汚れた未来図
後悔したところで、どうしたって取り戻せないことは生きていれば多々ある。しかし、人は過ちを繰り返すように作られた生き物だ。
計画と称して思いのままに描いた未来図は、小学校の図工の時間に間違いに気づき、修正しようとして色を塗りたくった結果、破けてしまった色画用紙。突きつけられた絶望を前に、子供のようにただ呆然とすることしかできない。
人類の滅亡は緩やかだが着実に迫り、今まで残してきた足跡を消し去っていくようであった。
世界中を巻き込んだ核戦争などといった派手なことは起きなかった。しかし、経済戦争もまた破壊的であったのだ。国々はその先にあるのが首吊り縄であると気づかずに、ただただ競い合って高く高くと積み上げ、そしてその踏み台を自ら蹴り崩してしまった。
地球は汚れ過ぎたのだ。
人類は、今存在するものが永遠で尽きることはないと妄信していた。
むろん、環境汚染を咎める声もあった。だが、それを真剣に聞こうとしたことなどあっただろうか。そして、声高に叫んだ人々も本気で心配していただろうか。いずれにせよ、今は叫ぶこともできない。声は咳に阻まれる。
世界は元の色を忘れてしまった。空は淀んで不気味なほど赤く、森は緑を失って、まるで墓標。海は茶色く、底が見えない。マスクを着けずに呼吸しようとすれば、たちまちむせ返る。「返せ、返せ」と訴えるように、肺と喉を絞めつけられるのだ。
ごめんなさい、ごめんなさい……。
誰に対してというわけでもなく、謝罪の言葉が口からこぼれるのは、絶望に肩を抱かれているためか。息苦しくても、謝ることで心が不思議と軽くなる。ゆえに、それに縋りつくしかない。
ごめんなさい……ごめんなさい……。
たすけてください……だれか……。
幸も不幸も忘れた頃にやってくる。それは、向こうがこちらに対してあまり関心を持っていないからかもしれない。この瞬間に訪れたものは幸か不幸か、どちらだろうか。
「あ、あれ」
「あ、あ、お、お」
「おおおぉぉ……」
「神……」
「いや、あれは……」
「う、うちゅう」
「いや、神だ、救いの神だ……」
人々はその場に膝をつき、淀んだ空を切り裂く光に向かって手を合わせた。
地上に降り立ったその宇宙船を箱舟と見なし、そこから現れた彼らを神と崇めずにはいられなかった。
たとえそれが悪魔だろうと、どこへ連れて行かれ、どんな扱いを受けようとも、手を伸ばさずにはいられなかった。
ここよりはマシだ。そう考えた人々は続々と宇宙船のもとに集まり始め、彼ら宇宙人に助けを求めた。
宇宙人は人々に静まるように手で示し、そして……。
「えー、どうも。翻訳機を使っているんですが、ちゃんとこちらの言葉が伝わっていますか? しかし、まだこんなにいたんですね。えー、私のほうから皆さんに一応、感謝を申し上げたいなと思います。この星を我々に最適な環境にしてくれて、どうもありがとう。時間はかかりましたが、計画通りです。こういうのは少しずつ慎重にやらないと、思った仕上がりにならないんですよね」
そう言った宇宙人の後ろからゾロゾロと船から降りてきて、そして駆け足で海に向かった宇宙人たち。その姿はまるでバカンスを楽しむかのような……。