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Chapter35. Sonic wave

タイトル【超音速の旋風】


通達書が届けられてから1週間後。

ファルケンシュタイン帝国でも未踏の地 バタ・ノン県を偵察する用意は整った。


——本部拠点




充当される機体はMig25R。

世界最高の俊足を持つ迎撃戦闘機の偵察仕様である。一体何が出てくるか全く予想できない領域だ。


いざとなれば、マッハ2.83 。

時速3300キロという圧倒的なスピードでぶっちぎって逃げるために本機が選ばれたのだろう。



【こちらSoyuzHQ。誘導路A7をタキシング。滑走路70で離陸許可】



【Von Braun19了解】



格納庫から現れたのは一世を風靡した音速世界の住人だった。

ウサギの耳を想起させる2枚の尾翼、機体側面をヘッドフォンの如く覆う巨大なインテーク。




QEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!!!!!



後方にある2発のターボジェットが脈動するたび、辺りは轟音と爆発的な熱風で支配されていく。

そうして滑走路という名のリングへ上がると、心臓はより高鳴り始めた。



エンジンを一気に吹かせれば、巨大な機体であろうがぐんぐん速度が上がる。



100、150、200。


パイロットのアームストロングの視線は計器に向けられており、規定内の速度で離陸できるか監視を続行。



滑走を続けていくと、重量数十トンと夥しい量の燃料を積んだ機体は重力から逆らい始め、遙か彼方へと消えていった。




機体は本領を発揮するため、燃料消費を抑えられる高高度へと急ぐ。

それでも速度計や高度計に表示される数字は止まることを知らない。



まるで上に向かって落下していくような錯覚を覚える程だ。



辛うじて人間が呼吸できる高度3000mをあっという間に抜き去り、たどり着いたのは高度13000m。

スロットルを思い切り引き、ただでさえ留まることを知らない加速に拍車をかける。



メーターの針はあっという間に時速1200キロを超え、音速の領域に突入し始めた。



衝撃波(ソニックブーム)と共にMigは空を駆ける。



————————





空から地上を見て見ると、何もかもが豆粒のように小さく見える。

高度1万メートルから見た街や道路、そして山や湿原はマイクロサイズのミニチュアだ。



さらに音速を超えて飛んでいると、風景が全てVHSビデオを早回ししたかの如く流れていく。

歩けば何日もかかる距離を瞬きする合間に通り過ぎる。



東西様々な戦闘機に乗って来たアームストロングだが、フォックスバットを操縦している時は意識することが多い。



次々と変わる風景。



山を越えた先にある大湿原があるのがシルベー。深緑の草原が並ぶのがゾルターン。


海が見え始めればそこはペノン。


ファルケンシュタインで珍しい広大な魔甲大都市 ナンノリオン。




どれもニューヨークやマンハッタン上空を飛んだような派手さはないが、これまた素朴ながら立派な個性を持っているのは確か。



何度も偵察や作戦に従事する際に繰り返し見た光景だが、飽きがこない素晴らしい土地だと実感する。

例え軍務で来ていようとも、少しくらいそう思っても良いだろう。



「ここから先か」



アームストロングはバイザー上、ちょうど額の位置に手を置いて気を引き締めた。

帝都からレーダー波を受信するといよいよ未開の地に突入する。



何よりも怖いのは、いよいよファルケンシュタイン帝国の連中も対空ミサイルを持ち始めている事だ。

以前の戦いでは空対空で撃たれたらしいが、かなり追いかけ回してきたと聞く。



とはいえ、ただの槍が追いかけ回してくるだけのシロモノに過ぎないと言う。

しかし飛翔体が機体を木っ端みじんにする威力はないにせよ、操縦系統を殺すことは出来る。


そうなれば最後、成す術は何もない。



思考が交差する。

近代化の名目で搭載されたミサイル警報装置はしっかりと働くだろうか。


奴らはどこから撃って来るのか、高高度まで追ってくるだろうか。

そんな悩みの種が次々と湧き出てきた。



いよいよこの先はバタ・ノン県。

何があるか分からない、片道切符を手にMigとアームストロングは空を往く。





—————————




Soyuzの機体が偵察飛行に来ることを事前通告されていたため、ベーン派らの本拠地であるツンダール要塞では迎撃命令とは言わないでも偵察するように指示が下っていた。



目的としては主に二つ。



ゲルリッツ中佐による戦闘報告書の真偽を確かめるためと、もう一つは逆偵察。

相手側の性能がいかほどなのか見定めるのである。


覗き見る者はまた見られている事を忘れてはならない。



——ツンダール要塞

上空



いよいよ時刻が迫り、絶壁に設けられたシャッターが開く。



深いクレバスがあるツンダール要塞では上面は帰投用、断崖側面は出撃用といったように使い分けされ、洗練されているのが良く分かるだろう。


城塞内部に張り巡らされたパイプにスチームが血液の如く行き渡り、射出器の準備は完了。



兵が声を上げた。



「蒸気圧ヨシ、供給弁閉鎖ヨシ!充填完了!3番騎、発進用意!」



彼の目先にいるのは竜騎兵。

文言の通り、飛竜にまたがり空を駆ける兵である。


飛行機とは違い生物であるため、羽ばたけば飛行すること自体は可能。

しかしスクランブルや速度が必要な時はこうしてカタパルトから出撃することも珍しくない。


要塞と発進口を隔てていた鎧戸が引き上げられた。



「シャッター解放確認、ヨシ」


「シャッター解放確認。発進準備完了」


「了解。発進!」



取り扱いをする兵と騎士が同時点呼すると、別の操作兵が圧縮された蒸気を解き放った。



——ZEEEEEEEKKK!!!!!



