気のせいだった……?
今日は平日、金曜なので推し舞台の新作発表映像を見ながら最寄りへ到着。
何だったらついでに新作舞台のチケット予約もした。
残ってた仕事もちゃんと片づけて、今日は調子いいぞ~!家に帰ったら夜通し舞台観るぞ~!と思いながら帰ってたら、昨日と同じ場所でまた声がした。
声というか、呻き声。
「お腹すいたなぁ……。こっちには何があるんだろう。おいしいものはあるんやろか……。」
小さな男の子の声。
周りを見渡すけど、やっぱり人はいない。
何だろうなこれ。あなたの頭に直接語りかけています、みたいな?
でも、ちゃんと耳から聞こえてる。
そう考えながらいつもの道を曲がると、膝丈くらいの何かにぶつかった。
っとと、なんだ?
「っった!なに?」
お、さっき聞こえた男の子の声。
「ああああ!あんた!この前もここ通ってたやろ。なんで無視していってったん。ん???」
めっちゃしたから睨め付けつつ、指差してきてるな。でもちっちゃい子だ。たしかに角の向こうにいたなら見つけられないのも当然だよね。
「そんなに人の顔見て指ささないの。ここ帰り道だから、昨日もここ通るの当たり前なの。でもごめん、ぶつかったよね。けがとかしてない?」
「痛いわ!心が!!!何度も声かけてんねん!!いろんな人間に声かけとんのに、誰も返事して…くれへん…ぅっ…なんでや……」
あらら泣いちゃった。
「どうしたの。お菓子…は無いな、ドライフルーツならあるけど、いる?」
「どらいふるーつってなに。おいしいん?」
「果物だからおいしいよ、はい。」
たまたまカバンの中にマンゴーのドライフルーツが入っていたので、これをあげた。
おいしそうに食べてるな。私も1個。
うーん美味しい。ほんとはお菓子食べたいけど、ダイエットダイエット……。
「んぁんやこれ。うんまいなぁ。もう一個ちょうだい」
「ふぁい」
2人でもぐもぐもぐ……
美味しいなぁ、ドライマンゴー。
口の中でむぐむぐと咀嚼し、飲み込み、あらためてぶつかった男の子に声をかける。
「んっで、なんであんなところにいたの?」
「そう!それやわ!忘れとった!ついお腹空いてて。あんな、うち違うとかから来たんよ。」
突然なんだろう。違うところ?うーん。
ちょっと話合わせてあげるか。
「親戚のお家とか?」
「んぃや。そうやな、ここと違うことと言ったら、あの空のやつ。あんなに小さないで。」
空のやつ?
そう言われて空を見れば、今日は満月。
季節もあって、より綺麗に月が見える時期だ。
「月のこと?近くに見えるの?」
「つき?あれ、こっちじゃつきって言うんか?」
「月じゃなかったら何?あのまんまるの、白いのでしょ」
そうなんやけど……と言い、夜空を見て小首をかしげる少女。
ん?少女?
「あれ、あんたそんなに髪長かった?」
「あ?ああ、まぁた姿変わってもうたんか。まぁ気にせんといてや。」
姿変わってしまった。
はぁ……?
「とにかく、あのお空の穴が小さいのが何よりの証拠やな。うちはここじゃないところから来たんよ。」
この子は何を言っているんだ……?
ああ!
ははーん。小さい頃ならではの思い込みとか、お母さんの胎内の記憶とか、そういうやつ?
「はいはい、わかったわかった。じゃあお名前教えてもらおうかな?」
「やっと名前聞いてくれたな!うちの名前はツカイ!ツカイって呼んで!」
「はーい、じゃあツカイちゃん?くん?お姉ちゃんと一緒にこっち来ようね〜」
「なんや、ええとこ連れてってくれるんか!」
ニコニコとし始めた。簡単に人を信用して……。こんな子供が夜に1人で歩いてるの、おかしいでしょ。
そう思い、ツカイと名乗ったその子を連れて、私は少し歩きとある建物に。
「すみませーん。」
「はーい、どうしました?」
「なんか、迷子みたいで……名前はツカイというらしいのですが……」
「迷子?こんな時間に?うーん、捜索願とか出てたかな……」
そういって制服の男性は裏にあるパソコンを触り始めた。
「すみません、このあと用事あるので、この子お願いしてもいいですか?」
「ああ、はいはい。連れてきていただき、ありがとうございました。」
「いえ、お願いします。」
そう言って建物を出ようとした。
あ、そういえばお腹空いたって初め言ってたな。
ここが一体どこかわからずキョロキョロしてるツカイに向かって、一言。
「お父さんとお母さんのこと、ここで待ってな。安全だから。あとこれ、マンゴーあげる。」
「安全?あそこ危険だったんか。はぁ、まぁありがとう。これ美味しいやつか。食べるわ!」
「うん、そうして。じゃ。」
そう言って私は早足で交番から立ち去った。
よくわからない子には関わらないのが一番。うん。
そのあとは無事に家に帰って、テレビをつけて、お気に入りの舞台の円盤差し込んで。
よし、変なことあったけど、華金たのしむぞ!!!
そう思いながら、再生ボタンを押した。