Chapter33. A New World, New Forces
タイトル【新しい世界 新しい世界】
時に異世界へ目を向けよう。
Soyuzの受諾した依頼によって軍事政権国家 ファルケンシュタイン帝国は武力によって政権奪還に成功。
そこから旧来の政治や組織から送り込まれた政治将校といった顧問を招き、異世界にあった民主政治が行われる運びとなった。
軍民政治から神代政治へ。
代表者は新世代の代行者となったソフィア・ワ―レンサットであり、実態は日本などの立憲君主制へと移行する。
しかし一般市民から見ての軍事政権が異様だったように、軍政統治下の人間にしてみれば民主主義は異様に思えるのもまた事実。
急激な変化にすぐ順応できる人間や組織、そして機械でさえも存在しえない。
——帝都
議会跡
かつてファルケンシュタイン帝国にも議会という制度はあった。だがそんな存在を軍人たちは許すだろうか。
すべては破壊され、議会政治の時間は前皇帝。つまり女帝の父が降臨していた時のままで時間が止まってしまっている。
そのため、議員候補数が集まるまでは勅命を出して政治を担う手筈になった。
「陛下、ご報告がございます」
側近であるエイジは女神像に報告を申し上げる。
すると石像にヒビが入り始め、光と共に破片が天へと立ち上り始めたではないか。
——CRASH…………!!!!
神に睡眠は必要ない。
ただ人間が寝るかのように意識を一旦沈めたい時には、意図的に石化する。
先代皇帝はそんなことはしていないが、単に彼女がそうしたいだけに過ぎない。
ソフィア・ワ―レンサット。
年16にして、永遠に束縛された代行者にして帝。
人ならざる、神を継ぐ者。
超自然的光景を目の当たりにしてもなお、エイジは続ける。
「我々新政権に対する抵抗勢力が出現、本格的に活動を始めたという情報が」
「わかり切っています」
時代について行けない人々は新しい政府や制度に反抗を示す。夢を忘れる事の出来ない兵が居てもなんら不思議ではない。
事実、軍事政権に移行してすぐはレジスタンスが誕生していたし、政治決定が全て賛同を得られる程甘くはないのだ。
100%賛成させるには議会ではない何かが必要になって来る。恐怖支配や反対派の物理的排除だ。
しかし抵抗勢力は新政権から見れば立派な逆賊と言えるだろう。
それも神に逆らう、とんでもない罪を犯してまで中央政府に反抗しているのだから。
何よりも恐ろしい保安省直属 実働部隊 深淵の槍を動かしても何も問題ない。
「どこの部隊か」
「帝都よりも東。バタ・ノン県以東になります」
報告を聞いた陛下は難しそうな顔をした。帝都よりも更に東ならば必然的に戦線から遠のく。
軍事至上主義思想が蔓延した上で、実情を見えていないならばSoyuzの恐ろしさも知りえないだろう。
彼らからすれば何故降伏した、こちらはまだ戦えるというのに、とでも言いたげだ。
そんな楽観主義と自分たちの楽園がなくなるという憎悪が芽生えるだろう。
また情報が入りにくい環境ゆえに、同じような人間が集って「小さな憎悪」がお互いに反響し、どんどん増幅されていく。
エコーチェンバー現象である。
実情を知らない状況も合わさって、現政権に武力で立ち向かうような集団が生まれるのだろうか。
エイジは鋭い一言を投げかけた。
「お決まりであれば、どのように手を打つかお聞きしてもよろしいでしょうか。陛下」
このような勢力をどうするか試されている。
自ら手にかけた軍事政権最高権力者 コンクールス、そして悪魔の力を借りた代償が来た。
「彼らにも言い分はあるでしょう。それが狂人だとしてもです」
すぐさま鎮圧する気はない。何故ならば彼らは曲がりなりにも国に尽くした人間だからだ。
究極兵器オンヘトゥ13使徒を動かす人員は、帝都以東から調達されていた過去がある。
国に尽くした人間を捨てたからこそ軍事政権が生まれたと言っていい。
対話を重ね、軍に変わる彼らの居場所を与えなくてはならないだろう。
忠をささげた人民は裏切ってはならないのだ。
「いずれにせよ次回の会合で発表するつもりでいます、夜も遅い。下がりなさい」
「はっ」
