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Soyuz_Nocturne~ ’’全’’世界が敵~   作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ. 異世界に芽生えた 「脅威」
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Chapter24. Blatant Demonstration

タイトル【露骨なデモンストレーション】

ところで。


ファンタジー世界の宿と聞いてどんなものを思い浮かべるだろうか。


レンガ造りで、蝋燭の灯が揺れ動く。そんな情緒揺さぶられるものを想像しているなら裏切られる事だろう。


かつて文明が栄え、そして無になった地 ガビジャバン。

そこの宿と呼ばれる存在は廃墟キャンプ地と言っても良かった。




戦争が終結してはや何十年。


復興が進んでいないのは、血を血で洗う成り上がりゲームが何十年と続いているから。



文明が開化するよりも先に食われてしまう。



当たり前のように暗殺に殺しが多発するこの世の終わりでは、煉瓦造りの建物はズタボロで立て直すよりも壊される方が先。



そんな荒廃した地にハイゼンベルグは足を運んでいた。




———————



——夜



地面に直接机と物資を入れた箱をイスにした、受付とすら形容しがたい場所に居座る守衛に声をかける。



「今晩は空いているかね?」



「ダメだ。誰一人入れるなと言われてる。お前のようなヨタモノは猶更だ。失せなきゃぶっ殺して魂を売り飛ばすぞ」



やはり門前払い。



しかし頭にボールベアリングを仕込んでいる男は頭脳をフル回転させて確かな情報を掴んだ。


ニーブは間違いなく此処に居る、というもの。



接客態度と言うよりもただの脅しを吹っ掛けられても尚、ハイゼンベルグの顔は涼しいまま。


その口からは悪態どころか感謝の言葉が出てくる始末。



「実に此処らしい歓迎をありがとう。私は別の所を探すとしよう」



そのまま大人しく帰っていく、得体のしれない存在に守衛は寒気を覚えた。



「……薄気味悪ィな……って、アイツ。どこいった……?」



去っていく様をおぼろげに見つめていると、闇に紛れてヤツは消えてしまった……






———————




——ニーブの一室


——Num…Num…Num……———



領主ということだけあって、視察団一行の滞在している一角は流石に「よくある宿」の様相を呈していた。



これでも()()()なのだから恐ろしい。



そんな保養地に精神を追い詰めるような怒鳴り声が響き渡る。

中では脂肪だけの重騎士体型、髭を蓄えた巨漢の男が周りの部下たちを理不尽にしかりつけていた。



この男こそ 軍閥統治者ニーブだ。


用意されたのが自室と同等、しかも何人も押し込まれていると言うこともあって肝心のニーブは怒り心頭。



何度も何度も机を叩きつけ、これでもう二台目だ。



「この有様は何だ!防壁はまるでない、警備もザル同然!脱領民はココを必ず通っていく!それに守衛のやる気のなさと言ったら……ぶち殺して墓でも立ててやろうか!」



「お前たちも何か考えを出さんか!グズグズしてると、守衛の次に墓に入るのはお前たち能無しだからな!わかってるのか、おい!」



当然、出てくるはずがない。

イエスマンで固めている以上、粛清を恐れて建設的な意見など出せるだろうか。



出したところで、墓に入る羽目になるだろう。



ただひたすら人間型のサンドバッグを殴りつけて、気分が収まったらこのことなどすっかり頭から抜け落ちていること請け合い。



そんな折、突如として「声」がし始めた。



『何やら、お困りの様で。そのお悩み、兵器の力を使って私が助太刀致しましょう』



「なんだ!侵入者か!」



巨漢で肥満にも関わらず、斧を取る手さばきだけは一人前のニーブ。

周りのイエスマンもナタやらこん棒やらを一斉に構えるも、そこには誰も居ない。



——FLAF……



誰もいない代わりに、部屋中の埃が少しずつ落ち始めている。それに気が付いた時には、既に部屋だけが小刻みに揺れていた。



CLAFS, CLAFS, CLAFS………



「なんだと言うのだ!」



すると床に何やら極彩色に光る直線が現れたではないか。

気味悪がって、一斉に部下が退くと透明な絵描きでもいるかの如く線はひとりでに勢力を広げていく。



小さな鋭角が三角形となり、更に大きなトライアングルへ。

更にその中へデルタが描かれ重なり合う。



六芒星、またの名をダビデの星と呼ばれる紋様が浮かび上がった刹那。



———BARRRRRSHHHH!!!!!!!!!!



