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Chapter43. Either prey or Predator

タイトル【喰うか、喰われるか】


——クレバス


レーダー波を遮る巨大な谷で急接近を続けるヴァンター派の軍竜部隊。

人間と違い夜間活動も可能な獣だけあって、彼らにはナイトビジョンを必要としない。


それに加えて見知った空域ということもあり常にアクセルは掛けたまま。



【JOZEWN02。優先順位はどうする】



テレパシーが電波の様に飛び交う。

竜の間では音をコミュニケーションに使う必要性も存在しないのだ。


【JOZEWN01。後衛の敵を優先排除。必ず人間は奥に本丸を置く】



軍竜の敵は長距離砲撃や狙撃。

異世界に居るSoyuzは嫌でも竜との交戦をしているに違いない。



他の帝国軍も同じで、彼らに対抗するためには超至近距離まで接近するか命中率が不安定なシューターを使って倒していた。


残念ながら軍竜と言う仰々しい名前がついているものの、無敵という訳にはいかないのである。



【JOZEWN03。03と04は出てきたヤツを叩く】


【JOZEWN01。了解。異端は今までの人間とは違う。油断するな】


【JOZEWN04。着陸後、幻幕と炎を張る】



彼らの任務はあくまで設備破壊と陽動。増援が到着するまで生き残ることがとても重要だ。

そのために最も脅威となる、設置砲台や戦車といった存在を消すのが先決か。



軍竜部隊は音もなくツンダール要塞へと迫る。





——————————



——ツンダール要塞 天面




攻撃地点となった要塞では昼夜問わず警邏が行われていたが、場所が場所ということもあり、本格的な主力戦車などが配置される予定になっている。



ここに居る最も硬い存在といえば、要塞を守る機動要塞 T-35くらいのもの。

あとは対空機銃やミサイル、地上掃射が可能なパンツィリくらいだろうか。



そんな夜も更けきって、日が昇るか否か。

まだまだ夜のとばりで満ちている要塞にて、敵がついに現れた。


「敵だ!」


兵が叫びながら機関砲銃座(ZSU-23-2)に走り寄る最中。2体の竜が着地する前に、肩へ装備した魔甲砲を放たれる。


——VEEEEE!!!!BPHooMM!!!



闇夜をつんざくエネルギー砲の射撃光。寸分狂わぬ一発は23mm機関砲を直撃し、あまりの高熱に弾薬が次々と誘爆していった。


「ふぉおっ!」



ダメ押しと言わんばかりに対装甲槍が発射され、貴重な対空戦力がものの見事に破壊されてしまう。


【JOZEWN02。装甲相手に副砲だけじゃ効果が薄いか】



人間たちには感じ取れないテレパシーが迸る。

奇襲はいつも突然に。気が付いた時には既に行動されているのだ。




しかし、ただやられっぱなしという訳にはいかない。騒動を聞きつけたSoyuzスタッフ、ベーン派兵士らが一斉に迎撃にあたる。


BLATATATA!!!!


