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鳥なき島の蝙蝠


「もし、そこの方、マップはご入用ではありませんか?」

「はぁ?」


 突然、裏路地でオレに声をかけてきた妙ちきりんな格好のガキ。こんな人目につかないような場所でオレに声をかけてくるとは、よっぽどの命知らずと見える。


「なんだお前? オレに何の用だよ」

「いえ、マップはご入用ではございませんか?」

「マップだぁ……?」

「ええ、マップです。所謂地図のみならず、あらゆる図、見取り図、路線図、回路図、グラフなどなど……」


 ……意味わからん。くだらないものを売りつけてくんなら、多少脅して追っ払おうと思ったが、コイツはまず何をオレに売りつけようとしてんだ?


「……そんなわけの分からんもの、オレは要らん。今気が立ってんだ、近寄ってくんな」

「わけの分からないものではございませんよ、マップです」

「だからそれがわけの分からんものだって言ってんだよ」


 ……オレをイライラさせるのが上手いガキだ。そもそもオレにこんな変なヤツに付き合ってる暇はない。そこそこの規模の窃盗団を率いる身のオレだが、最近どうにも収穫が芳しくない。そろそろ大金持ちの家の1つや2つにでも忍び込み、デカい戦果を挙げないと部下の不満を解消できそうもない。こんなヤツにかかずらわってる暇があるなら……


 ん? 待てよ、コイツ……


「おい、今見取り図って言ったな?」

「はい、そういったものも取り扱っております」

「なら……この街の外れに建ってる無駄にデカい豪邸の見取り図はあるか?」

「あのお屋敷ですか? ええ、勿論ございますよ。こちらでございます」


 そう言うと、ガキはカバンから大量の紙束を取り出すと、その中から数枚の紙を選び出してオレに見せてきた。

 ……確かに見た感じ、外から見た豪邸の様子と大体一致する。しかもご丁寧にも監視カメラの配置や警備員の詰所の場所まで描き込んでやがる。コレは中々使えそうに見えるが……


「……お前、どうしてこんなの持ってんだ? それになんでオレにこれを売りつけようとしやがる。まさかワナじゃねぇだろうな?」

「おや、とんでもございません、罠だなどと……勿論証明することはできませんが。私はマップが必要な方にそれをお売りするだけ、それ以上でもそれ以下でもございません。それに、私がお客様を罠に嵌めるメリットはございませんでしょう?」


 ……まあ、警察にしてもオレを嵌めるならもっと自然な方法でやるか。それにあれだけの豪邸、うまいこと忍び込めれば相当な収穫が期待できそうだ。


「……それ、いくらだ?」

「お買い上げになられますか? ですが……本当によろしいですか? 一度深呼吸をして、考え直される方がよろしいかと……」

「何言ってんだ? 考え直す? お前地図屋だろ? 地図屋なんだから地図売らなくてどうすんだよ!」

「いえ、正確には地図屋ではないのですが……まあ良いでしょう。それでお値段ですが、ふむ……50万円きっかりで如何でしょうか?」

「チッ、ホントにワナじゃねぇんだろうなぁ……」


 オレの今の手持ちをほぼピッタリ当ててきやがって……だが上手くいけば50万くらい安いもんだ。オレは有り金をそっくりガキに放る。


「ホラよ、釣りはいらん」

「失礼して……確かに。ではこちら、お渡しいたしますね。ご利用ありがとうございました……お気をつけて」


 次の瞬間、オレの目の前にいたはずのガキは、煙のように消えてやがった。だけど、あの豪邸の見取り図はちゃんとあったし、オレの50万は影も形もなかった。







 次の日の夜、オレは手に入れた見取り図を元に計画を練り、部下を引き連れてその豪邸に忍び込んだ。とはいえ、部下も事実上どこから手に入れたかわからん代物に頼るのを嫌がったが……オレの手持ちは見取り図を買ったせいでスッカラカンだ。強引に計画を進めた。


