Chapter10. Postmortem
タイトル【ポストモーテム ~事後調査~】
横浜瀬谷で起きた銃撃戦という大事件。
羽田発北京行きの旅客機が緊急着陸、そこに搭乗していた30人の工作員による航空テロ。
鎮圧するにあたっては装甲車が出動し、少なからず敵味方に死傷者を出した。
しかし全てを無力化して解決、とはいかない。
問題はそこからで、いつ・誰が・どうやってこの大事件を起こしたのかを調べ終わるまで終わりは来ないのだ。
航空機関連は事態が起きたのが日本であったため、日本運輸安全委員会JSTBが。
当該機体がアメリカ製だったことから国家運輸安全委員会 NSTBと名だたる捜査官が派遣された。
これに加えてSoyuz支配地域、ないし保有施設で起きた重大事案であることも忘れてはならない。そこで情報総局 調査部門から唐津中佐が派遣されることに。
同じ調べる立場の人間ではあるが、その内容は大きく異なっている。
それぞれの安全委員会はこの事故原因、そして何が起きたのかを。
対し情報総局はその後、何が起きたのかを調べるといった違いだろうか。
——着陸現場
事故調査というのは、物理法則が生み出した巨大な謎を解き明かすことでもある。
唐津が到着すると、それぞれの事故調査官が早速調べていた。
ジェット機にある2つのエンジンはポップコーンの如く弾け、撃墜されたにしては出来過ぎている。
餅は餅屋。空の部門は彼らに任せるとして、中佐は銃撃戦があった場所を辿ることに。
「落ちていた場所を必ず記録し、残らず回収しろ」
彼の念の入った言葉の裏で銃・遺体・破壊された残骸と回収されていく物品たち。
それらに目を離さず、見過ごさず。
証拠は時間を封じ込めているタイムカプセル。
一体何が起きたのか、何故起きたのか。
調べる所や内容は違うが、調査官の本質は「過去を遡る」ことにある。
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——Soyuz臨時保管庫
現場で発見された証拠は高いセキュリティを誇る保管庫に集約される。
ここには唐津ら情報将校と搬入するための調査スタッフ以外の立ち入りは出来ない。
言わずと知れた国家権力 神奈川県警ですら手が出せないのだ。
高いセキュリティを張っている理由としては、警察の手によって押収され時間を遡れなくなることを防ぐため。
Soyuzにテロを仕掛けるとはいい度胸をしている、ならばどこの何奴がやったのか明らかにせねばなるまい。
唐津中佐は早速、乗客名簿を片手に拠点に設けられた防犯カメラを確認することにした。
当然ながらポジションにつき、可愛いスタッフたちを撃つ不届き者が映っている。
死体になっている者、重傷で受け答えが出来ない者、あるいは答えを口にしないもの。
人間に問うよりも、事実を示すカメラを調べた方が早い。
「銃撃が起きたのは脱出してからのほぼ10分後……。解像度を上げてくれ」
「わかりました」
中佐はコンマ一秒しか映っていない犯人たちの顔をズームアップしてみると、アジア・欧米・アフリカと人種や国籍は様々。
当たり前ながら消えた30人の中でもそうで、合致する。
どこかのテロリストであるなら、国籍や人種などが一致していることが多い。
ではこの場合はどうか。
互いによくやる癖・話す言語。それぞれが全てスカ。
3度偶然が起きれば必然だが、逆に全部違うということもなかなかあり得ない。
これだけの騒動を起こすならば共通するものが1つくらい出てくるだろう。
あらゆる事案を見続けてきた中佐は呟く。
「組織的ではない……と見せかけている?」
「その可能性はあります」
全て合致しない、全てが平行線。
あり得ない所まで関わらない、それはおかしい。
このような小賢しい手段を使う集団はどこになるのだろうか。
国家だ。
この航空テロは国家ぐるみで起こしたのだ。
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人間が物語らなければ、次は物証に目を向ける。
続いて敵が何の武器を持っているかを調べることになったが、衣類などに共通点はなかった。
中にはダサいアロハシャツを着ている者もおり、服装から絞るのは諦めることに。
さらなる証拠、それは現場に残された銃火器。
唐津らが調査を行っていると、ある証言が得られたという。
彼は尋問室に向かった。
——尋問室
「……何か、敵の持っている武器で気になった所がある、と?」
「ええ。その通りです」
面と向き合うのはボロボロになった一般スタッフ。恐らく敵と交戦したのだろうか。
中佐がメモのページをめくり、ペンを紙に突き立てると目の当たりにした光景について語り始める。
「自分が交戦していた時であります。
遮蔽物を盾にしていましたので、もう一人のスタッフのグレネードで吹き飛ばした後、他にも敵が潜んでいないか探しに行った時に、1丁の拳銃が落ちていました」
「向こうが持っていたのはUZIあたりだと記憶していますが、この拳銃だけが妙だったんです」
戦場で武器の1つや2つを見かけることは日常茶飯事。
