電車の前に飛び込む物達
大勢の人が電車を待っていた。
人以外の物も同じように電車を待っている。
ホームの先端近くにいる者や物の目に電車が近づいて来るのが映った。
電車がホームの前に滑り込んで来た時、電車を待っていた物が電車の前に飛び込む。
電車を待っていた者達から悲鳴が上がる事は無い。
次々と電車の前に飛び込む物の姿は見えず、血が迸り電車やホームが血に塗れる事も無いからだった。
電車の前に飛び込む物達の目は恐怖で見開かれている。
者から物に変わった初めて電車の前に飛び込んだ時は、恐怖を感じていた時間は0コンマ数秒だったのに、今はスローモーションのように恐怖を感じている時間が引き延ばされていた。
痛みも同じ、電車の前面で頭が弾けた時の痛みも者から物に変わった時は一瞬の痛みで、直ぐ意識が無くなる。
それなのに今は意識が無くなるような事は無く。
弾けた時の激痛を感じ続け、車両の下に巻き込まれ車輪で肉や骨が細切れにされる痛みが全身を貫く。
電車がホームの前に止まり大勢の人が乗り降りした後、電車はホームの前の線路上に傷一つ無い物達を残してホームの前から走り去る。
線路上に残された物達の耳に地獄の鬼の怒鳴り声が響く。
「次の電車が直ぐ来るぞ!
もたもたしてないで動け!
電車の前に飛び込み、自殺したお前達に閻魔大王様から下された罰は続くのだ!
サッサとホームに上がれ!」