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尖んがりジプシーの航路  作者: 下市にまな
第二章 京都激闘編
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閉場

 バックヤードでは峰山と井筒が売り上げの集計に追われているが、来場者の集計業務から解放された後ではそれも然程の慌ただしさとは感じない。

『ようやく私達も一息つけるって感じになったわね』 峰山はふうっと息を吐きながら井筒に笑顔を向けた


その静寂を突き破るようにバックヤードに雪崩れ込んできたのは櫂である

『お疲れ様です・・・チョットもう電池が切れて・・・』

突然の櫂の入室に井筒はビクリと驚いたが、井筒が次の言葉を発する前に櫂はそのままバックヤードの突き当り奥までフラフラと歩いてゆくと、積み重ねられた段ボール箱をガサリと広げて最奥の壁面を向いたまま寝そべってしまった。

『森田主任・・森田主任?』 呼びかける井筒の言葉がどんどん遠のいてゆく

《ああ・・なんて柔らかい寝心地なんや・・・暖かい・・・・・》

 櫂は急速に自分の寝そべる地面に吸い込まれるような錯覚を感じながら、深い眠りに誘われていった。

『森田主任お腹空いたんですか? 大好きなパイン飴ならありますよ・・・』

井筒は櫂の背中に話しかけたが、反応を見せずに寝息をたてる櫂に気づくと『寝ちゃってます』と峰山に向き直って呟いた。


『櫂はもうええ、放っておいてやれ・・・それより今の売上はどうなってる?』

 いつの間にか現れた河上が峰山の手元の売上集計を覗き込みながら訪ねる。

『現時点で1億8500万を超えたところです』 峰山が即座に情報を提供する。

『そこに400万が乗っかるから、約1億9000万弱か・・・』 河上の顔が曇る

『400万って誰と誰が成約したか教えてください』 

峰山が売り上げ集計に新たな数字を加える為に河上に問う

『櫂が400万で朝霧のパリや!』 それだけ言い残して再び河上はホールに消えた。

『森田君?・・・成約を取ってきたのっ!』

 呼吸で上下する櫂の背中を眺めながら峰山と井筒は唖然とするしかなかった。


午後4時半・・・

桝村は腕時計を確認してから決め打ちに入る商談の優先順位を選別した

《残りの商談の半数以上を決め打ちしない事には絶望的やな・・》


午後5時にはコウ・カタヤマは社長の中山と共にホールを後にする事になっている。

コウ・カタヤマの過密スケジュールの中を無理矢理に捻じ込んだ来日イベントだった為に時間は厳守である。

『牧野・加山! お前達もフォローアップ体制に回れ!』

 手の空いた課長陣は次々とフォローアップに加わり、残り30分のクライマックスに全精力を傾けた。

井川も九州チームにこだわらず、目につくチャンスを逃さぬように決め打ちフォローに動き出す。


 最後の商談が終了したのは閉場の午後6時を過ぎた頃で、既に一部のパーテーションパネルは撤去され始めており、周囲では展示作品の梱包を始める営業マンが慌ただしく働いていた。

『有難うございました、又いつでも展示会場にいらして下さい・・』 河上は深々と頭を下げた

周囲の撤去作業に申し訳なさそうな表情を浮かべていた最後の商談客も、自分が購入した作品を眺めた後で笑顔の挨拶を済ませてホールを出た。



『どうやった峰山!』

 最後の購入客の数字を加えた最終売り上げを待ちながら、流石の河上も落ち着かない様子である。

『集計終わっての総売り上げ・・・2億20万です!』

 峰山は満面の笑顔とガッツポーズで河上に伝えた。

『ふい~・・ギリギリの綱渡りが終わったわ』 

 傍らで河上と共に売上集計を待っていた桝村も思わずその場にしゃがみ込んだ。

『まだや、最後の搬出が終わるまで無事の成功を見届けるんや』

 河上は浮足立つ自分を戒めるように桝村の肩を叩いた。

『そうや・・・・遠慮なく全員を褒め称えてあげるのは・・・搬出終了後や・・・・』

 井川も桝村のもう片方の肩をポンと叩いて加わった。


ワールドアートの全精力を結集して臨んだコウ・カタヤマ来日展はこうして閉場の時を迎えたのである。


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