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01 ベヒーモスに轢かれまして

 見上げた空はピンク色だった。


 それは私を踏みつぶさんと迫る、空を覆うほど巨大な足の裏。大魔獣ベヒーモスの、意外とキュートな肉球の色だ。


「……あー、これはさすがに逝くなー……」


 あきらめひとつ呟いて、この世界最強にして最淫(さいきょう)のサキュバスと(うた)われた私のそこそこ長い生涯は、ぷちんと幕を落とす。

 暴走ベヒーモスの肉球で圧死という、あんまりな死因(かたち)で。




 ──それから、どれだけの(とき)が流れたのだろう。


 時間だけでなく、もっと様々なものが過ぎ去り、遠ざかったようにも思える。

 つぎに目が覚めたとき私はふかふかの感触と、甘い香りと優しいぬくもりに包まれていた。……わたしは、とてもちいさな人間の女の子になっていた。


 サキュバスとしての記憶は、ぼんやりして思い出せない。


 なんで、あんなへんなこと(・・・・・)ばかりしてたんだっけ。

 コドモのわたしには、もうよくわからなくなっていた。

 そんなことよりも今は、よりそってくれる大好きなお母様のぬくもりに、このままずっとずっと包まれていたいな……。




 ──そうして、さらに十数年の歳月が流れました。


 私こと(すずり) 琳子(りんこ)は、名門・硯家の一人娘として生を受け十七年、名門(それ)ゆえのドロドロもゴタゴタも乗り越え、とっても真っすぐ育った自負があります。

 それはひとえに、敬愛するお母様の教え──『清く正しい心は、清楚さに宿る』を人生の指標に据えてきたからこそ。


 夕暮れの桜並木をひとり家路につく私の、ぴんと伸ばした背すじでは、セミロングの黒髪がさらさらと揺れています。

 華奢な四肢(スタイル)をつつむのは清廉な白のブレザー、膝下丈のプリーツスカートはスミレ色のチェック柄。

 この制服と、清貧(なだらか)な胸元で輝く銀の校章(エンブレム)が、名門お嬢様高校・聖条院(せいじょういん)女学館(じょがくかん)の生徒たる証です。


 嗚呼(あ々)、まるで清楚系を体現するかのよう……などと自分で思ってしまいます。


 ちなみに私の自慢のお母様は、清楚系美魔女としていまだ老若の男たちを片っ端から(たぶら)かし──いえ癒しておりますが、そんなお母様推し(ファン)の彼ら(いわ)く、私は昔のお母様にそっくりだそうです。


 黒目がちで目尻のキュッとした猫目と、ほんのり太めの困り眉の奇蹟的な調和(バランス)によって成立する、清楚系美少女のひとつの完成型だとかなんとか熱く語ってらっしゃいました。

 恥ずかしいけれど、大好きなお母様に似ていることは嬉しく誇らしくもあります。


 ……ただその、先ほど私は「真っすぐ育った」とお伝えしましたが、多感な時期のゴタゴタは影響ゼロとは行かず、少しばかりコミュ症(ひとみしり)をこじらせておりまして。

 他人様の目を見るのが苦手なので、目線がわかりにくいよう長めの前髪で目元を隠(メカクレ)しています。お母さまの素晴らしい遺伝子を無駄づかいしているようで、心苦しくもあります。


 その代わりと言っていいか分かりませんが、お勉強をがんばった甲斐ありまして、お母様の母校であり本来は中高一貫(エスカレーター)の聖条院の高等部に、特別奨学金つきで編入できたのが昨年の春です。

 憧れのお母様が歩んだのと同じ道、他校生から憧憬を込め「聖女様(セイジョサマ)」とも呼ばれる()()聖条院の、清楚系オブ清楚系JKになる夢が叶ったのです。


 ──なのですが。


 どこかにずっと、別の自分を感じてもいました。

 物心ついたころから持っていた、明らかに自分のものじゃない断片的な記憶、現実と見まごう鮮明な夢。

 舞台はいつも、小説(ラノベ)とかゲームのように魔法や魔物が存在する異世界(ハイファンタジー)


 そこでは自分(わたし)も人間ではなく、よりによって清楚から最もかけ離れた存在──夢魔にして淫魔たる「サキュバス」になっている。



 ──もしや、これは私の「前世の記憶」なのでしょうか?

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