勇者召喚VS未召喚勇者
コツ、コツ、コツ――
白い靴のかたい底が、灰色の石床を踏む。
普段は周囲のざわめきに紛れてしまうだろうその小さな音は、広い石造りの空間に反響し、高い天井を乱れ渡ってから、吐息の音さえ潜めて待つ群衆に落ちた。
十重二十重、ぐるりぐるりと何重もの輪を作って広間にうずくまるローブの群れが身動ぎもせず見守る中、ひと筋だけの道を小柄な人影が辿り、中央で淡く輝く魔術陣の明かりに照らし出された。
灯りを落とした陰暗な空虚にも浮かび上がるその人は、闇に染まらぬ白装束を纏い、背筋を伸ばしてあまたの視線をその背に受けて堂々と立った。
詰襟の軍服は白。
細身のスラックスにブーツも白一色。
白いマントのフードを跳ね上げた拍子に零れた豊かな髪だけが豪奢な金色に輝いていた。
いや、決然と強い双眸もまた、しみひとつない白い貌の中で目にも鮮やかな碧玉の煌めき。
「殿下。そろそろ始めますかな」
魔術陣を挟んで正面に立った灰色のローブ姿の人物が、老人特有のしわ枯れ声でゆったりと問いを発した。
「――――っ、…わたしは…わたくしはっ」
一度息を詰まらせ、初めて目を伏せ、震える声音を吐き出した。
「魔王軍が放つ瘴気で、緑なす我が国土は端から枯れていく……魔王軍を倒そうにも、我が軍だけでは戦力差が大きすぎる……護国結界があれども、引き籠っては死を待つだけ。攻めかかっても滅びを早めるだけ…。我が国が落ちれば周辺諸国も滅亡するしかないのだ…」
自らに言い聞かせるように押し出されたその言葉たちは懺悔の色を帯びていた。
やがて鎮痛な響きを払うように首をひとつ振り、王女は背を伸ばして再び強い眼を真っすぐ前へと向けた。
「手は尽くした。もう手段は選べぬ。例えこれがひとりの人生を狂わせる、なにも関わりのない者を地獄へ引き摺り込む罪深き行いだとしても、世の理を乱す行いだったとしても、止めることはできない!罪は全てわたしが負う!異界より勇者を、魔王を斃す者を召喚するのだ!!」
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俺の名前は渡来闘真。
歳は十九。大学生。
趣味は読書とスポーツ。背は高い方。運動神経にはちょっと自信がある。
スポーツというより、体を動かすことが全般的に好きだ。登山も好きだし、ボルダリングも好きだ。
水泳、球技、陸上競技も好きだし、ダイビングなんかにも興味がある。
大学入試の前までは、武道系の道場も転々としてた。
あっちもこっちも齧る程度だったが、持ち前の運動神経でけっこう良い感じにやれたし友達も増えたので楽しかった。
まあ、休みは大概そういう趣味に打ち込む。その隙間時間と、あとは家にいる間の大半は読書に費やす。
俺はそんな、あまり同じようなヤツはいないが、個性の範囲に収まっているごく普通の人間である。
俺は横断歩道を渡っていたのだが、アスファルトの黒いところに白っぽいものが落ちていることに気が付いた。
ガムだ。マナーの悪いやつが吐き捨てて行ったんだろう。
流石に乾いていそうだが、見つけたからには踏むのは嫌だったから、何気なく歩幅を広げた。
大股の一歩。スニーカーのつま先が着地した瞬間
ぼわっ
普通に歩いていたら踏んでいたであろう場所に、白い光が灯った。
振り返り気味の横眼でも、その複雑に絡み合う光の線が見て取れた。
ぞわりと全身の産毛が逆立つ。
奇妙な引力のようなものを帯びて、淡い輝きを放つ幻想的な美しい模様は、ゆるく回転しながら徐々に範囲を拡大していく。
その光景を認識した瞬間に、俺は――
「うおおおおおおおおお!!!!??」
――全速力で逃げ出した。
何か予想外のことがあったら先ず離脱は基本である。三十六計逃げるに如かず。何か起きたら兎に角逃げろと古事記にも書いてある(※書いてないです)。
スプリンターの完璧なフォームで横断歩道を渡りきり、充分な距離を稼いだついでに交通事故の危険もなくなったところで急停止と同時に振り向いた。
カッチッカッチッ
安全運転の十二トントラックが光を踏み潰したところだった。
「………」
長距離運転の交代要員だろう助手席のおっちゃんが、良い笑顔で片手を上げて挨拶してくれた。
トラックが通り過ぎた後には、何もない普通の横断歩道があるばかりだった。
「……は?」
そのとき見たものが、さながら今流行りのラノベの異世界転移モノにある召喚魔法陣のようだった、ということに気付いたのは、信号が赤になってからだった。
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パァン!
弾ける音が広間に響き渡り、眩い閃光と共に不可視の波が弾けた。
その衝撃は一番近くに立っていたふたりを突き飛ばして床に転がした。
「っ…!何だ!!」
一瞬強く光った魔術陣は急激に輝きを弱め、それに対処すべく周りの人員が殺到する。
「失敗です!何らかの要因により、術が打ち消された模様!」
「何っ!?魔王軍の妨害か…!おのれ、どこまでも忌々しい!!」
全力で濡れ衣だが、真実を知る者は当然いない。
魔王軍の妨害によって切り札の勇者召喚に失敗したと察して、絶望感に全員が吞まれそうになった。
「――!!殿下!」
王女と同じく倒れ込んでいた魔術師長の老人は、起き上がるなり魔術陣の状態を確認して、可能な限りの声を張り上げた。
「陣は未だ力を失っておりません!!」
「!そうか!!」
もたらされた希望に魔術師たちは一斉に動き出した。
「どうやら、術回路の一部が損傷し、充填していた魔力が漏れただけのようです!」
「広間に魔力は未だ留まっています!再充填すれば問題なく発動します!!」
「幾つか脆弱箇所を洗い出せました!改良します!!」
一世一代と言っても過言ではない、国の存亡を掛けた召喚の儀式である。
ここに集められたのは国中から選りすぐられた魔術分野の最先端を走るエキスパートたち。その有能さを遺憾なく発揮し、瞬く間に陣は改良されていく。
そうして出来上がった魔術陣は、前回のものより一回り大きく、強い光を放っていた。
「再召喚開始!!」
※※※※※※※※※※※※※※
ところで、召喚が失敗した際に放たれた光は実は、拡散したのではなく真上に突き抜けたことを誰も気づいていなかった。
ついでに誰も知らないことをもうひとつおまけしておくと、魔術陣が異世界に繋がったとき、この世界に存在しない、魔力ではないエネルギーが流れ込んでいた。
魔力ではないゆえに誰にも感知されず、扱えもしない未知の力である。
光はその力で出来ていた。
そして光って見えてはいたが、ぶっちゃけ実は光とは全く性質が違ったので、光にあるまじき挙動をした。
まずなんちゃって光弾と化して一直線に打ち上がった。
なぜ打ち上がったかというと、国に神が与えたと伝えられている守りの力が満ちた力場――攻撃を逸らす護国の結界が、正体不明な異物を最短距離で追い出そうと作用したからだったりする。
さて高くたかく昇った光は、結界の境目に到達した。
守りの力の影響を抜けたエネルギーは、一旦上がった後失速し、なんと自由落下。
