第九話 決意は出来ましたか?
「これで、全員分だーーーーーーー!!!」
私はやり遂げた!
たった今、マロン村の人全員分のロリータを作り終えることが出来たところなのだ!
達 成 感 !
清々しい気持ちだ。
「ナナミさんやりましたね!」
「言われたデザインの靴も用意、出来てます!」
リーリとスティーブンさんとの連携も完璧。
最近ではスムーズに事が進みすぎて恐ろしい。
いいのか!こんないい感じに進んじゃって!!
ニヤニヤしながら、いつものようにロリータを届けに行く。
今日も天気は天晴れ。気分もいい。
「なんて素敵な色なんでしょう。」
最後のロリータをリーリのおばあちゃんに渡す。
孫のリーリが織った布を身にまとったおばあちゃんは珍しいものを見る顔をしていたが、
袖を通してとても喜んでいるようだ。
レディに似合うロング丈のロリータ。
おばあちゃんの大好きな水色のワンピース。
年相応のデザインだが、可愛いにもこだわった一枚だ。
「おばあちゃん、ナナミさんがここまで頑張ってくれたから出来たんだよ。」
「ナナミさん。お礼を言わせて、ありがとう。」
「そんな!リーリも一緒に頑張ってくれましたから!」
「まぁ。ありがとう、リーリ。」
リーリは誇らしげに頷いた。
ずっと一緒にいる家族の服を織ったのだ。今まででは考えられないことだろう。
「それと、この靴、かかとが無くて履きやすいわ。ありがとう。」
「ナナミさんの提案でかかとがない靴を作ったんです。
普段は椅子にお座りになっていると聞いたので。脱ぎやすいものにしたんです。」
「素敵だわ。ありがとう。」
この全てを渡す瞬間が、一番幸福を感じる。
みんなの気持ちが伝わるこの瞬間。この為に服を作ってる。
リーリもスティーブンさんも嬉しそうに話している。
こんな光景、想像もしなかったな。
東京に居た頃は、独りだったから。
ただ独りでロリータを作って、まーくんに見せるために着てみて。
それだけだった。
誰かと手を取り合って、なんて考えられなかった。
「ああーなんか一山越えたって感じね!」
「ナナミさんが頑張ったからですよ。」
「そうです!」
「待って二人共!リーリとスティーブンさんが居なかったらここまでこれてないよ!」
そうだ、私は材料を集める事が出来ただけに過ぎない。
二人の……いや、町の協力なくしてここまでのロリータは作れなかった。
私は非常に恵まれている。
運命の神様は私にやっと微笑んでくれたみたいだ。
この幸運を伝えたい。
「リーリが布を作ってくれないと、私は服は作れないし
スティーブンさんが靴を作らないと、不揃いな格好になってしまう。
それに、町のみんなが協力してくれたから。ここまでこれたの。
私は幸運なだけで…… 」
きょとんとした顔をしていたが直ぐにリーリが笑顔になった。
「……ふふ。そこまで言っていただけるなら
これも、私のおかげでも、ありますかね?」
自信満々に言ってみせた彼女は以前のものとは全く違う。
「確かに、
靴を一番上手に作れるのは僕くらいかもしれませんね!」
スティーブンさんまでもニヤっと笑って言った。
そうだ。
そうなんだ。
このブランドは、マロン村なくしてはじまらない。
私だけの力じゃない。
そりゃあ幸運を掴んでいるのかもしれない。
でもソレ以上に、人の温かさや、優しさが
行動やサポートになってるから出来ているんだ。
でも、このままでいいの……?
幸運に胡座をかいて、私の考えてる事を伝えなくて良いの?