M4やAKの五月雨を物ともせず、軍竜は首元に着けられたマルチ・ランチャーから何かを射出。

直後、快晴の夜ということを忘れそうになる濃霧が立ち込め始めた。


「幻幕だ!」


巨大な槍 ソルジャーキラーを持ったアーマーナイトが辺りを見回しながら声を張り上げる。

彼のような、一定の魔力を持つ人間であれば幻の中でも多少視界が効く。


だが確実に敵の位置は分からなくなってしまう。



「クソッ!どこに居やがるんだ敵は!」


「前が見えん!——ナイトビジョンでもダメだ!」



だが魔女狩りのある現実世界から来たSoyuzスタッフらにはそんなものは微塵も存在しない。故に猛吹雪のような視界不良に陥ってしまうのだ。



このような有様、肉食獣にしてみればカモでしかない。人間は7割近く、外からの情報を視界に依存している。


そのため目くらましは非常に効果的。


すかさず、ビームのような火炎が兵士を薙ぎ払う。咄嗟に重装兵が盾になって防ぐものの被害が抑えられない。



視界がまるで利かない中、火だるまになりながら燃えている装備やボディーアーマーといった衣服を脱ぎ捨てるSoyuz兵士やベーン派の魔導士やソーサラー。



これ以上近寄らせまいとAKを乱射する兵。



傍らでは強力な魔導で生み出した火柱をぶつける上級魔導士(ソーサラー)が即席タッグを組んで、負傷した味方を逃がそうとするが効き目が薄い。



【豆鉄砲でやられるほどヤワじゃない。——JOZEWN03/04、上空待機了解】



軍竜は腕に着けられたダール改の後部を跳ね上げて展開。

悠長にふとももに取り付けられた槍の入った筒から器用につまみ上げ、リロードしながら火炎を至る所に乱射するのを繰り返す。



もう一体は肩背負いの砲から熱線を四方八方に撃ち、辺りでは火災が起き始めていた。



しかしそんな危機的状況に陥らないよう、機動要塞(T-35)が立ちはだかる。



——————————




——T-35車内




火力に乏しくても、強化するために重戦車が置かれている。

幻影人間は騙せたとしても、物理法則と0と1で出来たマシンを決して出し抜くことはできない。



【負傷者、歩兵退避完了】


【GAZ01、乗員格納確認】


【TONK01了解。これより砲撃を開始する】



巻き添えになる味方の撤退とパンツィリが移動可能であることを告げる無線が入る。

その傍ら、赤外線暗視装置を装備した21世紀の11人乗りデパートは、敵影をくっきりと捉えていた。



弱者を屠る敵は視野外から狙われていると気が付かないことがほとんど。

機銃も副砲も撃たずに息を殺し、敵に悟られないよう頂上の76.2mm砲塔が慎重に旋回し狙いを定める。



遮蔽物なし。砲撃の巻き添えになるような味方もいない。

だからといって、仰角が届かない程高い所にいるわけではない。



【撃て!】


ZDoooNG!!!!



車長の鶴の一声で、短い砲身から榴弾が飛び出す。

今までのドアノッカーとは比べ物にもならない、正真正銘の爆発物の塊だ。


闇の中を駆ける一閃となって飛び出るが、砲手からは耳にしたくない報告が飛び込む。



【クソッ!飛び上がって避けられた!】


あまりにも不条理な外れ方をしたため、思わず悪態じみた一報だ。



今までのモンスターとは()()()()()


敵はこちらの存在が分かり切っていたように、跳躍して直撃を避けたのである。

破片が四散することもあって、無傷とはいかないだろう。


しかし車両などとは違う三次元方向に逃げたのも事実。

今まで相手にしてきた戦車・不届き者・巨大原生生物の常識を打ち破って来た。


電子制御と言うゲタを履いても一発必中とはいかないこともある。



【前進開始。銃塔は制圧射撃。主砲、次弾装填急げ。】



車長は無線で次の指示を出すが、続いて銃塔から悲鳴が轟く。



【上だ!上からだ!】



低空から敵が来ていることは混沌としているため気が付かなかった。

武装を過積載しているT-35は軍艦のような出で立ちながら、上への射撃には弱い。



対空射撃ができる様に設計されていないからである。



90年近く前の産物に文句を言う方がナンセンスというもの。

しかし戦車要員としては余りにも多い砲塔とそれ運用する11人というクルーという監視網が決定的な瞬間を捉えた。


【前進、前進急げ!】



VoooooMMM!!!!——VCEEEEEE!!!!!



エンジンに多少無理を言わせて急発進する陸上戦艦だが、軍竜は脅威を逃しはしない。

動力のある車体後部が熱線の餌食となり、オーバーヒートしたため電子装備品がまるまるシャットダウン。


勢いも殺され、要塞はただの薄っぺらい壁と化す。



「やられた、補助動力装置(APU) 起動!」


動かなければ半紙のような装甲しかない砲塔上部を直撃し、撃破されていた。

それは今でも変わらない。



車長は急いで補助動力装置を起動し、雲泥の機動性を持つ軍竜に立ち向かう。



【副砲撃てます!】


【撃て!】



だが忘れてはいないだろうか。

重戦車を抑えに言っている軍竜はなにも1体ではないことを。



「なんだ!?」



砲手が驚愕する。

45mm砲が旋回し始めた瞬間、突如として動かなくなってしまったのではないか。



故障時の挙動とは明らかに違う。

なんと、もう一体の軍竜が強靱な前足で押さえ込みランチャーの砲口を向けていた。



逃げられない。

死期を悟ったその時。



GRooooooOOOOOMM!!!!!!!!!




