表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/41

第五話 服を着るのは初めてですか? (7月19日更新)

天気は晴天。

やっと私の心も晴れてくれた。

窓から差し込む太陽の光を浴びながら、最後の一縫い。


「で、出来た!」

私は声を出して完成を喜んだ。

瞬間、扉が漫画みたいに開いて人が雪崩のように崩れてきた。



「へ?」

下敷きになっている、先頭にいたギューがゴホンとわざとらしい咳をする。



「ついに、完成したのだな!」



私は人々の顔をみた、ニヤーとした嬉しそうな顔。

完成をそんな待っていたのかと驚いた。

と同時に嬉しくなった。

「はい、出来ました!」



また大きな歓声が聞けた。

私も今度は一緒に喜んだ。

村人と一緒にこうやって気持ちを共有出来るのはこんなにも高揚するのか!

こんな風に感情を共有すること、久しぶりだ。



「これを……」

「リーリに渡すのだろう?」

「え……みんなわかってたんですか?」

「そりゃあ、ナナミさん見てたらわかるよ。なあ?」



村人は笑い合いながら私のロリータを見て言葉を投げていく。



「これが服かぁ。」

「凄い、テーブルクロスを着るみたいだ。」

「同じ布なのに作りが違うだけでこうも違うのか!」



私は今まで自分の服をまーくん(元彼だ)にしか見せたことがなく、

いつも彼は、

「いいんじゃない」

しか言わなかったので、ソレ以外の言葉が心から嬉しい。

評価がつかなかったことに、初めてはなまるをつけられたような気分だ。



このはなまるをもらった服を早くリーリに届けたい。



「リーリのところへ行っていいですか?」

「みんなで行こう!」

「そうだな!」

こうして村人みんなでリーリの家に行くことになった。

……多いな。

でもそれほど大きな出来事なんだとわかったので、一緒に行くことにした。


村の奥。村中の人々がぞろぞろ行くもんだから、

玄関でリーリが驚いて出てきていた。



「みなさん!どうされたんですか?揃いも揃って!」



戸惑いを隠しきれないリーリに向かって、私は真っ直ぐ歩いていく。

そう、出来た最高の一着を持って。



彼女と目が合う。ぱあああっと顔色が明るくなった。

「ナナミさん!それ……」

「うん。出来たの。」

「おめでとうございます!わあ……」



私は、自信満々に彼女に出来立てのはなまるロリータを渡した。



「ナナミさん……?」

「着てみて。」

「そ、そんな!私なんかが!」

「みんな、一番に着るのは貴方だって思ってくれてる。

今まで村の布を織ってくれてた貴方に。」



リーリが周りに目をやると、村人達は頷きながら微笑みをうかべている。

それは村の合意ととるのに十分すぎる光景だった。



「光栄です。こんな嬉しいこと、ありません。ありがとうございます!」

リーリは気品のある一礼する。それに拍手が起きる。



「さあ、着てみんなに見せないと。」

「はい!」

私とリーリは家に入った。


服の概念が無い人だから、ロリータなんてどう着たらいいかわからないだろう。

私は着せ替え人形に着せるみたいに、作ったロリータを着せていく。

リーリの身体がこわばっているのがわかる。



「緊張してるね。」

「はい、今、胸が張り裂けそうです。」

「ははは。これから着るものだから、リラックスしてほしいな。」

「そうですね。そっか…… これから着れるんだ。」



19歳の時に初めてロリータを着た時の事を思い出す。

そう、こんな感じで、緊張感とドキドキと。

色んな感情が混じって、でも楽しみでしょうがなくて。

これが自分のものになるなんて夢みたいで。

彼女もそうならいいなと思った。



綺麗な金髪に映える、ヘッドドレスをつける。

買ってきてくれた、黒のリボンがアクセントになって凄く良くみえる。



「鏡、見てみて。」

リーリはおそるおそる鏡に目をやる。

「あ……」



リーリをイメージした、生成り色のロリータはクラシックなデザインだ。

美しい手先が見えるように袖は絞った物に。機織りをするから姫袖は邪魔になるからだ。

スカートを広げるパニエがないので、

腰の後ろにボリュームをもたせたバッスルデザインのワンピース。

襟元にはリーリをイメージした薔薇の花の装飾をつけている。

紐やリボンで装飾が出来たので、腰元を占めるようにできていてメリハリがある。

靴下という文化があったので、そこにフリルを足した形にしたものを作った。



「ナナミさん、とっても、重いです。」

「あはは、今まで布一枚だったもんね。そりゃそうだよ。」

「でも、でも!……可愛いです!

