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尖んがりジプシーの航路  作者: 下市にまな
第二章 京都激闘編
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鞭と鞭

 2日目以降も外回り組の集合時刻はホール組よりも早く設定されたが、誰一人の遅刻者も無く集合時刻の8時15分前には33名が顔を揃えた。


櫂は今回の業務を引き受けるに当たって、河上に提案した取り決め事がある。

河上には初日の開場以降はホール組と外回り組を完全に隔離して扱って欲しいと頼んであった。

事実昨日は終礼も別に行い、ホール組と混ざる事を避けている。

ホール組が姿を現す頃には、外回り組は朝礼の真最中で挨拶を交わす事すら無い状況を作っていた。


『初日の集客を確保する事は出来た・・・これは間違いなく此処にいる33名の力で成し遂げた結果や!

  但し・・・ここからの2日目以降が本当の強さを求められる山場になると、俺は考えてるんや・・』

昨日の集客数は控えめに見ても大成功と言って良い結果であるが、櫂の表情に変化は無く、むしろ真剣さが滲み出ている。


『なんで俺が山場になるって言うか分かる奴はおるか・・・川垣、どうや?』

『はい・・・・昨日より長時間になる・・・からですか?』 答えを捻り出す川垣の顔からみるみる自信が消え失せてゆく

『時間? ああ、昨日よりは長くなるな・・』 櫂はなかなか答えようとはしない


『お前達、俺が答えるのを待つな! 心の中で答えの1つ2つ位引っ張り出せ!』 櫂はゆっくりと川垣に近づき、正面に立った。

『お前は、昨日のお前よりも必死に頭を使う事が出来るか? 昨日のお前よりも全力で労力を惜しまずに汗を流す事は出来るか?』

『・・・・はい』 川垣はたじろぎながらも何とか返答する。

『それぞれの心に山場になる理由は思い浮かべてくれたやろうが、俺の最大の敵は昨日の俺や! 昨日の俺はよくやった・・昨日の俺には満足や・・といつまでも満足を引きずる間抜けに俺はなりたくない!

 お前達の中にそんなよく有る間抜けなパターンに気づかん奴が1人でもいるのなら・・・相乗効果なんて望めないし、ホールに入るなんて夢を見るのも諦めろ!』


今度は岸岡の前に移動して正面に立つ

『昨日は売れて良かった、本当におめでとう・・昨日は外回り組全員が喜んだな』

『はい・・ありがとうございます』

『今日の33名に間抜けなパターンにはまり込んでいる奴がおらんかったら、今日もホールに入るよな』

『・・・はい』

『今日の岸岡が売れんかったら、昨日の岸岡は偶然の成約を拾っただけなんやと笑われるで』


更に櫂は丸山・川田・馬場・立花の前に立つ

『昨日は惜しかったな・・・ホール営業してみてどうやった?』

『はい・・今までよりは自信を持って接客出来ました・・・』 馬場が率直に答える

『それは嬉しい事や・・でもな、ホールメンバー達はやっぱりアイツ達は売れんかったなって言うやろな』

『・・・・・』

『悔しい、腹が立つ・・・って感じるか?』

『勿論・・感じます』 馬場が櫂の目を見返す

『感じるだけなら進んでないのと一緒やで、 感じたからどう行動するかが自分を変えるんや! 5人はホールに入ったけど残りのメンバーはまだそこにも追いついてないんやで! お前達自身の心の強さが、ホールに入るメンバーを5人・10人・20人とするんや!』

振り返る櫂の気迫に33名は押されるが、辛辣な櫂の話は同時にメンバーの心に炎を燃え上がらせる為の燃料をつぎ足してゆく。

『ええか、平日は後4日もあるんやで、こうやって毎日のように俺に踊らされないと動けん奴は掛算式の成長に乗り遅れるぞ! もっと必死でついて来い・・・・自分の意思で踊って見せろ! 会期が終わる時には、今のホールメンバーと同じ土俵に立てる気力と自信を手に入れさせたる!』



『圧巻ですね・・』 朝礼を遠目に見ながら満島が呟く

『ホント鞭と鞭で、飴はどこにもありませんけどね~』 峰山がウンウンと訳知り顔で頷く。

『お前ら、分からんのか・・あれが愛や・・・』

突如現れた河上の発言に満島も峰山もビクリと首を引っ込めたが、河上はニヤニヤと笑いながら足早でホールに入っていってしまった。

『一番、愛が似合わない鬼から愛を聞かされるとは・・・』峰山は満島と目を合わせて笑った。


 平日の開場は10時であるがホールメンバーも8時半には全員がホール内に集合している。

チーム別にミーティングの時間を与えられ、各課長は自分のチームメンバーに其々のカラーで訓戒を与える事に余念がない。

課長として厳しく接する者、緊張を解きほぐす事に重きを置く者・・チームカラーは課長の特性によって様々な色に染められて全体ミーティングに臨むことになる。

昨日のチームの合算売上が林葉一人の叩き出した数字に満たなかったチームはやはり相当のプレッシャーを感じずにはいられなかった。


昨日の林葉の【明日で取り返します】宣言が一層のプレッシャーを各営業マンに影響を及ぼしている中、当の林葉本人はジプシーの特権とも言うべき自由な時間を糸居とのロープレに使っている。

《此処でモンスターに化けるかもな》

 来場者役の糸居に笑顔を向ける林葉を眺めながら河上は疼く期待感を抑えて平静を装った。


林葉の大化けも、各チームの逆襲も全ては外回り組の集客力次第である。

隔離された環境で櫂がどの様な采配を振るうかは、河上は気にも留めていない。

間違いなく今日も昨日と同様に来場者を誘導してくる事だけは確かであると信じたからこそ櫂を抜擢した。

河上も又、外回り組とホール組との相乗効果を狙うべく、全体朝礼で鞭を振るって愛を注ぎ込んだのである。


外回り組もホール組も鞭を振るわれる度に、笑顔を増産してその試練に答えようと抵抗した。

外回り組は日を追う毎にホールに召集されるメンバーの数を増やし、ホール組は各営業マン同士が火花を散らしながら成約する購入客の笑顔を量産した。

ワールドアート初の来日展は快進撃とも言うべき売り上げを叩き出し、平日の合算売上は既に1億1000万まで到達していたのである。

ワールドグループ内でもこの快進撃情報は各事業部に隈なく伝えられ、中山逸雄の存在感をグループ内に強大なものとして再認識させた。


 其々が求めた甘美な飴を掴み取るまで、後は週末の土曜・日曜が残されるのみである。

クリスマスに合わせるように京都には初雪が舞い始め、市中の至る所でクリスマスソングが流れている。


『待っとけよクリスマス! 明日は全員をホールに送り込んだるからな!』

 櫂の言葉に反応して、今や一丸となった外回り組の返答が冬空に響き渡った。


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