ドーム状の力場に当たって横向きに跳ね返った。
バチィ!と凶悪な音と共に火花が散る。
もうくんなや!とばかりに叩き出されたエネルギー体は、二度三度と跳ねながら加速していった。
石を水面と並行に投げて弾ませる、水切り遊びのような動きである。
そうして、国土ほぼ中央に位置取る王城から出発したにもかかわらず、光弾はどんどん加速しながら三度の跳躍であっという間もなく国境を飛び越えた。
その間約五秒半。
轟音と共に恐るべき速度で飛ぶ未知の巨大エネルギー体を、いくら弾むとか遊びとか楽しげに言い表してみても、誰も楽しくないどころかまともな神経ならば恐怖でしかなかった。
さてそんなこんなでエネルギー体は、目撃してしまった気の毒な国民たちの阿鼻叫喚を尻目に、めでたく何にも邪魔されないゴールを斜め一直線にキメた。
何の因果か神の采配か、落っこちたところは王国を侵略せんとする魔王軍の先鋒部隊のど真ん中だった。
――どぉおおおおおおん
物凄い爆風により噴き上がった土煙が、山三つ向こうの街からでも見えたらしい。
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俺の名前は渡来闘真。
四日前、何か良くわからないがファンタジックな魔法陣っぽいやつを目撃した。
動体視力や瞬間把握には自信があるんだが、すぐに消えてしまったから真偽は確かめようがない。
そもそもじっくり見ても魔法陣の真偽って知らんわなんだそれ。
そんなのわかる奴は中学二年生の病気を引き摺ってるやつだろう。
とにかく見間違いだと自分に言い聞かせている今日この頃。
俺は放課後、バスケサークルに混ぜて貰っていた。
ポイントはこちらが一歩リードしているが、ボールは自陣深く押し込まれていた。
「闘真!」
「おう!!」
同じ赤のゼッケンをつけたチームメイトから、黄色ガードの隙間を縫ってパスを受け取った俺は、姿勢を低くして細かくドリブルを刻みながら前方へ突っ込んだ。
重心を左右に振り、ロールターンとフェイントを取り混ぜて突き進む。
ひとり、ふたり、と抜いたところでセンターラインを踏んだ。前方には黄色ゼッケンのディフェンスがふたり。動き出しているが俺の想定するコースはノーマーク!
左に行くと見せかけて右にピボット。そのままサイドへ走ると余裕でひとり抜いた。最後のひとりが遮ろうとする前にボールを持って大きく一歩、二歩目は力強く踏み切った!
面白いように上手く行った快感と、体を動かす楽しさに思わず笑みがこぼれる。
目前のゴールへそのままシュートを叩き込もうとして――
――ぶぉん
突如として前方、ゴールの真下にあの魔法陣が出現した。
勢い良く飛び出した空中にいる俺は、このままでは魔法陣の真ん中に落ちるコースを取っている。
それが本物だとか偽物だとか、そんなことを考える前に俺は、空中では軌道を変えようがない、つまり避けようがないことを悟った。
訳が分からない事象と逃げられない恐怖に顔が引き攣る。
「のぁああああああああ!!!!??」
思わずボールを魔法陣の真ん中にシュゥウウウウ!!
バァアアン!!!
超!エキサイティン!な豪速シュートをゴールの代わりにど真ん中に食らった魔法陣は、哀れ出現から一秒経たずに砕け散った。
ずだん!と不格好なデカい音を立てて着地した俺は、何もなくなった床をじっと見つめた。
真上に跳ね返ったボールが、ついでにゴールを通過して真っすぐ落ちて来たので、反射的にキャッチして我に返った。
見回してみたら他の全員が口をぽっかーんと開けて立ち尽くしていた。
「…ええと、ジャンプボールからでいいかな…?」
返事はなかった。
人間、本当に驚いたときは無言になってしまうものなのだ。
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「くっ…!」
またしても発光して弾けた魔術陣を前に、王女は顔をかばって呻いた。
衝撃波を受けてよろめいたものの、万が一に備えて待機していた人員に支えられ、なんとか踏み留まる。
「また失敗…!?」
流石に焦りを隠しきれずに顔を歪めた王女。
しかし周りの反応は彼女とは全く違っていた。
「壊れたぞ!」
「損傷個所中央!!」
「魔力漏出確認!!修復します!!」
「漏出箇所分析します!」
「分析完了!箇所特定!回路損壊は外部衝撃によるものと見られます!!」
どどっと押し寄せた魔術師団は、猛然と目の前の問題に対処を始めたのだ。
一度あったことは再びあるかもしれない。
彼らはもう一度召喚が失敗しても対処できるよう、心構えをして待ち受けていたのだ。
その目は血走り、歯を食いしばって必死に対処にかかる。
自分たちが国の最後の希望である自覚もあって、まさに死に物狂いの様相である。
「漏出魔力の回収術組みました!起動!」
「外部衝撃で魔法を破壊だと!?どういうことだ!!」
「魔術付与攻撃かも知れん!!」
「強度は結界を組み込んで補えないか!」
「ダメですそんなことしたら魔力が足りません!」
「クソっ、じゃあどうやって対処する!?」
ああでもないこうでもない、と額を突き合わせて改良に尽力する仲間たちを見回して、王女は場違いだと思いながらも、ほんの少し頬を緩めた。
焦りを凌駕する信頼を寄せて、どんな結果になろうとも、彼らに感謝を忘れぬことを誓う。
そして、ふと思い付いたことを提案してみた。
「…魔術師長、陣を複数用意するのはどうだろう。ひとつを囮にして魔族の気を惹けば本命は通る可能性があるのではないだろうか」
「なるほど、本命が勇者の元で発動すれば良いのですからな…」
おお、と場がざわめいた。
「確かに…そんな発想が!さすが殿下!!」
「いやしかし、複数…最低でもふたつ用意するとなると、魔力量が足りない」
「ひとつでさえ、これだけの準備が必要だったのだからそれを増やすとなると…」
あちらこちらで顔を突き合わせて意見を交わす魔術師たち。
王女は不安を押し殺して見渡した。考え無しに無茶を言ってしまったのではないかと、じわりと後悔が心によぎる。
しかし魔術師団はそんな王女の予想を超えていた。
「そうだ、囮にするのであれば耐久性や持続性を犠牲にしてリソースを極限まで削れば良いのだ!!そもそも囮なら召喚陣でなくとも良い!!」
「なるほど!より派手に光らせて目を引こう!!」
「それならもっと増やしてもいける!!!」
「十か?二十か?いや、効率化すればもっといけるはずだ!!」
「すぐに取り掛かれ!!!!」
国家最先端をひた走る筆頭魔術師団。
それは、才能に胡坐をかかずたゆまぬ努力を積み重ねなくては到達しない高み。
その道は辛く険しい。だからこそ、ここにいる彼らは、努力が出来る素地がある。
それは魔術が好きだということ。
好きこそものの上手なれ。
どんなに苦しい修行も毎日コツコツと同じことを繰り返す基礎研究も、危険な規約ギリギリの実験も、好きで楽しい魔術の発展のためという大義名分を掲げ、その実自分の楽しみのために嬉々として行ってしまう選りすぐりの魔術馬鹿の集団。それが彼らなのである!
