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Soyuz_Nocturne~ ’’全’’世界が敵~   作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-1, 成長する「異世界からの」脅威
28/75

Chapter28. Soulless Fighter

タイトル【魂なき戦闘機】


挿絵(By みてみん)



——ガビジャバン王国

ニーブ/マイター領境 上空高度2100m


空。



地上をはいつくばって生きる事しかできない人間が到達できない境地。

ガビジャバンではそれが顕著であり、より絶対的で、神秘的な領域だと言えよう。


見下ろすのはぺんぺん草も生えない荒野が広がるニーブ領。


そこをペガサスの1.5倍近い速度でひたむきに飛んでいると、大河を境に世紀末に似つかわしくない

「白い森」が現れた。


ここはマイター領。


木々の間に鳥が舞い、そこかしこで囀りが聞こえてくるような楽園が広大に広がっている。

飢えた者を干からびさせるための日差しも、此処では柔らかい。


境となる川は山から注がれた魔力によって光を歪にはじき返す。

釣り糸を垂れれば何かしらの魚が掛かるだろう。



もちろん、人間は巨大な生態系ネットワークの小さな歯車の1つ。



大自然の一部を分けていただいて、心身豊かな人々が過ごす村も点々とある。

明確な都市や城はないものの、お互い平等に繋がるやさしさで満ち溢れた聖地。



まさに自然豊か。本来あるべき姿と言えようか。

戦争によって失われた過去を求めるならば最適な地である。




しかし何故、不気味なほど自然が残っているのか。

ガビジャバンで複雑な理屈はいらない、常に答えは単純明快。



度重なる大戦で生まれたテクノロジーを集めて復興したからこそ、このようにオアシスのようにいられるのだ。




故に各地が核戦争でも起こしたかのような荒れようでも、唯一マシな文明を保ちながら今に至る。

だが領地や領民は文句のつけようのないまでに復興できたものの、周りにいた人間の心まではそう上手くいかなかった。



「造る」ことよりも「破壊する」方が楽だと味を占めてしまったのだから。


ガビジャバン人が常に同族を殺し尽くし、すべてを奪うことを続けてきたツケである。



故に、無知や愚鈍という大罪を犯した人間によって常時狙われ続けていた。

王国で内戦が止まない理由の1つ、資源の奪い合いと味方同士の妬み僻みである。



この地に絶対的なカリスマは存在しない。

居るのは独善的な人間ばかり、当然優しい世界を作り上げた領主マイターも例外ではないだろう。



戦いに備え、ゼカリア輸送隊は迎撃されないよう、あらかじめ自動で高高度へと駆け上がるのだった……





——————————





かくして領地に侵入してから5分程経った頃だろうか、ダビデ型に照準が出現。

センサー系統には乗っているペガサスやドラゴンといった、生命反応を捉えるのだ。



導き出される答えはたった一つ。

領空侵犯に対し、スクランブルしてきた迎撃部隊である。


この段階で蜂の巣に近づいているどころか、もう既に殴りつけている現状だと言う事を忘れてはならない。



『———Incoming Enemy ————Incoming Enemy』



機体からの無機質な警告が、遙か彼方にいるパイロットへ告げられる。



『Incoming Enemy!———Incoming Enemy!! Incoming Enemy!!! ————Incoming!! Incoming!!! Incoming!!!』