こんな素敵な服が着れて私はなんて……なんて幸せなんでしょうか。」



リーリの頬が赤らむ。ときめいているんだ。

ロリータにはその力がある。それを私は知っている。

幸せな時間を共有できた事が嬉しく思う。



「おばあちゃんに見せていいですか?」

「勿論!」



たたっと小走りで部屋を移動するリーリ。焦る気持ちを抑えきれないのだろう。

「おばあちゃん!」



おばあちゃんが顔を上げた瞬間、目を大きくさせた。

見たこともない姿だろう。驚きを隠せないまま、立ち上がってみせた。



「リーリ?リーリなのかい?」

「うん、いつも来てたナナミさんが服を作ってくれたの!」

「ナナミさんが……」



私とおばあちゃんの目が合う。ナナミと認識してくれてたのか、

挨拶くらいしかしてなかったのに。



「ナナミさん、リーリをこんなにも綺麗にしてくれたんだねえ。ありがとう。」

おばあちゃんは丁寧にロリータ服の生地を触ってみている。

ゆっくりと指が薔薇の花に触れる。



「リーリみたいな可愛い花だねえ。」



気づいてくれた。

私の薔薇の花に込めたリーリへのメッセージ。



たまらず涙が出る。

あの日の涙とは違う。この涙は嬉し涙だ。

だって私いま、人に喜んでもらっているのを目の前で見れたんだから。

大好きなロリータが認められた、しかも自分が作ったものだ。

感じたことのない幸福感と達成感。それらが涙に変換されていく。



「ナナミさん!?どうして泣いているんですか!」

驚いておろおろしているリーリが私の方に寄り添ってきた。

改めて彼女をみる。

ここ数日、かかりっきりだった私が作ったロリータを着ているキレイな少女が立っている。



美しすぎる…… とてもいい出来だ。



あのフリル苦労したなとか、リボンがあって良かったぁと思いながら腰紐をつけたなとか。

凝縮された記憶が走馬灯のように頭を巡る。

本当にこの数日が充実していたんだなと痛感する。

そんな事を考えながらも涙は止まらず、私はリーリに伝えた。



「リーリ、とっても似合ってるよ。」



リーリはまた、私に微笑んでくれた。



この顔を私の宝物にしよう。



「はい。ありがとうございます。」



その後、村人達にも披露した。

とんでもない盛り上がりだった。リーリを囲んで村中が手を取り喜んだ。

ギューも私に大層な感謝を述べ、その日は祭りみたいにみんなで晩ごはんを食べた。

豪華絢爛な、とは言えないが美味しい田舎料理が並ぶ。

私とリーリが主役で、みんな笑顔だった。終始どこからか声が聞こえてきて賑やかだ。



「ナナミ殿に、バンザーイ!」



たった一枚のロリータで村が変わった。

そうだ、私だって変わったんだ。



ロリータは凄い。



「ナナミさん、次はどんなロリータを作るんですか?」



リーリの質問に、村人の注目が私に集まる。

「そうだなぁ……」

「その前に、ナナミ殿。村からお礼をさせてほしい。」



ギューが合図をおくると、大きな布で隠されていたものを私に見せた。


「ミ、ミシン!?」



そこには足つきのミシンが姿を現していた。

綺麗な黒のミシン。とても豪華に見える。



「どうだ、上等な布製品縫い合わせ機だろう!」

「確か高いからこの村には無いって……」

「有志で買わせていただいた。

村のために毎日針を進めるナナミ殿の力になれればと。

どうだ……?」



私は全員の顔をゆっくり見た。

誰もがこのプレゼントを私に、と笑顔で、照れくさそうにしている。



「みんな…… ありがとう。大切に使うね!」

村の人は一つの感情に包まれてる。それに私も含まれている。

誰かと同じ気持ちになっているなんて、初めての事かもしれない。

どこまでも優しい人たち。私は胸いっぱいに感謝した。



その感謝を伝えたい。

だから、これからもマロン村のみんなの為に、

ロリータで世界を変えていこう。



「ナナミさん。また素敵なロリータが作れそうですね!」

リーリが期待いっぱいに私に伝えてくれた。

気持ちに、答えなきゃ。

「今度も、みんなを驚かせるロリータを作るわ、必ず。」



ミシンをなでながら私は宣言した。

「これからよろしくね、……布製品縫い合わせ機。」



さて、次はどんなロリータを作ろうかな?

次回予告!

リーリの協力もあってマロン村にロリータ服を着々と作っている七海。

乗りに乗った七海にとある少年が願いを伝える。

「……僕にも作ってくれませんか、ロリータ。」

果たして七海の返事は!?



第六話 男子はロリータを着れますか?

お楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