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尖んがりジプシーの航路  作者: 下市にまな
第三章 チーム築城編
76/160

ビビビ

 荒堀チームは久しぶりの合同催事に参加する事となった

チーム順位が上がればそれだけ責任の伴う大型催事への参加権を獲得出来るのだから当然であろう。

だが、これも上位チームと下位チームの差が埋まらない一つの要因でもあると櫂は考えている。


《まあそれよりも、今回は久しぶりに林葉・牧野チームとの再開や・・・楽しそうや!》

村下も順調に行けばコンサルタントセールス確定と、1ヶ月目の主任基準到達をクリアする会場となるだろう


 搬入の為に会場に到着した櫂は、既に先着していた林葉と牧野に再開した

『森田君、久しぶり・・売りまくってるやん!』

 牧野は屈託ない笑顔で到着したばかりの櫂の肩を叩いた

『ドテ腰は回復したんか?』

 暫くぶりの林葉は何となく恥ずかしそうに悪態口調で尋ねた。

『もう回復を通り越して絶好調や! 今の荒堀チームは強いぞ~』

 櫂は不適な表情で林葉と拳を合わせた。


林葉の後方では興味津々で櫂を観察する林葉のチームメンバーであろう集団が挨拶のタイミングを待っている

『初めまして荒堀チームの森田です、宜しくお願いします』

 ざわつく挨拶を避けたいと櫂は自らその集団に丁寧に挨拶をした

『うわ~、宜しくお願いします!』

 林葉チームは女世帯らしく、それでもざわつく歓迎は避けられなかったが、そんな集団を林葉がひと睨みする。

『あんたら、挨拶が済んだらサッサと搬入に取り掛かりや!』

 林葉のその一声で集団は一気に静まり返り、波が引くように会場内へと姿を消した

《林葉も課長の貫禄が出てきてるな~・・・ちょっと怖がられてるな》

 櫂は雰囲気の変わった林葉を眺めた


『ああ、そうそう・・荒堀課長は中途採用の新人と一緒に後で合流しますんで』 

櫂は牧野と林葉にそう伝えてから、自分もチームメンバーを引き連れて会場内に向かった


『河上部長も来るかもね?』

 牧野が神妙に腕組みをする

『はい、採用業務に追われているとはいえ、大型催事の初日ですからね・・多分、荒堀課長達と一緒に来場って可能性は大きいですね』

二人は顔を見合わせて、鬼の河上の来場に備えて不備の無い様に気持ちを引き締めた。


ワールドアートの達成率は毎月100%を何とかキープする状態が続いており、河上も上位チームの売上に対しては厳しい目を光らせざる負えない状況であった。

下位チームに厳しく接してもそれに答える力量が無いのである、組織全体のアンバランス化は指導者としても周知しているが、拡大路線は下位チーム修正に時間を注ぎ込む隙など河上に与えるはずもなく、不本意ではあるが今回のような大型催事で、達成率を大きく伸ばさなければ穴埋めが効かないのである。