【あれはなんだ!?】



突然の事に狼狽えるパイロット。

それを内蔵無線で聞いたヤゴヌが、玄人の声色でこう諭す。


【取り乱すな。敵が近づいている証拠だ。数8。前と同じだ】



敵影は6。

距離はアラームの間隔が狭まればそれだけ接近している事を指す。



天馬騎士と無人機の戦いが今、始まる。






————————










——マイター領 陣営

天馬騎士団



敵地方面から凄まじい轟音を聞きつけて駆け付けたが、やはり敵だった。


「敵発見」


レーダーが存在しない異世界では圧倒的な視力と、第六感が全て。

部下の報告に、すかさず隊長が指示を出す。



「了解。有効射程に入り次第ガロ―バンを放て。その後、散開し撃墜せよ」



彼らが纏うのは、統一された迎撃専用装備。

長距離空対空ミサイルの代わりに、帝国から鹵獲した射程の長い大弓を獲物とする。



空での相対距離はあっという間に狭まるもの。

瞬く間に射程範囲に到達し、装甲を射貫く矢を放った途端。




一発が届く前に、全ての敵が散らばった。



見間違えでなければ、弦を離した途端に1つの敵騎が。



あとの3つが遅れて散開したように見える。

しかも一番早く反応したヤツは、(ルート)を描くかのような極端すぎる挙動で上昇し姿が消えたではないか。



本当に見間違えでなければ。



機動力、速力、さらに反応性がいずれも桁違い。

今まで遭遇してきた敵とは根本的に違う。



このことを全員が察知したのか、何時もよりも広く展開する。



あれはドラゴンでも、ましてペガサスでもない。

本当に得体のしれない「()()」だ。



旋回をしながら様子を伺おうとすると、向こうにいる「異様な何か」が高度を下げ、流星のように通り過ぎる。



——ZoooSHHHH!!!!!!!



「……早すぎる……!」




隊長は下を眺めて目視で速力を見定めた。

速度差、およそ2倍か()()()()



竜よりも速度が出せる天馬とはいえ、それをはるかに凌駕している。

だが彼は気が付いていない、すれ違ったダビデには「星マークがついていない」ことを。



直後、上から電撃が走った。




——BASHHH!!!!!!! BASHHH!!!!!!!




魔導アームから放たれた迅雷魔法【バルベルデ】



人一人を容易く炭塊に変える一撃は、同伴していたペガサスナイトの騎手だけを綺麗に撃ち抜いてみせた。

真っ黒になりながら地上に落ちていく人「だったもの」と、猛烈な勢いで羽が燃えて墜落するペガサス。




たった一瞬で2騎が落とされたのである。




下ですれ違ったのは自分たちの注意を引き付けるため。

そして回避するように見せかけ、上に先んじて向かったのは一方的に撃ちおろすため。



完全に手玉に取られた。

しかも蛮族ニーブの手先に。



「ええい……!」




敵は上に居ることは承知の上、迎撃しようと隊長のペガサスが急上昇する傍ら。

僚騎が後ろを固めながら随伴する。



落下しながら右に左へ動ける物体はない。



交戦距離が戦闘機と比較して必然的に短い竜騎士・天馬騎士での戦いでは、このすれ違いにすべてが掛かっている。

ガロ―バンを構え、ようやく敵を見据えた。



パン生地のように薄いボディに星マーク。武器として大げさな筒などがぶら下がっている。




現実世界の人間からして見れば「兵器」

剣と魔法の世界で生きている人間から見れば、魔道具が空を飛んでいる「あり得ない光景」だった。




そして一発ずつしか撃てない矢でも確実に当たるように、狙いを向けた瞬間。


落ちながら姿勢を急激に変えたのである。


しかも翼を傾けて姿勢を変えるようなものではなく、一切の動線が繋がっていないUFOじみた挙動で。



正面に機首を向けていたと思ったらいきなり尾を見せ、そして背中を向ける。

更にそれは続き、今度は横腹を見せてきたではないか。


ここまでの超次元機動になると最早、変形か何かだ。



あろうことか全て推進力が伴っていない。

ブースターの勢いで方向を変えている訳ではないのである。



隊長は思わず正気を疑った。



完全に背後を取り、襲い掛かろうと他に意識を向けた瞬間。首筋に剣を突き付けられていたようなものである。



思考が固まった。

意味が分からないし、何をしたのかも正確に飲み込めたわけでもない。



それも当然だろう。

ワイバーンやペガサス、戦闘機のような「揚力」で飛んでいる物体では天地がひっくり返っても真似できないのだから。



反重力で飛行するダビデ型でしかできない機動(マニューバ)だ。



今まで機首を向けていたが、急速転換後は武器のある腹を向けて射出するかのように発進。

戦闘中、思考が固まって動きを止めるというのは「死」を意味する。




トップエースの中では時間が進み、隊長の駆るペガサスは時間が止まったまま。



——BASHHH!!!!!!! BASHHH!!!!!!!



