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第十六話 ありがとう、と言わせてくれますか?

「よし、しっかり休めたようね。」



エスターが安堵の顔になる。

私はこの日を待っていた、今にも走り出したくてうずうずしてる。



「熱も引いたし、身体の方は徐々に元の生活に戻していけるわ。

それで?心の方はどうかしら?」

「はい、しっかり休んで、少し考え直しました。

これからはみんなで、頑張れるように。一人で立っていられないってわかったから。

だから、仲間と話してきます。もう一度、信じてもらえるように。」

「…うん。わかった。また困ったら私も頼ってくれるかしら?」

「もちろん。ありがとう、エスター。」



思わず、笑ってしまう。エスターもつられて笑ってた。

安心出来る空間。この時間や場所を失いたくない。



「仲間に会ってきます!」

「いってらっしゃい。ナナミさん。」



久しぶりに扉を開く。

外の空気、景色、すでに懐かしく感じる。鼻をツンとする感覚。

もう逃げない。



村の人たちが「大丈夫?」と声をかけてくれる。

一人ひとりにありがとうと、近いうちに話をしたいと伝える。

「わかった、待ってる。」みんなそう言ってくれる。

みんなと話したいけど、私には先に話すべき人がいる。



スティーブンさんの家についた。怖がっていられない。

そうは言っても、扉をノックする手が震える。

でも、私は決意と共に手を動かし、彼を呼び出す音を鳴らす。


「はい…...! ナナミさん。」

「急にすみません。あの……話したい事があってきました。」

「わかりました。片付いてませんが、どうぞ。」



初めて入る、スティーブンさんの家。

ここで靴を作っていると言っていたので工房でもある。

皮や油、金属の匂い。整理整頓が出来ていてとてもキレイな印象だ。

丁寧な仕事をしてくれる彼らしい工房だ。

そこを抜けると、真っ白な部屋に出る。

テーブルと椅子、きっと先程まで飲んでいたであろうカップが湯気を出していた。

ここのリビングもらしいが汚れが見当たらない。

きっちりしているとは思ってたがここまでとは……



「ナナミさん、ここに座ってください、お茶でも出します。」

「待って!先に話したいの。お茶は…大丈夫です。」

「……わかりました。」



彼は対岸の椅子に座ってくれた。私は座らずに、彼をしっかりと見つめる。



「私はあの日自分勝手な事を言って、貴方の言葉に恥ずかしながら、反発した行動をとりました。そして無責任に倒れて、今日まで時間をいただいていました。

まずは謝らせてください。ごめんなさい。」



真っ直ぐな瞳。何を考えているんだろう。

わからないけど、今日のために心の準備をしてきたんだ。



「過去は、変えられません。あなた達を傷つけた事も、私の身勝手な主張も。

だから、未来を変えに来ました。これからどうしたらこんな事が起きないか。

私なりに考えてきたんです。本当にみんなをまとめる者なら最初にすべきことだったかもしれません。でも、今やらなければいけないと思っています。

それにはみんなの、あなたの力が必要なんです。

身勝手なお願いではありますが、聞いてみてご意見いただけたら嬉しいです。

どうでしょうか……?」



顔を少しあげて彼を見る。下を向きながらなにか考えているように見えた。

返事がくるまで、私は待つ。

何を言われても、しっかり話せる準備をしてきたんだから。

フー、と息を吐く音がした。

彼としっかり目が合った。

答えを、聞くときだ。



「……わかりました。ならナナミさん。僕から先に言わせてください。

あなたを追い詰めることをしておきながら、気づけなかった。

倒れてから仲間の不調に気づくなんて、情けないです。

本質を知らずにキツい言葉も投げかけました。

本当にごめんなさい。」



スティーブンさんが頭を下げたものだから私は慌てて立ち上がった。



「え!?待ってください!私が悪いんです!頭をあげてください!」

「いえ、これは僕も考えてきた答えなんです。どうか謝罪を受け入れてください。

僕も、あなたの謝罪を受け入れますから。」

「スティーブンさん……」

「だから、謝るのはここまでにしてください。

今からは仲間として、また話をしていただきたいんです。」

「ごめ……んなさい。少し……」



私は自然と涙が出た。

嫌いになられてもおかしくなかった。でもこんな温かい言葉、仲間とまた呼んでくれた。

私はなんて恵まれた人間なんだろう。

どれだけ信用されているのだろう。

……いや、私はしっかりここで頑張ってこれていたんだ。

少しは自分を認めたっていい。

だけど、今回は確かに間違えた。日々反省しながら、やっていける。

間違えたらこうやって教えてくれる仲間がいるのだから



「リーリさん。そろそろいいですよ。」



そっと奥の部屋からリーリが出てきた。



「リーリ!」

「仲直り、出来たみたいで良かったです。」

「……うん。いつも差し入れしてくれてたよね。ありがとう。」

「バレてましたか……えへへ。」

「リーリ、ごめんね。私……あんなことになっちゃって。」

「もういいんです。またこうして話せたのですから。」



ふと美味しそうな茶葉の匂いがふわりとする。

私達が話している間に、スティーブンさんがお茶を用意してくれた。



「さあ、ナナミさん。始めましょう。あの日の続きを。」

「はい、楽しみに待っていました!」

「二人とも。」



私は今、言わなきゃならないと二人を呼び止める。

深呼吸して伝える。



「ありがとう。」



二人は顔を見合わせてにっこり笑った。



「こちらこそ、ありがとうございます。」

「頼りにしてます、ナナミさん。」

「ありがとう、じゃあ聞いてくれるかな?これからの【SAKURA】のやり方を!」



私は自分の考えである役割分担について、リストを見せながら伝える。

二人とも、意見を言ってくれる。それに沿ってリストを変えていく。

村人のことをよくわかっているからこそできることだ。参考に成る。



「これをみんなに伝えて、意識統一を徐々にしていけたら嬉しいんだけど。」

「いいと思います!みんな同じ気持ちでやれるなんて素敵ですから!」

「しっかりみなさんに責任感というものが生まれるので、意識統一が難しいかもしれませんが、少しづつ伝えましょう。みんなやりたいと言ってくれているので。」

「良かった……。」



数日、エスターとしか話せてなくてあとは自問自答だったから、少し自信が無かった。

話して修正して初めて自信がもてた。

肩の荷が少し降りた、いやいや!今からが本番。

しっかりやっていかなきゃ……!頑張る……



「ナナミさん今、また頑張らなきゃって背負い込んだでしょう?」

「うっ」

「もう駄目ですよ!仲間に、私達にも頼ってください!また倒れちゃいますよ!」

「は、はい。」



二人がくすくす笑っている。なんだか久しぶりで、安心する。



「スティーブンさん、そろそろあれ、出していいですか?」



あれ……?


次回予告!

役割分担が出来たところにスティーブンとリーリから何か出される様子。

それは一体……!?

そして村の人々に理解を得ることはできるのか!?


第十七話 宝物が出来ましたね?

お楽しみに!

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