マシンやエンジン、それらとは今までとは全く違う、地の底から揺らぐような咆哮が響く。

MONZEWS09と呼ばれた竜が勢いよく突撃し、組み付いた敵を吹き飛ばしたのである。


何もこのような生体機動兵士を保有しているのは何もヴァンター派の特権ではない。



親元であるベーン派も当然、保有しているに決まっているのだ。

かつての同胞を逆に組み伏せたが、当然大人しく殺される程慈悲を持ち合わせてはいない。


顎下に突きつけられるダールを察知し、馬鹿力でオフセットされた魔甲砲を向け刺し違えるつもりである。



相棒は誤射を恐れ、跳躍し前衛の援護に回る傍らでビームと砲撃が交差した。



——VEEE!!!! BPHooMM!!!———




比較的防御の薄い顎を撃ち抜かれた敵は力なく倒れる。

だが後ろから撃たれないためにも、T-35は何十トンもある履帯で潰すことで着実に撃破しにかかるのだ。



戦場で生々しく鈍い音は響くことはない。

淡々と車長は他者に無線を飛ばす。



【TONK01からGAZ01。こちらから狙えない場合あり。地上掃射で援護を】


【GAZ01了解】




互いを守らねば、己の命も危うい。






——————————





ツンダール要塞の天面は今までの戦場とは明らかに違う所がある。

人間は要塞にかくまうことは出来るが、車両はそうはいかないという点だ。


トール、パンツィリ、そしてT-35。


彼らには何処にも逃げ場はない。



それ故に、敵を全て消すまで戦わねばならないのである。



しかも多砲塔重戦車は機動性と看破できない死角持ち。

9K330トールは即座に対抗できる武器を何も持たない。


自慢のミサイルもレーダーに映る敵をロックオンして撃たねばならないのである。

そうなると自由自在に撃てるのは負傷していない兵士か、機関砲搭載のパンツィリだけだ。



自分の命は自分で守る段階になっていることもあって、指揮官は操縦手に向けて無理は承知でこう言い放つ。



「行間射撃で仕留めるぞ」



パンツィリS1の対空ユニットにはレーダーのみならず、赤外線カメラが搭載されている。

ミサイルの照準を着けるのにも使うのだが光学機器と言う事もあって地上の敵も目視することが可能。



だが敵は縦横無尽に動き回ることから、腰を備えて戦うということは死を呼ぶ。

本来そういった敵を倒すために作られているか怪しい所だが無理は承知。



上手く立ち回りながら脅威を排除するしかないのだ。


「了解」


操縦手は肯定の返事を寄越すが、むしろそれ以外はあり得ない。

軍隊とは上官が絶対の組織ではあるものの、サポートは欠かせないもの。



「お前は指示のまま動け。他はかなぐり捨てろ」



恐怖や戸惑い、戦慄は全て隊長である自分に預けて勤めを果たせ。

貧乏くじを引いた操縦手の背中を押す。



【こちらGAZ01からTONK01。囮になってくれ】



【TONK01了解。こちらに引き付ける】



意を決し、銃火が咲き乱れる外へと駆けだしていく操縦手。


一人は目と頭脳。

もう一人は図体を動かす筋肉となる。



BLATATATA!!!!——DONG!!!ZDONG!!!!



