Chapter6. Looming Threat: U.S
タイトル【迫りくる脅威: アメリカ】
相変わらずメディアに踊らされ、異世界の発見に湧く世界だが、入り口であるポータルの位置を未だ公開せず立ち入ることができるのはSoyuzだけ。
話を聞けば発見されたのは昨日今日ではなく、1年前という有様。
世界に知られないよう、意図的に隠ぺいしていたのである。
まるでワインのコルク栓のように立ちはだかる組織相手に、世界各国メディアが動き出した。
——Soyuzフロント企業 ホテル ロアナプラ
スイートルーム一室
アメリカ合衆国 バージニアの一角にあるホテルの一室で、テレビをつけっぱなしにしてロッチナは朝のコーヒーを啜る。
「———アメリカ大統領 ジョー・バイデン氏は異世界発見の事実隠ぺいに対し、独立軍事組織Soyuzは利益を独占し、世界を支配。再び悪の枢軸となろうとしている。
地球上の平等な発展のためには許されない行為であると語り……」
「また中国外務省から発表された声明は、独立軍事組織Soyuzは元来国に属さない軍事力にも関わらず、世界の経済主権を奪おうとしている。世界を統一するような許されない行いであるとされ———」
「朝鮮中央通信では我々はそのような帝国主義者が歓喜の声を上げる様な事よりも、より有意義なことに目を向けることが先決だと犬でも分かっており、至極どうでもいい と———」
あらゆるメディアが異世界を隠し続けるSoyuzに対して声明を発表していた。
同じような声明が世界中を飛び交っているが、共通点があるとすれば1つ。
どれも下らない。
何故非公開にして新天地進出が出来ないようになっているか、それの理由は歴史の教科書でも読めば誰だってわかる。
共和国がマトモな事を言っているが、それより自国で抱える問題を先に始末すべきだ。
それにもかかわらず、1組織の上げたニュースを何時までも擦っているとは。
ロッチナは心の中で嘲笑する。
こう出てくることは容易に想像できたからである。
故にこれからアメリカに対し、外交と言う名の言葉の戦争を仕掛けねばならない。
テハジメに。
CIA長官と極秘の会談を行うため、ロッチナは合衆国 バージニア州に来ていた。
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CIA。
正式名称Central ・Intelligence ・Agency
日本語に訳すならば中央情報局。言わずと知れたアメリカ合衆国の情報機関である。
ハリウッド映画や海外ドラマ、ゲームでも聞いたことがある名前かもしれない。
合衆国トップであるバイデンと密接なパイプを持ち、CIAの情報が大統領に。
大統領命令がCIAに渡り、外国でスパイ活動をするということも往々にしてある。
つまりここを揺さぶれば大統領を動く。
そんなドミノ倒しのように国を動かすことができるのだ。
やましい話をする際にはSoyuzと同じように地下深くに専用の会議室が設けられている。
マトリックスに出てきそうな屈強なガードマンに囲まれながら地下世界へと向かうと、待っていたのは彩度がかけた世界。
インテリアに気を使えとまでは言わないが、チェス盤に立っているようであまり気分が良くない。
席に座ってしばらく待っていると、いよいよ肝心要のCIAトップ バーンズ長官がやって来る。
「秘密主義にしているSoyuzの代表者である君が来るとは。それもつまらないゴシップではないのだろう?」
問われる事は多いが、逆にこちらが持ってくることは組織にとっては無に等しい。
長官は雪でも降るのではないか、と少し訝しんでいる。
「そりゃあもう。あなたがた合衆国が喉から手が出るほど欲しい情報をお持ちした次第です、お時間をあまり取らせはしないのでご安心ください」
ロッチナが手短に話すつもりだと釘を打った。
しかし情報をホイホイばら撒くか、というと話は別。
世界を制御するためならば、最低限の餌をばら撒いてコントロールするだけのことに過ぎないのだ。
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話を切り出すのはロッチナではなく長官から。
「しかし、キミらのお上は例の異世界に関してよほど隠したがっているようだが……持ち寄る情報次第ではこちらも対応を考えなければならなくなる。それだけは頭に入れておいて欲しいものだ」
アメリカにとっても世界中で暗躍し、尻尾すら掴めないSoyuzは目の上のタンコブ。
敵視とまではいかないが、相応の対応とは物騒なことを口にするものだ。