使命感や重圧はあれどそれはそれこれはこれ。
寧ろ難しい課題などは大好物。
彼らはこの難局によだれを垂らして飛びついたのだ。
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「はぁあ…」
俺の名前は渡来…ええいもう良いだろう。
四日前にバスケやってたらまた魔法陣っぽいのが出た。マジだ。
一回だけなら白昼夢とか思い違いに見間違いで片付けただろうが、二回目となればもう魔法陣の実在と、それに俺が狙われてる可能性を考えなくてはならない。
この期に及んで勘違いで済ませると、無抵抗で連れ去られる未来が待っている。それか本格的に俺の頭がおかしくなったかだ。
どっちにしろ最悪じゃねえかふざけんな。普段出ない溜息が出るだろうが。
人権も俺の意志も一切合切丸っと無視して異世界に誘拐されるとかあり得ない。アウト。
その上でなんかやらされるんだろ?「魔王を倒してください勇者さま!」とか、「浚われたお姫様を助け出してください!」とかいうのがあるあるだけど「国を助けるために生贄になってよ☆」とか「どこそこの国を滅ぼして来い」というパターンもないとは限らない。ハゲろ。
俺の意思を無視して完全アウェーに引きずり出されての帰り道もない状態で要求するとか身勝手極まる脅迫だ。
そんな汚い奴らの願いなんぞ聞いてやる筋合いはない。情に訴えられても拒否。お姫様可哀そうに思うなら平和な国から一般人拉致って来る非情と非道と非常識を先ず考えろ。あと後半のは倫理的にも論外。
畢竟、異世界転移無理中の無理。やろうとしてるやつハゲ散らかせ。
読み途中の武田信玄を脇に置き、異世界召喚についての見解を得るためにネットでラノベを読み漁ってみて、以上の結論に辿り着いたのはバスケやった日の夜。
全力回避でファイナルアンサー。
というわけで、異世界召喚が二度あったら三度あると聖書にも書いてある(※書いてません)ので、再度の召喚魔法陣出現を警戒し続けて四日目。俺はちょっとお疲れだ。
寝込みを襲われるのはごめんなので、警戒し通しで寝不足なのがキツい。
疲れが顔に出ていたせいでバイト先の人に心配をかけるのが申し訳なくて、バックヤードで裏方仕事をすることにした。
出庫が終わって空になったガレージで水を撒き、デッキブラシをかける。
コンクリの床を擦り上げるのは意外と好きだ。単純作業と反復運動の組み合わせは無心になれる。考え込みがちで気が休まらない現在、心を休める時間になった。
隅から隅まで磨き上げ終える頃には、結構気分が上向いていた。
ホースで水を撒いて、黒い汚れがさらさらと排水口に流れ込むのを達成感と共に見送ると、換気扇のスイッチを点けて窓を開け、避けておいたツールカートをガラガラと押して来る。
重いカートを元の位置に置いてキャスターにロックを掛けると、ふぅう、となんとなく息を吐きがてらスムーズに口笛に移行して、なんかすごい売り上げ記録を出したらしいアニメのオープニングテーマを覚えてるとこだけ吹く。
ガチのファンに聞かれたら怒られるんだろうが、誰にも聞かれてないからセーフ。
どうでも良いことをとりとめもなく思いながらホースを巻いて、デッキブラシを片付けるために歩き出したとき、ふわりと顔が下から照らされた。
「来やがった!」
咄嗟に横へ跳び退く、間髪入れず着地の足をつま先だけで無理に踏み切って跳ぶ。
最初にひとつ、続いてまさかのもうひとつの光る円が出現したのに驚愕しながら二歩三歩。
不格好でもなんでも体が反応したのを誰か褒めるべきだ。
「はっはー!ざまぁ見rなんじゃこりゃあ!?」
振り返ったら、そこはエレクトリカルなパレードだった。煽りまくりの嘲笑もなんじゃこりゃに変わる。
もうちょっと詳しく話そう。まずふたつ魔法陣があるとこを想像してくれ。オーケー?
次にそれを明るく光らす。簡単だろ?
光量?夜の自販機ぐらいだ。
さらに七色にして回転させれば完璧に再現できる。
そんなのに照らし出された灰色のガレージは、びっくりなカラフル空間に早変わり。
魔法陣本体は前見たやつより小ぶりだが、ゲーム用パソコンの光るあの機能が搭載されたみたいな派手さで存在感は段違い。
「なんだなんんっ!!」
驚きの声も言い切れずに慌てて横跳び。その足元にゲーミング魔法陣が続けざまに出現する。
「のぉおおおおおおお!!!!???」
シュンシュン出現するドギツイ虹色を避ける避ける!!
――――どうしてこうなった!?一応最初と二回目は厳かで神聖なセオリー通りのやつだったのにどうしてネオンみたいなゲーミングエレクトリカル!?
「おわあああああああ!!!!」
ツールカートの縁を足場に跳び、その先の壁を三角跳びよろしく蹴り飛ばして飛距離を稼ぐ。
滞空中にやっと頭が追い付いた。そうだ、魔法陣は床にしか出ていない。壁は触れる。空中なら安全。
――――棚の上に、いや、物が多すぎて無理!安全地帯どこ!?
一瞬だけ床に足を付け、その足で踏み切って棚の角を足場に跳ぶ。エンジン系の重い部品も置く鉄製の棚なんだから壊れないだろ?大丈夫だと言ってくれ!
そのとき、がちゃりとガレージの扉が開いた。
「闘真?何騒いで…」
「っ!!店長ぉお!!!」
顔を出した強面おっさん店長四十二歳。目をかっ開いて絶句。
そりゃそうだろう。見慣れたガレージは七色にけばけばしく照らされ、バイト従業員が半泣きで逃げ回っている。
どこの誰でも大抵は訳が分からなくて固まる。
いつもは頼りになる店長は、超常現象と言って字面そのまんまな現状では悪いが役に立たない。
なのに俺は無意識に店長が居るドアの方へ跳んでしまっていた。
「あっ!!!」
近くに壁はない。足場になる物もない。
兎に角壁の方へ踏み切る!
ぼぅん
ひと際大きい光の円が着地点に広がった。
見覚えがある白い光。
ひと目でビカビカなんちゃって魔法陣とは違うと分かった。
――――これに触れたら終わる。
「ぎゃあああああああ!!!!」
握りしめたまま手放すのも忘れていたデッキブラシを必死に突き立てた。
走り幅跳びのイメージで飛び越える――気持ちの上では飛び越えていた。
デッキブラシに支えられた一瞬の後、目線ががくっと下がった。
魔法陣に覆われてはいるが硬いコンクリートでできているはずの床。そこにずぶっとデッキブラシの先がめり込んでいた。
咄嗟に手を離す。
最後の足搔きで足を上げた滞空姿勢を維持。
慣性で前へ滑空するが、このままでは飛距離が足りない…!