目の前に雷が落ちたかのような電撃的閃光が迸った。


緑色に金の刺繍が入ったローブを羽織り、その下には漆黒のような何かが潜ませている。


不気味なほどの白肌に顔の深い堀り。


ニヒルな笑みを浮かべる口元には不気味が宿った姿は間違いなく。



「失敬。あまり大きな声で話されていたものですから。何やらお困りの様ですので、通りすがりで良ければお手を貸しましょう?」




アリエル・ハイゼンベルグだった。










———————






何もできずに棒立ちしているではないかと思うかもしれない。



だが現実問題、時空間転移でもしてきた人間を目の前にして貴方は動けるのか自分自身に問いかけてみよう。



出来るわけがない。



生物誰しもが持つ未知なる恐怖に支配され、当事者である部下たちは困惑を通り越した恐怖によって氷漬けにされた。


その中で一人だけ動けたのはニーブである。



「お、お前は何者だ……!」



「私の名はアターカ。旅する魔導兵器設計者。脱走者にさぞお悩みの様子ですが……」



ハイゼンベルグは偽名を名乗ることに何の躊躇もない。

最高の兵器を生み出すためならば、自分という人間や人格はどうでも良いのである。



「信用ならん。殺せ!」



だが現実は非情だ。

今のアターカにはまるで信用がない。当たり前である。



かつては推薦してくれた教授や実力を認めてくれた「友」が居たが、どちらもいない。

そんな当たり前のことは想定済みだった。



一室が静間に帰っているのと裏腹に、外から何やら騒がしい足音がし始めたではないか。

力の前では鍵などまるで役に立たず、瞬く間に扉は不届き者の侵入を許してしまう。



「死ね!ニーブ!死ね!」



刺客の正体は言わずもがな、昼間遭遇した強盗団だった。

ご丁寧にもハイゼンベルグのプレゼントである短銃を手にしている。



典型的なフリントロック拳銃であるため、狙いもあったものではないが部屋の入り口と端程度の距離なら確実に殺すことは容易い。



今まさに、トリガーに指が掛かった瞬間。


——Shoo……BooooMM!!!!!!!


火打ち石からこぼれた火花が黒色火薬へと引火。

導火線となりながら薬室へと導かれ、爆発的な燃焼を引き起こす。


それと共に凄まじい圧力が貧弱になった箇所に一極集中した結果……



()()()()()()





