表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名門お嬢様JKの前世が異世界最強サキュバスだった件 ~魔性のスキルで清楚にお無双いたします~  作者: クサバノカゲ
Season 2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/37

27 彼女はアイドル

 ──女神の口元から、微笑が消えた。


「……さすがは、小悪魔(サキュバス)ね」

「お褒めの言葉、光栄です」


 応えたのは、聞き覚えのある声とフレーズでした。同時に隣でうずくまっていたゴルゴーンが、ぼろぼろと何かを振り落としながら立ち上がる気配。


「呆れてるだけと、何度言えばいいの」


 そこには、担当カラーである(ブルー)濃紺(ネイビー)のステージ衣装ときらきらのアイドルメイクをまとった天王洲(てんのうす) 瞳巳(ひとみ)──いえ、ヘビクリのセンター、スーパーアイドル天乃(てんの)ちゃんが降臨していました。


 ──わあ、本物。


 動画でしか見たことのない私は、その何倍もの可愛さ美しさに思わず感動してしまう。

 正直、彼女のことを調べる過程で私は、すっかり天乃推し(ファン)になっています。

 そんな熱い視線を気にも止めず彼女は、ボリュームのあるスカートを抑えながら屈み込むと、足元にたくさん散らばった青い鱗を一枚、拾い上げる。


琳子(あなた)ならわかるでしょう? 復讐(かのじょ)も私の一部なの。簡単に切り捨てることはできない」


 その言葉を聞いて、女神の口元には再び微笑が浮かんだ。


「そうでしょう、ゴルゴーン。あんな憎しみを忘れられるわけない。さあ、あなたにもっと魔力(ちから)をあげ──」

「──いいの、切り捨てなくても」


 女神の言葉を遮って、私は天乃(かのじょ)の手を取る。拾い上げた鱗をきつく握った掌を、両手でふわりと包み込みます。  

 そのとき女神の口元から、きっと気のせいだろうけど、まるで舌打ちのような音が聴こえた。


「だから、天乃(あなた)の夢も切り捨てないで」

「……それは……んふッ、ちょっと何を……」


 包んだ彼女の掌に、繊細無比なる秘撫「天使の先触(フェザータッチ)」を発動して──力の緩んだ指の内側にお話し券(チケット)をすべりこませ、すぐ手を離す。

 そして背中の翼を開き空中へと舞い上がった。


「ごめんあそばせ、女神さま」


 不敬を謝罪しながら女神(かのじょ)の頭上を超えて宙返り、その遥か後方に着地する。掲げた両手にはそれぞれ、蒼い光の剣のごとく、高らかに掲げるペンライト。


「さあ! 皆さん(・・・)行きますよっ!」


 ォオォオオオオ……!


 光しかない周囲から、低く静かに地鳴りのような声たちが応える。

 清楚系としての(つつし)みはいったんお休みにして、お腹の底から声を絞りだします。

 

「てーんの! てーんの! はいっ」


 ……てーんの……てーんの……


 私の呼びかけ(コール)に追随して、無数の声が天乃(かのじょ)の名を呼ぶ。空間に満ちていた光が、徐々に薄れはじめた。


 ……てーんの! てーんのっ! てーんーのっ!


 薄れた光の下から現れるのは、私と同じく両手に(ブルー)光剣(ペンラ)を掲げた同志(オタク)たち。コールはどんどん大きくなって、反比例するように光が──その根源である女神の背負った後光が、枯れた花のように萎んでゆく。

 そうして光が薄まるほどに客席は拡がり、やがてコールは嵐のように。


「──なんだか、にぎやかね」


 それを背に浴びて、淡々と言い捨てる女神の輝きはみるみる失われてゆく。

 その前方で俯いた天乃は、いつの間にか差したスポットライトのなかで、鱗と紙片(チケット)を握った右手を見詰めている。


『ねえ、天王洲先輩』


 そのとき、コールを続ける同志(オタク)のど真ん中にいるはずの琳子(わたし)の声が、なぜかステージ上の天乃(かのじょ)の間近で囁いた。

 出どこはもちろん彼女の握った紙片(チケット)──手を開けば、表面のQRコードが蠢いてドット絵の黒猫(わたし)になり、『にゃあ』と一言ご挨拶。


 ──なにせ、遠隔(リモート)お話券ですからね。

 

先輩(あなた)の思い出を、すこし覗かせていただきました』

「そう……」


 短い答えは、湧き上がる何かを堪えるように無感情。


『だからあなたがあの日(・・・)、綾さんを止めようとしていたことも知ってる』


 そもそも会長(かのじょ)自身が、御堂に狙われていた。アイドル活動を学校にバラされたくなければ絵のモデル(・・・)になれ、と。そうして追い詰められたとき、彼女の中のゴルゴーンが覚醒したのだ。


 ──そのとき御堂は石化され、そして解呪(・・)された。そう、石化はあくまで仮死状態であって、死ではない。彼女はまだ、誰も殺してはいなかった。


 御堂の黒い繋がり(コネクション)を復讐に利用すると決めてからも、奥に追いやられた瞳巳(にんげん)の部分は、利用することになる女生徒たちへの罪悪感をずっと抱えていた。犠牲者がもう増えないように御堂の行動を監視し、牽制していた。


 ──美術準備室に現れたのも、最初は私を救うためだった。


『アイドルになる夢を叶えるため、あなたが積み重ねてきた努力も知ってる』


 その間もずっと、コールは響き続ける。天乃(かのじょ)を呼び続ける。


『だったら、アイドルになって大量(たくさん)人間(ファン)崇拝(あい)される──いいじゃないですか、それもひとつの復讐ってことで』


「──ほんとうに小賢(こざか)しい。さすがは小悪魔(サキュバス)

『お褒めの言葉、とっても光栄です』


 もはやお約束のやりとりだけど、いつもの否定は返ってこない。

 かわりに彼女はスポットライトの中で、右手をゆっくりと顔前に掲げた。

 使用済みの券は光の粒になって鱗に吸収されてゆく。青い光に包まれた鱗は、ゆっくりと一本の青いマイクに形を変えた。


 それを、握りしめ。

 

「──ええ。ご褒美に私の舞台(ステージ)堪能(たんのう)していきなさい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【おすすめ品】
なろうで俺の感想欄を荒らしてたのは
清楚な文学美少女でした

なろうの知識もつく青春ラブコメ
(ヒロインは聖条院文芸部の先輩です)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