十二話 また一人ですか?
気づいたら海の中でゆっくり沈んでいた。
美しい青の中、暗闇の深海へ落ちていく。
ゆっくり、ゆっくり身体に力が入らなくなってくる。
いつの間にこんな所まできてしまったんだろう。
さっきまで、私は……
何してたんだっけ?
苦しい。身動きが取れない。
私は自由だった。
どんどん落ちていく。
やだ、また一人になってしまう!!
「だめ!!!」
自分の声で目が覚めた。夢だった……
ここは私の部屋だ。
でも、私の身体は言うことを聞かない。
うまく動かすことができないのだ。
どうして……
「ナナミさん。お目覚めですね。」
そこには町医者のエスターがいた。
服を作って以来お会いした。
私の作ったこのロリータはお医者さんの手の邪魔にならないように工夫し、
白衣をイメージしたものにした。
優しい彼女によく似合っている。
「エスターさん、わたし」
「今凄い熱よ。毎日頑張ってたから知恵熱かしらね。」
「熱!?」
身体を触ると、確かに発熱している。
いつの間に……?
こんなの久しぶりだ。
「ナナミさん、とりあえず薬を飲んで。ゆっくりして欲しい。」
「ありがとうございます。」
恐らくハーブを練ったコレが薬なんだろう。
ぐっと飲み干した。
不思議と清涼感があり、この世界の薬を知った。
そんなまずいものじゃなくて良かった。
少し気持ちが和らぐ。
「ナナミさん。少なくとも3日はこのまま休んでもらわないと。治らないわ。」
「3日!?」
「ここでゆっくりしてもらえればいいから。」
「でも私は…… 熱があるだけで!」
エスターはゆっくりベットの横にある椅子に腰を掛けた。
そして自然と私の手をとった。
「ナナミさん、貴方疲れているの。それは身体だけじゃない。心よ。」
「心……?」
「リーリとスティーブンから聞いたわ。悩みがあったって。
それを一人きりで抱え込んでしまった。そうよね?」
「そう…… かもしれない。」
簡単に認めたくはないけど。
私は二人に悩みを共有しているようで、自分の意見を押し付けていたに過ぎない。
わかってたのに、私は激昂して…… 傷つけた。
「頭の中が一杯で、考えることが多くて。どうしても何も聞けなかった。
自分のことしか、考えられなかった。
みんなのために、頑張るって、やるんだって決めたのに。」
「うん。」
「私はみんなで、ブランドを作りたくって。でも知識や熱量の違いが気になって。
どうしたらいいかをずっと考えてて。身動きが勝手にとれなくなって。
ああ、明日頑張ろう。明日ならできるはず。
ずっとそうやって先延ばしにして。毎日、モヤモヤが積み重なってしまった。」
「うん。」
優しい相槌。私は、いつの間にか涙を流しながら話し続ける。
「怖かった。みんなをまとめることが、重圧が。
自分なら出来るって、夢に向かっていけるって。
でも私は弱かった!前の私となんにも変わらない。
仲間が出来たのに、一人になって、自分から孤独になって。
馬鹿です。信じられない。私は……」
リーリ、スティーブンさん。
村のみんな。
誰もが優しくて、私を信じてて。
でも、私だけが、信じきれなかった。
最低、最低、最低。
「そんな自分が嫌いです。」
夢のためなら何でも出来るって思ってた。
甘すぎる自分の考えに嫌気が差す。
なんて勢い任せで、愚かな私。
「みんな、ごめんなさい……
私は……」
エスターは、「待って」と言い
私の目を見てゆっくり話してくれた。
「ナナミさん、今はゆっくり休んで。いい?よく聞いて。
心も休ませるべきなの。心は壊れたら治すのに時間がかかる。
自分を見つめ直すの。見えてくるものもあるわ。
大丈夫、時間は有限だけど、沢山ある。みんなも、待ってる。」
「エスターさん。私、ここで休んでいていいの?」
「それが、マロン村みんなの願いよ。お願い。」
「みんなの……?」
「ゆっくり心を掃除してみて。
もし迷ったら、私達がいる。
私は毎日ここに来るわ。診察にね。何でも言って。」
「はい…… ありがとうございます。」
自然と手を離し、目を伏せてしまった。
「心を大事にね。人間にとって一番大切だから。おだいじに。」
そういうと、ひらひらと手を振り、エスターは去っていった。
そして私は、久しぶりにベットの上でゆっくり目を閉じた。
そうしたって頭の中はごちゃごちゃだ。
海の夢、エスターの話、熱、みんなへ迷惑かけた罪悪感。
色んなものが混ざって気持ち悪い。
ああ、叫んでしまいそうだ。
でも、エスターは言っていた。「心の掃除をしてみて。」
「心…… どうしたら。」
自分を見つめ直せって意味だと感じるが違うのかな?
この胸の内を整理していこう。
慌てる心が邪魔をするが、起きたら少し考えてみよう。
今は、ただゆっくりと。
次回予告!
発熱してしまった七海。休養が必要だと言われ何をしたらいいかわからなくなる。
エスターと話すことで何かが見えてくる。
十三話 休むってなんですか?
お楽しみに!