なぜ、ロリータなのか。
なぜ、こだわるのか。
なぜ、今作っているのか。
なぜ、ここで……。
私には、やることがある。
こうしてはいられない。
次の日、村長、ギューの元へ私は足を運んだ。
ここに立ち入るのは初めてではないが、緊張している。
「失礼します。」
「ナナミ殿!どうかされたか?」
私はある提案をした。
ギューは真剣な顔で聞き続けてくれた。
拙い言葉かもしれない、でも、このままじゃいけない。そう思うから。
出来るだけ丁寧に、私の気持ちが伝わるように。
手汗がひどい。でも!今、伝えたいんだ。
「どう、でしょうか?」
「ナナミ殿。」
ギューは私の目を見た。まっすぐな目だ。
本気の答えが返ってくるんだとわかる。
思わず息を呑んだ。
「きっと大丈夫だ。今夜。みなを集めよう。」
「本当ですか?」
「みな、言われるまでもないと言うと思うがな。
だが、ナナミ殿の気持ちが伝わることは、それはそれは大切なことだと思う。」
尊重された私は、どこかこそばゆかった。
正直、上手くいきすぎて怖い。
私がやっていることは石橋を叩いているようなものかもしれない。
でも、私はみんなに誠実でありたい。
言葉にするんだ。
その夜、村中のみんなが集まってくれた。
当たり前だがみんな、
ロリータ服で揃う姿を見るのは初めてだった。
その光景は私に力をくれた。
キレイな私の作品達。
私の努力の結晶。いや、みんなの……
一呼吸おき。私はゆっくり話し始めた。
「まずは皆、いつも協力してくれてありがとう。
とても、助かってるし嬉しく思ってる。」
村人たちが各々照れるなぁと言ってくれている。
でも、ここからが大事。
私は一人一人に語りかけるように心がけて話し出した。
「私はこの皆に作った、ロリータが好き。
小さな頃、初めて見た時感動した。
こんなにも可愛い服があるんだって。
着ている人がとても輝いて見えた。
いつか私も、と思って他の人が作ったロリータを売る仕事をしながら
自分でも服を作り始めたの。」
私は自分の服を改めてヒラリと翻す。
「これが初めて作ったロリータ。
私の国には、桜って言う花があるの。
五つの花びらの花。木にたくさん咲き誇っていて。
綺麗な、可愛いの集合させた花。
私は色んな人がいて、皆が一緒になって綺麗な花になりたい。
その一部に私もなりたい。
そんな気持ちで桜をイメージしたこのロリータを作ったの。」
村人は真剣に聞いてくれている。
だからこそ、伝えなきゃ。
「私は!皆とロリータを作りたい!
桜みたいなチームになって、美しい花になりたい、してあげたい!
今まで言葉にしなくて、曖昧でごめんなさい。
私は、マロン村の皆が大好きになりました。
細かな優しさ、気遣い、私の気持ちをこうやって聞いてくれる所。
来たばかりの私を受け入れてくれたところ。とても救われた。
本当にありがとう。
でも、今のままじゃダメなの!
お互い、ちゃんと楽しんでいきたい!
皆がやって良かったと思うものをたくさん生み出したい!
そんな皆とブランドを作りたい!
お願いします、皆、私のブランドで働いてくれませんか?」
深々と頭を下げる。
誠意を見せなかった私は間違っていた。
皆に甘えていた。
しっかり一緒にやりたい。
そう伝えたかった。
村人たちは突然、大声で笑い始めた。
皆が皆。
その光景にポカンとしていると、リーリが前に出て来た。
「私、ナナミさんに出会って。ロリータって服を知って
世界が変わったんです。布はただの布じゃない。布もなんにでもなれるんだって。
皆もそうだと思います。
こちらこそ、よろしくお願いします。だと皆思っていると思いますよ。」
村人は口々に同意を示していた。
頷き、そうだそうだと声を上げている。
「というか、その気でいたよ、俺たち。」
「うん、でも改めて言ってくださって嬉しい。」
「そうだよな、どんな気持ちで作ってくださってたか知れてよかった!」
「桜みたいなチームか!まだよくわからんが、楽しそうだ!」
「おねぇちゃん、手伝うー!」
この村はあたたかい。
だから、大切にしなければならない。
改めて私も気が引き締まる。
まだゴールじゃない。まだまだ、私達は頑張れる。
それが嬉しくてたまらない。
このブランドをもっと大きく出来る。ワクワクしてきた。
「ナナミさん!ブランドの名前は決まってるんですか?聞きたいです!」
スティーブンくんが声を上げた。
また私に注目が集まる。
私は主人公のようにニヤリと笑って答えた。
「SAKURA。よ!」
桜のように一つに集まった美しい景色。
そのブランドにはこの名前以外ない。
村人たちから拍手が自然と起こる。祝福の音。
嗚呼、生まれたんだ。私達のチームが。
「よろしくね!」
各々の賛同の声があがる。これは産声だ!
今までで一番大きな一致団結。その輪に私が入っている。
リーリとスティーブンはわっと私を抱きしめてくれた。
あたたかい。
村はそれからお祭り騒ぎになって、一晩中これからのこと、
やってみたいロリータ、着たいものの話に花を咲かせた。
ここが私のスタートラインだ。
これが私の決めた、道だ。
次回予告!
ブランド【SAKURA】として始動したマロン村と七海。
なにをしていけばいいか悩みながら順調に進んでいく。
そんな中、ある問題が起こって……?
次回
第十話 リーダーは大変ですか?
お楽しみに!