俺の前に立つんじゃねー! 後ろにも立つんじゃねー! 横も駄目だ! ……じゃあ一体どうしろと
実話を元にしたコメディですので、多少オーバーに表現していたりします。くだらないのが売りです。
おい……! 何でだよ。
俺は今日も書店で嘆いた。
遠目から見た時には誰も居なかった天文学コーナー。それなのに、俺が来るのを見計らった様に人が現れて独占し始めた。
仕方がないので遠目から順番待ちするが、何だか監視しているようで申し訳ないので辺りをぶらつく事にした。
俺が気になったコーナーには必ずと言っていい程、先客が居る。特別に人気がある訳ではなく、どちらかと言えばマイナーだ。
今日こそは大丈夫だと思ったのに。
これだけ時間を潰せば、奴はもう満足して立ち去っているだろう。
天文学コーナーに戻ってみると、思った通り誰も居なくなっていた。
よし、これで俺は一人優雅に満天の星空の中で寝転ぶ事が出来る。
本を手に取り開くと、美しい星の世界へ誘われた。
星は良い。ファンタジー作品よりもファンタジーで飽きない。俺達が居る宇宙こそがファンタジーだ。
俺は理数系にとことん弱くあまり理解出来ない記述もあるが、それでも胸の高鳴りは抑えきれず、ずっと興奮していた。
あぁ、いつか宇宙に行ってみたいな。
遠い遠い幻想的で未知なる場所へ思いを馳せていると、背中に鋭い何かが突き刺さった。
刃物とか、そんな物騒な物ではない。
これは――――視線。目に見えないそれはかなり強力で、俺は戦慄を覚えた。
無言の圧力に負け、あっさり背後に居た人に場所を譲ってしまった。……ふりだしに戻った訳だ。
また俺は辺りをぶらついて、奴が立ち去るのを待った。
そうして、誰も居なくなった天文学コーナーに辺りを十二分に警戒しながら戻った。
今度こそは大丈夫そうだ――――と書籍に手を伸ばした途端、すぐ側から気配を感じた。
そのままの状態で恐る恐る首を横に捻ると、人が居た。
コイツ、いつの間に!?
じっと動かないその様はハシビロコウみたいだった。獲物は恐らく、俺の目の前に並ぶどれか。もしかしたら、俺が今触れている物なのかもしれない。
とにかく、隣人は至近距離で俺が立ち去るのを待っている。
勿論俺は本から手を離し――――立ち去った。
無言の圧力には弱いのだ。
心が満たされないまま、俺は今日も書店から立ち去った。
俺の前に立つんじゃねー!
後ろにも立つんじゃねー!
横も駄目だ!
……じゃあ一体どうしろと。
その答えは実に簡単だ。俺と仲良くすればいい。つまりは同じ趣味を持っているって事だからな!! とか言いつつ、初対面で気さくに話し掛けられるようなフレンドリーさは残念ながら持ち合わせていないので、いつまで経っても書店で嘆いているのだった。
誰もが1度は似た経験をした事があるはず。