電撃が迸る。

一発は隊長だけを射貫き、もう一発は後を警戒していた天馬騎士に着弾。



成すがまま、4騎の迎撃騎がものの数十秒で撃墜された。






—————————











——ダビデ隊



マイター側は一分もしないうちに、部隊の半分が撃墜される大損害を被った。



しかし蛮族ニーブ勢からしてみれば、今まで歯が立たなかった相手を一方的に蹂躙。

あとは残党狩りをするだけ。



戦って勝てないと知った迎撃部隊は撤退を選択。

たとえ任務を失敗しようとも、目の前にした圧倒的脅威の事を領主に伝えようとの魂胆だ。



そんなことをヤゴヌ配下のダビデが許すだろうか。



———Booost!!!!!!!!



アフターバーナーが焚かれたように、一気に加速する翼の化身。星マーク付きが後方に控え、部下の3機が急加速し残党を追う。


いかに敵が尻尾を撒いて退散していても、ブースターのお陰で追いつけはする。



ここで問題が一つ。



いかんせん魔法で射貫くには距離が足りない。

普通であればここで捲いた、とタカを括るだろう。



だが、ダビデの武装は何も魔導アームに非ず。


ジグザグに逃げる、愚かなペガサスナイトに魔石のフィルターがかけられた。



異世界のミサイルはシーカーでロックオンするのではなく、動きを察知する魔石と魔槍で敵を覚えさせるのである。


石が紅に光る時、天馬騎士の運命が決した。



BPhooom!!!!


————BPhooom!!!!———BPhooom!!!!



魔導的炸裂音と共に、槍が空に解き放たれる。

凄まじい勢いのまま切っ先は雲やモヤを切り裂き、天馬騎士へと距離をあっという間に狭めていく。


一秒で何百、何千メートル近く進む飛翔体にとって間合いは合ってないようなもの。



どれだけの挙動を取ろうと矛は敵を見失わない。

例えそれが超音速で飛翔する同類であっても。


人々はこの兵器を誘導弾(ミサイル)と呼ぶ。



逃れようのない一撃は尻尾を撒いて逃げるペガサスナイト3騎へ直撃、撃墜した。

5分も立たないうちに、迎撃騎は全て藻屑となったのである。



ニーブたちにとって、8回も敗走を強いられた相手をこうもあっけなく。

雑魚同然、あるいは格下かのように撃墜した。



これがダビデ型無人機の恐るべき所である。

しかし弱点も、無いわけではない。



あることに気が付いたヤゴヌは部下を叱責した。



【ヘンダーは空中再装填が利かない、もっと大事に使え。次からはバルベルデで殺るように】



実体を持ったミサイルは現状一発しかない。

ペガサス程度の雑魚に使うことは、無駄遣いと言わざるを得ないだろう。



【……了解】



パイロットは口ではそう言うものの、超次元的機動をさせる人間に言われても困る。

練度のケタが違い過ぎるため、どこまで参考にしたら良いか知れたものでないからだ。



かくして戦闘が終結すると、ゼカリアを吊り下げた輸送隊が高高度から降りて来た。

迎撃が全滅した今、マイター領にある村は丸裸同然。



そして虎視眈々とヤゴヌは命令を下す。



【———輸送隊が降りてきた。帰る分を考えると魔力がない。最期の仕上げを終えたら撤退する】



平和な村に、魔の手が迫る………

次回Chapter29は11月2日10時からの公開となります。


・登場兵器


航空機搭載型 魔導アーム

魔導士から放たれる魔法を「道具」に置き換えたモノ。ピッチングマシンと人間の投手といった関係性に近い。またそれらと同様に「出力される魔法」こそ同じだが、機構が異なっている。

ダビデⅠ型に搭載されているのは【バルベルデ】のモデル。


誘導槍射出器 ヘンダー

動体を魔石にロックオンさせ、風魔法が付与された槍で制御させる「異世界版ミサイル」

実はダールにポン付けしただけで、これほどまでに高度な兵器が作ることが可能。

……魔導テクノロジーが歪である象徴だったりする。

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