《もう直ぐ新卒社員が大量に入社してくるのに、まだ採用業務を継続してるなんて・・》

林葉も所帯が膨らみ続けるワールドアートの現状がどうなってゆくのか想像もつかないままであった。



『川垣! 久しぶり~!』

 櫂が遠目に川垣を見つけて声を掛ける

『森田主任!!』

 大声で驚いた川垣は、転がるように櫂の元に走り寄ってきた

『お久しぶりです! もう大丈夫なんですか?』

 何とも愛嬌のある表情で川垣が尋ねる

『おう、川垣も主任に昇格したんやろ~ 俺と一緒の立場や! 勝負やぞ~』

『勘弁して下さいよ~ 森田主任と勝負なんて恐ろしい・・』

『アホ! そんな甘い事を言うてるから プクプクと太るんやぞ!』

 一回り大きくなった川垣の腹を、櫂はニヤニヤと笑いながら突ついてみせた。


《森田主任は不思議な人やな・・・》

 到着してからの一連の流れを、櫂の後方から眺めていた村下は率直にそう感じていた

あまりにも深く櫂を知る人と、全く櫂を知らぬ人に囲まれながら殆ど態度が変わらないままである

《そう言えば僕も森田主任の過去の話しは聞いた事が無い・・・知らないままや・・》

 今度聞いてみようとも考えたが、答えは直ぐに想像出来た

《過去なんかより今や・・・そう答えるに決まっている》


この会場では荒堀チームに村下の後輩となる新たな新入社員が配属される予定である

村下が見据えたのは自分の主任昇格基準のクリアである・・・それが櫂との冒険に必要な最優先事項であるという事を再度確認して燃え上がるものを感じる


『村下~、こいつがもう直ぐお前が抜き去るべき川垣や! 負けるんやないぞ、この太っちょを懲らしめてやれよ~』

『ちょっとちょっと~、太っちょは要らないでしょ~』

 川垣も櫂に突つかれてズボンからはみ出したワイシャツを直しながらむくれて見せる

『悪かった、ゴメンな・・・お母ちゃんに言わんといてな』

 更に川垣を誂う櫂を村下は呆れ顔で傍観するしかない


『お母ちゃんは怒ってますけどっ!』

 突然の後方からの声に振り向くと、会場入口で井筒が仁王立ちで此方を睨んでいた。

おまけに井筒の後ろには河上と荒堀までが揃ってニヤニヤとこちらを見ながら立っているではないか

『櫂、えらくエネルギーが有り余ってそうやないか』

 河上が鋭い目を向ける

流石に村下もこの状況には固まるしかない、鬼の河上部長の登場に緊張しない者などいないのだから


『あ~はい、すいません・・・じゃあ川垣君、村下君・・真面目に搬入に取り掛かろうか』

櫂はバツが悪そうにそう言うと、会場奥に向かって姿を晦まそうと早足で歩き始めたが、即座に荒堀が櫂を呼び止めた。

『森田主任、あなたには話がありますから残ってちょうだい』

櫂は村下に舌を出して見せてから、白々しい演技で『は~い』と項垂れてみせた後、会場の外に連れ出されてしまった。

『きつく指導されるんでしょうかね?』

 村下はワイシャツを直す川垣に問いかける

『分からんけど、まあ~ あの人はケロっとした顔で帰って来るだけでしょ・・』

 川垣はそう言うと、僕達も真剣に搬入作業をしようと会場内に消えたのである。


荒堀に呼び止められた櫂は河上・荒堀の後を追うように展示会場から出たロビーに到着したが、そこには3名の新入社員が緊張の面持ちで待っていた。

『櫂、この3名が新たに荒堀チームに加わる新入社員や・・しっかりと面倒を見てやってくれ!』

 河上はそう言うと3名に自己紹介をするように促した。


『初めまして、以前はアパレル関係の営業をしておりました吉敷です』

流暢に自己紹介をする女性はおそらく櫂より若干年上なのであろう、堂々とした落ち着きと何よりも整った美形の顔立ちが自信を感じさせる。


『私は金融関係から転職してまいりました斎藤です、よろしくお願い申し上げます』

年齢が一回りは違うであろう男性社員は社会経験も豊富そうで、これも又自信に満ち溢れた雰囲気を纏った有望社員であろう・・・・自分なら直ぐにでも出世街道に乗ってみせますよと言う匂いをプンプンと振りまいていた


『・・・伊上です・・以前は宝飾関係の仕入れ業務をしてました・・宜しくお願いします』

時々言葉を詰まらせるように自己紹介した女性は櫂と然程変わらない年齢のようであるが、真面目なのか暗いのか判断しかねる表情ではあったがその目には固い意志の強さを感じた。

只、最初に自己紹介をした吉敷と比較すると、お世辞にも華があるタイプとは言い難く野暮ったさが抜けない印象である。


櫂は表情を変えずに3名の自己紹介を聞いていたが、心中では言葉だけでない表情、口調、態度、仕草までを全神経を注ぎ込みながら目まぐるしく分析する。

そして魂の選別に落とし込む作業を繰り返した。


『よし、3名は搬入作業に加わってこい・・指示は中にいる牧野・林葉課長に仰げばええ』

 河上は3名にそう伝えると席を外させた。


『櫂、本題に入るぞ』

 河上はロビーに設置されたソファーセットに荒堀と並んで座ると、正面に座るよう櫂を促した。

『お前の復帰後の成績は誰が見ても納得のトップ売上や・・荒堀の片腕として良くチームを盛り上げてくれた』

河上はそこまで言うと荒堀に目を向けて話のバトンを渡した

『あなたの動きで私も随分と学ぶことがあったわ・・もうそろそろ自分のチームを率いるタイミングよ』

『ええっ!ちょと待って下さい・・・でも、俺が抜けたら』

 櫂はそこまで言ってから言葉を詰まらせた

『あなたが抜ければ確かに苦しい、でも最初からあなたは一時預かりのつもり・・・それにもう充分メンバーの底上げに貢献してもらったわ』

『いや・・でも・・』

『それに、あなたには私も良いように使われたしね・・・お陰で私の営業力にも自信が持てるようになったのよ』

『それは~・・・』

 まさか荒堀からこのような言葉を聞かされるとは夢にも思っていなかった櫂はたじろいだ。


東京メンバー選抜の際も、社長室から出てきた荒堀は不服そうな表情を隠そうともせずに、自分の戦力が削られる事に抵抗を感じていたはずである。

『櫂、今回の課長昇格は荒堀から上がってきた報告で決まったタイミングや・・お前が荒堀に恩を感じているなら、それは今後のお前の活躍で返すんや!』

『あんたも男ならパシっと返事をしなさい!』

 荒堀が櫂を叱責するように言い放つ

『わかりました! やらせていただきます・・いつからでも!』

 櫂は自分の思い描いたタイミングよりも前倒しになったチーム結成を受け入れた。

『タイミングは来月からや、それまで後3会場は荒堀チームに貢献してもらう・・・メンバーは2名までお前に選択させてやる、残りは儂が選ぶ既存メンバーになるが期待はするな』

河上が言う既存メンバーは少なくとも即戦力の力を持たない中堅営業マンの事であろうと予想は出来る。


『望む所です・・2名は本当に誰でも良いんですね?』

『繰り返さん、荒堀も了解済みや・・・残り3会場で選べば良え』

『もう決めてます!』

 櫂の表情に堪え切れない笑顔が浮かび上がる

『なんや? 気色の悪い奴め・・・誰を選んでる』

 河上も荒堀も身を乗り出すように櫂の返答を待つ

『先ずは村下・・・』

 櫂は2人を交互に見る

『それは俺も荒堀も予測済みや・・・聞きたいのは2人目や!』

『2人目は・・・先程の新人から伊上を連れて行きます!』

 櫂は真剣な表情で答えた


『なにっ!』

『あなた! この期に及んで私に遠慮してるの!』

 荒堀も語気を強めて問い正す

『いえっ、来てるんですよ・・・ビビビっと!  間違いないです』

荒堀チームには村下以外にも櫂が育て上げ、その櫂を慕うメンバーは他にも居るのである。

ましてや伊上は今回採用した新入社員3名の中においては誰が見ても他の2名からは劣っているように見えるのは間違いないはずである。


『お前、大丈夫なんやろな?』

 河上と荒堀は顔を見合わせながら呆れた表情を浮かべたが、櫂は心の中で叫んでいた


《これで勝った!》 心底そのように叫んだのである。


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