24 蛇淫の饗宴
「……魔性癖變……」
琳子が使いこなせなかった第三の魔性技を、まるで愛を囁くように唇に乗せる。
リリスの胸元と下腹を飾るレース模様の淫紋が、同時に白く発光し、巨蛇の全身がビクンビクンと大きく二度震えた。
「──さあ、宴を愉しみなさい」
巨蛇の体表から黄金の鱗が次々と剥がれ落ち、蛇の姿に戻りながら屋上に降り注ぐ。鱗の内側に一体化していた蛇たちも、ほどけるように本来の一匹一匹に戻ってゆく。
リリスの頭上、大牙と大太刀の拮抗も崩れる。牙が本来の姿──絡み合う白い大蛇たちに戻った瞬間、紅の大太刀は彼らの胴を断ち斬り、そのまま巨蛇の頭部を横薙ぎに一閃した。
それが引導となって、巨蛇は一瞬で無数の蛇と化し崩れ落ちる。絡み合いながら屋上全体に雪崩れ拡がってゆく蛇たち。
そのなかで悠然とたたずむリリスに、相対するゴルゴーンはガクガクと全身を震わせています。
「……いッ……いったい、何を……した……の……ッ……?」
息も絶え絶えに問いかける彼女の、下半身の蛇身もすでに崩れて、露わになった美脚の足元でも蛇たちが互いに絡み合い、のたうつ。
血にまみれながら互いの体に牙を立てては打ち震え、ある者は自分より小さい蛇を頭から丸呑みにする。その様はどこか艶めかしくも見えます。
魔性癖變──対象の性嗜好の形を一時的に歪める魔性技。
効果の割には魔力消費が大きく、私には使いこなせなかった、というより効果的な使い方がわかりませんでした。前世でもお遊び的にしか使っていなかったようです。──少なくとも、サキュバスとしての記憶の中では。
蛇の一体に意識体の尻尾の先で触れてみた私は、彼女が巨蛇の形態を介し全ての蛇たちに与えたものを理解しました。
それは相互型嗜被虐性愛──要するにドMとドSの強化合体型、互いを傷付け、傷付けられることで快楽を得る。雌雄の別なく、血に酔いながら力尽きるまで文字通り貪り合う、破滅的な性宴への誘い。
「……やめっ……おまえ、たち……くふッ……」
そしてすべての蛇たちの快楽を一身に共有する生徒会長は、自分の肩を抱きながら目を見開いて、涙と涎を垂れ流し、全身を不規則に震えさせながら膝から崩れ落ちるのでした。
「やっぱり、敵を無力化するなら暴力より快楽ね」
満足げに微笑みながら、元サイズに戻った翼を背に、ゆっくりと歩み寄るリリス。
いかなる恐怖や苦痛も耐え抜く強靭な精神力の持ち主であろうと、甘美な快楽の前には呆気なく蕩け堕ちる──ということなのでしょう。
そんな蕩けたゴルゴーンの元に、一際大きな蛇たちが数匹這い寄っていくのが見えます。おそらく彼らは気づいてしまった、より大きな快楽を与えてくれるはずの、最も強くて美しい同族の存在に。
鎌首をもたげ、我先にと入り乱れるように彼女に襲いかかった蛇たちは──しかし閃いた紅い翼によって次々と胴を寸断され、快楽の絶頂のなか絶命する。
同時に、意識を喪失し前のめりに倒れ込む生徒会長の細い肩を、優しく抱きとめてリリスは囁きます。
「次は、琳子の番……」
言われるまでもなく。私は背の翼をぱたぱた羽ばたかせ、鱗の消えゆく生徒会長の額に、まっすぐ潜夢していました。
──さあ。女神さまとやらに、逢いに行きましょう。