絶望感に引き攣った顔が強い光に照らされた。
目が眩み何も見えなくなるほどの白。塗り潰された刹那を潜り抜けたのだと知ったのは、どかんと腰から床に着地してからだった。
背中も打って倒れた姿勢の下手クソなスライディングに、半身がざらざらした床に擦られた後、何かしっかりしたものにぶつかって止まった拍子にがつんと後頭部も打った。
「おい!闘真!!」
まだ強い光にやられてちかちかと黒いしみが踊る視界に、受け止めてくれた店長のごつくて人相が悪い顔が見えた。
店長の、顔が…!
「おい、大丈夫か!?闘真、ありゃ何だったんだ」
「……て、てんちょおおおおおお!!」
背中も腰も頭も痛くてTシャツの袖のところは破れてしまったが、何とか召喚からは逃げられたのだ。
安堵がじわじわと湧いてきて、感極まって店長のごつごつした手を握りしめた。
ちょっと泣いた。
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いくつもの小さな魔術陣が弾けて消え、やがて強い光が広間を満たすと、歓声が弾けた。
壊れずに光が強まる召喚魔術陣。それは成功を意味していた。
「ついに…!」
王女は歓喜に目を潤ませながら、両手を握り合わせた。
この場の者は一丸となって儀式の成功を目指してきたのだ。
長い時間を掛けた儀式の準備。召喚の失敗を見たときの絶望。そこから、不屈の意思を奮い立たせて、共に案を練って改善してきた。
その苦労が今、終わる…!
パン!と手を叩いたような音とともに光が破裂した。
陣の真ん中にひとつの影を残して。
「――ようこ…そ……え?」
ようこそ勇者よ、と続けようとした語尾が弱まって消えた。
そこに立っていたあまりにも小さな者…いや物は、ぐらっと傾いて倒れた。
カラァン、と高い音が広間に響く。
「なん…だ、これは」
王女はそっとそれに近寄り、まじまじと見た。
そこにあったのはデッキブラシ。
細かい傷が入っていても充分頑丈な柄は木製。
緑のブラシ部分は光沢があるポリプロピレン。
ホームセンターは税込み五百円セールワゴン出身。
まだ使用には足るがそろそろブラシ部分がヘタって若干右へ広がっているそれは、ご近所に愛されて十五年、ママチャリから大型バイクまで二輪車販売と修理のコタニ屋でここ三年ガレージを磨き続けた中堅掃除用具である。
そろりと王女の傍に寄った魔術師長が、そっと膝をついて間近にデッキブラシを覗き込む。
「これは――」
重々しく言った。
「――武器かと」
「武器…!」
王女は大きく目を開いて驚いた。きっと当のデッキブラシ氏も驚いているだろう。
なんと、内陸のこの国には箒と塵取りはあるがデッキブラシは存在していなかったのである。
こにいるのが一般市民だったら、もしかすると木製の柄と硬い繊維の束を見て箒を連想したかもしれないが、何せここに居るのはエリート魔術師と王女という特権階級。
デッキブラシはその大きさと長細い形状に、彼らの知る物の中で一番近いのは剣や槍、杖。即ち手に持つ武器だったのである。
というか、どこの誰であっても掃除用具が異世界から召喚されるという発想はなかったので、別の何かと誤解したのは仕方ないかもしれない。
「つまりは、勇者の身代わりに彼の武器を召喚対象にされたということか…!」
「召喚対象までずらすとは、誠に魔王とは侮れませぬな…」
デッキブラシ召喚はスムーズに魔王の所為になった。
ややあって、王女はその白魚のような両の手を差し伸べて、そっとデッキブラシを捧げ持つ。
「――これは勇者が持っていた武器なのだな」
「まず間違いなくそうでしょう。持ち主の波動が移っていなくば、身代わりにすることも出来ぬはずです」
ガレージ床に染みついた頑固な汚れを無心で磨いた三十分は、闘真の波動がデッキブラシに移るに充分な時間だったらしい。
「…ということは――」
失敗、という二文字が一同の脳裏に過る。
両手の上にある、物言わぬ成果を見下ろして佇む王女の背が小さく見え、気遣わし気な視線が集まった。
ということは、と先より張りがある声が凛と繰り返す。
「勇者はそこにいたのだな」
「――はっ…」
目を見開いた老人の目の前で、俯いていた顔は決然と上げられた。
「陣の魔力は」
傍にうずくまる一人に強い眼差しが向く。若い術者は自然と背筋を伸ばした。
「は、はい!無生物召喚は消費が小さいので、残存魔力での再構築は可能です!」
「重畳。各班の疲労は。交代要員の編制は可能か」
「はい!改良による効率化を行いましたので、補助班と調整班を発動班と交代させられます!今後はローテーションを組みます!」
「流石だ。魔具の補充は」
「はい!予備を合わせて充分な数があります!」
「素晴らしい。――では諸君!」
問いに答えた者に次々に目を移しては更に問うを繰り返した最後、王女はぐるりと全員の顔を見回して、勇者の武器を石床に突いた。
タァン!と高らかな音が響き渡る。
デッキブラシへの乱暴な仕打ちに魔術師長が小さく悲鳴を上げたが誰も聞いてない。
「召喚魔術陣には未だ起動に足る魔力があり、疲労の大きい人員は交代でき、消耗品の残数も充分であるという!であるならば!あと少し、ほんの少しのところで逃した成功を掴みに行く障害は他に何かあるか!!」
ふ、と息を詰めるような間を置いて、方々から「ありません」と応えがある。
「聞こえん!!」
「「ありません!」」
「声が小さい!!もう一度!!」
「「ありません!!」」
「それが我が国を救わんとする志高き者の気合か!?もう一度!!」
「「ありません!!!」」
「儀式の続行にに障害はあるか!?」
「「ありません!!!!!」」
「よろしい!!!」
王女はその蒼い双眸を煌めかせ、高らかに宣した。
「知恵を振り絞り最善を尽くして常に改良し続けよう!何度失敗しようと挑み続けよう!成就のそのときまで何度でも立ち上がろう!我らなら出来ると断言する!!なぜならこれまで既にしてきたことなのだから!!」
おおお!!!!
