Chapter48. Rain of Desperation
タイトル【絶望の雨】
迫る軍人主義過激派テロリスト ヴァンター派総本山の爆撃。
ありとあらゆるテロリストを散々ちぎっては投げ、爆殺してきた身からすれば連中の考えることは手に取るようにわかる。
冴島大佐はヴァンター派の襲撃をある程度分かり切ったうえで、既に反撃できるように手筈を進めていた。
差し向けた爆撃機はなんと45機。
これでも完全に仕留めきれるかは正直言って怪しいが、多少なりとも効果はあるだろう。
歯向かえば撃墜不能の高度にいる、恐ろしい数の爆撃機が即座に派遣され火の海にしていく。
武力で少しでも歯向かえば、即座に火垂るの墓が24時間以内にお届け。
日本人はその恐怖を良く知っているハズだろう。
ただ悪夢に出てくる爆撃機がB-29からTu-95へ置き換わっただけだ。
更にもう一つの狙いとして、無駄な血を流させないというのもある。
国際犯罪組織ロンドンが挟まっただけでも治安が悪化するというのに、思想系の破壊集団が紛れ込んだらどうなるか分かったものではない。
コラテラルダメージ、致し方ない人柱に選ばれてしまった。
類まれなる偶然で。
絶対的な恐怖を知らしめ、後追いを一切出さないことが新政権を確固たるものにする。
対話する姿勢が見えず、ただ暴力と殺戮を振りまく武装集団に慈悲などくれてやるものか。
あるのは死のみ。
冴島大佐は徹底的に無慈悲だ。
むしろ誰だってそうならざるを得ない。9.11の再来やISISのような組織が台頭しないためにも。
テロリズムを起こす集団は全て殺す。
確実に殺すのだ。
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□
———上空
GoooooMMM………GoooooMMM………GoooooMMM………
空が真っ黒い星々で彩られる。すべてが黒い死の一等星。
別の呼び方があるとすれば、コウノトリ。
赤ん坊の代わりに大量の爆弾、時には核すら運ぶ悪夢を齎す。
人類滅亡を告げる核戦争が始まらなければ、こんな光景は見ることは出来ないだろう。
せわしなく二重反転プロペラが回り、夥しい機体数が空を闊歩するというのに邪魔するものは誰も居ない。
何故だろうか。
ヴァンターは今後の命運をかけた大博打としてツンダールを侵攻。
この作戦は一派の命運がかかっており、相当数の航空戦力を発進させたのである。
故に弾切れを起こした。
重大な武力衝突がSoyuzをこれ無い程怒らせたのは言うまでもない。
逆鱗を触れるどころか、空き缶よろしく蹴り飛ばしてしまったのである。
これだけの数が来て一派が何もしないのかと言えば違う。
何もできないのだ。
迎撃しようにも高度が高すぎて追いつくことも、反撃することもできない。
ただ、不気味な程に静かな空を往くだけである。
【V601からLONGPATへ。指定座標に向け投下開始】
【了解】
そうこうしている合間に作戦空域に到達。
いよいよベアの爆弾槽がゆっくりと開き、代償がスコールの如く投下する時がやってきた。
バケツの底が抜け、赤褐色の大地に爆弾が降り注いでいく。
一見して小さく、それも豆粒のように思えるが、その重量9000キロ。
爆薬は4000kgという恐るべき通常兵器が降り注いでいるのだから無碍にできない。
バンカーバスターでも貫けぬならば、身の毛もよだつ量で何もかも吹き飛ばしてしまえば良い。
重力に引かれ、ましてや防ぐ手段などまるでないダーノゼン要塞へ到達するのはあっという間だ。
———DDDDDooooooommmBBBBB………!!!!!! DooommmBBBBB………!!!