「兄貴……ホントに大丈夫なんでしょうねぇ……」

「まだ泣き言言ってやがんのか、嫌なら外で待ってろよ。モチロン、その代わり分け前はゼロだがな」

「うぅ……わかりましたよ、やりゃあいいんでしょやりゃぁ……」


 どうせワナだったらオレも一巻の終わり、もう開き直るしか方法はねぇ。50万も叩いたんだ、役に立ってもらわなきゃぁ困る。オレは部下の尻を蹴っ飛ばしながら、手筈通りことを進めた。

 驚いたことに、あのガキから買った豪邸の見取り図は寸分違わず、監視カメラも警備員もアッサリスルーできた。そして、1番奥の部屋の金庫を開けると……


「お、おぉ……!」

「スゲェ……スゲェっすよ! これ売っ払ったら、オレたち大金持ちッスね!」


 そこには大量の宝石や金塊がギッシリ詰まってやがった! こんだけありゃあ、部下と折半しても当分は遊んで暮らせる……! あのガキにゃ感謝しないとな!







「ゼェ……ゼェ……クソッ! なんてこった……」

「おや、この間はお買い上げどうも。お役に立ちましたでしょうか?」

「アッ!? あん時のガキ……! お役に立ちましたか? じゃねぇよ! お前、あの豪邸に住んでんのがここら一帯を取り仕切ってるドンだって知ってやがったな!」


 あの豪邸から盗み出した金塊や宝石類が、よりにもよって密輸した直後のヤツだったとは! 何食わぬ顔で売り捌こうとしたら、持ち込んだとこの店主がサツ呼びやがって……!


「お前のせいでサツに追われる羽目になったじゃねぇか! どうしてくれる!」

「私のせいとは心外ですね、私は貴方にあのお屋敷の見取り図をお売りしただけ。そもそも私は貴方がその見取り図を何にお使いになられるかはお聞きしておりませんが?」

「何言ってやがる! 金持ちの家の見取り図使ってすることなんて1つしかねぇだろが!」

「何か勘違いしていらっしゃるようですが……私はマップをお売りするだけ。お買い上げになられたお客様がそのマップをどのようにお使いになられるかは、私の感知するところではございません」


 この……! 澄ました顔しやがって……!


「でも知ってはいたんだろ!」

「ええ、勿論。あの方も私の大事なお客様ですので」

「お客様……? まさかアイツが成功したのは!?」

「ご想像にお任せします。ですが私に詰め寄られましても、近所の方に尋ねられれば恐らく噂程度でも知っていらしたでしょう。盗みに入られる前に、多少なりともお調べにはなられなかったのですか?」

「ぐぬぬ……」

「まあ、私には関係のないことですが。それよりも、このような場所で油を売っていらしてよろしいのですか?」


 そうだ、オレは今まさにサツに追われてる身、こんなとこでボーッとしてる場合じゃない。


「チッ、どうにかサツを撒かないと……」

「おや、本当に警察から逃げ切るだけでよろしいのですか?」

「はぁ? お前何寝惚けたこと言ってんだよ! サツに捕まってたまるか! テメェ、俺の居場所バラしたりなんかしてみろ、そん時ゃ覚悟しとけよ!」


 とりあえず部下と合流して、少なくとも隣の県まで一旦逃げるしかねぇか……こんなところで終わってたまるか! オレは絶対サツから逃げ切ってやる!







「□□市で男性の射殺体見つかる


 昨日午後8時頃、○○県□□市◆◆で、銃声のような物音がしたと複数の110番通報があり、警察が駆けつけたところ、◆◆の路地裏で男性の射殺死体が発見されました。

 男性は数日前に発生した窃盗事件の犯人として……」


「お忘れのようでしたけど、あれだけ大騒ぎになったのだもの。警察から逃げ切れたとしても、盗まれた被害者の側が何もしないはずがないでしょう。警察に捕まった方が、少なくとも身の安全は保障されたでしょうに……


もっとも、これであの方も遂にお縄につくことになるでしょうね。良きお得意様ほど消えていくものね……」

窃盗罪は最高で10年。死より軽いとはいえ、皆さん、万引きなどくれぐれもなさらないよう……

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