第十五話 心の整理は出来ましたか?
その日、夢を見た。
東京での私の日常だった。
朝起きたら、ピンクの布団をのけて、ベッドから降りる。
好きが詰め込まれたクローゼットから今日一番のロリータを選ぶ。
ごちゃごちゃしたドレッサーでかわいい私になるためにメイクをする。
世界一の可愛いを作る大切な時間。
今日はまーくんとデートだもん。気持ちも弾む。
一番素敵に見えるように私は準備する。
すると、スマホがピロンと鳴った。
まーくんだ!そう思い、画面を見る。
【ロリータなんか着るな。
歳を考えろよ、普通になれ。】
私は思わず夢から飛び起きた。
天井が木目で生成り色の布団。
良かった……。 ここはマロン村の自室だ。
滝のように汗をかいていた私はまだ身体の熱さを感じていた。まだ身体が重い。
自分自身の疲労をまじまじと感じる。
こんなに体調を崩すのは久しぶりだ。
ベッドの上でぼんやり夢を思い出しながら天井を眺める。
まーくんのこと、久しぶりに思い出した。
そして、ロリータが否定された世界を。
ここに来て忘れていた恐怖を思い出してしまったなぁ。
……ううん。違う。
きっと心のどこかで私はこの恐怖から逃げるために戦っていたんだ。
そして、周りが見えなくなっていた。
幸せすぎる環境に慣れて、甘えて、そして暴走した。
いや、あの瞬間の最善だった行動だった。
でも、やり方が間違っていた。
今冷静に考えたら、問題はわかっていた。
みんなの知識量、熱量、目標の統一が出来ていなかった。
順序を立てて全員に伝えていけば良かったんだ。
私は自分が嫌われることが、また否定されることが怖くて
我慢して、意見せず、なあなあにした。
それが積もり積もって、爆発したんだ。
どうすればいいか、わかった。
なら今は順序をゆっくり考えて、身体を休ませるしかない。
ああ、悪夢が頭をこだまする。
余計なことを考えるな。今は【SAKURA】の事を考えるんだ。
そうは思っても、考えてしまうことは孤独だ。
でも……
テーブルには昨日置かれていたフィナンシェが置いてある。
そうだ、私はちっとも一人じゃない。
過去に引きずられるな。現在を生きるんだ。
とは言え、体調第一。
今は、今だけはこの時間を休息に使おう。
しかし頭がぐるぐる思考がまわる。
そういえば、東京にいた時は考えるまもなく、忙しない生活を送っていたな。
思考するこんな時間も無かった。
なら、今は貴重な時間かもしれない。無理のない範囲で考えていこう。
ベットでゴロゴロとしながら、考えては休んで、食べては休んで。
優雅な引きこもり時間を過ごすことにした。
出来るだけの休息、心の掃除に努める。
昼過ぎに診察にエスターがやってきた。
経過は良くなっていると言われて少し安心する。ここの薬にも慣れてきたものだ。
「心の掃除は順調かしら?」
「まぁ…… とっちらかってるけど。」
「ふふふ。まだゆっくりしてもらわなきゃ困るから。」
少し歓談して、穏やかな時間を過ごした。
一人になると、少し焦る。
でも、こうして時間が合ったことで、私が一番やらねばならないことが見えてきた。
それは、役割分担だ。
村のみんなに役割をしっかり与える。
チームごとにリーダーを決めて、私と連携する。
そうすればミスも減るし、私の負担も少なくなる。
これは喧嘩したスティーブンさんがまたチームに入ってくれるかも問題だけど……。
今は信じてみたい。
努めていた職場をベースに、今出来ることを考えてみる。
まず、制作チームは
私のメインミシンチーム、
リーリの布制作チーム、
スティーブンさんの靴、装飾の3チームに分かれる。
そして、素材集めのチーム。いつも行ってくれる男の方々に頼もう。
女性は受注の受付。お客様のご要望などを詳しく聞いてもらえたら助かる。
外交はギュー村長中心に行いたい。
一人ひとり名前を書いてリスト化していく。
この人は何が合うかな、どうしたら楽しんでもらえるだろう。
そんなことを考えながら、願いながらチーム分けしていく。
私はやっと、ブランドのリーダーの仕事をしている。
遅いかもしれない、でもみんなを楽しい道へ導きたい。
これが私のスピードだったのかもしれない。
あとは……
スティーブンさんと、どう話そう。
許してもらえるだろうか。
あんなひどいこと…言ってしまった。
仲間なのに。信じきれなくて。
でも、話さなきゃ何も進まない。
私はこれからも一緒に作っていきたい。
大事な仲間だから。
「負けるな。」
声に出してみる。
それだけが今出来る覚悟だから。
次回予告!
ついに回復をした七海。
これからの為に彼女は進む。そしてそれは受け入れてもらえるのか!?
「大丈夫。」
第十七話 ありがとう、と言わせてくれますか?
お楽しみに!