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尖んがりジプシーの航路  作者: 下市にまな
第三章 チーム築城編
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本心

 『外杉店長! 林葉見てませんか?』

年末最後の出社となる大掃除を終えて、全社員が早めの解散をしているはずのワールド第4ビルの常設展示場に汗を滲ませた櫂が飛び込んできた。

『何? 森田君はまだ祝勝会場に行ってなかったの』 

 立矢が息を切らせている櫂に不思議そうに尋ねる。

『あんまり糸居が祝勝会を羨ましがるから・・目に付いた帰宅途中の社員も何人か引き連れて、たこ焼きを食わせてたんですよ・・・それで此処に帰ってみたら、もぬけの殻みたいな状態でして・・』

櫂は2人を交互に見てから、『料亭(きんかく)って何処にあるんですか?』と舌を出した。


『あらら、直ぐに地図を描いてあげるから少し待ってて』 

 立矢はデスクに向かうと手早に地図を描き始めた。


『・・森田・・・お前、課長昇進を断ったんか?』 外杉が櫂の目を見据えて尋ねる

『はい、何かイメージが湧かないんですよね・・・俺の横でチームを支えてくれる奴の顔が・・』

『糸居じゃないのか?』

『流れで行くと・・・ですが・・・』

『どんな奴を望む?』

『解りません・・でも1回は断っておくと、俺にもメンバーを選ばせてくれって言えそうでしょ?』

『計算高いんやな』

『ええ、駆け引きですから・・・良い様に扱われるつもりは無いです』

『ドライな奴め!』

『はい責任が付いてまわりますから・・・但し、決まればそいつ達は全力で守ります』

 櫂は先程までとは違う真剣な表情を外杉に向けた

『糸居はどうするんや?』

『はい、営業マンとしては責任を持って成長させてやろうと思います・・俺が居なくてはやって行けないなら、そもそも俺の補佐は無理ですしね』

『独り立ちまで成長させてやるって事か・・』

『はい、続くかどうかは糸居次第ですが、俺が全力で指導する事に変わりはありません』



『はいはいっ、地図通りに行けば10分で着くからね』 

 立矢がメモに描き上げた地図を持って来て櫂に手渡す

『有難うございます! じゃあ!』 

 櫂は勢いよく常設展示場から外に飛び出すと一目散に走り出した

『ちょっと~! 森田君! 』 

 立矢が大声で呼び止めたが櫂の姿は見る見る遠のいてゆき飲み屋の看板が立ち並ぶ雑踏に消えた。



『何か楽しそうですね』 滅多に見せない外杉の含み笑いを見て立矢が尋ねる

『これからのワールドアートが面白そうや・・・・あのやんちゃくれ坊主、なかなかの確り者や』

『そうですか? 反対方向に走って行っちゃいましたよ・・・』

『桝村に電話連絡を入れておいてやれ』 

 外杉はそう言うと、車椅子にもたれ掛かって楽しそうに天井を見上げた。



 ワールドグループ会長の北浜謙三が到着する30分前には、桝村を筆頭とするワールドアート課長陣は祝勝会場となる料亭『きんかく』に到着した。

課長陣に加えた功労者として営業推進部の佐藤・峰山・井筒と、主任では櫂と林葉にも参加の声が掛かっており、北浜とそれに付き添う中山・河上を迎えるのみである。

料亭『きんかく』はワールドグループが運営する外食事業の店舗の一つであるが、敷居の高そうな和風造りの内装に一同は緊張を隠せない。


『おい林葉~、森田を迎えに行ってくれんか?』 桝村が携帯電話を切って林葉を呼ぶ

『えっ・・迷ってるんですか?』

『アイツ・・・やらかしそうで・・』 桝村が腕時計を見ながら不安の表情を浮かべた。

『相変わらずですね彼は・・』 満島も桝村に同調して苦笑する。

『じゃあ遅刻したら、存分に呑ませないと・・罰として!』 加山は楽しみだと言わんばかりに不敵に笑った。

『そうやわ、罰を受けてもらわないと』 即座に牧野が続いた

『お気の毒に・・』 荒堀はため息を吐きながら眉間を手で覆う

『荒堀課長、お気の毒って?』 池谷が交互に加山と牧野を見ながら首を捻った。

 この頃は櫂と林葉に対する既存部隊の疎外感は薄れ、特に来日展以降の距離感は急速に近づいている。

ワールドアートの営業部隊として、又、河上の率いる部隊として少しずつ纏りを見せ始めていたのである。



《全く・・私はドテチンのお母さんじゃないで!》

 林葉は心で悪態を吐きながらも、料亭きんかくの御影石で作られた玄関口で手早にヒールを履いた。


『危ないとこやった~!』 

 そこに勢いよく飛び込んでくる櫂と、危うくぶつかりそうになりながらも林葉はヒラリと櫂をかわした。

『ちょっと~ 遅刻寸前やろ!』 

 両膝に手を当てて呼吸を荒げている櫂に、此処ぞとばかりに林葉の叱責が飛ぶ

『ホンマ・・どうなるかと思ったで・・・全力で走ってたら・・淀川の土手に出てしまうんやからビックリやわ・・』 息も絶え絶えに大粒の汗を流しながら櫂は笑った。


《・・・怒る気力もなくなるわ!》 林葉はぼんやりと髪の毛から蒸気をあげる櫂を眺めた。


『森田君は何て答えたの・・・』 

 ネクタイを緩めながら慌ただしく靴を脱ぎ捨てる櫂に林葉は小さく投げかけてみる。

『ああ・・勿論、お断りした・・・・でも次は二つ返事で受けて立つつもりや!』

『右に同じ!』 林葉の目に闘志が湧き上がる

『次は違うステージで勝負や!』

『望むところやわ・・・次もけちょんけちょんにやっつけてやる!』

林葉はようやくいつもの颯爽とした笑顔を向けて笑った



 本心を知る為に多くの言葉は必要無い・・

それが・・・ライバルなのである・・

未知への不安が急速に広がるのと反比例するように、2人は膨らむ期待感を感じ取っている

それを手放さぬよう固く拳を握り締めながら・・・


『ところで林葉・・こんな所で何してるの?』

『お前!・・・・1回だけ淀川に沈んでみるか・・』



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