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Chapter2. Diffuse Other Worlds

タイトル【拡散する異世界】


異世界についての顛末。

Soyuzがもたらした情報は日本からアメリカ、更にそこから全世界中に広がった。




インターネット上ではあまりにトンチキな発見であるため賛否両論で大モメし、ハリウッドは新発見された土地は平行世界だという説をでっち上げて笑いものにされている。



妙な点としては、世界の大国として君臨する中国が気持ち悪い程黙り込んでいるのが不可思議なくらいか。



Soyuzが出している情報と言えば、現時点では立ち入り禁止でポータルの位置も非公開。

更にポータルの先がどうなっているのかも公開されていない。



だからこそインターネット界隈ではロードオブザリングのような世界か、またあるいはライトノベルのような世界が広がっているかで大論争が起きている始末だ。



ここで想像してもらいたい。



穴の先がどうなっているかを興味があるのもさることながら、やはり「その穴がどこにあるのか」が気になる人間も少なからず存在することだろう。



無論、汚染を広げないためにも非公開にされているが、実の所通じるポータルは2つ確認されていた。



1つは神奈川県横浜市瀬谷区にあるSoyuz本部拠点の大型格納庫内にあるのは言うまでもない。

ではもう一つはどこにあるのだろうか。



それは意外にも陸ではなく海上、それも北極海上という極地。

残念ながら都合よく人前には出てくれないものである。



一応ロシア領海上に開いてしまったものだから、ロッチナはどうするかを話し合うため本部拠点に足を運んでいた。





――————————




——本部拠点

——VIPルーム



彼のために誂えられた新聞やタブロイド紙、終いには世界中のインターネットニュースは異世界の報道が一杯で溺れてしまいそうになる。



今読んでいる読売新聞の大記事には【異世界発見!新たなる新天地!激動する世界!】といったあまりにもキャッチ―な文字が並んでいる有様。



電子空間上に目を向ければ、Twitterは阿鼻叫喚状態。あらゆるネットメディアは陸にあげられた魚の如く踊り狂う。



「……hum、しばらく紙やタブレットは見ないほうが良さそうだ」



ロッチナはあざけるようにして新聞紙を乱雑に置いた。

当事者からすれば、何故ここまで楽観視できるのだろうかと心底呆れてしまう。



よく読むと、日本企業の参入などと好き勝手なことを書いているが誰もそんなことを保証していない。

それに一発逆転のチャンスが仮に転がっていたとして、自分達は手に出来ると本気で信じているのか。



向こうの世界にいる権能中将や、現場指揮に奔走する冴島大佐も同じように鼻で笑うことだろう。



「専務。出発準備が出来ました」



「わかった」



コーヒーを啜りながらロシアの中枢、クレムリンに行くプライベートジェットに足を運ぶのだった。




―――—―—



——ロシア

——首都モスクワ




空港からモスクワ中心部までは約30km。成田空港から都心までの間よりはかなり短いとはいえ、ある程度時間がかかる。




それまでの間、機内で流れる何気ないニュースから空港に到着した後に視界に入った液晶テレビ。


更にこうして首都モスクワに行く道中のカーラジオでさえも異世界・未知の次元・アンノウンユニバースで全て埋め尽くされていた。




何か世界的なテロが起きたわけでもないのに好き勝手なことをコメンテーターがべらべらと喋っている光景が何時間も続く。



世界にとってはこれからの身の振り方をどうするかが重要なのだろうが、当事者としてはそんなものには全くもってどうでも良いことだ。



軽くノイローゼにでもなってしまっても何ら不思議ではない。



来るまで揺られること数時間を掛けて会合場所にたどり着いた。



相手は「政府関係者」とだけ告げられているが、事が事であるため玉座に腰かける人間にも直接意見が伝えられる立場なのだろう。



「またお会いしましたな、ロッチナ専務」



「貴方とは初めてだ。前任者は今頃シベリアにいるのではないか?」



ロッチナはフランクに返すが、疑念が湧き出る。


ジョークを言うとはソビエトらしくない。



そうすると向こう側にとって有利、Soyuzにとってやや手間がかかるような条件を出してくるのではないか。



「なに。冗談ですよ」



話し合いとは殺しがないだけの戦争だ。





——————————




「それで、例の条約の件ですが……」



切り出したのはロシア側から。