神の言葉は、国からの公式声明になる。
ソフィアの答え、いやファルケンシュタイン帝国としての結論は出されることになるだろう……
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——帝都
城
帝国にとって城とは軍事要塞を兼ねる県庁でもある。
首都にある居城は正に中枢に該当するのは言うまでもないだろう。
ソフィア自身はあまりここには居たくはないが、Soyuz関係者と政治的会合を行うためにはこの場を使わざるを得ない。
自分にとって敵となった故郷であるし、なおかつ初めて人を殺めた場所なのだから。
——応接間
「この面々で集まること自体久しぶりでは?」
「その時は政治中佐の二人はそもそもいなかったろう。——二人とも、中核に来た感想は何かあるか?」
冴島大佐と権能中将という異世界を勝利に導いた各将や、ふたりの政治将校らが集まっており
いよいよ主役であるソフィアを残す形となっていた。
主役が来るまでの間は中身のない話をしているのも珍しくない。
外の世界から来た協力者。政治将校の一人デジンがジョークを飛ばす。
「帝国にしてはインペリアリズムを感じない。良いところだと思っていますが」
「冗談が過ぎるぞ」
あまりにも洒落にならない冗談に釘をさすジングォン。彼らは二人で一つの運命共同体と言える。
聞こえはいいが、実情はといえば互いに監視されている状態か。
そんな折、主役は遅れてやってきた。
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——回廊
ずらずらと漆黒を映し出したかのような鎧を着た勇者・アーマーナイトが陛下をぐるりと囲みながら長い回廊を進む。
ここではかつて熾烈な戦闘が繰り広げられていたが、それも過去になってしまった。
従者エイジは今回開かれる話し合いの議題をおさらいする。
「今回の議題ですが……各県の進捗とあの件ですね?」
「それ以外に何が?」
「いえ」
身体から迸る衣のような神々しいオーラ。人間を超越したような面構え。
ソフィア・ワ―レンサット陛下。
神を人の眼に捉えること自体が光栄である。
応接間付近に着くと、エイジは人智を超えた存在がやってきたこと既に待っている関係者たちに告げた。
するとSoyuz高官たちは一斉に口を閉じたのちに背筋を伸ばし、1つ開いた席を埋める存在に向け視線をやる。
漆黒の騎士二人が重々しい扉に手を駆ければ遂に真打が登場。
「我 神の代行者 ソフィア・ワ―レンサットなり」
そして女神は言う。
「第32回会合を始めましょう」
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降臨の儀を終えたメンバーは、早速本題に入ることに。
政治将校 ジングォンが話を切り出した。餅は餅屋に任せろと言う訳か。
「ゾルターン方面の再開発ですが、県全体の7%を誇る草原地域の整地が完了していると建設機械師団から報告がありました」
冗談のように広い草原地帯。
よりにもよって土壌改良どころか並大抵の除草剤が効かない、本当の害悪にして大自然の悪意
ガイアクススキが生えてくる地であるため、利用可能に出来ただけ大きい。
ジングォンの相方のデジンが続ける。
「では私からも良くないニュースを。シルベーにいる貴族将軍には目をつけていた方がいい。行政行為の合間を縫って、いや時々放棄しながら視察に出ている」
「彼そのものに戦闘能力や扇動能力はないにせよ、企業が入り込んだ際にシルベーを売り込む気でしょう」
帝国に文句を言えるだけの企業を誘致するかもしれない、という警告だ。
そうなったらSoyuzのかける経済制裁同様。意図的に恐慌を起すことを盾に何か不平等を押し付けられる可能性がある。安易な企業進出のせいで。
善悪の如く対立する一報にソフィアはこう答える。
「ゾルターンに関しては整地が完了しただけでも喜ばしい一報です。今後は経済活動の場を設けるべきだと思っています」
一人の男によって緑の監獄と化した県、ゾルターン。
本もないどころか、通貨すら通じない恐るべき地になっていたのも「過去」にしてしまった。
