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尖んがりジプシーの航路  作者: 下市にまな
第四章 ニューエイジ襲来編
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予兆

『どうや、調子の方は?』

 櫂は携帯電話に出た村下に問いかけた


あの会議での1件が原因なのかは不明であるが、森田チームに任される展示会場は尽く片田舎の小さなショッピングセンターが中心となっており、名目上は売上達成困難な集客力乏しい会場を何とか死守して欲しいと言う事であったが、本来の達成率上位チームに責任のある大会場を割り振ると言うルールは撤廃されたかの様な扱いである。

加えて、大会場を任される頻度が増した棚橋・越口チームには、会場キャパに対する人員不足を理由に各チームからの主任クラス社員の増員が決定され、森田チームからも応援人員として村下がチームを離れた単独業務となっていたのである。


(こちらの会場は顧客来場率がやたら高くて配券は不要な位ですよ・・僕の事は心配しないで下さい・・こっちで森田チームの数字を積み上げますから)

 コウ・カタヤマ程の知名度は無いにしても、村下が派遣されている展示会はワールドアートが扱う他作家のサイン会が催されているのである。

電話口で意気揚々と話す村下の言葉を聞きながら、新規契約者に拘る櫂は小さな胸騒ぎを覚えていた。


村下の派遣は営業推進部からの名出し指名であった・・・経営陣がメンバーを選択したと言う。

派遣社員を出す各チームにも同様の要請があったらしい・・・

櫂のチームは誰が抜けようが戦力的に会場達成率を落とすような事は無いが、今回の指名には意図的な陰謀を感じるのである。


心理的にブレの少ない伊上・市田と比較すると、村下には若干の精神的な弱さがあるのも事実である

最近では市田・鎌谷の成長による大きなプレッシャーで、櫂を支える補佐役としての存在感を気にしていた事を櫂も気付いてはいたのだ。

『村下・・・森田チームのプライドである営業の正義に対してだけはブレずに踏ん張るんやぞ!』

(あっ、お客さんが来場されたのでこれで失礼します!)

 櫂の携帯電話から漏れ聞こえる程の活気に満ちた村下の声は、チームに対してのプレッシャーから開放された喜びを満喫しているかのような軽いものであった。


『森田課長、大丈夫ですよ村下主任なら!・・それより華ちゃんの商談が佳境に入ってます』

 徐に声を掛けて来たのは市田である。


《市田め~・・俺を読みやがったな!》

 他のどのメンバーよりも心理を読む感性を伸ばすスピードの早かった市田が、笑顔で櫂を会場内に促す様子を見ながら櫂は胸騒ぎを払拭させた。

《そうなんやな~・・野生育ちの市田に比べると、村下はスポーツ畑の世間知らずなんや・・信用するしか無い!・・・巻かれるなよ村下!》

 櫂は自分にそう言い聞かせながら会場内へと向かった。


『切れ味良えやないか!』

 下田華子の成約を決定して、商談から出てきた櫂に開口一番にそう言ったのは河上であった。

河上の横では井筒も一緒に笑顔を此方に向けている。


『あれ?・・今日は棚橋・越口チームのサイン会には行かないんですか?』

 片田舎の小さな展示会場に姿を現した河上に怪訝な表情で櫂が尋ねる

『おう、向こうの会場は中山社長が采配を振るってはるわ・・・儂にはその間に輪店指導で各会場を廻ってくれとの事でな・・まあお前の所は心配はしとらんがな』

 河上はそう言うと井筒を見た

『どうされました?』

 何かあると感じた櫂は即座に質問を返した

『おう、井筒がな・・・どうしてもお前の会場にも寄って行きたいと言うもんでな・・』

 河上が言い終わると、井筒は一歩櫂に近づいて目を合わせてきた

『私、来月から九州・東京地区の専属担当になります・・・今日位しか挨拶出来ないと思ったので』

 言い終わった井筒の目には決意が込められている


《やっぱりそう来たか・・・支社は撤退させず・・・》

 峰山の失踪以降、井筒への辞令も時間の問題であろうと予測していた櫂は井筒をしっかりと見返した。

言葉は無くとも、井筒の決心は伝わってくる・・・井筒の目はやり遂げてみせると語っていた。


『櫂、ワールドアートは転換期やな・・・』

 多くを語らない櫂と井筒を眺めながら、河上はしんみりと漏らした。


この時は誰も明確な今後が見えてはいなかった・・・

只、見えない力がジワジワと自分達の未来を締め付けてくるような圧力だけは察知出来る。

それは経済環境の変化などではない・・

狡猾な蛇が少しづつ捉えた獲物に力を加えながら締め付けてゆく様な不快な圧力である。


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