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第四話 デザインは決まっていますか? (7月19日更新)

それからリーリと共に、ロリータを作る事になった。

布を彼女が織っている間に、私は型紙を作成し始める。

作れる布の色は生成り色一色。クラシックなデザインがいいだろう。



毎日リーリの家に通った。布の長さの話や、彼女の話を聞いたりしていた。

機織り機のリズムを聞きながら型紙を作る。

今日も話をしながら作業をしていると、私にこんな事を聞いてきた。



「ナナミさんはどんな所で暮らしていたんですか?」

「そうだなぁ。色んなものが溢れかえってる所。っていうか、ありすぎるみたいな?」

「へえ!人も沢山いるんでしょうね。」

「そうね、数え切れないほどいたわ。人疲れしちゃうくらい。」

「でも賑やかでいいじゃないですか!ここは田舎だから。毎日変わらないっていうか。」



リーリは機織り機の手を止めて、窓の外を眺める。

木々が生え、芝生。あたり一面、緑がいっぱいの美しい景色。

でも、退屈そうに目をやっている。

この美しい光景も毎日同じものだとそうは見えないようだ。



「でも」



リーリは真っ直ぐな目で私を見た。

「ナナミさんが来て、少し、変わりました。

ただ布を織っているだけじゃなくって、人の為に織ってるんだって。

今までもそうだったんですけど。

何か、何かが違うんです。うまくいえないんですけど。えへへ。」



いい子か!というかいい子過ぎる!そう、リーリは真っ直ぐで優しいのだ。

毎日癒やされるというか…今までこんな風に人と会話したこと無かったから、楽しい。



こんな気持ちで好きなことが出来るなんて、なんて幸せなんだろう。

穏やかな環境で、ゆるやかな時間で、私は生きている。

東京にいた頃はそんなことなかったな。私だって、リーリと同じ、何かが違うと思う。

自然と頬が緩む。

するとうふふと笑い声が聞こえてきた。

つられて私も笑ってしまう。自然な笑い声だった。



「ナナミさん、笑ってる。何か面白いことがあったのですか?」

私はその笑顔に、首を縦に振ってみせた。

「今が、とてもおもしろいの。」




マロン村に来てから、心が洗われている。

ちょっと前まで、ロリータを着ていることを冷ややかな目で見られ、

周りに反対されてて…。



東京という箱庭で身動きが取れないまま、苦しかった。



誰も理解者がいない。

いたと思っていたが違った。

私はずっと孤独だった。

そんな世界にいた。

でも、今はなんでも肯定してくれる。嘘みたいな世界。

正直少し怖くなっている。こんな幸せでいいのかなって。

自分に都合の良い小説みたい。

でも、今は……、



クスクスクスクス…。



はっ、となって振り返る。職場のあの子たちの笑い声……?