———————










時に銃の暴発は命を奪う。

ただのボール弾を凄まじい速さで射出するエネルギーが自らを襲うのだ。


その威力、手榴弾を起爆させるのと同等。



派手さはないものの、刺客の夢は破れ即死した。

命と夢が燃え尽きたというのにアターカはまるで他人事のように語り始める。



「なに、ベーン氏の命を狙っているという噂を耳にしましてね。此処に来た時に怪しげなものが置かれていました故、少し細工を加えさせていただきました」



全てはこのためである。

カネの使い道を聞いたのも、とんでもなく高価な銃を与えたのも。居場所を聞き出したのも。



全てはプロモーションの1演目でしかなかった。



「射手のみ殺す。爆風の範囲を絞るために削る量を微調整するのですが、他のお方はできたところを見たことが無い」



銃のどこに圧力がかかり、破片がどこに飛ぶのか。すべてを計算して実行するからこそ、刺客だけの自爆芸が成しえた訳である。



優秀な兵器設計者でもなければ出来ないだろう。

だがニーブはこれでもまだ信用に足らないらしく、アターカに罵声を浴びせた。



「この程度、自作自演も良い所!タカって寝首を狙う魂胆は———」



「私はそのようなものに興味はない」



「………何?」




暴力とカネ、そして喰い切れないだけの美味い飯。

ニーブを殺せばすべてが手に入ると言うのに、目の前の男はバッサリと切り捨てて見せる。


根源的な欲よりも大事な、確固たる信念がある証拠だ。



名誉もいらないと断言し、完全なる善意だと宣う男にニーブは困惑を隠せない。

その沈黙にハイゼンベルグは切り込んでいく。



「ただ、私はニーブ氏の悩みを解決しに来ただけ。金だのには全く持って興味がない。

強いて言えば、欲しいのはそんなものではない。それに、貴方は重要なことを私に聞き忘れている」



さらに続ける。



「ニーブ氏の悩みを、この風来坊が知りえたか、だ。どれだけ大声でも細かく知るのは不可能だ。私が神でもない限り」



事実を付かれ、頭の回転が亀と戦闘機並みに異なるニーブは何も言い出せなかった。

彼は確信する。



自分のペースに乗せる事が出来た、と。



衝撃的な事実と、奇術。

頭の悪い人間を騙すのはこれに限る。




———————




「お前……!この俺にスパイを———」



やたらヒステリックだと聞いていたが、ここまで来ると手玉に取られずに土地を持てたものだと感心せざるを得ない。



「それは正解でもあり、そして間違いでもある」



いよいよプレゼンテーションの時がやって来た。

アターカは部屋の隅を飛ばしていた「ぶらんでんぶるく号」を自らの手元に引き寄せる。



「魔具か!?」



「……ニュアンスは間違っていない。これは「ぶらんでんぶるく号」

私が現実逃避を兼ねて作った……偵察装置だ。羽ばたかずに空を飛び、操縦者の視界と直結できる。ある程度の命令を出せば聞き、追跡する」



この男はかなり特殊で、一つの兵器を建造していると疲れるので新たなモノを作り始めると言う極めて変わった休息を取る。


絵を描くのに疲れた画家が、新しい絵を描く様に。



「重ねて言おう。これは私が現実逃避を兼ねて、雑に作ったシロモノ。こだわったのはガワだけ。外装は塩化ナト……塩の結晶を題材にしたが」



「羽ばたかないからこそ、そう簡単には追われているとは気が付かない」



「事実、ニーブ氏はコイツの存在に全く気が付かなかった。……求めれば求める以上のものを提供しますが?」



最大のセールスポイントは当人でも気が付いているハズだ。

もはや何も言うまい。



一行が来る時間帯にそっと未来的な豆腐を忍ばせ、リンク状態のまま尾行。

まんまと部屋の中まで忍び込んで徹底的にスパイしてみせたのである。



市販のドローンよろしく空力ではなく反重力で飛行しているため、人が喋っている程度の音ですら存在は掻き消えてしまう。



ハイゼンベルグと彼によって作られた製品の至上とも言えるプロモーションだ。


いくら愚鈍なニーブもその事実を突きつけられているが、ずる賢い領主の端くれ。




「ならばその兵器の力を使って脱領者を逃がさないようにして見せろ。

空を飛び・天馬騎士を置き換ることができ、アーマーだろうが確実に倒せるだけの力」



「そして安く・誰でも使え・なにせ使える品を1週間で拵え、俺の下へ持ってこい」



「それが達成できぬ場合、その場で殺す」



難題だ。

兵器たるものは誰でも使えなければ意味がない、そして数を揃えられなくても意味がない。



かつてガビジャバンは兵器を投下し続けていたが、どれも陸上に関するものばかり。

空から見張るのが一番効果的にせよ、飛ぶことができるのは竜か天馬くらいのもの。


更には銃弾を雨粒の如くはじき返すアーマーナイトを倒せるだけの武器を搭載しろという。



そして何より有効でなければならない。

火力・絶大な費用対効果に機動性や運動性。


もちろん速度もお忘れなく。

トドメと言わんばかりに誰でも使える汎用性が求められてくる。



「……むしろその程度で良いのか?後の仕様は私が決めてしまうが」



果たして、何か策があるのか。


次回Chapter25は10月11日10時からの公開となります。


・登場用語

ガビジャバン王国

異世界にあるもう一つの国。

隣国ファルケンシュタインとの長きにわたる戦争の末、中央政権が崩壊・分裂。

武力を持つ者が統治する、ファンタジーの皮を被った無政府地帯と化した。

所謂「世紀末」「末法」この世の終わり」


救世主は、いない。

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