第十四話 この一着はどうですか?
「私は、昔から誰かを助けることが好きなの。
最初は隣の家の男の子と遊んでいたときに、その子が転んで手当したのが始まり。
まあ、今のダーリンとの始まりでもあったんだけどね。ふふ。」
エスターは私の昔話とは対称に楽しそうに話し始めた。
「逆にいえば、助けることしか取り柄がなくて。コレしかないと決めて、
自然とお医者さんになりたいと思ったの。
一人、お医者さんの勉強のために何年か村を出たわ。
この村には教えてくれる人がいなかった。そもそも医者がいなくて。
絶対マロン村の助けになると頑張ろうって決めたの。
でも、ずっと孤独だった。今すぐこの村に帰りたいって。思った。
自分で決めたはずの道なのに後悔ばかりして、
大好きなみんなに会いたい。って毎日泣いていた。
だから早く勉強しないと、頑張らないとって焦って。毎日忙しなくて。
出来ない自分を責めて、たった一問わからないことがあっただけで落ち込んで、
孤独の中、誰にも話せず貴方みたいに倒れていた。」
「そう……なんだ。」
「そう、貴方みたいにね。孤独だった。」
エスターからはそんな苦しかった事なんてちっとも感じなかったから驚いてしまう。
私の中のエスターは完璧で、誰もが頼れる存在。
そんな人が、まるで今の私と同じように悩んでいたなんて…
「ねえ、エスターは……どうして頑張れたんですか?」
「ふふっ。」
エスターはふと立ち上がって、窓の前に行く。
なんとなく、リーリと話していたあの日を思い出す。
「出来ることから、ゆっくりすることにしたの。」
「どういうこと?」
「誰かを支える事は得意だけど、私は自分を支えていないと思ったのよ。
私は私で支えなきゃならない。それに気がつくのに時間がかかったけど。
だからゆっくり、自分を支える努力をしたの。
勉強も自分が出来る分だけ、休息も積極的に少しでもとってみた。
そしたらね、気がついたの。
私は一人じゃない。みんなちゃんといるって。」
容量が得られない話のように思える。
そんな事が出来るならみんなしてる。私だって。
それに……
「みんないるってどういう事ですか?」
「ふふ。それはナナミさんもすぐわかるわ。」
「そう、ですかね。」
「私はそこで頑張れたから、この村に戻って医者になれたし、
私は貴方に出会って素敵なこの服を着ている。
私は今が好き。楽しくて、賑やかなこの世界が好き。
そんな世界にしてくれたナナミさん、貴方も好きよ。」
優しい微笑み。
いつの間にこんな信用してもらえていたんだろうと思うと、胸が熱くなる。
マロン村のみんなからはあたたかさを感じる。
「貴方に足りないものは、きっと自信だと思うの。」
「そんな…… 自信なんて。」
「ね?こんなにこの村を変えてみせたのに。貴方には自信がない。」
「……私はロリータを作っただけで。」
「それが凄いって言ってるの!今まで私達は、こんなもの身にまとったことがなかった。
概念を変えるなんて、そうそう出来る事じゃないわ!」
「そ、そう?」
「例えば…… この私お気に入りのロリータ。どうかしら?」
え?と言う間に、エスターが私にドヤ顔で服を見せてきた。
私はエスターへ作った服に目をやる。
これは…そう、苦労したこのデザイン。
お医者さんという役職が合った彼女にあうものをよく考えた記憶がある。
我ながら頑張った白衣風のワンピース。
たしか……
「この布は、リーリが少しこだわってくれました。
お医者さんは色んなところへ行くので汚れやすいけど、清潔感が必要だと。
すぐに洗濯をして乾かせるようにとサラッとした布にと考えていました。
あと、着替えも少し多めに用意しようと提案もしてくれました。
靴はスティーブンさんが村中を歩けるようなしっかりした靴をと丈夫にしてくれました。
診療所では軽いものがいいと別の履物を考えてくれて……。
ここのフリルは…… みんなコレが合うんじゃないかって真剣に悩んでくれて。」
あれ?この服……。
「あ……。」
「ほら、貴方の中にみんながいる。」
私は一着にみんなの思いや、努力が込められていることに気づく。
こんな当たり前のこと、忘れていたんだ。
「貴方は一人じゃない。私達がいるわ。」
「エスター、私……」
「だから、今はゆっくり考えながら休んで欲しい。
熱もまだ少しあるみたいだし、貴方が万全じゃないと心配なの、みんな。」
「……はい。」
そこから何気ない話をして、エスターは部屋を去った。
ガランとした部屋。
私が考えなきゃならないことは沢山あるけど、ゆっくり。
身体がまだダルい。まずは万全にしないと。
そこから考えるんだ。
私たちの答えを。
扉の前で音がした。
誰か来たのかと思い、扉を開けるとそこにはフィナシェが置いてあった。
可愛い飾り付けで。……リーリだ。
私は一人じゃない。
「ありがとう。」
絶対、みんなで楽しめる方法を考えよう。
そう思いながらベットへ横たわる。
回復にはまだ時間がかかるらしいから。
次回予告!
身体と心の休息をとる七海。
その中で何が問題なのか考える。その中で見つけたこととは…?
第十五話 心の整理は出来ましたか?
お楽しみに!