けれど兵士曰く、強烈に印象深いことだったという。メモを取りながら唐津は問う。
「……というと?」
「ええ。SIGのP226でした。しかし……刻印がNP-22とあったんです。
中国のコピーにそんなのがあったかと。
我々のような一般兵はそんなものを持ちませんから、印象に残っていまして……」
確かに不可解だ。
わざわざ本物のP226が欲しいと言えば支給されるような軍事組織にも関わらず、コピー品を使う意味がない。
となると敵のものだと断定できるが、質の異なるコピーを使いたがるだろうか。
一旦そのP226について調べなくてはなるまい。
「わかった、ありがとう」
「何かのお役に立てるのならば」
話を切り上げた唐津は再び保管庫に戻った。
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NP-22と怪しい刻印が施された拳銃。たしかにそれは残置物として回収されていた。
中佐と彼の部下たちは手袋をし、全容を明らかにしようと入れられているポリ袋に手を駆ける。
「確かにNPという刻印はあるが……」
もしかしたら社外スライドを使っている可能性もある。
この意味ありげな刻印はオプションパーツ由来という事も0には出来ない。
ふとそんな時、何気なくマガジンリリースボタンを押した瞬間。
するすると落ちてくる弾倉。しかし本家のSIGの割には妙に大きい。
装弾数としては8発くらいだろうか。
違う銃ではあるものの、護身用に持っているYC-9のマガジンとは違う弾を使っていることくらいは分かる。
まだまだ銃弾が残されていたため、試しに一発取り出してみると案の定と言うべきか
異物が出てきた。
「……45ACP……!?この弾倉で……?」
拳銃には様々な弾を使うバリエーションが存在するのは周知のとおり。
たとえば1つの拳銃では基本9mm、そこからのバリエントで45ACPに40S&Wなどなど。
何の規格で流通していてもモデルを変えることで対応できるのだ。
確かにSIG P226のバリエーションには本来の9mmの他にも40S&Wに対応している。
が、しかし。
装弾数8発で45口径に対応しているバリエーションはない。
もしかしてと思い、弾を完全に抜いた後に排莢口を見るも削られたような痕跡がまるで見られなかった。
ガンスミスに頼んで削ってもらったという訳でもないだろう。
スライドもその他の部品と同じような劣化具合を示している。
つまり最初からあり得ない仕様で作られたP226だという結論に至らざるを得ない。
するとNP-22という意味が浮き彫りになってきた。
これは中国で作られたP226のれっきとしたコピーであり、中国しか製造していない仕様となる。
銃に疎い警察ならばスイス製拳銃だとしてスルーするだろうが、Soyuzはそうはいかない。
「回収された銃器を全て調べろ!部品の金属配合も含めて調査するんだ!」
銃という武器を何よりも知っている軍事組織だからこそ、たどり着ける境地がある。
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一旦調べてみると回収された武器はUZI・AR15の改造モデルに雑多な拳銃に40mmグレネードを発射する未知の試作単発銃まで。
これら全て分解。
部品の金属構成を分析してみた結果、ある結論が導き出された。
全てがオリジナルとは異なっていたのである。
データベースを漁ってみると、合致したのは中東やミャンマーで押収されたとのこと。
どうにも政情が怪しい国々だ。
イスラエルは兎も角として、明らかに正規品を製造しているような場所ではない。
これだけ質の良い銃が政情不安国に存在する理由は一つ。
別の第三者が渡したのである。
捜査線上に浮かびあがって来た国は1つだけ。
中国だった。
「神奈川県警に渡さなくて正解だったな、あそこの酷さは知っている」
調査結果を目の当たりにした唐津はため息交じりに呟く。
彼はもともとそこの科捜研にいたのだが、現に酷い状態だったためSoyuzに転属した経緯がある。
全く交わらない平行線の中で、一筋の共通点が見いだされた。
出てきた銃器は全て中国製。
「しかし……もう少し証拠がいる」
だがこれでは証拠が足りない。
昨今では電子デバイスから服に至るまで全て中国で作られたものを身に着けている。
ユニクロの服やABCマートで売られている靴。
スマホがこれらは全て中国製だとして、向こうの国のものを使っているだけで中共の手下なのか。
そう問われれば違ってくるだろう。
当局がより濃厚に関与していた動かぬ証拠を掴みたいと思っていた矢先の事。
ある連絡が入った。
「唐津さんですか。興味深いものが分かったものですから、是非お聞きしていただきたいことがあります」
寄越した主は事故調査委員会から。
彼らの口にする興味深いモノの内容とは……
次回Chapter11は8/18 10時からの公開となります。
・NP56
中国による自動拳銃SIG226のコピー品。
.45ACPに対応している。