ポータルが領海上にある以上、やはり隠し通すことは不可能と知ったSoyuzが合同で防衛することになっている。



その見返りとして、横浜ポータルの大本である日本。さらにロシア企業を優遇するように約束している。


だが、このような都合のいい約束事を疑いたくなるのも無理ないだろう。



「うむ……今更になって何故そのことを。書面を送ったはずではないかな?」



後になって訝しんでどうするというのか。



極秘で書面を送ってサインしたことは確認しているにもかかわらず、クレムリンの声である彼はなぜそこまで疑うのだろう。



ロッチナは迫る。



「——あるいは、我々の思惑が気になって仕方がないのではないかな?」



ロシアと手を組むことで、組織は兵器を。国家は利益を得ていた。

没落した事実を抜きにして、何故ここまで贔屓にするわけが分からないのだろう。



それに加えて、全貌が何一つ見えないSoyuzという集団が何を考えているのか知りたいということも重なっている。



手っ取り早い話、何か思惑があるのではないか?と水面下で問われている状態だ。



思惑に最も近い存在であるロッチナは真意を知っている。

どこまで話していいのやら。



彼は一度瞳をぐるりと回しながら答えてみせた。



「……では申し上げさせてもらおう。ユーラシア大陸の東にある超大国をけん制するためだ」





——————————




ロッチナが言い出したのは、中国を寄せ付けないためという驚くべき事実だった。

冷戦時から互いに軍事系のイザコザを起こす程には関係が冷え切っている。



思想は同じ共産系とはいえ、考え方は違うのだ。



さながら隣人と考えることが違うように。



現在はそうでもないだろうが、やはり抵抗感というものは染みついている。



アジア系がさぞかし嫌いなアメリカに近づいても良かったが、CIAはSoyuzの余計な探りを貪欲に入れてくるのが厄介だ。



さらに元KGB、現FSB出身スタッフもそれなり多く雇っていることもあり、しきたりというものは少なりとも知っているハズ。



だからこそ異世界を食い荒らす巨大なバッタを退けるため、Soyuzはロシアに接近した。



ここで異世界に繋がるポータルの一つは横浜にある。このことを忘れるべからず。


あの領土を広げるためなら何でもする存在を野放しにしていれば、因縁をつけて接収しかねない。



それは国を赤くそめた者すべてに言えることだが。



話は一旦政府関係者に戻る。



「なるほど、そういうコトでしたか。我々の取り分が具体的に知りたいところですな」



ガスなり金属資源なりをロシアが発掘したら、それら全てが独占できるわけではない。

全てを奪い去るなど、許すはずがあろうか。



さらに好き勝手に開発していいとは誰も言っていない。



「基本的に採掘された[資源]は向こうのものになるのが規定に定められているが……。精錬や採掘作業は向こうの技術では不可能な場面もあるだろう」



「そうなった場合、うちを通してロシア企業が噛んでくることもあるでしょうな。

優先的にカタログ上の方に並ぶことになる……」



ロッチナ、いやSoyuzの計らいによれば採掘された資源。

鉄鉱石や原油といったものの所有権はファルケンシュタインが保有する。



しかし魔法の代わりに科学技術を欠いている向こう側では鉄・銅・鉛といった簡単に精錬できる金属しか加工できない。


ウランは兎も角、原油が蒸留できることすら怪しいのだ。



当然使うためには工場に運び込んで蒸留塔にぶち込む、電気精錬なりをしなくてはならないが、二次加工はロシアにやってもらい「易く」する。



そうすればガソリンは元よりプラスチックなどの値段が下がるし、利益も生まれることだろう。



ここで忘れてはならないのは絶対に選ばれるかは保証していない点か。



ファルケンシュタインの人々は高度な科学技術を持たないが、悪徳かそうでないかの区別はつく。


ロッチナは更に追い打ちをかけた。



「つけ加えておきますが、向こう側から契約打ち切りが打診された場合、即刻提携は解かれるという認識でいた方が良いかと私は思いますがね」



ロシア側が何か不平等な条件を出されたりした時、即座に縁を切れるようになっている。

これにペナルティは設けていないし、なんなら設けるつもりはない。



提携業者をアメリカやそのほかに変えようが、企業側の自業自得に過ぎないのである。



「そうなりたくなければ、ある程度の企業努力は必要だと私は思いますがね」



今のSoyuzに協力関係を持つ集団はいても、味方はあまりいない。



そしてロッチナはロシアを後にした。

次の巡礼地に向かうために。

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