何発も天面に着弾し、起爆すれば辺りは見えなくなる。
たとえ肉眼で捉えられなくとも投下を辞める理由にはならない。
まだ敵はいる、これだけで十分だ。
何発も、何発も。
狂気じみた重量の炸薬が起爆し、ハンマーでレンガを殴りつけた時のように頑強な大岩をボコボコと抉っていく。
地上に居る存在の絶望、悲鳴、叫びに嘆き。
全て、爆撃機には知ったことではない。
テロリストが絶滅しない限り、この爆発の雨は止むことはないのだ。
存在こそが罪なのだから。
殺意の込められた攻撃によって、ほぼ平坦だったダーノゼン要塞はナイフでめった刺しにされたように激しく損傷。
これでも第一波、たったの10機でこの有様である。
まだまだ御代わりは付いてくることを忘れてはならない。
30機による最低でも「あと3回」の波状攻撃。
それに加えて数十キロ先に展開済みの2B1オカの砲撃が生存を許さない。
欠片も残すな。
その真意は惨劇を意味する。
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——ツンダール要塞
天面
命令が下り次第、2B1オカの砲撃準備が始められた訳なのだが何せ積載しているものが悪かった。
規格外の巨砲である。
だが本来核を撃ち込むようになっているため仕方がないのだろう。
陸揚げされた戦艦の砲にほぼ近く、飛ばす通常弾も大きすぎるがあまり、人力での装填は不可能。
一応大量の弾薬は既に天面へ引き上げられており、車両や増援たちの活躍で難を逃れたため良かったが、装填がこれまた骨が折れるのは言うまでもない。
骨が折れる、のはまだ良い方で、うっかり事故など起こそうものなら間違いなく死ぬシロモノであることをお忘れなく。
また1発を込めるのに10分もかかってしまう。
マスケット銃よりも遙かに遅いかもしれないが、ペースが良い方でコレなのだから驚きだ。
【砲身固定完了。装填開始】
スケールがあまりに違い過ぎるため、砲兵の連携は無線で行われる。
【オーライ、オーライ。よし、慎重に下ろせ、慎重に】
【了解】
【装薬、装填完了】
電車1両分もある長い砲身を一度水平に向け、弾を射出するための装薬を車体についているクレーンで慎重に装填。
【砲弾、釣りあげます】
【いいな、ぶつけるなよ】
続いて敵地に撃ち込むための砲弾を同じく玉掛けの後に浮かべて信管を傷つけないよう
細心の注意を払いつつも素早く弾込めしにかかった。
そして火葬場の扉を思わせる重い尾栓を閉鎖して準備はようやく完了。
続いてオカを担当する砲術長が送られてきた情報を基に、角度を計算しなくてはならない。
「指定座標はここか。ちょうどここから38キロ地点、かなりきわどいな。高低差は買わないとして……」
ソ・USEに繋がれたモニタを見ながら風向きや空気抵抗、重力加速度といった数値とにらめっこを続けていた。
数メートルならば問題にならなくとも、塵も積もればなんとやら。
長距離砲撃や狙撃などにおいて、たった1つのズレが全てを台無しにしかねない。
大佐は攻撃地点に細かい指示を出しておらず、要塞そのものを攻撃できれば良いという考えなのだろう。
対戦車砲でもない火砲なんてそんなものだ。
しかしどのみち、そんな条件をつけても難しいことに変わりはない。
【仰角+65度。退避急げ】
遠くに撃ちあげるためには角度を高く設定する必要がある。
だからといって垂直に撃てば弾が落下してしまう。
銃弾なら当たってギリギリ死ぬかどうかだが、重砲弾ならばどうなるかは火を見るよりも明らか。
そのため絶妙な角度を要求してくるのだ。
【こちらKissel-BombからV601。これより砲撃を開始する。弾着観測求む】
【V601、了解】
現在攻撃中のTu-95にも連絡を取ることに。
目標地点は38キロ先。
例えるなら東京都心から千葉や埼玉といった郊外まで離れている。
肉眼もとい地上の観測設備ではどうしようもならないため、空から弾着確認できないか交渉することも忘れてはいけない。
クルーが退避し終えると、いよいよ周りにいる人間にも勧告し始めた。
【Kissel-Bombから各員。これより砲撃を開始する。総員退避せよ】
それから時間がしばし経ち、人っ子一人いなくなったのを確かめるや否や。
鋭い声が電波を這って砲に届く。
【要員、退避完了】
【退避完了了解。———撃て!】
————ZGaaaaaaaaaaaaaaSHHHHHHHHHHH!!!!!!!!!!!!!!!
高さ20m、天に向かって高く突き出た柱から爆発が飛び出した。
もはや砲撃ではない。
衝撃波の塊が辺りを全てなぎ倒し、戦車のような重さを誇る建設機械をぐらりぐらりと強烈に大地震さながらに揺さぶる。
その振動は要塞に退避していた兵員たちにも直に伝わった。
とても魔導士の爆破魔導でも到底敵わないだろう。
火薬の暴虐とも言える大爆発は味方でさえ混乱を生じさせてしまう程に凄まじい。
「ありゃ何だよ!」
先ほどまで魔女狩りに出張っていたアーマーがらしくなく喚いた。
するとエリゼウが割って入る。
「砲撃だとさ、ばっっかデカいシューターったらわかるか?」
「慣れてんのかよ」
今度はやたらシけた反応が気に食わなかったらしく、気難しい装甲野郎は毒を吐く。
「深いことは考えないことにしてる。今までもこれからも、な。——にしてもアリゃ戦艦だ戦艦」
爆弾の一斉投下、原子砲による火力支援。
こんな光景、現実世界でも早々見られたものではないだろう。
異世界は様々な不条理が交差する。
爆撃も、常識を超えた砲撃も。
それらすべて、ヴァンター派を一掃するための一歩に過ぎない。
砲火が全てを薙ぎ払う。
果たして、どうなるか。
次回Chapter49は3月22日10時からの公開となります。
登場兵器
・Tu-95
世界最速のソ連製戦略爆撃機。
プロペラに見えて、実はターボプロップという別の方式を採用している。そのため非常に足が速い。
積載量に火力は言わずもがな、ツァーリボンバ実験に用いられたのは改造された本機。
遠くはTu-4の後継、B-29を超えるものとして敵を地獄へ叩き落す。
そう言った割に機体は割とスリム。
・9000キロ爆弾/FAB-9000
炸薬量4.3tの気の狂った爆弾。
基本的にソ連の航空爆弾は型式に数字が入るが、その時点で嫌な予感しかしない。
着弾すれば最後。付近は無に帰す。