろう。



「そうなるよな。だったら日本に行けばいいのに。パッと核でも打ち込んでさ」



目つぶしのジャミング役となるH-6Jパイロット 武 大尉も顔色は良くない。



こんなリスクを冒すくらいなら、人民解放軍の脅威を知らない横浜に殴り込んで核攻撃なりすればいいだろう、というのが彼の意見である。



「馬鹿かお前は!あそこにも連中はいるんだぞ!それに杏仁豆腐が喰えなくなる!異世界はどうでもいい、全人類共通の!崇拝すべき食い物がなくなるような真似をするな!」



「それにお前ら、なんで初めから死ぬつもりでいるんだ!それは色々とマズイ!病は気からと言うだろう!」



杏仁豆腐 中尉こと 楊 大尉が声を上げるが、全員また始まったかと言わんばかりの冷ややかな目線を向ける。


地上では熱血。空では極めて冷徹で頼りにはなるが、如何せん場が悪かった。



ちなみに杏仁豆腐は中国で生まれながら、本国ではなかなかお目に掛かれないモノである。



「………た、確かにそうかもしれない、が……」



「あの口ぶりじゃあ援護は来ないぞ。空母ですら、この作戦の陽動に過ぎないんだろ。大変なのによくやるぜ」



死ねと言っているような作戦を前に、なんとか平常心に戻そうと趙が話を逸らそうとするものの武は刃物のように言葉を一蹴した。



だがこれもまた無駄ではない。杏仁豆腐 大尉はあることを打診する。



「そうだとしても、だ。空母は比較的近くにいることは確かだろう?少なくとも1000キロ離れているかどうかだ」


「所詮この演習が見せかけなら、SOSを出せば気が付くかもしれない。ミサイルよりも電波の方が圧倒的に速いんだからな」



熱と冷を持ち合わせた彼はこういったところが強い。

だからこそ杏仁豆腐を切らすと死ぬような性格をしていたとしても、副機長からの人望があるのだ。



「確かに、そういう考えもあるか」



趙は眼中にない考えを出され、思考を改めることに。


やや過激な言動が目立つ武も表情を変えているあたり、希望的観測とはいえやってみる価値はありそうだ。



しばしの沈黙後、再び趙は口火を切った。



「俺達6人は全員チームだ。やれることはやろう」



「ああ」



「その意気だ。どんと行こうや!」


彼らに成功があれば異世界は死に、Soyuzが成功すれば彼らが死ぬ。


かくして運命の歯車は動き始めた……









——————







———Soyuz情報総局



【例の北極海演習に関してですが、欺瞞であることが確定しました。……分かり切っていたことではありますが、何事も情報は確実にした方が良いので】



情報チームからロッチナへと連絡が迸る。

だがSoyuzの目、あるいは神の眼は沈黙したままだ。



【戦闘態勢のH-6K・J・Nが空軍の北極村秘匿基地で確認されました。エメラルドポリスでやる気でしょう】



【———習近平め。……わかった。直ちに衛星北斗に対し干渉せよ。EPには既に警戒態勢を出しているが、段階を引き上げるよう通達を】



【了解】


どう転ぶか。


次回Chapter61は6月21日10時からの公開となります


登場兵器

H-6K

人民解放空軍の運用する戦略爆撃機。

核を投下する役割がミサイルにとってかわられた昨今、長距離を飛行できるミサイルランチャーとしての趣が強く、電子化された有様は未来的と取るか「レトロフューチャー」と受け取るか。


初飛行から60年近く経とうとしているのにも関わらず、何時まで経っても後継が出ないため本国では割とビリビリ動画ではネタにされている節があるらしい。


しかし、脅威という烙印は60年近く経とうとしても消えることはない。

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