今は組織が核を持っているから叩き潰さないだけで、持ち寄った情報に価値が見いだせない場合はどうなるか。
探りを入れつつ、恐喝してきたのである。
「事を急ぐと元も子もありませんよ、長官。
例の異世界に入るためにはポータルを潜り抜けなくてはならないのはご存じのはず。
その具体的な場所をこの場でお教えいたしましょう?」
「……ほう?」
バーンズの相槌を受け流し、ロッチナはさらに続けた。
「我がSoyuz横浜本部拠点。そこの大型格納庫の1室の扉が繋がっているのです」
それが真実である。
異世界に関するあらゆるもの事は全てここから始まった。
まさにグラウンド・ゼロ。
「馬鹿な」
「報告を聞いた私も長官と同じことを口走ったものです」
格納庫の1つが異世界に繋がっているなど、エイプリルフールでも信じてもらえないような下らないジョークに過ぎないだろう。
そのふざけた冗談が、現実になってしまった。
決定的な証拠となる写真を何枚か見せると、質の悪いジョークが現実になったと長官が飲み込むことができたらしい。
ここまでなら美味しい情報だが、今度はロッチナが攻め込む。
「ただし、この情報は我がSoyuzおいても最高位。それどころかこの情報の為だけに新しく設けられたランクに指定されている機密中の機密。
世界に公開でもしようものなら……我々とて相応の対応を取らざるを得ませんな」
そう、地球を牛耳る独立軍事組織とその辺にあるグローバルな傭兵組織の決定的な違いがある。
国を揺るがし、世界中をいともたやすく恐慌へと叩き落せるだけの秘密を握っているからに他ならない。
だからこそCIAはSoyuzに探りを入れて証拠を隠滅しようとしているのだ。
国ではない組織がアメリカの秩序を揺るがすような秘密を暴露した所で痛くもかゆくもない。
脅しには脅しに返す、ただこれだけである。
「一体何が目的だ……?」
長官はSoyuzの思惑に感づいて、怒気が籠った声で問う。
しかしロッチナは口を閉じることはない。
「……合衆国が優位に立ってもらいたいためですよ。目の上のタンコブは我々だけではないでしょう?
経済的に優位に立つためには必要なはず……」
恫喝は通用せず、のらりくらりと避けていく。
「それはそうと。具体的な場所を伏せていただけるならば……例えば【場所を知っている】程度ならば我々も目をつむりましょう」
世界の手綱を握るのは何も合衆国だけとは限らない。
ライバルが出てきている以上、覇権を取るために邪魔な存在がいるだろう。
アメリカは出る杭を打つような国、邪魔な出る杭を打つための木槌を与えたのだ。
相手は言わずもがな、中国。
この排除のために使えと言わんばかりにカードが配られたのである。
「経済参入も可能になるでしょうが、向こうの人々に選ばれるかは企業努力次第……。
選ばれないものは淘汰される。資本主義というのはそういうものでしょう?」
カードは使い方次第。強力な札こそ使い用が問われてくるだろう。
するとロッチナの腕にしている時計のタイマーが鳴り、賽は投げられた事を告げた。
——PEEP,PEEP
「長官。次の予定の時間ではありませんか?
またいずれ、お目にかかることがあるかもしれませんな」
Soyuzを侮るべからず。
何故ならば、CIA長官の予定まで把握しているのだから。
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——Soyuz保有旅客機
——機内
アメリカの次に仕事を抱えたロッチナは空を駆ける。
今回のリークによって、多少中国を牽制できるか米国と素敵な仲間たちが包囲網を作るかもしれない。
合衆国は強欲な坩堝だが、あの人民共和国は強欲で横暴。
話しが通じることを鑑みてどちらに情報を与えるかは言うまでもないだろう。
上手く行くとは限らないが、アメリカの手を持って間接的に嫌がらせが出来るか。
ロッチナは席に身体を預けながらワイングラスを揺さぶる。
「かの世界の警察も相当焦っていたとはな……しおらしくない」
話をしているにも関わらず、露骨に脅しをかけてくるとは大人げない。
すくなくとも紳士の皮を被るアメリカらしくないのだ。
猫を借りてくる余裕すらないのだろう。
血眼になって軍事偵察衛星でも見当たらないのも当然である。
異世界に通じるポータルが格納庫の内側にあれば見つけられるはずがない。
透視でもできたら工作員など地球上から消滅しているのだから。
ロッチナは次の巡礼地に向かう。
次回Chapter7は8/6 10時からの公開となります