なんと喜ばしいことだろうか。
広大な地を利用して経済が発展すれば、新たなる希望が見えることだろう。
しかし、都合が良ければ苦労しない。
「例の将軍カナリスに関しては我の方でも釘を刺しておこうと思いますが……」
「あの男が聡明なのもまた事実。現に優秀さ故に粛清されずに生き長らえているこの国唯一の貴族ですから」
もちろんこうなることは予想がついていたが、想定よりも速すぎる。
いよいよ自由になるのだから、留め金が外れてきたのだろうか。
「本来何のためにこの地位にいるのか、通告しておきましょう」
神の通告は何よりも重い。
たかが小賢しい商売人が代行者には逆らうことがどんなにおこがましいか。
軍人ではない貴族ならば骨の髄まで知っていることだろう。だが一方的に報告されるとは限らない。
「新政権側からもご報告がございます」
ソフィアの口から放たれた事案とは。
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「新政権に対する反政府活動が行われている、というのは周知の事実でありましょう。
しかし新生ファルケンシュタイン帝国は徹底抗戦ではなく、段階を踏んで対処します」
この情報に関しては国家安全保安省・Soyuz共々知っていた。
重要になってくるのはこのような暴力集団にどう対処するか。国の姿勢が問われてくる。
「第一段階としては、反政府勢力の首謀者との面会。
活動に関しては帝都以東、バタ・ノン県よりも先で行われていると報告がありました」
「何も1つだけとは限りませんが、彼らは曲がりなりにも国に忠を尽くした存在です」
もとをただせば、彼らも愛国者。
いきなりミサイルやら砲撃を撃ち込むのではなく、まずは対話する方針で行くつもりらしい。
実に陛下らしいと思った冴島大佐と中将だが、ソフィアはこう続けた。
「この対話に応じない、あるいは構成員の末端が従わず軍事活動を開始した場合。第二段階に移行。
軍事作戦を開始し、撃滅する」
あの強い言葉には確固たる決意が宿っている。
冴島はある感情を抱いてしまった。
もうここまで来てしまったのか、あれだけ悩み多き少女がそんなことを言ってしまうようになったのか、と。
物腰を低くしているにも関わらず、指示を聞かない暴力集団は犯罪組織。
ただのテロリストに過ぎない。
当人も心苦しいだろう、何度も何度も自国民を手にかけるような行為をするのだから。
だが、いつまでも甘ったれてはいられない。
代行者になった者の定めである。
権能中将は一軍人として鋭い質問を投げかけた。
「帝都以東となると、我々の観測が済んでいないのが実情」
「軍事介入に関しては契約の範疇にあたるため問題はないものの、仮に偵察を出すとしても向こう側に【いきなり敵対心をむき出しにしてやってきた】と言った印象を抱かせる可能性が高い」
ジェット機やターボプロップ機のことを知っているからこそ、飛来した際に攻撃しにきただの、爆弾を落としに来ただのという印象を与えるだろう。
また交渉決裂後は即座に攻撃に移れるよう、偵察は先んじて手を売っておく必要がある。
後々になるのは良くない。
わざわざSoyuzが偵察しますと通告するよりも、国側から通告したすべきだ。
そのことを分かっているのか、という確認である。
「各勢力に調査目的で飛来する旨の書類を送付する予定であります」
ソフィアは航空偵察の有用性は十分に理解していたし、それがどういう意義を産むかもわかっている。
竜騎兵という航空戦力がいたからこそ、理解し易かったというのもあるが。
会議は踊る、そして前進は止まらず。
次回Chapter34は12月7日10時からの公開となります。
登場人物
・政治将校デジン・ジングォン
軍事力のプロが将校なら、政治のプロが彼ら政治将校である。
SOYUZは内政干渉も当たり前に行う都合上、彼らの手がなくてはならない。
階級は同じ中佐で、片方が裏切らないよう相互監視体制にある。
……何やら不穏な文言が並ぶが、それもそのはず。彼らが来たのは「38度よりも上」の世界なのだから。