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尖んがりジプシーの航路  作者: 下市にまな
第三章 チーム築城編
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出航

 《不思議なもんやな~》

課長昇進を受け入れて、森田課長チームとしての活動を始動させた櫂は、ワールド第4ビルの備品庫で搬入準備に追われる自分のチームメンバー5名をぼんやりと眺めた。


『その備品はこっちの籠車に乗せたほうが搬入時に便利でしょう』

 少々、心理的な面に細さを感じると思っていた小田が糸居に意見を言っている・・

小田はワールドグループ内の健康器具関連事業部で営業社員として働いていたが、営業成績の成長が見込めぬ事からワールドアートへの転属を指示されて、ここ数ヶ月は櫂が面倒を見てきた。

この甘いマスクの男性社員は櫂と同年齢ではあるが、営業社員としてはここ一番の勇気が出せない奥手な所があり、ワールドアート転属後もほぼ同時期に櫂が預かった吉村と比較すると伸び悩んでいた節がある。

それでも櫂は小田を励まし、時には誰よりも厳しく接しながら自分の営業技術を伝えようと諦めなかった。


『うわ~・・小田ちゃんも意見を言う事があるんや~』

 年上の小田に対しても糸居はズケズケと冷やかしの言葉でからかった。


《冷やかしてられるのも、今のうちかも知れんぞ・・主任昇格は小田のほうが早いかも・・》

吉村の東京転勤が決まってから、櫂も率いるチーム成績の一時的な沈み込みを覚悟したが、小田の成長によって成績的にもチーム運営的にも、そこまで大きなブレを感じる事は無かった。


《吉村の抜けたポジションに、小田が勝手に入り込んで主任を狙えるまでに成長した・・・

  器が小田を育てたのか?・・・潜在的にエマージェントリーダーの要素があったのか?》

兎に角ここで自分が奮起しなければと、自発的な意思が小田に働いた事が成長の原因である事は間違いない・・櫂の直感は、小田の成長に今後のチーム運営のヒントが隠れている事を敏感に感じ取っていた。



『森田課長?・・・・・森田課長!』 糸居の声に我に返る

『何や?』

『何や?、じゃなくて・・・備品の引き取り終わりましたけど、どうするんですか?』

 糸居がむくれ顔で睨んだ。

『新幹線まで1時間半ありますから、皆で昼ご飯を済ませてから新大阪駅に向かいましょうか』

 小田は腕時計を見た後に笑顔で提案した。


『林葉課長なんてやる気満々で、ビシビシと指示を出して出発してましたよ!』

搬入備品の引取り作業が重なっていた林葉チームは、櫂のチームよりも30分も早く自分達の受け持つ次の展示会場に向かって出立してしまっていた。


『ふ~ん、あいつのチームのほうが会場が近いのにな・・』

 櫂はそう言うと、ようやく着座していたパイプ椅子から立ち上がって屈伸運動を始めた。

『何してるんですか?』 糸居は呆れ顔で櫂に問いかける

『う~ん、ちょっと足が痺れたからな・・・飯を食う前の準備体操や』

『ぼさ~っと座ってるからですよ! 本当にしっかりして下さいよね・・』

糸居も同時期にチームとしてのスタートを切った林葉チームには対抗心を持っているらしく、櫂のゆったりとした態度に不満を感じているようである。

『はいはい、どうもすいません、ほんじゃそろそろ飯を食いに行こうか・・糸居ババアは直ぐに怒るからな~ 誰か助けてくれよ~』

櫂はおどけて答えるが、感情的な糸居に新人メンバーを萎縮させない為の演技でもある。


『誰がババアですか? 私が一番若いでしょ!』

『最近の若者は怖いな~・・なあ小田~』

『ええっ!・・・・・・そう・・ですね・・』

 小田が気弱な部分を見せて赤面しながら言葉を詰まらせる様子に、周囲の新人メンバーも笑いを堪えるのに必死である。


『まあそう怒るな糸居、笑ってられる時は皆んなで笑おうや・・・仕事が始まれば俺は鬼軍曹で、お前達は百戦錬磨の戦士になるんやからさ~』

櫂はそう言うと手早に自分のキャリーバックを引き寄せてサッサと出口に歩き始めた。

『ちょっと~』 慌ててそれを追う糸居に、小田を始めとする残りのメンバーも含み笑いで続いた。



 『どっちのチームが先に頭角を見せるでしょうね?』

 賑やかにワールド第4ビルから旅立つ森田チームを眺めながら、立矢は外杉を振り返った。


『課長がチームのカラーになる・・・あいつらは意外にも真逆のカラーかもな・・今は何ともな・・出航したばかりのアイツ達を楽しみにしようや・・』


 外杉は常設ギャラリーのウインドウ越しに遠ざかる櫂を見据えながら答えた。


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