十三話 休むってなんですか?
目が覚めた。空は朝を迎えている。
あれ?確か、エスターが来たのは夕方頃だったのに……
一晩しっかり寝ていたようで少し罪悪感。
最近そんな時間を設けてなかった。
だって頑張らなきゃならなかったし。
「心の掃除。」
エスターが言った言葉。
私は、とりあえず休めと言われた。
休めなんて。そんな暇ないのに。
ぐうううううう。
恥ずかしい程大きな腹の声。
とりあえず、なにか食べるもの……
そう思ってテーブルへ目をやると、バスケットを見つけた。
あれ?昨日まで無かったもの。
こんな気遣い出来るのは絶対、これはリーリだ。そう思った。
中を開けると、村でよく焼かれているパンが。
どれもとても美味しそうだ。
とりあえず、食べさせてもらおう。そこから考えればいい。
なんでもない時間。
何もしていない事が、とてもそわそわする。
デザインも考えてない!
ミシンをふんでない!
誰かと打ち合わせも!
……そうだ。
私、喧嘩しちゃったんだ。
自分からリーダーをするって決めたくせに。
全然うまくいかないのを人のせいにしちゃって。怒られて。
焦って、怖くて。
そうだ、スティーブンさんに謝らなきゃ!
決め込んでパンを頬張りながら立ち上がった瞬間、扉が開く。
そこにはエスターがいた。
にっこり微笑んでいる。
「あら、立ち上がってどうしたのかしら?ナナミさん。」
「私、寝てスッキリしました!仲直りしないと!私、いってきますね!」
「いい考えね、でも。」
ズドン!
あまりの速さで見えなかったが、私は思いっきり壁ドンされたようだ。
ぷしゅうと私から声が出る。
「貴方は休養中です。一晩ではなく、普通に休んでって意味よ?
わかるかしら?ナナミさん。」
「……は、はひ。」
「良かった。わかってくれる賢い方で。
そうじゃなかったら、ブスッといくところだったわー。眠剤。」
ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!
「もう、嫌な予感がして朝一番で来て正解だわ。
ナナミさんって猪突猛進というか、考えたら即行動って感じで休まる暇がなかったんだから。この機会に、わかってもらわなくちゃ。」
「あの…… これ以上私は何を休めばいいのでしょうか?
何もしていないのが、そのこそばゆいというか。いても経ってもいられないというか。」
エスターはやれやれという顔で、椅子に腰掛けた。
しっかり話をする空気を感じ、私も隣に座った。
「今貴方にやってほしい事は、心の掃除と言ったわね?
具体的には自分の整理なんだけど。
今貴方は沢山の問題を抱えてキャパシティーオーバーなの。
このままだと貴方がいつ潰れてもおかしくない。私はそう思ってる。
ここまでの自覚はあるかしら?」
私は首を横にふる。
そんな、私、まだ何も出来ていない。指示もままならない、熱量の統一だって。
あんなに近くにいた仲間にさえ出来ていなかったんだから。
そんな私が壊れるほど悩んでない。そう思っていた。
「そうよね。だから貴方は走り続けてしまう。
だから昨日倒れてしまったの。身体が心とのバランスをとれなくなってね。
今回の件は、仕方がないことだけど貴方にみんなと寄りっぱなしだったのも原因なの。
一概に貴方のせいじゃない。村の一員として私はそう思うの。」
エスターは立ち上がり、私のデスクを見た。
次に作るデザイン画でいっぱいになっていて、今見ると整理整頓出来ていない。
そんな事にまで気づけないほどだったのかと、
私もようやく彼女の言いたいことがわかってきた。
「素敵なデザインも、整理整頓しなくちゃうまくいかないでしょ?
だからまだ、貴方には休む時間が必要なの。」
「……わかりました。」
「今日はここにいることをみんなに言ってあるから、急患が来るまでは暇なの。
私に聞かせてくれないかしら?貴方のこと。」
「はい。」
ゆっくり深呼吸をする。
私はふと話してみたいことを思い出した。
「私は昔から。普通なんです。」
エスターから目を少し離した。少し話しづらい事だから。
自分語りなんて、恥ずかしい。
「本当の私は、地味で、目立たなくて。誰にも意見を言えない。小さな人間なんです。
小さな頃から色んなことやものに憧れてきたけど、勇気が出なくて諦めてばかりでした。
周りの人気者に嫉妬して、夢見る日々。そんな自分が嫌いだった。
でも、ふと寄った本屋さんでロリータ服を見たんです。
キラキラしていました。
広がるフリル、リボンがこんなに可愛いなんて思わなかった。
どうしようもないくらい、胸がドキドキして、それが止まらなくて。
目の前の世界があんなに輝いて見えたのは初めてでした。」
少しハッとして、つらつら話しすぎたかとエスターに目をやる。
彼女はにっこりと笑い、「うん、続けて。」と答えた。
遠慮なく話せる環境が心地良い。
「私にとって、ロリータに出会えたのは奇跡でした。
そこからは必死に勉強して、自分でも作れるようになるまで熱中して。
普通だった私が、もしかしたら世界を変えるんじゃないかってくらい勇気をもらっちゃって。
今着ている、この服を作った時、私、本気でそう思ったんです。
だから……。 みんなを、巻き込んで世界を変えられるって思ったんです。
マロン村のみんなと一緒に頑張れる、私はリーダーになれる。
しっかり出来るんだ!って。」
夢を語った所で、私は我に返った。
「でも、私はやっぱり普通の七海でした。
みんなを導く事なんか出来ない。仲間を傷つける。最低だな…… 。
どうして私はこうなんだろう。大嫌いな弱い私。
ここに来て変われた気がしていました。そんな勘違いを、していました。」
「ナナミさん。」
「エスター、私……。 どうしたらいい?」
ふと顔をあげるとエスターが真剣な顔をしていた。
「ありがとう。話してくれて。
次は私の話をしてもいいかしら?」
次回予告!
昔話がはじまる。そこからエスターが七海に伝えたいこととは?
そして七海は一着の服について考えることになるが……
十四話 この一着はどうですか?
お楽しみに!