第六話 男子はロリータを着れますか?
私がマロン村に来て早3ヶ月過ぎた。ここではロリータを作る私は天才なのだ!
石田七海。今日も元気に服を作ってます!
「ナナミさん!聞いて下さい!
村長さんが仕入れに協力くださった糸で織ったら、
こんな綺麗な色になりました!」
機織り機で布を織る村人、リーリが私に新しい布をバサッと上に上げ、
派手に見せてくれた。
真紅色の素敵な生地だ。
「わあ!綺麗な真紅色!」
「ですよね!うふふ。素敵な布が出来ました。」
「リーリの織る布は綺麗で私大好き!」
「えーそうですかー!?」
嬉しそうに身体をくねらせると、スカートがひらりと舞う。
私が作ったリーリが着ているロリータが嬉しそうにしている。
それだけで私の心も踊ってしまう。
この一着は私がこの世界で作った初めてのロリータ。
とても大切な一枚だ。
「色んな事が出来るようになって私、嬉しいです!」
「こちらこそだよ!リーリ!ありがとう。
貴方のおかげでいいロリータが出来る!」
「えへへ。ちょっと照れますね。」
彼女とも長い付き合いになった。
毎日この自室に通ってくれている。
一緒に楽しんでくれる同志を見つけることができたのは幸運だ。
今ではデザインのラフ画を見せて
意見もくれるようになるまでに知識も持ってくれた。
こんな事、数ヶ月前には考えられなかったなぁ……。
この村、マロン村は、元々服の概念がなかった。
ボロ布を被った人たちがいる、そんな場所だった。
30人ほどの小さな村から私の夢は始まった。
夢は自分のロリータブランドを作ること!
私が東京から、この世界に転移して、
ロリータという文化を教え、作っている。
結果、現在10人の女性のロリータを作る所まで出来た。
「次は私?」と村中が盛り上がっている。
村長のギューが「こんなに活気づいているのは初めてだ!」と大喜びしていた。
そうよね、私の作るロリータは唯一無二、超大作なんだから!
最初は生成り色しか無かったけど、村人の協力で染めた糸を入手でき、
布の色もバリエーションが増えてきた。
ミシン(この世界では、布製品縫い合わせ機と言う)
も、村人の有志から貰って、更にパワーアップしたこのブランド。
リーリも引き続き協力してくれてるし、向かうところ敵なし!……だったんだけど。
ある日、いつものようにロリータを作っていると、
「……僕にも作ってくれませんか、ロリータ。」
思ってもみない声が聞こえてきた。
声の主は、マロン村の靴職人の青年。
最近協力してくれるようになった人だ。
整髪で、瞳がひまわりみたいな綺麗な黄色。
謙虚な性格で、今まで靴以外の話はしたことがなかった。
と、いうより、そんな事は言わなさそうな印象だった。
……だから私は間抜けな顔をしてしまった。
青年はハっとした顔をした。しまった、って思ったが遅かった。
悲しい目をして青年は言った。
「すみません、忘れてください。僕は男だから出来ないですよね!失礼します!」
走って逃げるように青年は去っていってしまった。
扉が淋しく閉まる音が響いた。
その音で、私はこれまでの自分自身の認識の甘さを悟った。
ロリータは女のものみたいにしていた。
男性が着るロリータだって存在する。日本でたくさん見てきた。
でも、私は作ったことがなかった。
だから考えもしなかった。村人の男性だって服が着たいに決まってる。なのに……
目の前にして何も言うことができなかった。
そんな自分が情けなくて、愚かで。
なんて、残酷。
村の男の人もいつだって協力してくれた。
それは自分がロリータを着れる順番を待っていたからではないか!?
そんな単純なことに気づかないで、私は何をやってるんだろうか。
頭が一気に回り始めて、自分のとんでもない思い違いを認識していく。
鼓動が早い、息が苦しくなるのがわかる。
「ナナミさん……」
リーリが心配そうに私を覗き込んだ。
だめだ。何も考えられない。混乱しているのがわかってる。
逃げたい。
「ごめん、今日はもうおしまい。また明日にしよう?」
出来るだけ笑顔を作ってみたけど、きっとぎこちない。
でも、今の私にはこれが精一杯。
「……はい。」
リーリは伏し目がちで言った。
いや、言わせてしまったんだ。
素直な彼女は自室から出て行ってくれた。
伝わる彼女の優しさに私は甘えることしかできない。
静寂。
これからのことを考えなくては。でも……。
「私…… どうしたら。」
雲が私をそっと隠してくれた。でも、私は……。
次回予告!
男性ロリータを思いもよらなかった七海。
悩んでいるところにリーリが現れて…。
そこから七海がどうしていくのか!?
第七話 決心はつきましたか?
お楽しみに!