第五十二話 伝えてもいいですか?
毎日が楽しかった。
皆で生地やレース、ビーズを集めて作成したり、
新しいアイディアを実行してみてアップグレードしたり、
モデルの練習でニヤニヤしちゃうような場面があったり。
毎夜、4人で紅茶を飲みながらまるで修学旅行の夜みたいにはしゃいだり。
私は沢山この世界を楽しんでいた。
あの日から、私は帰る事は言わなかった。
言う暇があるなら今の時間を楽しみたかった。思い出を一つでも作りたかったから。
だから我武者羅に今日までやってきた。
「わああああああ素敵ですね!」
収穫祭のファッションショーの前日。
全てのロリータが揃い、圧巻の景色となった。
舞台もしっかり組まれており、装飾もどこをみてもきれいだ。
どこを見ても美しいので皆がとてもテンションがあがるのがわかる。
「ナナミ殿!とても素晴らしいじゃないか!」
「クラブ様、ありがとうございます。」
「これが国民が見る景色なのだな。明日きっとここは大きな歓声に包まれるだろう!」
「はい、そのつもりです!」
「ナナミ、私も娘の晴れ舞台を楽しみにしていますわ。」
「ハート、ワシはどうしたらいいのだぁ。」
「アナタ、しっかりと見てやればいいのですよ、カガミがいますから大丈夫です。」
「ぐぬぬぬぬ」
クラブ様はこの後に及んでまだダイヤ様とカガミさんの関係が気に入らないらしい。
可愛いな、なんて失礼だけど、やっぱり思ってしまう。
「ナナミ、明日はよろしくお願いしますね。」
「はい、ハート様。お任せください。」
国をあげてのファッションショー、今から楽しみで仕方がない。
もう、私に思い残すことはない。だから大丈夫だ。
私は明日、この世界から離れると決めている。
もう揺るがないほどここで学び、泣いたり笑ったり沢山してきた。
日本でどうなるかなんてわからないけど、新しい夢が出来たから。
少しの寂しさと、決意を胸に、リハーサルを行った。
今日は最後の夜だから私は自室で過ごすことにしていた。
そう伝えると、リーリ達は私達も!とついてきた。
他の方は王都で泊まるというので見送られて帰路についた。
「紅茶、今日はフルーツティーにしました!新鮮なものを頂いたので美味しいですよ!」
「まあ、素敵な香りですわ。乾燥させたものとは味が違いますわね。」
「そうなんです。新鮮な果実が入って自然な甘みが出ていいんですよー。」
「ほんと、リーリは紅茶が好きだよな。」
「はい!紅茶ってなんだか落ち着くので!」
「そうですわね。ここに来て毎日夜に飲むようになってホッとするようになりましたわ。」
「確かにそうですね。」
いつもの時間。
4人でわいわいしながら今日のことを共有して、明日について語る。かけがえのないものだ。
紅茶を飲みながら、ああ、まだ飲んでいたいなと少し思ってしまう。
この時間だけはどうしても無くしてしまうことが惜しいのだ。
私の、大切な友人たちだから。
「ナナミさん、明日楽しみですね!」
笑顔でリーリが語りかける。
私はいつものように「はい、そうですね!」と答えるべきなんだ。
そうだ、いつものように。
「やっぱり、帰っちゃうんですね。明日。」
ハッと顔をあげてみたら3人がもう理解っていたようだった。
一気に寂しさが込み上げてくる。
でも泣かない。決意が揺らいでしまうから。ぐっとこらえて私は話す。
「はい。明日。帰ります。
今まで話さなくてごめんなさい。でも聞いてほしいんです。
以前いた日本でやりたいことが見つかったんです!どうしてもそれをしたいんです。
皆が大好きです。この時間を毎日どれだけ楽しみにしていたか。
でも私は、進みたいんです。逃げてきたから、進まなきゃいけないんです。」
「いやぁ…… ですわ。」
フィーが静かに泣いた。スティーブンさんが肩を抱く。
言葉にならないようでグスグスと声が聞こえてくる。
「フィー、ナナミさんの気持ちも組んであげなきゃだろ?」
「わかってます!わかってますわ!でも……」
「友の決断を止めるような事は!!しちゃだめだ!そうだろう?」
真剣な眼差しにフィーは納得してくれたようだ。
涙を拭いて、スティーブンさんに「ありがとう」と言った。
「ごめんなさい。ナナミ。貴方の夢を応援させてくださいまし。
私は友が少なく、失うことが初めてなので動揺してしまい申し訳ありませんでした。
でも忘れないでください。貴方には私達がついていますわ。どこまでも。」
「そうです。僕達はたとえ星が違えど、永遠に友だちです。」
「二人とも……」
するとリーリがどんとスコーンやサンドイッチを出してきた。
「さあ、皆。いつもみたいにしましょう!最後だからこそ笑顔で過ごしましょうよ!
私、沢山用意しました!さ、沢山、おしゃべりしましょうよ!」
私達は笑いあった。そして皆で頷いた。
明日についての最終確認をしたり、どんな反応をされるのか楽しみにしたり。
ダイヤ様とカガミさんが結局どうなるのか考えたり。
話はつきない。ずっとずっと話していた。これが私達の日常だった。
話が進んでいくといつもリーリが眠気にいいラベンダーティーを入れてくれる。
疲れた日は飲む前に香りだけで寝てしまう事もあったな。
最初に寝てしまったのはフィーだった、あんなに今日は寝ませんわ!と息巻いていたのに。
次に意外にもスティーブンさんが寝てしまった。
二人は向かい合いながら眠っていたので少女漫画ならこれは惚れて舞うやろー!
そんな一コマになっていた。
私とリーリはくすくす笑いながら。二人で窓際で少し話していた。
月明かりに照らされて、とても気持ちいい空気だ。
「少し、思い出します。貴方と初めて会った日のことを。」
「機織り機を見にいらしたんですよね。ナナミさんの事は村ですぐに噂になっていたので、
その方がうちにいらっしゃると聞いて緊張していいました。」
「何度もリーリの家に通って、形も布も二人で決めましたね。」
「はい、毎日がキラキラしてきて。楽しみにしちゃってる自分に驚いて。新鮮な日々でした。」
「リーリが私を救ってくれたんだよ?」
「え?」
私は、初めて言わなければならないと伝えることにした。
「貴方が一生懸命協力してくれて。二人で作って、喜んでくれた笑顔があったから、
私は今日までこれました。この幸せな日々を作ってくれたのはリーリ、貴方なんです。
いつも支えてくれた、前に出て道を切り開いてくれたことも沢山あります。
倒れた時も、いつだって気賭けて行動してくれました。
ありがとう、リーリ。大好きです。」
リーリは私の膝に倒れてニコニコしながら言った。
「私も、大好きです。ナナミさん。」
月明かりに照らされて私達は自然と眠った。
こんなに幸せな夜を私は絶対に忘れない。
次回予告!
ついに当日!ファッションショーの用意を進めていく。
観客も以前と違って満員御礼!幕が開く!
第五十三話 開幕いたします
お楽しみに!




