第四十二話 何を残しますか?
あの昼下がりから、夜になり一人になった。
ここにきたばかりの私は、ただただロリータを広める事や自分のこと、必死だった。
この世界は私にあまりにも都合が良すぎた。
居心地の良さに身を委ねていたが、私がいきなり居なくなった時の事を考えた時に、
今意欲的で、新しいロリータが生まれそうなこの時期に。
一体私は何が残せるのか?そう思った。
私らしいものってなんだろう。
誰でもない、私だけのもの。
蝋燭の火を見つめながらふと、おばあちゃんの仏壇を思い出す。
おばあちゃんは私にとってとても大切な存在だった。
遠方に住んでいたおばあちゃんに会えるのは、桜の時期だった。
桜の名所が家の近くにあったおばあちゃんの家に3時間車で揺られながら春に帰省する。
そこで、おばあちゃんと見る桜が大好きだった。
「ねえ、桜ってずーーと咲いていたらいいのに。こんなにきれいなのに!」
幼い私はそうおばあちゃんに言った。そうしたらにっこりした顔でおばあちゃんは
お土産屋さんで買った桜の簪を私にさしてくれた。
「これでずっと、ずっと咲いているわ。ねえ、七海ちゃん。とっても可愛いわ。」
私の可愛いはここからはじまった。
たった一つの花が私を彩ってくれて、おばあちゃんが可愛いと言ってくれた。
それだけで私は誰がなんと言おうと可愛い女の子だったんだ。
魔法のようで、些細な会話。
私の大切な桜になった出来事だ。
そんなことを思い出している。
最近昔の私を救ってくれた人のことをよく思い出す。
日本にいた頃は目の前のことでいっぱいいっぱいで、支えてくれた人の事をこんな風に思ったりしなかった。
私、帰りたいんだ。
あの残酷で、私を救ってくれなかった世界に。
……いや違う。
本当は世界は自分で変えられるんだ。
それがわかったから、私は世界を変えたいんだ。
とても寂しい。
でも、進む勇気をもらったから。
私は決めていく、自分の未来を。
立ち止まっていた時間をゆっくりゆっくりだけど動かしていきたいから。
次の日から収穫祭で行うファッションショーの準備がはじまる。
かなり大きな舞台を組んでもらえる事になり、本格的なものになりそうだ。
最初に話したのはモデルの話だ。
私はマロン村の何人かにお願いしようと提案した。
「そして、リーリ、スティーブンさん、フィーは出て欲しいと思うの。」
「えぇ!?私ですか!?」
「みんなとても綺麗な顔立ちだし、ロリータを理解している。そんな人に立って欲しい。どうかな?」
「えっと…… 僕は裏方だとばかり思っていたので。」
「おーほほほっ!私は立ちますわ!皆さんもご一緒してくださいまし!」
「フィーちゃんは可愛いからいいけどー!!」
「あら、皆んなでなら私は立ちたいですわ。
ねぇ、ナナミ。あなたもですわ。」
「え?」
三人は急ににやりと笑う。
「ナナミが立たないのはありえませんわ!」
「私はやる事が……」
「でも!サヨナラが来るんですよね!?」
リーリが振り絞ったように声を荒げる。
私は皆普通に振る舞ってくれていたけど、寂しいと思ってくれているんだと今更気づいた。
「いつサヨナラなのかは私にはわかりません。
でも、いつかそれが来るとわかった今。
ナナミさんと沢山経験したい。一緒にいたいんです。
ワガママな意見ですが、私はナナミさんと一緒にファッションショーに立てるなら立ちたいです。」
「リーリ……」
「そうですわ、ナナミ無しではありえません。
どうか、観念してくださいまし!」
「フィーまで」
「あーもう!二人とももうちゃんと覚悟してる感じなのかよ!
僕だけが拗ねてるんじゃないかよ。」
「スティーブンさんはサヨナラさせたくないですものね。」
「な!」
「見たらわかりますわ–。わかりやすいですから、貴方は。」
「フィー!からかうなよー!」
「私だって、サヨナラさせたくありませんよ。大好きですから。
でも、ナナミさんが決めたんです。きっと。」
リーリの言葉に私もぐっとなってしまう。
わかってくれているんだ。リーリは。
わかっていて、覚悟してくれている。
「だから、沢山今からでも一緒にいましょうよ。
飽きるまで。ずっとずっと。
いつそのサヨナラが来てもいいように。」
「……そうだな。」
「じゃあスティーブンさんも出ますわね?」
「わかったわかった!やりますやります!
ナナミさんと沢山、思い出つくります。」
三人が笑っている。
私はサヨナラをいつ言うかわからないのに。
笑って、サヨナラを言う準備をしてくれてる。
「さぁ、ナナミ。立ちましょう。
最高の舞台に致しましょう!」
私は沢山言いたいことがあったけど、
ただ今は皆といたいから頷いた。
何かを残したい。
おばあちゃんが私にしてくれたみたいに。
強く強く、思った。
次回予告!
団結していく四人。
各々がやりたいことに挑戦していく。
その中七海は何を残すかを決めていく。
第四十三話 形はありますか?
お楽しみに!




