第六十話 30過ぎてロリータ着てますが、世界をオシャレに出来ますか?
そこからの私は早かった。
ももに手伝ってもらいながらハンドメイド作家として開業届を出し、ブランドを立ち上げた。
一人でロリータから小物まで作るのには時間を要したが、私は楽しくて仕方なかった。
だから苦痛はない、ただただ突き進むだけ。
ももから情報を沢山得て、ロリータさん向けのマルシェがあると聞いて手始めにそこに出店することになった。
この修羅場、みんなと乗り越えてきたのを思い出すな。
今も背中を押してもらってるから、大丈夫。私はどんどん制作を楽しんでいた。
そこまでにはヘッドドレスやリボン、お袖留を中心に制作し、ロリータ服は五着用意出来た。
一着一着にみんなへの思いなんかが勝手に入り込んでいる。
今までの私なら絶対につくれないものだ。
それは技術じゃない。あの世界でもらった沢山の経験、そして感情があってのものだ。
当日、晴天。
マルシェは野外での出店で、お客さんで賑わっていた。
正直、自信がある分怖かった。どうしようって言っても答えてくれる人はいないんだから。
ふと、一人の少女が立ち止まった。
きっと学生くらいだと思う。私をじっと見ていた。
「こんにちわ。」
「あ、」
去ろうとする彼女に私は思わず「待って!」と言った。
「見ていってくれない?大丈夫、無理に買ってなんて言わないから。
たくさん、見ていってね。」
少女はそういうとおどおどしながらブースに入ってきてくれた。
ゆっくり、ヘッドドレスを手に取る。鏡を見つけ、恐る恐るあててみた瞬間目がキラキラしている。
次々に手にとって笑顔になっていく。
私はこれが見れただけで今日来て良かったなあなんて思っていた。
「千代ー。ここにいたのか。」
「お父さん!」
「ああ、どうも。」
千代という少女のお父さんは私に一礼した。
「何かいいものはあったか?」
「えっと。」
「何かお探しでしたか?」
「ああ、娘がね、こういったファッションをしてみたいと今日始めて来たんです。
ずっと店に入れず迷っていたようで。千代、何かあるのか?」
「えっと、お父さん、言っていいの?」
「お前の誕生日だ、なんでもいいなさい。」
「じゃあ、あの、ワンピース。気になるの。」
そう指さしたのは、生成り色基調のジャンパースカート。
初めてリーリに作ったものを思い出して作ったもので、フリルやはしごリボンをふんだんに使ったものだ。バックの三段フリルがまた可愛いデザインでとても少女に似合うと思った。
「よかったら手にとって見てみて。」
「いいんですか?」
「はい。どうぞ。」
喜びが伝わってくる。きっと初めて触れたロリータ。この子に運命を感じてくれたんだ。
すぐにわかる。だってあの日の私と同じだから。
少し体を揺らしたり、横も見たり、後ろのデザインを見て更にキラキラしていた。
お父さんもすごく嬉しそうにその姿をみていて、なんだか微笑ましい。
「似合うじゃないか。買わせてもらいなさい。」
「いいの!?」
「ああ、こっちのはいいのか?」
「もしよろしければ、こちら同じ生地を使ったヘッドドレスという頭につけていただくものがございます。」
「千代、これは買いだな!」
「ありがとう!お父さん!!!」
「すみません、こちら二点、買わせてください。」
売れた……。
私の、私のロリータが。
「……ありがとうございます!お包みしますね!」
「これ、お姉さんが作ったんですか?」
「はい、そうなんです。実は、貴方が初めてのお客様なの。」
「え?本当!こんな可愛いからすぐ売れちゃいますね!」
「ありがとう。」
「本当に、ありがとうございます。これは生涯大切な一着になると思います。」
「そう言っていただけるとありがたいです。」
紙袋を少女にわたす。するとロゴを読み上げてくれた。
「【SAKURA SAKU】?」
「私のブランドの名前です。お名刺もどうぞ。」
「……桜 七海さん!覚えました!また、お小遣いためてます!」
「はい、待ってます。ずっと、続けますから。」
「千代、良かったな。では。」
「ありがとうございます!また会えますように!」
私は一礼をする。
たった一着かもしれない。
でもね、私、今とっても、幸せだ。
その後も着々と売れていった。マルシェは大盛況で服は完売した。
応援に来たももがあまりの好調さに驚いていた。
もっと大きなイベントでなよ、と言ってくれ、どんどんイベントに参加していった。
有り難いことに生計が立てられるようになり、これは凄いなと改めて思った。
私の作品をブランドの店舗に置きたいというところも現れ、委託もはじまり、ますます幅は広がっていった。
ちょっとずつ、ちょっとずつ頑張って頑張って、時にしんどい時はももと遊んだりして。
自分の好きを貫く生き方になれてきた。
そして今日。
私のブランドは大きなロリータのファッションショーに参加している。
自分渾身のロリータをモデルさんに着たものを聞き、作った。
モデルさんもそんな事はあまりないと驚いていたが、
貴方のために作りたいと言って了承してもらった。
おかげでとてもいいロリータが揃った。
もうすぐで開幕。
少しだけ時間があったので、会場の外に出る。月明かりが私を照らす。
ねえ、神様。
私はとっても今、楽しいです。
苦労もありますが、自分を貫いて生きることの大変さもわかります。
でも、私はこの道を、選んでよかったです。
あの日、気づかせてくれたんですね。
マロン村のあるあの世界で出会わせてくれた仲間、感情、経験。
リーリ、スティーブンさん、フィー。村のみんな、王都の方々。
この胸に全て生き続けています。全て私の力になっています。
これからもどうなっていくかなんてわかりません。
またなにか間違いを犯すかもしれませんね。
でももう大丈夫です。
また私が始まったから。ここは再出発地点。
まだまだ歩いていきます。
でもあの日に聞いたこと、答えさせてください。
神様。
30過ぎてロリータ着てますが、世界をオシャレに出来ますよ。
見ていてくださいね。
私は会場の扉をあける。
ここからまた、はじめるんだ。