いつの間にか誰もが立ち上がり、熱狂的な眼差しを王女に注いでいた。
メンバーのテンションは良い具合に高まり、会場のボルテージはマックス。上り詰めたその情熱のままに、王女はデッキブラシを振り上げた。
掃除したてほやほやのブラシから水しぶきが綺麗に弧を描いて飛び、乏しい明かりを反射してキラキラと舞う。
「全員で勝利を掴み取るぞ!!!」
割れんばかりの雄叫びが儀式場をびりびりと揺らし、ドアの前で警備に立っていた兵士が腰を抜かした。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「そろそろ行くか」
闘真こと俺は、微かな朝焼けの兆しを空に見て、アパートを出た。
トレーニングウエアにスニーカー。
ウエストのベルト通しに部屋の鍵をキーホルダーでしっかりとめると、カバンも財布も持たず、ただ駅前で配っていたティッシュを左右両方のポケットにねじ込んだ。
まあ、重り代わりに要らないチラシやらなんやらを追加で詰め込んだが、ただのポケットティッシュである。
しかしこれが最も重要なのだ。
俺は真剣にティッシュをポケットから抜き、もう一度入れるを何度か繰り返して納得すると、部屋を出た。
日が昇る前の一番静かな時間を、試合前のような僅かな緊張感を抱えて軽く走る。
選んでおいたフィールドまでのジョギングは、ウォーミングアップに丁度良い。
そう、俺はこれから召喚魔法陣とやり合うのである。
これまで色々とあった。
バイト先のガレージに出現した後も、幾度となく召喚魔法陣は俺を拉致しようと出現したのだ。
この上ない身の危険だというのに、事が事なので公の機関に保護を求める訳にはいかず。
まともな相手に相談してしまうと病院を勧められるだろうことは目に見えているので相談もできず。
あれを目撃したバスケ仲間や店長は、証拠も残っていないので見間違いということにしたのか、意図的にあの話題を避けているし、何より俺が魔法陣に付きまとわれているなんて知られたら避けられてしまうかもしれないので黙っているしかなく。
さりとてすんなり真に受けて協力しようとするような人を探し出して相談するのは嫌だ。そんな人種は大概地雷だ。お近づきになりたくない。
必然的にひとりで対処するしかなかったのだ。ぼっち辛い。
幸いにして、出現パターンと対処法は掴めたので、今はそこまで恐怖ではない。
まず、あれは日中にしか出ないから、日の出までは安全だ。
次に、俺の周囲大体二メートルに人がいないときにしか出ない。
これは、別の人間を間違えて召喚してしまうことへの対策だと思われる。
バスケのときに、ぶっちぎりの独走なんかしなければあんな怖いことにはならなかった訳だ。
そして、ある程度の面積が必要だからか、やはり周囲約二メートルは壁がない場所じゃないと出現しない。
トイレや風呂、電車やバスに、人がいる教室なんかは安全地帯だと分かったのはデカかった。
更に、次の出現までには丸三日のインターバルがある。
三日空けての四日目、日中丸一日誰かと過ごすか狭い場所に居た場合、次の日にずれる。
ポイントは、『条件が揃ったら出現する可能性がある』のではなく『条件が揃ったら数分以内に出現する』ことだ。
決死の試行錯誤を繰り返し、以上のことを掴んでからは、都合の悪い日を避けられるよう早朝に『処理』することによって、日常生活を送れている。
処理法を確立するまでは長かったし辛かった。
あの試行錯誤の日々が走馬灯のように脳裏によぎる。
トラックが上を通ったり、バスケのボール当てたら消えたんだから、物理で消せるんだと思って、サバゲー会場でモデルガン借りてBB弾連射してみたことがあった。
近付けば近付くほど捕まるリスクが高いのだから、遠距離から壊す作戦だ。
すると、数限りなく出ては数秒で消えるド派手ゲーミング魔法陣は、BB弾を当てると面白いように砕け散った。
これは余裕だと鼻歌混じりに狙った本命魔法陣。
消えなかった。
弾切れになり半泣きでモデルガン本体を投げつけたら消えた。
モデルガンも消えた。
弁償せねばならず、その月の食卓から肉が消えた。魚も消えた。というか大体モヤシだった。
泣いた。
四日後、俺の傷心お構い無しに出現した魔法陣に、半ギレで自棄っぱちにカバンから掴み出した物を投げつけたら消えた。
投げたのはここ最近の辛いときの心の安寧を求めて持ち歩いていた、中学時代からの愛読書(文庫版初版・作家サイン入り)だった。
号泣した。
それからも、愛用のボールペンから買ったばかりのスポーツサングラス、部屋着の甚兵衛に昼食のフランクフルトまでの幾多の犠牲と悲しみと怒りを越え、魔法陣は俺が一定時間身に付けていたものを投げ込むと消えることが判明したのだ。
召喚してるやつはマジで一本残らずハゲろ。
東向きに開けた空き地。小さな工場と四階建てビルに囲まれたフィールドへ、本日最初の光が差す。
待ち受ける俺を照らし、背後の壁にまで長々と濃い影が伸びる。
この辺りに民家はなく、一番早い会社も始業は八時半を過ぎてから。
早朝五時前。静まり返った街に人影はない。
そこに、ふわりと異質な光が射す。
「っしゃ!かかってこい!!」
ひとつ気合いを入れると、勢いを付けて駆けた。足元を次々にカラフルな魔法陣が照らす。
俺が『襲撃』と呼ぶ魔法陣出現は、回数を重ねる毎に手強くなっている。
魔法陣の個数は増え、種類は増え、出現位置も俺の動きに合わせてくるようになり、本命の陣の面積も輝きも最初のものとは段違いだ。
今も走る闘真を追うように出現する虹色の陣が、不意にいくつかが進路を予想したように先回りして出現し、半透明な円筒形の壁を立ち上げる黄色魔法陣が行く手を阻む。
持ち前の反射神経で歩幅を変え、ひとつを躱しふたつ目を掠め、壁の横をすり抜けつつなんとか避けたが、速度が落ちたせいでついにひとつの陣に足を捉えられた。
「チッ!!」
足の真下に出た虹色はもう避けられない。脚にありったけ力を入れる。
ダン!
力を込めて蹴り付けると魔法陣はよりけばけばしく光り輝き、靴底にはまるで強力な粘着テープでも踏んだかのような抵抗を感じた。
それでも強引に足を上げて引きはがすと音を立てて砕け散る。
そう、このゲーミング魔法陣は、ド派手に目を惹いて集中力を乱し、さらには踏みつけた足に吸い付いて足止めするトラップなのである。
攪乱しながら機動力を削いでくるとは、これを作った奴は性格がド悪い。ハゲ果てろ。
「うおおお!!!」
もちろんそんなものに負ける訳にはいかない。
次々に出現する魔法陣の合間を縫い、踏めば無理矢理引き剥がして突き進む。
パン!パンッ!パン!!
足止めの魔法陣が砕けていく音を背後に、可能な限りの速度で駆け抜けるが、どうしても脚に疲労が溜まって加速しきれない。
そうこうしている内、前方に同時に三つの陣が出現する。それをすれすれで避けて進むが、今度は虹色が六つ。回避する進路を妨害するように黄色が三つ。
虹ひとつを踏み越えて進めばさらに虹十以上、黄が五つ。
やがて工場の壁際へ到達した頃、ついに数多の輝きに取り囲まれた。
大きく跳躍し、壁を蹴って飛距離を伸ばす。
ぶぉん
大きな機械でも起動するような音を立てて、真っ白な輝きが一瞬前に居た場所に出現した。
「来やがったな!!」
持ってきたポケットティッシュを放り込んでやればあの忌々しい白い輝きは消えるが、そこには当然リスクが存在する。
まずポケットティッシュは軽くて飛距離が短い。イコール至近距離まで接近しないとダメだ。
持ってきたティッシュはふたつだから、外せるのは一回。決して気は抜けない。
そして、無事命中したとしても、魔法陣が消えるまでには体感で約三から四秒のラグがある。
完全に消えるまでどうなるか分からないのだから、その間も触れるわけにはいかない。
まずはいくらかの距離を取りながら横目で確認する。歩くほどの速さではあるが、白い光は動いてこちらに近づいてくる。
三回ぐらい前からこいつは移動するようになったのだ。ほんとにやめろよこれ以上レベルアップするなハゲろ!!!
