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Chapter20. Unknown Universe of transition

タイトル【変化する異世界】


ところ変わって、ここはポータルに入った先の異世界。

現実世界もそうだが日が昇れば、地平線の向こう側に沈む。


かくして夜になってくれば、人々は家に戻り食卓を囲むだろう。


それはシルベー県の行政を任されている管理者 かつて貴族と呼ばれた男 カナリスも同じだった。



——シルベー城



城の食卓にブルジョワジーな料理が並ぶ。



戦争が終わり、捕虜から統治者として任命されたはいいが生活は一変することはない。

どちらかと言えば元の生活に戻る、という形が一番近い。



「なんやかんやで革新しようとしても、結局は古巣に戻ってしまう。君とこうしてパイを食べるようになるのと同じだ。——失敬、甘味のはもう少し後にしてくれないか」



貴族将軍カナリスが言った。



召使や料理人を雇い、城でスープパイをこうして口にする。軍人が王様のイスに座ろうと、異次元からよくわからない連中が来て制圧されようと根幹は変わらない。




何時ものようにテーブルの向こうにいる補佐のオンスがいるが、彼の持つ意見は違うようだ。




「しかし城は弾薬庫として改装されましたし、こうして灰皿が置かれているではありませんか。古巣と言えども時間が流れると思いますが」




しかしそのまま化石のように保存されているか、というのは違う。

古巣というの、街と比べて時間の流れる速度が極端に遅いだけに過ぎないのだ。



ナルベルンから直輸入した葡萄酒を口につける。



「僕はねオンス、そういう口ぶりは嫌いじゃない。嫌でも時間が流れていくんだ。田舎だろうが都会だろうがね。

それはそうと……明日は視察があるだろうが、その前に見せたいものがある。時間はあるだろう?」



「承知いたしました」



黄色いザッカーバーグ カナリス。

彼が見せたいものとは一体。





—————————








食事を終えたカナリスとオンスは、何も変哲もない窓際にやってきた。

そこには1つの箱と長い鉄の突起が出ている。




「オンス。君は、どうあがこうが時間が流れていく、という話をしたよね。

だから時間を急激に進めるか、緩やかにするか。そういうこともコントロール出来たらな良いとは思わないか?」



「メディアも自前で用意したいと考えている」



民法という言葉があるように、何もマスメディアは国が自前で持っているとは限らない。

どちらかというと、利益を追求する民間が関わっていることが多いだろう。


流行りを提供すれば時間を急速に進めることができるだろうし、逆もまた然り。


すると本心を見抜いていたかのように、オンスが槍のような言葉を突き立てた。


「統制するおつもりで?」



「やだな。情報統制なんて硬いことをするつもりじゃあない。したら真っ先に彼らに爆撃されるじゃないか。ただ変化するのが難しい人民を突くだけさ」



カナリスは軽く笑うが、瞳は全く笑っていない。



「しかし、そのような展開をするならば当然「()()」が必要になって来るはず。広める手立ては?」



オンスとて設備投資の意味が分からない程無能ではないだろう。

為政者側からすればカネにモノを言わせて放映設備一式を買いそろえられる。



しかし、金持ちではない住民はどうすれば良いのだろうか。

テレビ局を作ったとしても受信機が広がらなければ意味がないのだ。



「そう。映像を届けるものは貧しい人民には無理だろうね。だからこそ……これさ」



カナリスは窓際に置かれた機械のダイヤルを操作して電源を入れる。



【~84.7 FM Yokohama。「えー、赤レンガ倉庫から徒歩5分に出来た激安焼きそば[爆撃]ですが———」



するとラジオ番組が流れ始め、内容は恐ろしく安い焼きそば店の宣伝だ。

彼らにとってはどうでも良い内容なのは言うまでもない。



「ラジオさ。設備はある程度必要だが僕の懐から出せばいい。けど重要なことがあるんだ、オンス」


「といいますと?」



「この受信機はSoyuz Payで1000G(ゴールド)するかしないか。それに動かすためにはそこまでコストはかからない。

映像を映し出す機械はこの10倍か100倍くらいはする。それくらいなら人民には普及させられるだろう」



ラジオ。現実世界でも最初に広まった放送媒体はこれだった。



映像を受信する機械は電源設備が必要。機械そのものに画面も必要。



それ故に行政側・所有者側に数多のリソースを求められ、普及には骨が折れる。

もはや普及させることすら出来ないだろう。



比べてラジオならばその100分の1で済み、動力は電池で良い。



ちなみに1 SOYUZ PAYは日本円で1円の価値を持つ。

ドルとも交換可能である。



更にカナリスは計画があるようで……




—————————





「結局受け入れるか受け入れないかは人民次第になってしまうのが問題では?」



オンスの指摘通り。

良いものは受け入れられ、悪いものは淘汰される。



安くても人民は全て頭がいい訳でもないし、科学技術が遅れているファルケンシュタイン帝国の住民は音が勝手に出る機械を怖がるかもしれない。



カナリスは抜かりなかった。



「一番のネックはそこになる、が。人民のあこがれ、欲しがるものにするのさ」



彼は続ける。



「何もこの機械を最初からこの値段で売る訳じゃない。最初は公共事業の一環で音声が放映される広場を作る」



「人民が興味を抱いてくれるかどうかはハッキリ言って賭けだ。まぁそこは県情報を伝える必要不可欠なものも入れるからいいか」



「そこでようやくコイツを売る。5000Gくらいでいい、ちょっと高めにすることで人民は欲しくなるだろう。値段を下げていって、あらゆる人間に普及させていくことで僕のメディアが完成するんだ」



