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尖んがりジプシーの航路  作者: 下市にまな
第三章 チーム築城編
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課長会議

櫂と林葉が課長に昇進してから初参加となる課長会議には、ワールドグループ会長である北浜も出席を表明しており、ワールド第4ビル大会議室は緊張感に包まれていた。


開始時刻よりも30分以上も早く集合した課長陣は、四角形に複数の長テーブルを繋げて設置されている何処に自分の名札が置かれているかを確認して着座した。

上座中央は北浜、その左右には中山・河上の席が用意され、上座から向かって右列には部長である井川・咲澤、それと営業推進部長の伊藤、総務部責任者と続き、在庫管理及び仕入れ担当の外杉・立矢が着座する。

課長陣は上座から向かって左列に目標達成率の上位の者から順に着座位置を指定されていた。


 当月実績上位の桝村を筆頭に、牧野・加山・櫂・林葉・池谷・荒堀・満島・人吉と並んでいるが、実質はどのチームも僅差での順位である。

只、櫂が気になったのは末席に座る3名で、テーブルに事前に置かれている資料を見てもチームの目標達成率は70%を切っている。

3人の前に座る池谷からは、僅差の130%~90%後半で凌ぎを削っており力の拮抗が伺える。


居並ぶ左列課長陣から弾け出る様に上座の真正面に座る形となる末席の3名は居心地の悪さを痛感せざる負えない状況に追い込まれ、流石に平静を装う表情にも落胆の色を隠すのは難しそうである。


《始まる前から飴と鞭か・・・それにしても井川部長と人吉さんはどうなってるんや・・・》

櫂は咲澤と談笑する井川を見ながら、井川新設部隊が解散した日を思い返していた。


やがて中山と河上に先導された北浜が入室すると、何時もの軍隊式の挨拶と共に課長会議は開催の時を迎えた。

河上の司会で進行される会議は成績順位によって成果報告を行うようで、トップの桝村は達成率130%の要因分析と今後の課題を老練さを感じさせる纏りで明確に話し終えた後、盛大な拍手を送られて着座した。


 続く課長陣も桝村同様に発表をし、いよいよ櫂の順番が廻ってくる。

『よし、では森田チーム・・達成率103%・・・森田、成果報告や!』

 河上に促されて櫂は起立した。

『当月の目標達成要因は・・・考えたんですが、やっぱり分かりませんでした・・コンサルタント社員の小田の成長数字が無ければ達成が不可能だった事は間違いなく、数字の3分の2には自分自身のフォローが関わっている事からも不安定なチームである事は否めません』


分からないと言い放つ櫂に失笑が漏れ聞こえたが、右列末席に座る外杉はニヤリとした表情を浮かべた。

『ほ~う、それで・・・・今後の展望は?』

 河上の鋭い眼光が尋ねる

『はい、多分ですが・・小田は自分の居場所を見つけた事で隠れていたエネルギーが出現したと思います

そう考えると技術は二の次でいいかなと・・・、売れない社員になる程に居場所が無いのかも知れませ  ん・・・今までは、トークを必要以上に教え込まなければと時間を割きましたが、今後はそういった社員の目的・目標をもっと明確にして、心の底上げが最優先と考えています・・』

『それでチームは成長すると思うのか?』

 河上の追求は続く

『信じないと俺もエネルギーが湧きません・・・それまでは自分で売り続けます』

『よし、お前の考えは解った・・達成率103%おめでとう!』

 河上のその言葉で周囲からは盛大な拍手が送られたが、櫂はどう考えても喜ぶ気分にはなれなかった。


驚いた事に、櫂に続いて成果報告をした林葉は達成率98%であったが、一切の拍手も無く静まり返った会議は淡々と末席の人吉まで進められたのである。


《これがワールドグループのやり方か・・・たまたまの小田の数字が無ければ俺も同じや・・》

俯く末席の人吉を見ながら櫂はシビアな数字への評価を感じていたが、隣に座る林葉は煮えくり返る程の屈辱を感じているに違いない。

例え2%の不足であろうが、利益を出さない事には達成している他のチームに食べさせてもらっている事と同等である。

ワールドグループのやり方は、利益を出す者に寄生する事を許さないと明確に伝えているのだ。


 それでも綺麗事のように聞こえる【心の底上げ】を最優先させる事が、まずは桝村の座る筆頭席を奪い取る最善の方法であり、発言力を持つ為には避けられない壁なのであると櫂は決意した。