ふと、移動した白い魔法陣がゲーミング陣に僅かに重なっているのに気がついた。
――――まさか
「浮いてる!?」
嫌な予感に顔が引きつるのとそれが起こったのは同時だった。
キィン!と甲高い音が響き、ひと際眩しく輝いた魔法陣は、上へ腕を伸ばすように光の柱を展開したのだ。
「そんなのアリかよ!!!」
なんとついに魔法陣は二次元を超越し、三次元に至ったのだ。
さながら牛を拉致るUFOの上下逆版。異世界へのアブダクションそのまま過ぎて笑えない。
見た目からも戦慄する第二形態の光は最悪の未来を彷彿とさせる。捕まればキャトルミューティレーションとタメを張るえげつないことが起こるに違いない。
「飛び越えるのもアウトってズリィだろ!?…ってうぉお!!」
もろに片足が虹色魔法陣に取られた。第二形態に気を取られてつい真っすぐ走ってしまっていたことに気付く。
慌ててすぐに逃れたものの、ほんの少しの間に広場を覆うほどの夥しい数の魔法陣に取り巻かれていた。
「うっそだろ!?」
なんとかかんとか魔法陣の隙間につま先をねじ込んで移動を続けるが、ゆっくりとだが確実に追いかけてくる拉致魔法陣との距離が着実に縮まっていく。
「くっそ、眩しいんだよ!!」
地面を覆う光に照らされながら走り続けるのは、脚より先に目が辛い。
強い光を直視したときのような黒い染みが視界を徐々に狭めていく所為で魔法陣の境目がわかりにくい。
ラストスパートとばかりにギラギラと輝くゲーミング魔法陣と壁魔法陣が追い込みにかかり、仕留めるために逆UFO魔法陣がにじり寄る。
「ここでっ!負けてなんかやるかよ!!!」
俺は思い切り跳び上がり、壁魔法陣から発生する壁を蹴って白い光に急接近した。
「食らえ!!!!」
逆UFOをギリギリ掠め過ぎながら、指を引っかけるように引き出したポケットティッシュを投げ込んだ!
真っ白な光が溢れ出した。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
パパパパパン!!
連続で割れていく小さな魔術陣の群れ。
点いては消える強い光に一瞬毎に人影が照らし出される。
「観測分析担当チームより報告!起動時間、消滅時間共に揺れ幅は予測内です!引き続き観測を続けます!」
「補助魔術式担当チームより報告!目標追跡の追加式、第二十六案完成しました!次作戦での実装許可を求めます!」
「メイン召喚術式改良担当チームより報告!魔力負荷軽減の新理論、最終試験陣にて実用レベルにあることを確認!本儀式終了次第、召喚陣の書き換え許可を求めます!」
「よろしい。すべて承認する!」
いくつもの報告に、王女は鷹揚に頷いた。
儀式全体を見渡せる場所に位置取り、手にあるデッキブラシを地に突いて仁王立っている。
その顔にはなぜかスポーツサングラス。軍服の上から甚兵衛を羽織っていた。
眩しく明滅する魔術陣を見続けるには最適なのだが、偏光レンズの逆三角形タイプブラックサングラスはやたらいかつい。
さらにゆったり涼しい大きめメンズ甚兵衛をジャケットの上から羽織っている装いは、かっちりした軍服と相まってなんか強そうではあるが、全体的に異文化を勘違いした外国人のような前衛的コーディネートだった。
そんな服装でも実に堂々とした態度はそこはかとなく風格さえ感じさせて逆に天晴れ。さすが王家の血筋と言うべきか。
さもありなん。彼らにとって魔王を倒す宿命の勇者の装備(暫定)はこの上なく神聖な代物である。
それら最強装備(推定)を身に着けているのだから、ビジュアル的に難があるとは、着ている本人含め誰も思わないのだ。
異文化の常識が持ち込まれない限り何も問題はない秘宝(予定)なのだ!
チリチリチリ…
華麗なるイメチェンを遂げた王女は、不意に鳴り出した可憐な鈴の音に顔を上げると、音の元である傍らのテーブルを確認した。
そこには鈴の音を響かせる置時計が設置されている。
時間を読み取り、さっと片手を上げた。
「交代時間だ!」
応じて広間に蠢く人影の動きが変わった。
各自の受け持ち作業を一段落させ、やってきた交代人員に引き継いでいく。
そうして割り当てられた簡易寝台や軽食に向かって散っていった。
かつて荘厳だった広間もまたビフォーアフターが劇的であった。
休息が取れる仮眠場所が設けられ、食料や水を配布しているブースや、各班のミーティングスペース、研究機器を持ち込んだエリアに救護所も完備。
さらに召喚された物品の保管所と、おまけに大広間の入り口の上という最も目立つ場所には『根性(※現地語)』とデカデカと書かれた紙が立派な額縁に誇らしげに納まっている。
そう、もう五日目に突入する執念の勇者召喚大作戦は、長期化に対応して最低限の休息が取れるローテーション制勤務が取り入れられ、儀式場もまた機能的に作り替えられていた。
パァン!