憧れが憧れを産み、欲しくなる。

しかし1000G、つまり1000円に近い価値を持つならば奪い合いが起きてしまう。



ここで税やら命令なりで値上げするのがミソだ。



急速に普及させることは可能だが「()()()」時間を緩やかに進めることで、物欲を制御する。



転売するような輩が出るだろうが、問題になってきたら暴落させれば良い。



欲の制御こそ経済の本質と言えるのだから。



だがここまで手を打つのは売って儲けたい訳ではない。

民衆が耳を傾け、行動するよう汚染できるメディアの獲得が真の目的だ。






———————— 




翌朝、カナリスは予定通り鉄道敷設のための視察に向かうことに。

帝国にも鉄道がない訳ではないが、いずれにせよSoyuz専用線の性格が強い。




時刻表は朝と夕方の便が非常に多い分、昼間の列車が存在しないのだ。

身の回りにものすごく使いにくい路線の1つや2つはあるだろう。



ここで彼が作ろうとしているのは、経済活動に使いやすい鉄道路線だということ。



ではどこで作るのかがネックになって来る。

人民が前から使っていない路線を作って、カネの無駄遣いだと言って灯を消す訳にはいかない。



前から需要があって、整備することで便利になる場所。

それがシルベー県の主要都市ゲンツーから隣県になったナルベルンまでの区間だ。



大湿原あるシルベーでは地盤が緩く、重量物の輸送にはSoyuzもここのルートを使うほど。



湿原を船で横断するのもいいが、陸送では背にしている山側を時計回りで迂回。

首都のある東側に向かうのが常識となっている。



横浜から千葉に向かうのに、東京を経由するようなものに近いか。



だが無視できない問題が一つあることを忘れてはならない。




——ゲンツー/ナルベルン間 道路




道路と言ってもきちんとアスファルト舗装されているものを想像するだろうか。

しかし異世界のものは違う。



砂利道で、車輪で通行できるという段階のもの。酷い凹凸は均してあるが、コンクリートで舗装されていない。



それでも貴重な陸路ということもあり、隣県に向うものやシルベー帰ってくるもの

ありとあらゆる馬車が行きかっていた。



「生真面目な人民がいることはいいことだ、なぁオンス」



「まったくその通りで」



無視できない問題とは見ての通り競合他社。

馬車で向かう業者である。



「しかし輸送量が増えたね。5倍近くもあるんじゃないか?ラムジャーの不平等税が無くなったから当然と言えばそうだけど。しかし予想以上に増えすぎている」



かつて隣の隣にいたラムジャーなる極悪非道の屑がナルベルンに武力圧力をかけ、流入を制限していた。



そもそもこの狸、国際犯罪組織の巣として領地を差し出していた挙句にこれである。



あろうことか税の目的は私腹を肥やすためと、もうここまで行くと罵倒する表現がなかなか出て来ない。

私欲の為ならば何でもする愚かなケダモノだ。



それが討たれてから不平等税は無くなり、流通が活発になったのは良い。

現に質の良いナルベルンの葡萄酒が口に出来るのもこのお陰である。



しかしSoyuz側と比べるとまだまだ効率が悪いのもまた事実。



「反対運動が出ますな」



オンスの鋭い一言が光る。

業者側にしてみれば生業が突然潰れるなど許容できるはずがない。



街のどこかで定期的に爆発すると評判なゲンツーの人々のことである、暴動が起きるのが自然である。



「適当に軍隊に出張ってもらって叩き潰す———と言いたいんだけど、そうもいかないんだよね……