いいや、ここにはいないはず。だってここは……



「ナナミさん……?」

リーリの声で我に返る。

そうだ、ここは東京じゃない。

だって目の前にはリーリと機織り機。裁縫道具、型紙と私だけ。



「ごめん!ちょっとぼーっとしちゃって。」

「いえ。気になっちゃって。」

「大丈夫だよ。」



私はわざと窓の外の自然を見る。ここは私を受け入れてくれた場所。

服を作ることを肯定してくれた場所。

そのためには早く、ロリータ服を作らないと……



「私、ナナミさんの服、楽しみにしちゃってるんです。」



リーリが何かを察してだろう。真剣な眼差しで言った。

「え?」

私は柔らかな空気に一気に包まれた。それは、リーリ、彼女の独特の空気感だ。



「ナナミさんの服はその…重そうですが、

布が沢山あって、布が手首まであって、それで……

とにかく、凄いんです!そのお手伝いをさせていただけて私は幸せです。

本当に今までと何かが違うんです。きっとそれは、

何かが変わるということなのかもしれません。

でも私はそれにワクワクもしています!ナナミさんなら出来ます。」



そうだ、忘れかけていた。

私はここでロリータを作る。この村のために。



彼女の手をとる。あたたかい。

「ありがとう。」



その微笑みはまるで花が咲いた瞬間のようだった。



私はロリータが好きだ。それだけでいいんだ。それだけが原動力なんだ。

これまでだって、バカにされても、歳を重ねても、諦めなかったじゃないか。

私は諦めが悪いんだ。



そして今、私は決めた。

彼女、リーリに最初のロリータ服を作ってあげようと。

決意の気持ちを込め、手を強く握り返す。


大切なことを思い出させてくれてありがとう。



数日後、リーリが織った布が完成した。

「お待たせしてしまい、申し訳ありません。」

「そんな!ありがとう。リーリ!」



後は、私の番だ。任せておいてと言い、自室に戻った。

静寂な部屋。リーリがいない部屋。少し寂しいが、集中するには致し方ない。

ここは私の世界だ。



型紙に沿ってハサミを入れる。いつもの布と感触が違うが、どうにかなりそうだ。

ロリータは布の量がとにかく多い。切るだけで時間がかかる。



今回はレースもリボンも無い。一から作っていくしか無いのだ。これは骨が折れる。

どれだけの時間がかかるのだろうか、検討もつかない。



でも、私は自分のロリータブランドを作る事が夢だった。これは、その為の一歩なんだ。

正直ピンチな状況なのに、ロリータを作るワクワクの方が勝ってる。

どうなるんだろう。私の服。

そんな気持ちで服の作成が始まった。



時々、食事やお茶、お菓子の差し入れに村人たちが度々部屋を訪れた。

ギューのはからいだろう。ありがたい。

少しづつ完成しているロリータをみんな興味心身でじーっと見ている。

その度、「みんなの分もいつか作るから!」と言うと村人は喜んでいた。



「それは楽しみだ!」

「早く着てみたいわ!」



そうだ、これからみんなの分も…大好きな服を着せてあげられるんだ!

純粋な楽しみが増えていく。

これからの事も考えながら、初めての服を手縫いしていく。

最初はミシンがないから無理だと思ったが、私のロリータ愛は半端なかったようだ。

意に介さず、手縫いで進められる。

時間はかかるだろう。でも一秒でも早くと丁寧に縫っていく。

布に糸が通る瞬間、どんどん服になっていくこの瞬間が好きだ。

私は1日中縫ってはやり直したり、針仕事にいそがしかった。



その姿を見てか、ある日、村の男達が揃いも揃ってやってきた。

ぞろぞろとやってきて、何かモジモジしている。

何事かと思ったが、思わぬ提案だった。



「何か服を作ることに必要なものはありませんか?」



……そうだ、服以外の技術は発展しているんだ。

ある程度のものはあるかもしれない!

聞くだけ聞いてみても良いかもしれない。

私は彼らに聞いてみることにした。


「糸が足りなさそうなんです。生成り色の糸。

後、レースとか、フリルとか。」

「レースやフリルを服に……ああ、確かにナナミさんの服についていますね。ナルホド。」

「はい、なので、あると……とても助かります。」



村の男達は真剣そうな顔をして、あの村ならあるかもしれないなど話始めた。

「恥ずかしいなぁ。」

「言ってる場合か!」

「男が買うのはなぁ……」

「だが必要なものだ!」



流石に抵抗があるか……難しいかも。



「いや!近くの村まで見に行ってみよう。」



男の一声で、覚悟が決まったようだ。

彼らは私の方を向いて頷いた。



「本当ですか!?」

「いずれ世話になるんだ、これくらいさせて欲しい。」

「助かります!ありがとう。」



マロン村の村人は本当に協力的だ。

穏やかな人柄が出ているのか、気遣いもある。

男達は恥ずかしながら、でも笑顔で約束をし、部屋を出た。



この村の為に服を作ることが私の役目だ。恩返しをしていきたい。



次の日、自室に早速男達がやってきた。



色とりどりの大量の糸とレース、フリルが私の元に届いたのだ。



「ナナミさん。これでどうでしょうか?使えますでしょうか?」



私は目が輝いてしまった。こんなにも使えるものが…!

色んな感情がある中、手に入れてくれたのだろう品々。

私の胸がいっぱいになった。




「十分です。ありがとうございます!すぐに作ります!」

「後、その服?についているものをいくつか似ているものも見繕ってきた。

何かに使えるといいのだが…。」



そういうと、リボンや紐等も出てきた。

出来る男達!!!!!!!!よく見ているんだなと思った。

私は一人一人の目を見る。

やってやったぞ!とドヤ顔だ。



「はい!とても助かります!」

「そうか!なら良かった!!!」



男達は嬉しそうにしている。村総出で、服を楽しみにしてくれているんだ。

こんな嬉しいことはない。期待には答えたい。



私のロリータ作りのレベルが格段にあがった。

この協力に感謝しながらどんどん作業を進めていく。」



私はリーリに似合うデザインにするために作りたいものが合った。

襟元に薔薇の花。勿論布で作る。

彼女が笑うと、ぱっと花が咲いたような華やかさがある。それを表現したい。

ちまちまと縫っていると、あの笑顔を思い出す。



渡したらどんな反応をするんだろう。喜んでくれるだろうか?

夜、蝋燭の火を頼りに作業をしていると心が落ち着く。



東京で作っていた時も仕事終わりに作ることが多かったから、夜に作業してたな。

懐かしい。私は付けているヘッドドレスをとって眺める。



このヘッドドレスも夜に手縫いで作ったものだ。まだやり方もわからない時だ。

でも一番私の好きが詰まったものだ。桜色に桜の飾り、赤いリボンのヘッドドレス。

なんだか、その時のことを思い出す。初心に戻ったみたいだ。

今、どんな顔で作ってるんだろう。


次回予告!

ついに第一着目が完成!

あの子は喜んでくれるかな?

そして七海がその先に見たものは……!?


第五話 服を着るのは初めてですか?

お楽しみに!

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