今回もまた盛大に輝いた魔術陣は、ぽとりとひとつの小さなものを落として沈黙した。
遠目にも四角いシルエットはポケットティッシュである。
過去何度も召喚されてきた物品なので、回収の係の者はひと目で溶ける物でも崩れる物でもないと判断し、慣れた様子で手袋をはめると銀のトレーに恭しく乗せて運んでいった。
すぐさま陣の維持に書き換え、消費した魔力の補充と、手慣れた様子で作業を進めていく部下たちを見ながら、打合せを終えた魔術師長が王女に近付いてきた。
この長丁場は流石に老体に辛いのか、疲れから特大の隈が出ているが、年甲斐もなく目が輝いて口元は笑みを浮かべている。
「殿下!次の改良はワシイチオシの機能をやっと搭載できましてな!ご期待くだされ!」
どことなくウキウキと楽しそうな様子は、深夜テンションに近いがおそらくワーカーズハイ。
楽しく働けるのは良いことだが、疲労感が麻痺しているヤバい状態である。休んでおじいちゃん。
ご苦労、と返した王女は、素早く書き換えられていく陣や、組み上げられていく魔術、粛々と動く人員を見渡し不足がないか目で確認していく。
急遽開催されたオージョズブートキャンプにより伝授された軍隊式の動きは無駄がなく、人々に妙な一体感と充足感を与えて疲労感を吹っ飛ばしていた。
それは王女も例外ではなく、サングラスの下で隈が黒々とした顔で笑った。
「ここまで来たのだ。負けてなどやらん…!絶対に勝つ!いや、勝てる!ふふははは!!」
なぜか込み上げてくる愉快な気持ちに突き動かされて放った笑い声に、種々様々なつられ笑いがハミングした。
ギアがハイに入った現場の人々はそのおかしさに気付かない。
疲れた集団が醸し出す異様な雰囲気は扉の外の衛兵さんだけが感じ取り、集団で笑っていることを国王陛下に報告するかどうかを真剣に悩んでいた。
※※※※※※※※※※※※※※
五日に渡って行われ、絶賛継続中の粘りの召喚儀式では、膨大な数の魔術陣を作っては発動されていく。
その陣ひとつにつきひとつの光弾を生み出し、全てが打ち上げられた。
この国は魔王軍に狙われている最前線にあり、国家間の往来は規制中。
なので轟音は別にして人的被害は幸いゼロだ。
唯一被害を受けたのは、絶賛侵略行軍中の魔王軍であった。
最初の被弾からは部隊毎に散開してみたものの、それを読んだかのようなタイミングでの虹色魔術陣の導入により、小さい光弾が雨あられと降り注ぐようになったからたまったものではない。
召喚部隊は準備でき次第次の儀式を行っているので、当然のように爆撃間隔は不規則。
魔術での感知も不可能で、肉眼で確認するしかないのだが、音さえ置いていく速さで飛来するのだから、そんなもの来ると思った瞬間には来ている。
狙いすませてはいないが、数がとにかく膨大だ。当たるかどうかは神のみぞ知る。
着弾すれば恐るべき広範囲が吹き飛ぶエネルギーの塊は、さらにえげつないことに、魔術では防御が不可能。
魔王軍は混乱し、指揮系統も乱れ、士気は駄々下がり、数もどんどんと減っていく。
この事態に極悪非道と武力の代名詞、諸悪の根源である魔王は苛立ちを隠せなかった。
「腹立たしい!この魔術はなんだ!」
異世界召喚の副産物である。
「たかが人間ごときになぜこんなことができる!!」
意図したものではない。
「これだけの術、なぜ長期間打ち続けられる!?何か秘密があるに違いない!偵察はまだ戻らぬか!!」
極限に効率化された最低限の休息のみで回っているローテーション制という労働搾取の極地と、ワーカホリック労働者の集団ハイのなせる技なので真似はお勧めしない。
地の文で答えてみたが、これらの魔王の疑問には全て沈黙で返された。
居並ぶ幹部たちは魔王をしてこれと思う者を集めた精鋭だが、彼らさえも何の意見も推測も、うんともすんとも返せない。
それがまた魔王の怒りと焦りに拍車をかける。
今はまだ魔王軍優勢と言えるが、どんどん削られていく戦力に、有効な対抗手段どころかあれが何なのかも想像がつかない。
このままの状態が続けば、じり貧からの壊滅が待っているのは目に見えている。
「もう良い!!!我が直接叩き潰してくれるわ!!!!」
短気な魔王はキレた。
意味不明な現状にやけっぱちになった彼は軽く涙目のまま、儀式が行われている場所への転移魔術を組み上げ始めた。
召喚が行われている儀式場は重要拠点ゆえに幾多の守りの術が阻んでいるが、魔王は魔力に任せた力技で突破するつもりである。
こうして四天王とか総司令官とか個人的に雇った懐刀とかをすっ飛ばして、勇者の旅が始まってもいないのにラスボスが出動準備に入った。
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二世界をまたぐ召喚の攻防は益々激化した。
研究が進んだ魔術陣はどんどん魔力消費の低減が進み、様々な追加の妨害術式が盛り込まれていく。
それに負けじと闘真は体を鍛え抜いて対抗。
さらにはパルクールをはじめとした移動術までも学び出して、スタミナと身軽さに磨きをかけた。
中々召喚されない勇者を召喚すべく、召喚陣は回を追う毎に着々と魔改造が施されて、もはや召き喚ぶなどという穏やかなものではなく、対象を問答無用で追い込む、自立型移動捕獲機構と化した。
さらに対抗する闘真は効率的な体の動かしかたを独学で学び、あらゆるトレーニングを積んで体を育て上げていく。
その動きはさながら現代版忍者である。
建物の壁面を駆け上り、高所からの降下や垂直面の走駆を駆使して、小さなビルと広場からなるフィールドを縦横無尽に駆け抜ける。
国内トップクラスの魔術センスと頭脳に加え、ハイテンションでリミット解除されたとんでもアイデアをどんどん盛り込み、革新的な魔術陣を次々に繰り出す召喚部隊。
アクロバティック走法と磨き抜かれた技によるダイナミックティッシュ配りで次々に召喚魔方陣を仕留めていく闘真。
とうとう異様な雰囲気が王にまでバレて、大人の判断で箝口令が敷かれた結果、新たな城の怪談が生まれていたり、早朝散歩の人が発信した『空き地に忍者いる』がSNS上の一角を席巻したりが、当事者たちの与り知らぬところで起こっていたがそれはそれ。
次々に上がる斬新な意見を取り纏めて王女が笑い、トレーニングコースを最短時間で駆け抜けた闘真が吠える。
「「負ける気がしないな!!!」」
※※※※※※※※※※※※※※
無駄に粘り強くて真面目な両者は一歩も譲らず、激闘と言うにふさわしい攻防は続いていく。
回を重ねる毎に闘争本能は高まり、技術は磨かれ、動きも戦略も冴え渡り、陣の数は増え、駆け抜ける速度と距離は増していき、そして城からは連日連夜光弾が大量に打ち上がって近隣の住民が見物したりしていた。
「次用意!!!」
王女の号令で、ついに陣を描いた布を張り替えるだけという手軽さにまで進化した魔術陣がささっと取り替えられ、魔力が充填されていく。
「来るか」
以前の身軽な出で立ちにグローブを嵌め、広場にひとり影を黒く伸ばした闘真は、軽く手足を振って解しながら昇り始めた朝日を睨んだ。
儀式場に呪文の詠唱が広がり、魔術陣を仄かな光が辿り始める。
ぼんやりと光を乗せ始めた地面をスニーカーで蹴りつけ、しなやかに走り出す。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「第二百五十三召喚の儀開始ぃい!!!!」
「「「おおおおお!!!!」」」
振り上げられたデッキブラシを合図に魔術陣に光が満ちる。
そのとき、バァン!と破壊的な音が響き渡り、王女の丁度背後で空間が裂けた。
場を満たした異様な気配は、圧し潰す錯覚を起こさせるほどの強大な魔力。
現れたのが何者かを知る前に、魔術師たちは恐怖に縫い留められて凍り付いたように動きを止めた。
禍々しい気配を纏い、乗り出した黒々とした影は大柄な異形。
黒革の服、浅黒い肌に黒い髪。磨いた鋼のような光沢を持つねじれた角を振り立てて、魔王は赤い瞳で目の前の白い背を睨みつけた。
「小癪な魔術のっ「規律を乱すとは何事だあああああ!!!」
ばしぃいいいん!!!
寝不足メンタルで即ガチギレした王女の、振り向きざまのデッキブラシフルスイングが炸裂した。
カッッ!!!!
圧力も感じるほどの凄まじい光がデッキブラシから迸り、呼応したように展開されている陣が両界ともに同じ光量で輝いた。
そのとき起こったことは誰も理解できず、千年経っても議論を巻き起こしている議題となった。
こっそり解説すると、実はデッキブラシは間近で行われる儀式毎に発される謎エネルギーを浴び続け、その一部を少しずつ蓄積していた。
それが魔王を殴り付けた衝撃で放たれ、ついでに世界を跨いで展開されていた陣を誤起動させてしまい、繋がった両界を繋ぐ魔術陣から異世界からのエネルギーが流れ込んだ。
このエネルギーは玉のように纏まる性質があることと、その破壊力の程はご存知の通りである。
簡単に言うと、魔王に異世界原産の謎エネルギーが直接叩き込まれたのだ!!