ああ、困った困った」



こういう荒事には軍隊を使って「()()」のが鉄則だが、Soyuzがそんな雑なことを許さない。



悪将軍ラムジャーもさることながら、カナリスも暴動に対して【うっかり殺したとしてもスパイだとか言っておくから】と口にする始末。



どうにも彼。

暴動は人民のはけ口と、過密で破綻しないための人口調整と考えている節があるらしい。



マインドが雑、というよりもシミュレーションゲームを本気で遊んでいる感覚のほうが相応しいか。



「策はお考えで?」



「当然だとも。やはりカネさ」





———————




原始のハイウェイでカナリスは両指を組みながら、オンスに問う。



「ところでオンス。鉄道の良い所は知っているかい?」



「……大量輸送が可能な点でしょうか」




現にトラック何十台、あるいは何百台もあるような貨物を一気に運べる。

それが鉄道の強みだ。



「正解だ。しかしこの道を見てごらんよ。最適化されていない。この段階なら速度で圧倒的な差が出せる」



指を指してみるとわかるが、水平とは言い難い凸凹が目立つ砂利道。

その上を走るのは輸送量も速度も劣る馬車である。




「まだ利点がある。敷設にかかる時間だ。仮にこの道路を氷のようにツルツルにするには時間がかかるらしい。勘のいいキミならそろそろ、分かるだろ?」



「待たせず、高速化することができる。しかし費用を回収せねば」



道路舗装は意外にも時間もカネも食う。

いちいちアスファルトにしても、通るのが馬車ではいつまでたっても効率化されない。



しかし問題がある。

ここでなら莫大な公共事業ということで済まされるが、株式会社カナリスが建てる以上、建設費を回収しなければならない。



「差をつけるのはそこだ。前に機械の話をしただろう。あえて高くする、というか高くついてしまうんだけれど。少なくとも馬車と比べて人間・貨物の移動は1.5倍近くの差をつけることにする」



「速達のために金を出せるか?出すヤツはいると思うけどねぇ。僕以外にも」




高くなっても、便利なものが出来れば惜しみなく金を出すのがカナリスのような金持ちの考えだ。

そこで設備投資費用を回収するつもり、なのだという。




「しかし……時代が流れ、こちらの速度が負けてしまったら?」



異世界の開発にロシアなどの外国が噛んでくれば、道路舗装されてしまう。

そうなれば鉄道の優位性は崩れ去る。



「そうしたらどうするかって?思い切って貨物を廃止するのさ。……需要もなくなってくるだろうしね。たしかナルベルンには空港があったよね?」



「ええ」



「まぁあそこが民間に開港するか分からないけど、少なくとも距離はあるからね。

もう急ぎたくて仕方がないヤツは飛竜の相乗り、その次がコイツになるのさ」



カナリスの野望はこの程度に収まらない。

シルベーは一体どのように形を変えるのだろうか……?


次回Chapter21は10月5日10時からの公開となります


・登場したもの


・カナリス

貴族上がりの将軍。軍事政権下で貴族と言う貴族が根絶やしにされてしまった以上

彼以外、ブルジョワは存在しない。

顔がザッカーバーグに似ていることに定評がある。


・ナルベルン

元ナルベルン自治区。帝国とは違う、隣国の人間らが廃墟と化していた遺跡に住んだことがはじまり。

古代的だが、自由を束縛されることを何よりも嫌う。

カナリス曰く「関わり合いになりたくない」



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