辺り一面が高熱の湯気で満たされると同時に、飛竜は凄まじい勢いで加速していく。

必要な時間はわずか数秒。


それだけで何百キロとあるようなワイバーンと騎士が、シャッターの遙か先に行ってしまった。



出撃した竜騎士小隊はすぐさま逆三角形に編隊を組み、酸欠で気を失う限界の高さまでぐんぐんと立ち上る。

言わずもがな、敵の姿を垣間見るためだ。



ゲルリッツの報告(レポート)や旧軍政の勧告などを見てもそうだが、異端軍の航空戦力とだけ記されているだけで、どのようなものかは分かっていない。



確かめようとした者は全て死んでいるのだから。







——————————





——高度2700m付近



ここまでせり上がると温度は冬の装い、いや厳冬まで一気に冷え込む。

ドラゴンナイトの防寒インナーがあるからこそ上昇できるが、騎兵用のものでは既に氷ついているだろう。



日の上がり具合から鑑みて、そろそろ頃合いのハズ。

竜騎兵の一人がただならぬ何かを察知した。



「姿は見えませんが、南西から何か来ます。——上からだ!」



編隊にいる誰もが異質な音を耳にする。空気をなます切りにしながら迫る、凄まじい轟音。



何がどうなっているか分からないが、ワイバーンや竜といった生物では絶対出せるものではないのは確か。



現代文明の賜物 ジェット航空機だ。




———————




—————WooooooOOOOOOOOSHHHH




姿が見えないのにも関わらず、鋭角な感覚を絶えず刺激する弩音が響く。

そして薄雲を抜け、ついに姿を見せたのは種粒のような大きさに見える翼を広げた鳥。



羽ばたくことせず、ただ物体が超高速移動している不可解な物体である。



Migを垣間見る事が出来たのはわずか数秒の事であり、こんなものを見るために骨を折ったのかと思うかもしれない。



だが小隊は違った。



「なんだアレは」



隊長は任務を忘れて言葉が漏れ出るが、これが全てを物語る。

彼らは地上からフォックスバットを見ていない。



上空3000m近い領域から見て、()()()()()()()()()()()()()のだ。



地上から見上げたら見えないかもしれないだろう、となれば今まで誰も到達した所のない空域にヤツはいる。



確かに高度を上げることは可能だ。

しかし上がろうものなら酸欠で人竜共々気絶してしまうのに対し、鋼鉄の鳥は水を得た魚のように飛んでいたではないか。



声を大にしていいたいのはそれだけはない、ヤツの速度。

人力や馬とは比較にならない速さを出せるのがドラゴンナイトという存在である。



しかしあの影はどうだろうか。

音よりも先に「実像」が駆け抜けていった、あたかも振り切るかのように。



理不尽だ、あまりにも大きい理不尽だ。


複葉機と超音速機の差、その中でも頂点に君臨する相手と戦えと言うのか。

どれだけ高性能な武器を手にしたとしても、あんなものと飛竜とでは勝負にならない。



置き去りにしていった音波が嘲笑うかのように隊にもたらされた。



DAMMMM!!!!!



ソニックブーム。

音速を超越した存在が奏でる勲章である。



如何に帝国が強大であろうと、Soyuzとでは住む世界が根底的に違う事を現していた……





————————









——ダーノゼン要塞




住む世界の違いを突きつけているMig25Rだが、いよいよ過激なヴァンター派が率いるダーノゼンでも用意が進めている。



対話する事をかなぐり捨ててはいるが、彼らは偵察機が来る時間帯を都合よく引き抜いてある実験を行おうとしていた。



言わずもがな、誘導兵器が補足できるかの試験である。

岩盤にぽつんと置かれた1つのシューターに兵員が集まり、今か今かと狙いをつけていた。



「そろそろだ、狙いは」



「違いねぇ、魔石が光ったらヤツの最期よ」



魔石と飛翔体自体に細工をすれば、一見して戦車などの対地目標に対し役に立たないバリスタもミサイルへと早変わり。


戦争末期に開発され、補給も無に等しいため試作段階の一点しか存在しないのが玉に瑕である。

一発勝負な節があるが、撃てれば問題ない。



精神を研ぎ澄ませて獲物を待ち構えていると、ほんのコンマ数秒間ではあるが魔石が光ったではないか。



「……光った、ような気がする。クソッ!あんなの狙いが付けられる訳ねぇ!」



照準を担っていた兵士がとぼけたことを口にすると、すかさず装填手がヤジを飛ばす。



「お前ヴァンター大佐にどう報告すんだよ!取り逃したんだぞ!」



意見が言いにくい上司を持つと大変であり、失態を報告すれば粛清もあり得る。

背筋が凍りつくが、照準を着けていた兵士が目から鱗の発想をしてみせた。



「……これ、ありのまま敵がものすごく速すぎて補足できなかったと正直に言えば分かってくれる。

話が通じなかったら大佐になんてなれっこない」



「無理なものは無理だ、そう言えばいい。歩いてるうちに事を忘れる、ニワトリにだって分かる話だ」



「お前が行けよ」



そして望むのはいよいよSoyuzとの対話を残すことに……



次回Chapter36は12月21日10時からの公開となります。


・登場兵器

Mig-25R

超音速迎撃機 Mig-25 の高高度偵察型。

SOYUZでは「レーダーを使ってこないが、迎撃されるリスクのある場所」の偵察に用いられることが多い。

武装は本当になにもないため、追いかけられたら全力で逃げなくてはならない。

偵察機は逃げるが勝ち、である。


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