ゆっくりと光が弱まり、消えていく。
破壊的な衝撃が直撃した魔王は、登場時のセリフも言わせて貰えずにボロ雑巾のように床に倒れ伏し、ついでに閉じていく空間の裂け目の向こうでは見えないところで余波を食らった魔王軍幹部陣が全滅していた。
「………」
王女は急に現れた異物をじっくり眺めて、寝不足の頭でこれは何かを見極めようとしたが。
「……?」
疲れが溜まった頭ではわかんなかった!
首を傾げて『これはなんぞや』と更に考えてみたが、召喚儀式の方向へ全振りしていた頭は急な方向転換ができずに考えがまとまらない。
倒れ伏したポーズが、室内にカサカサ出没しては悲鳴を上げられまくっている例の虫の叩き潰されたやつに似ててなんか嫌だなぁとか思っていた。黒いし。
「で、殿下!ご無事か!!」
やっと解凍した魔術師長が駆け寄る。
王女が無傷であり、ついでにファンキーな衣装もひと揃い汚れも欠けもないことを確認して胸をなでおろした。
「儀式場に侵入するとはなんという…?!」
横目でちらっと倒れた黒いのが動かないのを確認し…二度見した。
「ま、ま、魔王!?」
「マオウ?…魔王!?」
やっと再起動した王女が黒い何かを確認する。頭にある特徴的な角にやっと気が付いて息を飲んだ。
その間十秒。ちょっと遅いが中々頑張った方である。
その頃には他の魔術師たちも動き出して、恐る恐る黒いのもとい魔王を覗き込んでは驚いていた。
「そうか、思い切り殴ってしまったがあれは魔王だったのか…ん?魔王を倒した…のか?ということは、儀式は、終わりか…?」
戸惑うような一瞬の沈黙の後、そこら中がざわっとした。
彼らは真の目的を思い出した。
いつの間にか勇者召喚こそが至上命題になっていたが、何を隠そう召喚の目的は魔王を倒すことだったのだ!!!
つまり、魔王を倒したのだからもう召喚はしなくて良いのだ!!!
「――勝った…!!?」
歓声が湧き上がった。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
昇る朝日を受けて、闘真こと俺はじっと地面を見下ろしていた。
所々こびりつくように雑草が生えているが、大半は土と砂で出来た地面は、元は公園だった場所だ。
遊具が撤去されてただの広場になったその場所は寂れてどこか物悲しいが、全く普通の地面である。
そう、全く!普通の!空地だ!!
ごくりと唾を飲む音が大きく聞響いたような気がした。
固唾をのんで見守るが、昨日と一昨日と同じく、日に照らされた地面はやはり普通で、光る色々が出現したりはしない。
もう三日も前になるのか。実感がわかないが、あの日もいつも通り魔法陣と追いかけっこをするつもりだった。
だが、魔法陣が現れたと思ったらすぐ、ティッシュを放り込んだときよりもずっと強い光を発して消えてしまった。
もう年単位で戦ってきたが、あんなのは初めてで、しかもそれから魔法陣はぱったりと現れなくなった。
イレギュラーな魔法陣の消滅。
それから再出現はない。
とくれば。
「……勝った!!」
こうして、俺は召喚魔法に粘り勝った。
もちろんそれから妙な魔法陣が現れることはなく、常識から逸脱することがない日常が戻ってきたのだった。
めでたしめでたし!
おまけ
<登場人物の設定と本編後>
◇渡来闘真
当作品の主人公。
運動神経が良く、読書が趣味で勉強もできる上に友人も多くてリーダーシップもとれるまさに召喚勇者に相応しいスペックの青年。
実際召喚されていたら勇者として王道シナリオをこなして魔王討伐したと思われる。
そのハイなスペックをフル活用して召喚に抵抗した。
本編後、SNSから広まったのかスポーツ業界からアクションアクターまでの多くの勧誘が来たが全て蹴ってバイト先にそのまま就職した。
就職理由を「一番辛いとき、店長が何も聞かずに奢ってくれたラーメンに救われたので」
と、コタニ屋の手作りTシャツを着て出場したSA●UKEの完全制覇者インタビューで語った。
◇王女
まだ幼い弟に代わって国を支えるべく、軍に所属する責任感の強い女性。ちなみに18歳。
流石に戦う技は実戦レベルにはないが、戦術立案や指揮の面で才能が開花。他の将校と比べても遜色ない指揮官として一目置かれている。
基礎訓練は他の兵士に交じって参加する几帳面さと、見た目に似合わず意外と体育会系だったことで軍部の支持が厚い。
本編後、魔王を倒した救世主として有名になってしまい、各国の猛者から求婚が殺到した。
二年後、王室籍を返上して五つ年上の自国の書庫管理者と電撃結婚。
「彼と一緒にいるときは普通の女の子になれるのです」と幸せそうに語ったインタビュー記事は話題になり、『私の前では普通の女の子になってほしい』と告白するのがブームになった。
◇魔術師長
魔術の実力と知識、冷静で温和な人柄と人望を併せ持つ賢者と名高い老爺。
国王の信任も厚く、王女と共に勇者召喚の儀を指揮した。
実は魔王の侵攻がいよいよ始まるときには王子と王女を逃がすように密命を受けていた。
本編後、なぜか抜け毛が増えて半年で一本残らずハゲた。
調べてみると正体不明の呪いがかかっており、「呪われるような人物はこの地位に相応しくない」として、五十年連れ添った妻と共にルンルンと温泉地に移住した。
◇店長
『ママチャリから大型バイクまで二輪車販売と修理のコタニ屋』店長。四十二歳。
苦学生だった過去を持ち、バイト店員への教育は丁寧で面倒見が良い。ちょくちょく夕食を奢ってくれるので、学生にとってはありがたい人物。
本編後、闘真を正式に店員として採用。闘真がSASU●Eで完全制覇して店の宣伝をしてくれたお蔭で業績は順調に伸びてご機嫌だが、中学生になる娘が反抗期に入って口を利いてくれないのが悩み。
◇デッキブラシ
本作で一番出世した聖なる武器。
年末のワゴンセールで格安で買われてコタニ屋のガレージを長いこと磨いていたが、そろそろ買い替えを検討されていた。
魔王を倒した後は甚兵衛、サングラスと共に神殿で厳重に保管され、後世の研究者を唸らせている。
◇魔王
本作で一番可哀そうなキャラ。
当代最強の魔力に、瘴気を使った搦め手もお手の物な頭脳と、多くの配下を従えるカリスマ性をも併せ持つ悪逆非道の代名詞にふさわしい魔族。
普通に戦ったらチート級の強さの設定なのになぜか登場時のセリフを言い切る前にデッキブラシで叩き潰されてしまった。
正直すまんかった。
読んでくださってありがとうございました!