入社式
ワールド第1ビル会議室には緊張の面持ちで入社式を待つ50名の新卒採用社員が犇めいていた。
社会人1年生となる50名は期待に胸を膨らませて今日という日を迎えたのである
パイプ椅子に着座する新卒社員の後方には、初めての新卒社員を迎え入れるワールドアート課長陣が、やはり緊張の面持ちで社長である中山のスピーチを待っていた
『何をニタニタと新卒社員を眺めてるんよ! 変態課長が居ると思われるやろ!』
櫂の横に立つ林葉が叱責口調で睨みつける
『やっぱ50人ともなると、 癖のありそうなのがおるぞ!』
子供のようにはしゃぐ櫂を、今度は壇上の河上が睨みつけた
櫂は肩を窄めてから、もう一度自分と一緒に並ぶ課長陣を見渡す
《九州も新課長が誕生か~ 東京にも吉村と新課長が2名・・関西が総勢8名や・・50名中の10名程度は九州・東京地区出身と聞いているから、関西は40名・・1チーム辺り5名の増員って感じやな・・・・なかなか重たい人数やけど白黒は早いやろ・・》
『だから・・ブツブツうるさいって!』
林葉は小声でそう言うと肘で櫂の腕をドスリと突き刺す。
言い返してやろうと思ったが、中山のスピーチが始まってしまった事でそれは叶わなくなった
『ワールドアートは業界のグローバルスタンダードを目指して・・・』
社長の中山は意気揚々と50名の社員にスピーチを浴びせ続けたが、後方の課長陣は聞かなくとも暗唱出来る位に繰り返し聞いてきた内容である。
《もう新卒社員の顔は見たから、早いとこ自分の受け持つ会場に帰らせてくれ!》
新卒社員のチーム配属は河上の実施する研修後となる事から、早くとも10日は先の予定となる
どのチームに誰を配属するかも、経営陣である部長以上が勝手に決める事だ。
《桝村課長と荒堀課長辺りが代表で参加すれば良かったんと違うんか? 何で課長陣全員が父兄参観みたいにボサ~と突っ立ってないかんのや》
櫂は律儀にも神妙な表情を作って、自分と並び立つ課長陣を見ながらもう一度、帰りたいと呟いた
既にこの時期を迎えた森田チームは、売上進捗率では不動のトップであった桝村チームとトップ争いを繰り広げるまでに成長しており、櫂は自分のメンバーにまだまだ成長させられる伸び代があるとも確信していたのだ。
そういう意味では1分1秒でも、メンバーの成長に関わっていたいのである
『・・・君達新卒社員が切磋琢磨し、未来のワールドアートを共に創ってゆく素晴らしい力を掴み取ってくれる事と信じています』
大きな拍手と共に、ようやく中山のスピーチが終わった
尚も緊張が和らがない新卒社員は姿勢を固めた状態を崩さずに前を向いたままである
《俺もほんの数年前は社会人1年生やったんやな・・・》
櫂は一瞬そんな事を考えたが、自分のチームに配属されるであろう誰かさんにも、この仕事を選んで良かったと思ってもらえるように全力で育成に取り組もうと自分自身の責任を再認識した。
『これを持って新卒社員総勢50名の入社式を終了する』
河上のこの言葉を待ってましたとばかりに櫂は会議室の出口へと急いだが、他の課長陣は新卒社員との交流を深めようと声を掛けて回っているようだ。
『森田君、もう会場に戻るの?』
急ぐ櫂の後ろから林葉が呼び止める
『おう、メンバーが待ってるんや! いやっ・・・アイツ等・・羽を伸ばしてるか? 兎に角、俺は数字を追うほうがここに居るよりも楽しいわ!』
櫂は満面の笑顔で振り向くと、林葉に拳を挙げて見せると姿を消した
一瞬林葉の表情がいつもと違っていた様にも感じたが、気持ちの逸る櫂は先を急いだ。
林葉は櫂を呼び止められなかった自分を未熟だと感じていた・・・
不死鳥の如く安定感のあるチームを創り上げてトップに躍り出た櫂と、売上達成率を死守する事に未だに必死に藻掻いている自分に大きな距離を感じる。
櫂のように満面の笑顔でメンバーが待っているとは言えそうも無い・・・
自分には常に自信を持っていた・・いやっ、自信を持つ為に人並みならぬ努力をして来たと自負出来る
只・・部下にはそれを上手く伝えられない・・負けじと踏ん張れない部下に苛立ちを覚える度に孤独が増してゆく
《あいつに聞いてみたかった・・・・・違う・・聞いて欲しかったんかな?・・・私も甘い!・・もう一度、立て直しを図ろう! 私に負けは無い!》
林葉以外の課長陣の心にも揺らぎはあった・・数字に追われるプレッシャーの毎日・・部下の期待外れの接客・・・営業マンとして戦った主任時代はいつも数字を追っていた筈である・・
誰もが胸を圧迫するような重圧を抱えていたのである・・
初めての新卒社員の大量配属が目の前に迫っている・・・笑顔の課長陣は期待と不安を混在させていた。