陸上を走る機動要塞(T-35)は、主砲や副砲を弾着するか否かを度外視してひたすら撃ち込みにかかった。



敵にこちらを哀れな子羊だと思わせる必要がある。そのためが怪しい動きをしていると知られる訳にはいかない。


援護射撃は全て一人の兵士を運転席につかせるまでの時間稼ぎなのだ。



【JOZEWN04。03がやられた。優先目標発見、破壊する】


【JOZEWN01。了解。至急援護を】


【JOZEWN04。了解】



狙いは勿論軍竜。



当たればよし、当たらなくとも注目してくれれば儲けもの。

弾幕は目を集中的に狙い、放たれた砲弾は心臓や脳をつけ狙う。



足止めをしている間、操縦手は軍用トラックのタイヤをよじ登って席へとなだれ込んだ。

シートベルトを締めるなんて、品のある乗り方などしている暇などない。


エンジンはアイドリング状態で停車していたため既に温まっている。

すぐ動けるようにしておいた過去の自分をほめたたえたい。



だが気休めもつかの間、彼が手にしている無線機から指示が飛ぶ。


【上空から敵接近。——出せ!】


すると結論は1つだけ。



()()()()()()()()()()()()




このような大型車の視界は是が非でも大きくなるのは知っての通り、軍竜たちはそれを見越しているのだろう。


命令には絶対服従。

Soyuzに入るレクチャーで叩き込まれた習性が無意識に反応していく。


GLOCK!GLACH! GLACH!!


アクセルと紛らわしいクラッチペダルを踏み潰しながら、無造作にレバーを動かして1速から2速にギアチェンジ。



片足でアクセルを潰して急発進する。



———GRRRRR!!!!



一分一秒惜しい時に、言葉はいらない。

タイヤが岩肌を蹴り、トラックが動き出した直後、背後で地響きを感じた。



砲弾にしては軽すぎる、だが凹みに足を取られた感覚とはまた違う。

そう、軍竜の肩に背負ったビーム砲の一撃がパンツィリを掠めたのである。



直撃したらセンサー類は全滅、嬲り殺しにされて死ぬ。

動かなかったらどうなっていたか。



【敵から攻撃を受けた。損害ナシ。——よくやった。ほんの数秒でいい。走れ】



アクセルをべた踏みしているため、スピードメーターの針はぐんぐんと上がっていく。

恐怖や焦りは全て車長が肩代わりしてもらっているため、操縦手は良くも悪くも何も感じなかった。



まるでパンツィリS1そのものと融合し、すべきことを機械的に実行できるような気がする。



GLOCK!GLACH!



逃げ切るためにはもっと速さが必要で、そろそろ頃合いだろう。

目線は窓を捉え、何も見なくともレバーを踏んでギアチェンジ。


レーシングカーよりも遙かに鈍いハンドルを切って狙いを着けにくい様に、車体を回せるのだ。



軍竜、自走対空ミサイル。

名前が違うだけで本質は同じ ()()



急襲した側も、防衛する側も、一発でお互いを殺せるだけの武器を持っている。

一方は対装甲槍射出器ダール改、片方は機関砲や戦車砲。


文明差などない、純粋なる死闘が始まる。


次回Chapter43は2月15日10時からの公開となります。



登場兵器

・ZSU-23-2

23mmの連装式対空機関砲。レーダーもなにもないバカでかい機関砲なため、低空目標に対して使われる。ドラゴンナイト等に有効。

使用しているのは電動で旋回することができるモデル。

空に向かえば敵機を、陸に向かって撃てばビルの壁を半紙よろしく撃ち抜くことができる。


・T-35

治安維持等を担当する部署、SOYUZ社会安全軍所属 ソ連の多砲塔重戦車。

低強度治安維持に用いられているが、その理由は「見た目がどう見ても喧嘩を売ってはいけない見た目」のため。

主砲は75.2mmの榴弾砲、副砲は45mm砲と無数の機銃が張り巡らされている。


実は21世紀に入っての再生産品のため、エンジン類や補助動力装置の設置などの改良が施されている。


・ソルジャーキラー

兵士が持つ、ありがちな巨大なランス…なのだが、魔力水を使って爆発魔導を槍内部で起こすことで杭打ち機よろしく矛先を刺突することが可能。30mmの装甲を貫くことができる。


……既視感を感じるのは…恐らく気のせい。

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