課長陣に続いて部長陣の発言も成果順で進められ、井川の発言時には櫂も胸が痛んだ。

《あのままチームを率いていれば、間違いなく部長の筆頭やったはずや! 悪戦苦闘は充分に想像出来るのに、それも寄生虫扱いするのか!》

 発言後に拍手のないまま静かに着座する井川を横目に、櫂の心中にも複雑な感情が交錯する

《井川部長もしっかりしろよ・・・九州ってそんなに難しい所なんか?》



 初めての課長会議が櫂に突きつける、実力と評価と運に対する理不尽は、とてもじゃないが直ぐに整理出来そうも無かったが、それに追い打ちをかけるように中山が今後の展望を語り始めた。

『今年度は過去に類を見ないペースで中途採用募集に力を入れているが、ワールドアート創設後初となる新卒社員を新たに50名以上受け入れる予定もある、ここに顔を揃える経営陣はそれを念頭に社員育成に取り組み、早期に新たな課長職を増員してゆかねばならぬ事を肝に命じてくれ!』

中山は雄弁に語りながらも、北浜を意識するのか視線を時折チロチロと横に着座する北浜に向けている。

これは右列部長陣も同様で、自身の発言の際に中山や北浜を盗み見るような視線の動きがある事が、櫂には気に食わない動作として鼻に付くのである。


ヤクザと同じ絶対の主従関係・・・鶴の一声で全てが引っ繰り返される世界・・・

時代背景よりも、現場での育成の進捗よりも、従順に遂行される拡大路線・・・

《勇み足で新たな課長を排出してどうする? 器が育てるとか悠長に言うてる場合か! 誰も俺達社員の力不足と拡大スピードのアンバランスに気付いて無いのか?》


『森田、聞いとるんか? ボサっとするな!』

 焦点の定まらない櫂に河上の激が飛ばされ、再び周囲からは失笑が漏れ聞こえてきた。



『それでは北浜会長より、総括の言葉を頂く・・・北浜会長、宜しくお願い致します』

河上からのバトンを受けた北浜は着座したまま、野太い声を響かせながらゆっくりと話し始めた。


『今月の全体達成率を手元の資料で確認させて貰ったが、96%・・・居並ぶ課長陣で一番罪深いのは、林葉・池谷という事になる・・・チーム達成率を僅かに切る結果・・残り僅かの数パーセントを獲得するか、諦めるかの心の持ちようが手に取って見えるようや・・4%もの不足を生んだのは居並ぶ部長陣の力の無さは言うまでもなく、社長の中山の責任は明白や』 

 北浜はここで一旦、ジロリと会議に参加する経営陣を見渡した


『新卒社員を受け入れる企業に求められるのは100%を常に上回る結果を出し続ける力や・・この会議に参加する人間はトップ営業マンであり続ける義務を併せ持つと言う事を再認識する必要がある・・その意味では、失笑を受けながらもチームを形にするまでは自分で売り続けると言い切った森田が正解や!

危機感のない指導者はワールドグループには不要! 分かったな林葉・池谷・・』 

 北浜は最後の語気を和らげて林葉と池谷を見た。

横に座る林葉からはメラメラと燃え上がる感情が視線を向けずとも櫂に伝わってくる。


《流石に全てお見通しか・・・それにしても達成から遠い人間は完全に無視やな・・》

 北浜は再度正面に向き直ってから語気を戻した

『ワールドアートは小さなセスナ機から、大きなジャンボジェット機に乗り換えて従業員満載で離陸しようと滑走路を走り始めた所や・・・危険も伴うし離陸には莫大な燃料が必要になる・・・・中山とそれを支える部長陣は舵取りを間違えるな! それに前線で闘う課長陣が燃料を生み出して行くんや、アート業界で雲の上に突き抜けた存在となり、安定飛行するまで踏ん張って社員を誘導してやってくれ! 

桝村・牧野・加山、頼んだぞ・・』 

 北浜のこの言葉を以て、櫂の初参加となった課長会議は終了となった。


櫂の中に燻った、拡大路線への違和感は北浜の言葉によって多少の納得感を得る事となった。

離陸の危険性を孕む時期での綱渡りの必然性、期待を掛けて託される開拓任務・・・

これらの支社出店や転勤辞令・昇格辞令の目まぐるしい流れに対しては・・・・・である。

同時に櫂は再認識していた。

《やっぱり、燃料が不足してる・・・このままでは失速・墜落や!  最強のチームが必要なのは間違いない・・・ 俺がそのチームを創ってやる!》


 出世欲? 名誉欲? 金銭欲? ・・・・ 

そのどの感情にも当て嵌らない、もっと純粋な成長欲とでも言うべきものがムズムズと膨れ上がるのを感じる。


やがて純粋な成長欲は、脇目も振らずに全ての者から心理を学べと櫂の心をスポンジのような吸収体へと変換させた・・・・・

 少年の頃に魂の村選別に没頭したように。


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